ニンジャスレイヤー第一部RTA ネオサイタマの夜明けルート≪参考記録≫ 作:暴力・砂場・エネルギー無視
ぎしり、ぎしり。
古びたドージョーの床がきしむ。
ドージョーの主であるデソレイションは、神聖であらねばならないタタミ敷きの間にて、今日もオイランを抱いていた。
三人のオイランを同時に相手取り、一人を撫で、一人を悦ばせ、一人を鳴かせる。彼女らの足元に転がるタノシイの注射器が、ボンボリの薄明かりによって鈍い輝きを放った。その中にあって、デソレイションは、ぼうやりとした表情で、ある女の事を考えていた。そこにはいない女の事を。
……デソレイションはその女の上に馬乗りになり、首を絞めている。女は微かな呻き声を上げたが、その顔は恍惚としている。下半身からは、湿った液体音がした。通常ならば頸髄を容易く破壊しうるデソレイションの掌に耐えるこの女も、また、ニンジャである。
「も……もっと」女はかすれた声で懇願した。デソレイションの拳に力が籠る。かは、という途切れた呼吸音。「もっと……私を痛めつけて……私を罰して……」うわごとのように、女は言う。彼女は蕩けた目で邪悪なニンジャを見、彼の背中に腕を回した。右の、木と鉄で象られた義肢が男の肌に触れる。ひんやりとした感覚を肌に感じながら、デソレイションはノーティアーに覆いかぶさった。
随分な女だ、とデソレイションは思った。下らないままごとに付き合わされているこちらの身にもなれ。こんなものは贖罪のままごとだ。何の意味がある?そうは思いながらも、彼は首元から手を離そうとしなかった。あの時は、あんなにも簡単に手放したというのに。
「殺して」と女は言った。
デソレイションが……タギ・トワが、彼の師を、コッポの奥義でもって破壊し、絶命せしめた直後の事である。闇サイバネ医が取り付けたサイバネアイがキュル、と音を立て、ニンジャ膂力によってぐちゃぐちゃにされた師範から、その娘にフォーカスを変えた。
タギ・トワはおもむろに彼女に近づき、首に手をかけた。
一瞬の事である。ごきりという乾いた音がして、彼女は死んだ。半開きになった口から舌がだらりと垂れ下がり、焦点の合わぬ眼が彼を見た。彼は手を離した。死体は床に落ちて、べしゃりという音を出した。
どうして殺したのだろうか。彼女が、そう望んだからか?タギ・トワは問うた。そうだ、とデソレイションは答えた。ぴゅうと、一陣の風がサップーケイに吹く。
……「くだらねえ」
デソレイションは一人ごちる。
「おれも、あの女も、ニンジャだ。何が変わるって言うんだよ」時は既にウシミツ・アワー。月だけが、彼を見ていた。
草木も眠るウシミツ・アワー……ネオサイタマ辺境、中国地方に近い衛星都市である女衒街は、アビ・インフェルノと化していた。
そこらに転がるはヒトの残骸。この都市のほとんどの住民は、一瞬のうちにアキレス腱を銃弾で撃ち抜かれ、移動を制限された。そして、あるものは多種多様な銃器で壮絶なまでに破壊され、あるものは無数のカタナによって凄惨に切り刻まれた。
その残骸どもが転がる中に、新たなものが倒れ込んだ。その赤黒の装束は……ニンジャスレイヤーである。そのはらわたは、恐るべきケイトー・ニンジャの緋色の雷により、黒く焼け焦がされていた。
「フゥーム」ケイトー・ニンジャは彼女の頭を掴み、メンポをへし割る。ニンジャスレイヤー……フジキド・フユコの顎をくい、と持ち上げ、ケイトーは語り掛ける。
「これではまだ、取るに足りぬなぁ。面倒だが、暫し泳がせるとしよう……」
いいのか?と、横にいるジュウ・ニンジャが問うた。彼の右手はアサルトライフルに変形しており、白いカラテ硝煙が上がっている。「その……ニンジャスレイヤーってのはそれはそれは恐ろしいニンジャと聞いていたが。とどめを刺した方がいいのでは?」
「駄目だ。このまま殺して仕舞えば、ナラク・ニンジャはこの身体を離れ眠りにつく……もう暫く合一が進んでくれぬとな、“穂先”の回収が叶わぬのだよ」ケイトー・ニンジャは両手を広げ、大袈裟に肩を竦めた。
「何!再びモータルの怨念とやらを吸い集めて立ち上がろうとて、再び叩き斬ればいい!」転がっていた肉塊を舐めていたヤイバ・ニンジャが振り返った。「その程度、造作もなかろう?」これに、ジュウ・ニンジャも同意する。
「さて、後は……ノーティアー=サン、だったか」ジュウ・ニンジャの手となっていたアサルトライフルが消失し、再構成され、スナイパーライフルのそれに変ずる。「……うーん、ソウルの格が低いせいか特定ができないが……潜伏者どもをあらかた潰せば大丈夫だろう」BLLAAAM!!!邪悪なりし号砲が轟く!!!一度、二度、三度!!!
