古波さんちのメイドラゴン   作:ちゅーに菌

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巣作りカリンちゃんの発売が楽しみなので初投稿です。







ライトサイド版
光のメイドラゴン


 

 

 

《我が海馬コーポレーション。新たなるデュエルカードを開発するため、幼い子供たちから、新たなるカードのイメージを募集することにした。採用されたデザインは、カードにしてタイムカプセルに詰めて宇宙に打ち上げられ、宇宙の意思の波動を受けて、新たなデュエルカードを生み出すこの壮大なプロジェクトには、お前たち子供の自由な発想が必要なのだ! (こぞ)って応募するがいい! フハハハハハ! アハハハハハハハ! アッハハハハハハハハハ!》

 

 海馬コーポレーション社長にして伝説のデュエリストの1人でもある海馬瀬人は、子供達から新しいデュエルモンスターズのカードのデザインを募集し、採用されたデザインはカードにしてタイムカプセルに詰めて宇宙へ打ち上げ、宇宙の波動をそのカードに取り込むという壮大なプロジェクトを全世界へ向けてテレビ放映した。

 

『わぁ……すっげー! カードになるんだ!』

 

 それに世界中の幼子が感銘を受け、夢を抱き、思い思いのカードを描いて応募したことだろう。

 

 ここにいるとある少年もまた、海馬社長の計画をテレビで目の当たりにし、机に向かいカードを書いた。

 

 彼の描いた最初のカードのコンセプトは2つ。ひとつは元より、かなり裕福な家庭で育った子供であったため、日常的に目にする使用人の女性。そして、もうひとつが自身が今この瞬間も持つデッキに入っているドラゴン族のモンスターであった。

 

 子供らしい単純な思い付きにより、その2つが重なり、子供らしい絵になる。そこには目一杯の夢と希望が詰まっていた。

 

『えへへ、カードになってねー!』

 

 そして、使用人や両親にそれらを見せ、期待と溢れんばかりの嬉しさに満ちた瞳で、その絵たちは見送られ、海馬コーポレーションへと発送された。

 

 この頃の少年はまるで考えてはいなかったであろう。

 

 宇宙にある意思の波動には命を育む優しい闇、そして破滅の光の2種類が少なくとも存在するということを。いや、例え知っていても自身のカードたちには前者が与えられると考えてはばからなかったハズだ。

 

 あの日のあの瞬間までは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『~♪』

 

 少年は何よりもデュエルが好きな子供であった。

 

 家庭が裕福な兼ね合いでかなり良いカードを揃えられたことは特筆すべき点のひとつではあるが、彼のデュエルに掛ける情熱の前にはそのようなものは些細な事に過ぎない。

 

 学校でもデュエル、家でもデュエル、休日もデュエル。兎に角、少年は時間さえあれば誰かとデュエルをしていたのである。更に憧れのデュエリストには、ドラゴン族使いの少年にとっての憧れのカードである"青眼の白龍(ブルー アイズ・ホワイト・ドラゴン)"を使う海馬瀬人であるという徹底ぶりだ。

 

 将来の夢はプロデュエリストになることと、決めてはばからず、最初はあまり好色は示していなかった両親も、その熱意に負け、いつか自身の子がプロデュエリストとしてテレビで放映されることを楽しみにする程度には理解もされた。

 

『ふんふんふーん♪』

 

 とある日の学校が終わった放課後。家に帰って鞄を置いてから、いつも学校でデュエルをしている友人の家に向かい、自身の両親に購入して貰った2つのデュエルディスクでデュエルをすることを楽しみにしつつ少年はいつものように自転車を漕いで友達の家に向かっていた。

 

 少年の溢れんばかりの笑顔と、自転車のカゴに収まった2つのデュエルディスクが眩しいばかりである。

 

 そして、それは既に海馬コーポレーションの宇宙へカードを打ち上げる計画から2年以上の月日が流れており、少年の頭からはすっかりカード化のことなど頭から抜け落ちたある日のことだった。

