生まれ変わりました。今世では教祖様のお世話係だよ。教祖様が臓物喰っています。グロ注意。
パチリ、目覚めれば誰かに抱き上げられていた。いい子だね。可愛いね。女と男は好き勝手に言ってきて
――どうやら生まれ変わったようだった
夢かと思っていたが鎌を弄れば妓夫太郎から教わった動きが出来るのだ。輪廻転生など馬鹿げた戯言だと思っていたが存外それは嘘ではなかったらしい。死んだ年号も相も変わらずで、薺の魂は記憶を保持して赤子に宿ったらしい。今世でも薺と名付けられ、両親に大切に育てられた。劣悪な環境で育った薺にとってそれは体感したこともなく、ただただ気恥ずかしさを感じていたがそれもすぐに無くなった。
――父に当たる男が博打に明け暮れたのだ
きっかけは暇で行ったらしい賭博場。友人に誘われて連れ出されたのが始まりであった。真面目だった男はみるみる内に変わり果て、やけ酒で酒を浴びる日々が始まった。……真面目な男だった、遊びだと理解せず取り戻そうとする心が男を堕落させた。吉原でも何度も見た光景だ。……何にせよあっという間に金は無くなり、とうとう生活費にも手を出した。やめてと止める母を蹴り飛ばし、金を持ち出す男の目は濁り切り、もはやかつての姿はなかった。罵声と暴力に疲れた女は薺の腕を掴み宗教施設に逃げ出した。穏やかな気持ちで楽しく生きよう。などという教えをのたまう万世極楽教という、馬鹿げたモノにのめり込む母親はもはやただの下らない女で、母ではなかった。だが子供に出来ることなど大したことはない、出るためにも金稼ぎに施設内でどうこうしなければならない。薺は必死になって手伝いや奉仕活動を繰り返した。子供だから駄賃だ、と渡される僅かばかりに貯める金が薺の旅資金だった。声を掛けられたのはそんなことをしていた時のことだった。
――今日から教祖様のお世話をしてほしい
信者の偉い位にいるらしい人が薺の働きを買ったようだった。こんな子供に今日からお世話係を任せるなど、……馬鹿なのではないのか、真剣に薺はその信者の頭を疑った。結局母親にあたる女がしつこくやれと肩を叩く。「息子なら私の役に立ちなさい」という女の言葉はまるで息子を物のように扱う口ぶりであった。結局父親も母親も同類だ。同じ穴の狢だった。気持ち悪いと嫌悪を抱きながら結局薺が折れる形で承諾した。仮にもここまで育ててもらったのだ、恩と義理は返さねばならないだろう。薺の中ではそれだけで教祖様に何か思うことなどなかった。教祖に対面するまでは。
――おや、こんなに小さな子が世話係かい?可愛いねぇ
これからよろしく。
――教祖との生活は奇妙であったに違いなかった
世話をしながら教祖の隙を窺った。窺うも実際の教祖は隙だらけだった。胡坐をかいて、肘をつく。欠伸でもかくように信者の話を聞くものだから流石に小突けば痛い痛いと呻き声を上げるのだ。もはやこの隙はわざとではないのかとすら警戒しながら何年も過ごした。その間、女がうるさく薺に命令するモノだから煩わしくて仕方がない。
――随時私に報告しなさいと言う女にほとほと愛想が尽きていた。
女の目は明らかに恍惚の情を見せており、教祖らしい男に並々ならぬ感情を持っているのは明らかだった。あの方は優しいのだわと媚びへつらう女のことなど一生理解することは出来ないだろう。何年も世話係をすれば教祖の考えはある程度分かる、女の思惑通りに行くこともある訳がなかった。……そもそもだ、あの教祖は優しいなど目が節穴に違いない。憐れだ、可哀想だ、などと語る教祖を好む女は悪趣味でしかなかった。
――日に日に薺の鬱憤は溜まるばかりであった
女もだがあの教祖も教祖だ。ペラペラと訊いてもいないのに、あの教祖は大層な考えを口にする。信者たちが可哀想だから救ってあげているのだという話は、そんなご高説を聞いたからに他ならなかった。同時にああ、こんな奴かと納得する。きっと周りが馬鹿に見えて仕方がないのだろう。実際、頭は良かった。頭の回転も速いからあんな人数の信者の相手も出来るし、決して一人一人の悩みも間違えることはない。だからと言って、救ってやるなどという馬鹿げたことを口にするのはどうかと思う。だがそれ以上に救われたいと望む信者たちはたかが知れている。
――ねぇ、薺
いつものように教祖は笑って薺に問いかける。戯れなのだろうか、時折教祖は薺に声を掛ける。新しい遊びでも思いつくように何かにつけて聞いてくる。いつものことだ、薺はため息を零しながら何ですかと返せば君は悩みなんてないのかな、なんて馬鹿なことを聞いてきた。ありませんよ、呆れた様子で教祖に答えて自分の信条を口にした。
――
悩みがあっても貴方はお呼びじゃあないんですよ。そう返せば満足した様子で「そうだね、それならいらないね」と教祖は笑った。いつものように張り付けた笑みではなかった。いつもそうならいいのに、そう薺は独りごちる。……ねぇ、教祖はまた問いかける。これで二回目だ、珍しいこともあるものだ。何ですか、首を傾げれば、目の前の虹色の眼が輝いている。そして、口を開かせた。
――地獄や極楽ってあると思うかい?
は、と思わず息を吐いた。とんでもなく失礼なことをした自覚はある。だが、出てしまうのは仕方なかった。普段お前が言っていることだろう、と素が出そうになるも抑えながらまた答えた。
――ありませんよ、あの世には。この世にはありますが
……そう、断言した。一度死んだから言えるのかもしれないが、あの世に行ってもそんなものはないとハッキリと言えた。それ以上の地獄も極楽もきっとこの世にある、薺は身をもって知っていた。前世の
――君は本当に愚かだねぇ
教祖は腹を抱えて笑う。ええ、育ちは悪いですからね。薺は特に気にすることなく教祖の言葉を受け流した。
――――――――――――――――――
――身体は鍛えた、教祖の動きだって把握している
機は熟したと判断した薺は隠し持っていた鎌を童磨に向けんが為に一人部屋に籠る襖を開いた。覚悟、そう言って部屋に入って目を見開かせた。部屋はおびただしい程の血で汚れていた。壁には返り血が飛び散り、畳には女の死体が倒れ、その臓物らが散らかっている。その中心ではガツガツと口を汚す教祖が一人の女の腹から腸を引きずり出して、貪っていた。よく見ればその顔は最近見かけなかった薺の母親の顔だった。おや、教祖の穏やかな声が部屋中に響く。人の気配に気づいたらしい。虹色の眼とかち合った。
――薺、此処には来てはいけないと言っていたのにねぇ
馬鹿だね、と口元を女たちの血で汚す童磨はにっこり微笑んだ。ぐしゃり、嫌な音がする。教祖が取り出した金の鉄扇が薺の腹を切り裂いた。ズルリと横にズレて落ちていく薺を見おろすのはやはり虹色だった。真っ暗に塗りつぶされる視界、頬にボタボタと何か冷たい水の感触を感じながら、意識は遠のいた。
来世に期待しましょう。