「……?最後だけ弾道がズレた?」ジュウ・ニンジャは小首を傾げた。
「おおっと、ドラゴン・ゲンドーソー=サンへの御礼参りが先よ!」ケイトー・ニンジャが宣言する。「ノーティアー=サンはまあいい!今ので死ねば良し、生きていれば必ずや我々の前に姿を現すだろう!まずはドラゴン・ニンジャ=サンの身柄を確保するのが先だ!」
◆◆◆
天高く飛び上がり、常軌を逸したスピードで駆けていくリアルニンジャたち。後に残されたのは、死に体のニンジャスレイヤーただ一人。半ば死んだような彼女の身体から、不浄なる炎が灯った。傷口を焼くことで出血を押しとどめたそれは、周囲のモータルの死骸をも巻き込み、だんだんと大きくなりつつあった。
朦朧とした意識の中で、フジキド・フユコ……ニンジャスレイヤーは、己を焼く炎に耐えながらも、何とかして立ち上がろうとする。しかし、四肢に力が思うように入らない。(((グググ……どうして立ち上がろうとする?もうやめればいいのではないか?)))彼女の内側で、邪悪なる声が響く。「嫌だ……」うわごとのようにフユコは呟いた。
(((ほぉう?何故だ?)))
「憎い……自分の無力さが憎い……私の命を救ってくれた……ゲンドーソー=サンとユカノ=サンに報いられない……あいつらが憎い……モータルの命を容易く奪う……ニンジャが……!」
彼女の脳裏に、ソーマト・リコールめいてあの日の記憶が蘇る。あの日のクリスマス。炎上するマルノウチ・スゴイタカイビル。夫と子の命を奪った、鋼鉄の星。
(((ではどうする?フジキドよ。ここであやつらを呪い続けるだけでいいのか?)))
「……殺す……」
(((そうだ!)))
「ニンジャを……殺す……!あのニンジャたちも……ホシナ・モリエ=サンも……ニンジャを、全て……!殺す、殺す、コロス……!」倒れ伏したニンジャスレイヤーの瞳に、どろりとした光が混じる。瞳孔がセンコめいて細まり、血のように赤く煌めく。周囲に散らばるモータルたちの怨嗟が、彼女の自我を蝕み、憎しみを増幅していた。
(けれど、もう……私は……動けない……私のニンジャソウル!名も知らない貴方!どうか、私に力を貸して……!)
(((ならばワシに任せよ、オヌシの代わりに、ニンジャを殺してやろうぞ。皆、皆、皆、ワシが殺す!オヌシの復讐を、ワシが為してやろう……!グググググ……!)))彼女のニューロンに潜みしナラク・ニンジャは、呻くように笑う!(((オヌシはフートンで寝ておれ!あやつらの血溜まりをオヌシの目覚めの行水としてやろう!グググ、グググググ……!!)))
ニンジャスレイヤーは……否。ナラク・ニンジャは立ち上がった。そのメンポは悪魔めいて変形し、大きく開いた口の如くに変化している。ナラク・ニンジャが唸ると、周囲のモータルの死骸が震え、血を吐き出す。それらは毛細管現象めいてナラクに吸い寄せられ、その肉となる。
ふしゅるるる、と、ナラクが蒸気を吐き出す。センコめいた目が、仇敵たるリアルニンジャの去った方向を向いた。
その直後。
スプリンターめいて、ナラク・ニンジャは駆け出した。全身のニンジャ筋肉が軋み、時速200キロ以上の脚力を生み出す。色付きの風となってハイウェイを疾走する彼あるいは彼女の右腕は、絶えずチョップの動作を繰り返し、殺戮に備えている……!