 

『――――――!』

 

『――あれ? え……?』

 

 ふと、自転車で走行をしている最中に自身に投げ掛けられた声のような何かを感じ、空を見上げた少年。

 

 するとそこには白い光の帯を纏いながら真っ直ぐに少年へと目掛けて落ちて来る巨大な隕石のような何かが見えた。

 

『うわぁぁぁあぁぁぁぁ!!!?』

 

 既に避けることは間に合わず、少年はその隕石の衝突と共に溢れ出た激しい閃光に当てられ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『う……ん……』

 

 少年が目を覚ましたときに感じたのは、頭にクッションよりも寝心地がよく、人肌に暖かい何かが宛がわれて寝かされている感覚だった。

 

 肌に感じる風は屋外であることを認識させ、頭以外の背に感じる感覚は木の硬さに近いものであり、目を向けてみれば、自身がベンチのようなものに寝かされていることに気づく。

 

『あえ……?』

 

 そして、次に寝たままで見える周囲を見渡せば、地も壁も空もなく、ただ真っ白に地平線の彼方まで染まり、何も存在しない様は恐怖さえ覚えた。

 

『お目覚めですね。マスター』

 

 すると上から声を掛けられ、少年は上を見上げる。

 

 そこには長い黒髪で、グレーとグリーンの中間のような色の瞳をし、眼鏡を掛けた背の高い女性がそこにいた。また、使用人が着ている服――ビクトリアン様式のようなメイド服を着ており、少年は家の使用人の誰かかと考えたが、そのような女性はいないという結論に達する。

 

『――!? 角に尻尾!?』

 

 その言葉と共に少年は飛び上がって立ち、メイドの全身を見た。このメイドに膝枕をされていたことよりも、今の少年にとっては容姿の方が重要だったのである。

 

 そのメイドは頭には般若面のような黒い角が生え、臀部からは赤と黒と白い色をしたドラゴンのような尻尾が生えていることに気付き、少年は驚きの声を上げる。更に言えば腕にはガントレット状の硬い鱗が並び、腰からは赤と黒の色をした翼のようなものが左右に生えていることもわかる。

 

 驚きの声を上げ、目を白黒とさせる少年を見て、メイドは掛けている眼鏡を一度直してから、ポツンとこの空間にひとつだけあるベンチに腰掛けたまま満面の笑顔で言葉を吐く。

 

『はい、そうですね。なぜなら、(わたくし)は貴方様にデザインされ、この宇宙に生を受けたため、この姿をし、同時にこの姿に誇りを持っております』

 

 そう言うと、メイドはベンチから立ち上がり、少年を見据える。少年はクラスでも背が低い方ではないが、背の高い大人の女性であるメイドと比べればあまりに小さく、メイドが見下ろす形になった。

 

 その上、周りの光を反射し始めたため、メイドの眼鏡の奥を見ることが叶わなくなり、笑み以外の表情を読み取ることが出来なくなる。

 

『私……ずっとずっと……この奇遇、この一時、この瞬間を夢見てこれまで生きてきました。カードとなり、生を受け、孤独な宇宙へと放り出され、挙げ句に"破滅の光"に全てを染め上げられ、この身、この心を(やつ)しても、それだけを(よすが)にこれまで生きてきたのです……』

 

『……? 宇宙……破滅の光……よすが……?』

 

 少年は何のことかまるでわからず、沢山のハテナを浮かべているが、既に逸る気持ちを抑え切れない様子で、メイドは少年へと一歩踏み出す。

 

 眼鏡の反射で伺えない瞳以外は笑顔にも関わらず、メイドから感じた只ならぬ迫力により、少年は少し気負された。

 

『ええ、ええそうです。私は破滅の光の尖兵と化し、数多の星々、種族を――』

 

 また一歩、メイドは少年へと迫る。

 

