「…だが、私は諦めない。あの美しい世界を…人々が楽しく暮らす、この世界を。」
「忘れることなんてできない、と、ということだ」
広く炎が広がっている。
ビルは崩れ落ち、物の焼ける嫌な臭いがそこらじゅうからする。人の悲鳴すら聞こえず、ただただパチパチと炎が燃え続けるだけである。
「はあっ はあっ」
たった1人だけ、少女がいる。その少女は両腕でぼろぼろの人形を大切に抱えながら、必死で走り続けている。
「ひっ!」
走り続けていた少女が突如、足を止める。目の前におびただしい数の歯をぎらつかせ、ぬるりと身体中から体液がにじみ出る。チロチロ出した長い舌の先から、ぶしゅぶしゅと気体とも液体とも言えない何かを絶えず吐き続けている“怪物”が目の前に現れる。
「い、いや…」
少女はその場にへたりこむ。足がすくんで動かない。目の前の“怪物”は久々の、上質な肉に釘付けである。
途端、“怪物”は舌から出していた煙を止め、その舌を口の中にしゅるしゅるとしまったかと思うと、それを勢いよく少女めがけて射出した。
「いやああっ!!!」
少女の悲鳴はこだましない。反響するビルも何もないのだから。
ただ、少女の身体に舌は巻きついていなかった。驚いた少女が顔を見上げると、目の前には薄汚れた白いぼろきれを纏った、“人間”のような形をした生物がいた。
「だ、だれ…?」
少女が問うとほぼ同時に、“怪物”は身体中からずるりと棘の生えた触手を繰り出し、目の前の“人間”めがけて一斉に振り下ろす。
「きゃあっ!!!」
少女の目の前で鈍い音がする。助けに来てくれた“人間”が目の前で“怪物”に喰われてしまった。絶望と悲しみの中、少女はただただ涙を流すしかなかった。
流した涙も辺りの炎のせいですぐに蒸発してしまう。
「―――大丈夫だ 安心しろ」
かすかに聞こえたその声。少女の目の前で、“怪物”が白い光に包まれる。
「“探求”されろ―――悪しき魂と共にッ!!!」
瞬間、“人間”の両腕から眩い閃光が走り、目の前の“怪物”はそれに溶かされるかのようにしゅるしゅると消滅していった。
“人間”はふう、と息を撫で下ろした後、後ろを振り返り少女に声をかける。
「大丈夫。」
少女は安堵の表情を見せる。そもそも生きている“人間”に出会ったのが久々なのだ。感動してもはや涙すらでない。
「おにいちゃん…たすけてくれて、ありが
少女が言いきる前に、“人間”は少女の心臓めがけて自分の腕を突き刺す。
「あッ…が…ッ」
「残留した悪しき魂よ…“探求”されろ」
再び“人間”の腕から眩い閃光が放たれる。少女は消えてなくなり、ぽてっと少女が手にしていた人形が足元に落ちる。
「……」
落ちた人形に目をやったあと、“人間”はすぐさま遠くを眺める。
「この世界を“探求”すること…それが私の“使命”」
首につけた白いマフラーに手をかけ、フッと何処かへ飛び去る“人間”。
正確には彼は“人間”ではない。
46年に1度、終焉した世界を“探求”し白く染め上げることで世界の平和を目指す、神の使い『白の探求者』である。
大学の友人をモチーフにしています
「46」という数字がやたら出るのは、「しろ」と読めるからです。深い意味はないです。