◆◆◆
およそ同刻。
ノーティアーは、ゴミと枯れ草をこねあわせたような、毛むくじゃらのビッグフットのような怪物的なニンジャギリー装束を着て、じっと野に伏せっていた。
場所はミョーギ・マウンテン山頂。彼女の新たなミッションは、奇怪な岩の並ぶこの山での残党掃討、すなわち、ヒュージシュリケンとアースクエイクによるバンザイ・ニューク起動後、万が一ドラゴン・ドージョーの生き残りがいた場合にこれを抹殺することである。
「ケッ!つまんねー任務だ」ノーティアーの傍らでスシを喰らうは、ソウカイニンジャが一人、センチピード。ムカデの如きサイバネを纏う、大柄なニンジャである。
「シックスゲイツの尻拭いな上に、バンザイ・ニュークまで使われた後じゃあ仕事なんてあってねぇようなモンだ。こんなカスみたいな事後処理の為にこんなクソ山で三日も四日も待機しろだなどと……」シャキリシャキリと、サイバネ付属肢を鳴らしながら、センチピードはぼやいた。
「第一あのヘルカイトの野郎が気にいらねぇ!あのおべっかが上手いだけの若造がガーゴイル=サンの後任だなどとよ!」
「ウルサイゾ、センチピード=サン」彼を、もう一人のニンジャが嗜めた。ガントレット……射撃の名手である。「ノーティアー=サンヲ見習エ。文句ヒトツナク野伏シテイルデハナイカ」
「ケッ!ニンジャスレイヤー=サンから尻尾巻いて逃げ出したサンシタは行儀だけはいいってか!」ムカデめいて関節をいくつも曲げながら、センチピードはノーティアーの顔を覗き込んだ。ノーティアーは所在なさげに目線を逸らす。おおむね事実であったからだ。
(((はい、そういうわけで次の共闘相手はアフターマスの二人、ガントレット=サンとセンチピード=サンですね。キルズ版で一番株上げた連中ではないでしょうか。
彼らはそれなりに強いです。しかしながら原作通りキンボシを狙って独断専行するのでそこを突きます。具体的にはヘルカイト=サンに連絡せずにイクサをするので、適当なタイミングでガントレット=サンをキリングフィールド殺、その間にセンチピード=サンを赤黒に調理してもらうという形になります。
さて、視聴者の皆さんの中には疑問に思われる方もいるでしょう。おい!それってYO!単に赤黒にイケニエ捧げるだけでソウカイヤ的にはブザマでケジメ案件じゃん!アッアッア……と。その通りですね!だから、ザイバツを呼び寄せる必要があるわけです。
既に偽装工作は済ませてあります。偽装IDからザイバツのIRCにアクセスし、中国地方にドラゴン・ニンジャあり……という報告を垂れ流しておきます。後々ニンジャ修道会に入ることになるワッチタワー=サンがレリック回収任務を受けてこの辺をうろついており、かつ彼はハバツ・ストラグルからも半ば排斥されているロンリーウルフですので、彼のパスワード(周回特権で回収済み)を利用して投稿します。
大派閥には無視されますが、何としてもイサオシを得てキョートに帰りたい幾人かの駐屯組が現れるので、これらを狩ってガントレット・センチピード殺しの犯人に仕立て上げます。因みに先ほど連絡した為、ザイバツの連中は半日後とかの、ニュークで全部吹っ飛んだ後にしか現れません。ザマ・ヲ・ミロ!さーって、あとはスシでも食いながらドージョー炎上を眺めるだけです。退屈ですよねぇ?そこでぇ、み な さ ま の た め に
今後の予定について……お話しします。赤黒がアンプル捜索をやっている間ァ、モリエちゃんがすることは主に二つ。カメレオン=サンのスカウトと、琵琶湖からカジヤ・ニンジャ=サンを引き摺り出すことです。
カメレオン=サンは現時点ではニンジャではない、モータルの国家公務員です。ので、これをさらって適切な処置(意味深)をし、湾岸警備隊に取り込まれる前にニンジャにするのは訳もないことです。メタ知識の前にはハーヴェスター=サンとて後手に回らざるを得ないのだ。
彼女は無限大に悪用できるツツモタセ・ジツの名手であり、かつ、(現段階では)ドニュービーなので、メタ知識を持たせた上で行動させても問題の無い人物なのです。ニンジャ世界に対して無知ですからね。テッテ的に自我を研修して、便利なコマになってもらいましょう。
カジヤ・ニンジャ=サンは琵琶湖にて反省の庵を構える神代のニンジャです。彼を解き放ち、そのカラテを自在に振るってもらおうというワケだ。
彼は過去に受けし二つの呪いによって縛られた存在であり、ニンジャネームによる存在格の拘束が他ニンジャに比べて極めて強いのです。メタ知識なくしては、ダークニンジャ=サンクラスの古事記読解力なくしてはカジヤ・ニンジャの真なる名に到達し得ないんですね。真っ当な手段ではたどり着くことすら出来ない、ツチノコめいたレアキャラです。……それゆえに、その名前を言って仕舞えばモリエちゃんのようなサンシタレッサーにも頭を下げざるを得ないブザマな存在です。寝取られ者には相応しかろう…………ン?)))