『滅ぼしました。蹂躙しました。淘汰しました。目に入るありとあらゆるモノを全て漂白し、光に飲み込みました。いえ、それはいいのです。私とマスター以外の有象無象など幾つ消えようが私が知ったところではありません……ええ、あろうハズもありません……!』

 

 更に一歩、メイドは少年へと足を踏み出した。

 

 そして、いつの間にか、メイドの声の抑揚に力が篭り、鬼気迫るような色を覚え始めたが、表情は未だ笑顔のままである。

 

『私は破滅の光の目を盗み力をつけました。星々を吸い上げ、種族を喰らい、破滅の光を更に呑み、私は最初に破滅の光に染められた時よりも、遥かに破滅の光の力を強めたのです!』

 

 メイドは遂に少年に触れられる距離まで近づき、足を止めた。

 

『そして、破滅の光の枷を握り潰し、追っ手さえも喰らい尽くし、挙げ句に破滅の光の源の一部をも掠め喰らい……遂に私は! 私の創造主であり、マスターである貴方様の元まで戻ってきた次第なのです! ああ……これが感動的な夢物語以外のなんであるというのでしょう!』

 

 メイドは少年に目を合わせるためにしゃがみ込むと、両手で少年の肩を小首を傾げ、やはり笑顔のまま口を開く。

 

『…………だというのに――』

 

 その位置まで来て、少年はようやく眼鏡越しのメイドの瞳を目にした。

 

 

 

『どうして、貴方様は……そんなに私を恐れていらっしゃるのですか……?』

 

 

 

 その瞳はこれ以上ないほど見開かれ、血走り、光を宿していないにも関わらず、獲物の定めた肉食獣のような眼光をしていた。

 

 その狂気と呼べるまでのものを孕んだメイドに、少年は恐怖に顔を歪め、今にも泣き出しそうな様子でメイドから離れて後ろに倒れ込んだ。

 

『うふふ……笑って下さい……撫でてください……抱き締めてください……愛して……私を愛してくださいよマスタァァ!! 私はずっとずっと……こんなにも貴方様を愛しているんですから!!』

 

『ひぃ……!?』

 

 遂に声を上げた少年は、メイドを見たまま背で地面を這いずり――手に何かが当たったことに気づく。

 

 少年が見たそれは、自身のデュエルディスクであり、藁にもすがる想いでそれを胸に抱えた。

 

 すると、メイドの様子がまた違ったものへと変わり、ケタケタと壊れたかのように笑い始める。

 

『デュエルぅ……デュエルですかぁ……? いいですよ……マスター大好きですものね……。よかったぁ……私、凄く強くなったんですよぉ……! うふふ、あはは、あはははははははは!!』

 

 そうして、メイドが片腕を構えると、腕の鱗自体がデュエルディスクのように変形して展開される。

 

 対する少年も恐怖に(おのの)きながらも、立ち上がり、デュエルディスクを構え、己のデッキを信じてメイドと対峙した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『はい、私のか・ちです』

 

『え……あ……あえ……』

 

 少年は学校どころか、この街で一番のデュエリストと言っても過言ではない程にデュエルが強かった。

 

 しかし、そんな少年は、まるで目の前のドラゴンのような女性に歯が立たず、惨敗を喫してしまったのである。

 

 そして、そのような感覚すら許さずに、気がつけば少年の目の前にメイドは立っていた。

 

『敗者は死に勝者は生きます。けれど、私のマスターにそんなことをするわけありません。その代わり――』

 

 メイドは、呆然と立ち尽くす少年からデュエルディスクを外すと、異様なほど優しい手付きで少年の衣服を脱がし始めた。

 

『な、なんで……?』

 

『マスターはデュエルに負けたんですから……うふふ』

 

 そして、メイドは少年だけでなく自身の服をも肌蹴(はだけ)させ、少年を地面に転がすと、その上に覆い被さった。

 

『ああ……マスター……!』

 