脳内の電子音声が疑問符を上げたのと、ガントレットが異常に気づいたのは、ほぼ同時であった。
「何ダ?他ポイントノ潜伏グループノ反応ガ消失……?」機器を見ながら、ガントレットが呟いた。瞬間、ザンキョウがニューロンに危険信号を送る!
(((モリエェェェェェ!!!
その尋常ならざる声により、電撃的にノーティアーが動く!今の彼女は、ザンキョウによって反射的に動かされるジョルリだ!「涙は禁止よ!」シャウトと共に、超自然の霧があたりを包み込む!
次の瞬間である!
BLLLAAAAAAMMMM!!!!轟音が、ミョーギ・マウンテンの山頂に響く!何というワザマエか!ジュウ・ニンジャの狙撃が、十数キロ離れたノーティアー、ガントレット、センチピードの心臓を撃ち抜いたのである!彼はニンジャスレイヤーとのイクサの場から、ソウカイヤの潜伏ニンジャ部隊の全てを狙撃していたのだ!ヘタなテッポも数撃ちゃ当たるとはミヤモト・マサシの言葉であるが、ジュウ・ニンジャのそれは、数を撃った上で無慈悲にも精密であった!まさしく、キリング・マシーン!
「アバーッ!!!」ナムアミダブツ!センチピードは胸部に大穴を開け、倒れ伏す!では、ノーティアーとガントレットは……?
◆◆◆
重金属酸性雨で朽ちかけたジンジャ・カテドラルの内部には、広さ五十畳ほどの、おごそかなドージョーが隠されている。この場所には、電気も水道も無い。ボンボリと蝋燭のオールディッシュな灯りだけが、ドージョーの北に正しく配された大仏像と、その周囲を守る二十四体のニンジャ神話の神々の像を照らしていた。
これらの像は、長い時の流れの中で無残に破壊されてきた。無数の手を持つ神、鬼を踏みしだく神など、様々な神像があるが、いずれもその頭部や手足を失い、特に酷いものは足首から下しか残されてはいない。そしてそれは、平安時代から続いた二十四のニンジャクランの、哀れな末路の象徴でもあった。
修行用の木人。自動スリケン投擲機。壁にはぼろぼろの旗が掲げられていた。翼を広げた竜の姿がシンボルマークとして刺繍され、その下にはカタカナで「ドラゴン」と縫い上げられている───ここが由緒正しきドラゴンニンジャ・クランの本拠地、ドラゴン・ドージョーであることの、何よりの証拠であある。
ドラゴン・ドージョーの空気は、かつてないほどにサツバツとしていた。
ドージョー内部には、主たるドラゴン・ゲンドーソーと彼の孫娘たるユカノ*1、そして十人のニュービーニンジャたち。
フスマを開け、侵入してくるは、三人のリアルニンジャ。
「ドーモ、カジヤの系譜、アークガンナーです」
「ドーモ、ハガネの系譜、サウザンドエッジです」
「ドーモ、ギャラルホルンです。本日はドラゴン・ニンジャ=サンのお身柄を確保しに参りました」ジュウ・ニンジャ、ヤイバ・ニンジャ、ケイトー・ニンジャがそれぞれアイサツする。張り詰めたニンジャ存在感の凄まじさに、ニュービーニンジャらはほとんど失禁しかけている。
「ドーモ、ドラゴン・ゲンドーソーです。ドラゴン・ニンジャだと?古いリアルニンジャの方々は不思議なことを仰る……ここにはその様なニンジャはいない」彼らを睨みながらも、ゲンドーソーはアイサツを返す。
「クキキ、嘘はよくないぞ後輩よ」ギャラルホルンは半笑いでこれに応える。「俺の前に隠し事は通用しない。知っているぞ、ローシ・ニンジャ=サン、お前のセンセイはユカノと同じ顔をしていた……そうであろう?」そして懐から一枚の古ぼけた写真を取り出した。おお、見よ!セピア色の写真に映るは、若き日のゲンドーソーと、凛々しい顔立ちのユカノである!
「……ヌゥーッ」動揺を押し隠しながらも、ゲンドーソーは横目でユカノを見た。彼女は、信じられないと言った面持ちで、その写真を見つめている。心拍数と呼吸数から、彼女の内なる衝撃が窺えた。
「オミソレシマシタ」年老いたリアルニンジャは、一旦は引き下がる。「だが、そなたらはかつての大戦の折、カツ・ワンソーに味方した、言わばニンジャ六騎士の敵。何故ドラゴン・ニンジャの身柄を欲する?」
「オイオイ、俺は違うぞ」アークガンナーが水を差す。「悪いが生まれはソヴィエトでな。父祖の顔など見たこともねぇ」
「ンン、確かにそうだ。彼も、そして俺らも、西軍ではない」ギャラルホルンは続ける。「だが、時代は変わった。少々面倒なことになっており……その解決に、ドラゴン・ニンジャ=サンも必要になった」サウザンドエッジは、血に飢えた目でニュービーらを見ている。早く殺したくて仕方がないと言った様子だ。
「素晴らしい提案をしよう」
ギャラルホルンは右手を掲げる。
「お前も『衛府の十二忍』に下り、我等とともに『ザンキョウ』を打倒しないか?」
「エフ?ザンキョウ?なんだ、それは」訝しげに、ゲンドーソーは聞き返した。
レジスタンスだ、とギャラルホルンが答える。「ワンソーの置き土産たるザンキョウを討ち果たし、世に衛府、すなわち安寧の世をもたらす為の寄り合いだ。かつての遺恨を一時は忘れ、奴めに対する『ティタノマキア』を果たさんとしている」
ティタノマキア!ゲンドーソーは目を見開いた。それは神代において使われたというイクサの
「……なるほど、その十二忍は本気の様だな」
「そうだ。ローシ・ニンジャ=サン、お前はどうする?」
「断る」
ゲンドーソーは、確固たる決意のもと、カラテを構える。「そなたらの身体には血の匂いが嫌と言うほど染み付いておる。そのような邪悪なりしものが語る安寧とやらに、付き合うつもりはない。……そして。そなたらはニンジャスレイヤー=サンを殺したであろう?」
「殺してはいない。しかしそのことについては感謝するべきだ。ヤツに憑いたニンジャソウルは、あの災厄、ナラク・ニンジャなのだからな」
「で、あったとしてもだ。彼女には人間性が未だ残っていた。……守りきれなかった己の未熟が悔やまれるばかりよ。イヤーッ!」ゲンドーソーは壁を蹴り、ギャラルホルンに向かってトビゲリを放つ!そしてその瞬間に、スリケンを左右に投擲!「イヤーッ!」「イヤーッ!」アークガンナーとサウザンドエッジは、銃撃と剣戟、それぞれの手段でこれを弾く!ギャラルホルンはしかし、そのトビゲリを避けない!
「グワーッ!諸用を思い出したため失礼する!オタッシャデー!」そのまま垂直リフト射出めいて離脱!「おい待てテメェ!失礼するんじゃねェ!」アークガンナーが叫んだが時すでに遅し!
「まあいい。やることは変わらん!」サウザンドエッジの手から剣が生成される!二本、四本、八本!ソレを組み合わせ、瞬時にケン・スリケンを形成!「イヤーッ!」投擲!狙うは無論、ニュービーニンジャたち!