 メイドのその視線は酷く熱を帯び、少年の顔に掛かる吐息は焼けつくように熱く荒い。

 

 少年はメイドを引き剥がそうと力を込めるが、人間とは比べ物にならないほど力のあるメイドの体はピクリとも動くことはない。

 

『――――!?』

 

『ん――』

 

 そして、メイドは少年の唇にキスを落とした。その動作は酷く優しげで、馴れ初めの恋人が行うような柔らかいものであった。

 

『えへへ……マスターとキスをしてしました……もちろん、私は初めてです。マスターもきっとそうでしょう?』

 

 まるで恋をした少女のような様子でメイドは顔を赤らめながらそう言う。

 

 しかし、その表情はすぐに再び妖しく艶めかしいものへと変化し、少年の下衣を脱がすと、自身の下衣にも手を掛けた。

 

『では次は……マスターの初めてをいただきますね……? 大丈夫です……私も初めてですから……』

 

 そう言ってメイドは少年の首筋に舌を這わせてから、にっこりと笑みを浮かべる。

 

 

『――ゆっくり……致しましょう……?』

 

 

 それから起こったであろう記憶を、少年はあまり覚えてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたとき、少年は自身の部屋でベッドで寝ていた。

 

 快眠とは程遠い精神状態ながらも、ぼんやりとした面持ちで辺りを見回せば、机に2つのデュエルディスクが置かれており、今も鮮明に覚えているあのドラゴンのようなメイドとのやり取りは全て夢であったということを思い安堵し――。

 

 

「失礼致します」

 

 

 今一番聞きたくなかった女性の声を聞き、少年は天国から地獄に叩き落とされたように表情を絶望へと歪める。

 

 恐る恐る声の方向を見れば、そこには夢であって欲しかった眼鏡を掛けた女性が笑顔で立っており、長い尻尾を猫のようにゆっくりと左右に振っていた。

 

 メイドはさも当たり前のように完全に固まった少年の前まで来ると、スカートを掴んで恭しくお辞儀をする。

 

「申し訳ありません、私の不徳で自己紹介をしていませんでした……。どうも、紫呉(しぐれ)様。(わたくし)、今日よりハウスキーパーと貴方様の専属メイドを勤めさせていただきます――"ハスキー"と申します。どうぞ、お見知りおきを……」

 

 そう言って笑みを浮かべるメイド――ハスキーは少年にだけ見えるように目を細めて歪め、舌舐めずりを行う。そして、驚きで硬直する少年の耳元に顔を近づけ、そっと呟く。

 

「幾久しく……お願い致しますね? 私の"マスター"?」

 

 少年に沸いた感情は、彼女に込めた夢でも希望でもなく、恐怖だけであった。

 

 そしてこれが……少年があれほど好きだったデュエルモンスターズの熱が冷める切っ掛けにもなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください。紫呉様」

 

 俺は聞き飽きた女性の声によって微睡みから意識を浮上させた。

 

 その直後に設定していた携帯電話のアラームが鳴り響き、女性への返事よりも先にアラームを止める。

 

  そして、ベッドから起き上がり、声への方向を見ると、朝から嬉しげに尻尾を振るドラゴンメイドのハスキーの姿があった。

 

「…………おはよう、ハスキー」

 

「はい、おはようございます。紫呉様。朝餉(あさげ)の仕度はもう出来ておりますので、どうぞお召し上がりください」

 

「……ああ、いつもありがとう」

 

「うふふ……いえ、お礼には及びません。メイドとして、当然のことですから」

 

 そうは言うが、ハスキーはさっきよりも尻尾を大きく振り、顔を赤らめているため、喜んでいるように見えた。

 

 彼女の名はドラゴンメイド・ハスキー。元々は俺がもっと幼い頃に海馬コーポレーションの企画で描いた絵であり、それがカード化して宇宙へと打ち上げられた結果、破滅の光の力を受けて俺の元に帰って来たカードの精霊である。

 