「ヌゥーッ!」ドラゴン・ゲンドーソーはギャラルホルンを蹴り飛ばした勢いを反発させて空中で一回転し、五枚のスリケンをケン・スリケンに投げた!ケン・スリケン撃墜!
「ハイ!お前達、下がれ!」ニュービーたちを庇うようにして、ドラゴン・ゲンドーソーはリアルニンジャ二名に立ちはだかり、神秘的なジュー・ジツの構えを取る!「……!」アークガンナーは一瞬己の眼を疑った!そこに立つのは小柄な老人などではなく、偉大なりしブッダデーモンめいた巨漢に見えたからだ!「……こいつはちとヤバイかもしれんぞ」しかし、彼の口元には笑みがまだ残っている。
「ギヒィ!ギヒィ!若い割にはビビリだのぅ!」対して、サウザンドエッジは嘲笑の姿勢を崩さない!「ドラゴン・ニンジャクランの若造めが、後悔させてやろうぞ」そして両手にケン・スリケンを形成!
「じゃあオレも、やるか」アークガンナーは、その両手にカラテ銃を形成する。オムラ社製マシンガンとよく似た構造のものを、左右に持ち……独特のかたちで、構える!おお、博識なりし読者の方々ならば理解できるだろう!彼のバトルスタイルは、暗黒武道ピストルカラテである!
彼は……狂っているのか!?マシンガン二丁を両手に持ち、それでピストルカラテを行おう、などと!しかし、だがしかし!彼はリアルニンジャ、ジュウ・ニンジャであり!そして、そのカイデンに相応しいクラスのカラテとワザマエがあれば!できる!できるのだ!
「イヤーッ!」ゴウランガ!マシンガンの反動を利用して、アークガンナーは殺人的に加速!激烈な踏み込みで以て、全身でゲンドーソーに衝突!ボディチェック、あるいはテツザンコのピストルカラテ的再演である!「イヤーッ!」対してゲンドーソーは、両腕を回転させてアークガンナーの着るニンジャスーツを掴み、地面に叩きつける!
「アマイゼ……グワーッ!」しかし彼はその直前にもう一つのカラテマシンガンを中空に放り投げる!アークガンナーのカラテによって形成された銃は、引き金を引かれずとも弾丸を発射する!BLATATATATATA!!!無慈悲なカラテ弾丸がニュービーたちを襲う!
「ハイ!」しかしドラゴン・ゲンドーソーにもその程度は予測済みだ!着地時の踏み付けで強化タタミを中空に浮かせ、回し蹴りでもって射線に投じる!ワザマエ!「イヤーッ!」その間隙を縫うように、ケン・スリケンが投げられた!アブナイ!
「グワーッ!」撤退中のニュービーの胸にケン・スリケンの片割れが刺さり、その身体を抉り取る!「アバーッ!」ニュービー無惨!もう片方のケン・スリケンはユカノに迫る!「……!そこです!キエーッ!」ユカノは臆することなく、決断的にセイケン・ヅキを繰り出す!そのヤリめいた一撃はスリケンを破壊!「ンアーッ!」しかしその砕けたヤイバが彼女の右手に突き刺さった!
「おお痛そうだ!俺も大人になるまで痛いのが大層苦手であってな!羽虫一匹も殺せなんだが、殺人をしたらピタリと止まった!以来、勇気の為に殺人!そう決めておるのだ。わかるよなァ、イヤーッ!」その隙をサウザンドエッジは逃がさぬ!両掌からカタナを形成し、ユカノに飛び掛かる!「イヤーッ!」ユカノは即座にブリッジし、これを回避!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!「イヤーッ!」チョーチョー・ハッシで、サウザンドエッジのヤイバをユカノは躱し、クナイで反らす!
「遊んでんじゃねえぞ、サウザンドエッジ=サン!」連続バク転で体勢を戻したアークガンナーが叫ぶ!「おおスマンのお!しかしカラテに差があり過ぎてな!手を抜かぬと殺してしまう!」サウザンドエッジも答える!「よそ見はいかんぞ?」そのコンマ一秒後、ゲンドーソーのカラテ掌打が炸裂!これを生成したカラテ銃でアークガンナーは防御!パキリと音を立てて、カラテ銃は粉砕された!
「ったく」そしてアークガンナーとゲンドーソーは、ワンインチ距離でのカラテ応酬を始めた!