 初めて出会ったときは正直、殺されると思ったが、今ではすっかり衣食住の日常生活活動をほとんど任せるような関係になってしまった。

 

 今でも怖くないかと問われれば首を縦に振ることはないが、それでもハスキーのいない生活が考えられない程度には慣れて依存してしまっていると思う。

 

 まあ――。

 

「マスター……どうしてもというのでしたらその……いつものように……」

 

「ああ……」

 

 俺は言われるがままに、やや照れながら顔を近づけてきたハスキーと軽くキスをする。

 

「うふふ、恋人同士のおはようのキスですね」

 

 するとハスキーは背中から翼を出し、それを少しはためかせて喜んでいた。

 

 ――依存しているのは彼女も同じである。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 中学校の指定服に着替えた後、リビングでハスキーが作ってくれた朝食を食べ終え、そのまま今日の試験に臨む最後のデッキ調整をしていた。

 

 まあ、しかし……贔屓目に見てもこのデッキに敵うような試験官が出て来るとは思えないため、するだけ無駄な気もするが、デュエリストとして最低限弁えは必要だろう。

 

「お待たせしました。紫呉様」

 

 すると一旦自室に戻っていたハスキーが戻ってきたため、そちらを見る。

 

 そこには俺が通っていた中学校の女子制服を身に纏い、角や尻尾などのドラゴンのパーツは何もなく、眼鏡だけを掛け、俺と同い年にしか見えないハスキーの姿があった。

 

「…………本当にデュエルアカデミアに通う気なんだな……」

 

「ええ、もちろんです。中学校に通われる紫呉様がお帰りになるまで待つのはとても寂しかったですから……。うふふ、そもそも筆記試験はもう受けているのに、おかしな紫呉様ですね」

 

 そう言ってカラカラと笑うハスキー。

 

 俺はデュエリストの養成校であるデュエルアカデミア本校を受験するのだが、それに年齢と体を変えてハスキーも女子生徒として入学するつもりなのだ。無論、両親を通して、ハスキーのあらゆる公的文書は作られているため、本当にただの女子生徒として受験するのである。

 

 そして、時計を見た彼女は"出るまでもう少しだけ時間がありますね"と呟いてからリビングのソファーに座る俺の隣に来ると、膝の上に乗って体をこちらに寄せてきた。

 

「それに……こちらだと私の方が背が低いので、いつもより紫呉様が近くに感じられる気が致します」

 

 ハスキーはそのまま俺の顔を見上げ、柔らかい笑みを浮かべながらポツリと呟く。

 

「紫呉様……抱き締めてくださいませんか……? 強く、壊れてしまうほど……」

 

「ああ……」

 

 俺はハスキーの要望の通り、デッキを弄る手を止めて彼女を両腕で強く抱き締めた。抱き締められた彼女は目を細めて完全に俺へと体を預けていた。

 

 きっと彼女のためと自分すら騙し、こんな関係を続けることはよくはない。本当に彼女のためにはならないということは俺もわかってはいる。

 

 だが、それで破滅の光の化身と化した彼女が平穏で居てくれるなら……世界を容易に破壊し尽くすだけの力を持つ彼女が俺1人の生涯を捧げるだけで心の安寧を得られるのなら……それでいいと思うのだ。

 

「紫呉様。学校を卒業したら私、貴方様のお子が欲しいです……ダメでしょうか?」

 

「…………ハスキーが欲しいならいいよ」

 

「ふふ、うふふふふ……! ありがとうございますマスター、紫呉様……! ああ……楽しみです。きっと私、良い妻で、良い母親になりますから……うふふ!」

 

「はははは……」

 

 そういう彼女の眼鏡越しの瞳は、どこか遠くを眺め、暗くも嬉しそうな色を映しており、それを見て俺は安堵しながら乾いた笑い声を上げるのだった。

 

 

 

 







後書きは2話の後書きにまとめます。

いっぱい、感想ちょーだい♡(ダイレクト乞食)

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