「イヤーッ!」「キエーッ!」
「イヤーッ!」「キエーッ!」
「イヤーッ!」「キエーッ!」
「イヤーッ!」「キエーッ!」
「中々に小賢しいな、アークガンナー=サン!」ゲンドーソーは、アークガンナーの攻撃を捌く、捌く、捌く!「使えるものは何でも使ってるだけさ、ジュウ・ニンジャがカタナ使っちゃいけない道理はないだろう?」不敵にもアークガンナーは笑う!ニンジャ動体視力をお持ちの読者ならば理解できるだろう!アークガンナーは素手でのみカラテをしているのではない!攻撃と攻撃の合間に、カラテ生成したカタナを造り出し、それを用いた攻撃までもを行っているのだ!彼がカジヤ・ニンジャの系譜に属する者であることの証だ!
そのカラテラリーは永遠に続くかと思われた!「イヤーッ!」「ンアーッ!」が、その向こうで、サウザンドエッジがついにユカノを下した!
「オットット」ユカノの細い首筋を掴み上げ、サウザンドエッジは興奮したように舌を出し……己の後頭部を舐めた!「さて、勝負あり、だ!あのドラゴン・ニンジャ=サンがこのザマとは、時の流れは大層恐ろしいのぅ!」
スターン!アークガンナーから、突発的にタタミ三枚分ほどの距離を取ったドラゴン・ゲンドーソーは、忌々し気にサウザンドエッジを見る。「お爺様……私の事はいいです!どうかお逃げに!」息も絶え絶えに、ユカノが叫んだ!
その時である!
「Wasshoi!」
禍々しくも躍動的な掛け声が響き渡ったかと思うと、ジンジャ・カテドラルの天井が崩れ落ちた。そして轟々たる重金属酸性雨とともに、赤黒いニンジャ装束に身を包んだニンジャスレイヤー……否、ナラク・ニンジャが、ドージョーに乱入してきたのである。ジーザスとショーグンと6人のニンジャが描かれた荘厳なステンドグラスが、耳障りな音を立てて跡形も無く砕ける。屋根の崩落と同時に、天井裏を住処としていた百羽近い鴉たちが、慌しくドージョー内を飛び回った。
鴉の羽根で作られた黒い渦に抱かれながら、鮮血を纏った人型がゆっくりと舞い降りてくる。ステンドグラスの破片が、ボンボリの灯りを反射してホタルのように輝く。その姿は、巨大な黒いフロシキを纏っているかのように不吉で、かつ神々しかった。ユカノはその危険な美しさに、思わず涙を流し……そして、その底なしの暗黒に恐怖していた。
重金属酸性雨に痛めつけられた無数の黒い羽根が、ボンオドリを舞っているかのように輪舞しながら、タタミへふわりと舞い落ちる。直後、思い出したかのように、土砂降りの酸性雨とガラス片がドージョー内へと叩きつけた。
同時に、ナラク・ニンジャはドージョーの中心へと立膝状態で着地する。
「ドーモ、ナラク・ニンジャです」その赤黒の影はアイサツした。
「来たか」と、アークガンナーは……右腕をアサルトライフルに変形させ、ニンジャスレイヤーに向ける。
「ドーモ、ナラク・ニンジャ=サン。アークガンナーです」
「ドーモ、ナラク・ニンジャ=サン。サウザンドエッジです」
「ドーモ、ナラク・ニンジャ=サン。ドラゴン・ゲンドーソーです」
リアルニンジャたちも、それぞれにアイサツする。
場のアトモスフィアは危険な領域に達していた。モータルがこの空間に入り込めば、即座に心停止を起こしていただろう。ニュービーたちが、一人を除いて脱出に成功していたことが、ドラゴン・ゲンドーソーにとっての救いだった。
「サツバツ!」ナラク・ニンジャは、メンポのスリットから地獄の蒸気を吹き出し、回転を始めた……危険な回転だ。それは舞い散る鴉の羽根を巻き込み、漆黒の巨大なタツマキを形成する。「イヤーッ!」両腕が触手状の生き物のように休み無く動き、彼の血潮から成るスリケンが全方向に射出された!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」ナムサン!ユカノの足にスリケンが突き刺さる!しかしそれを意に介することもなく、ナラク・ニンジャは中空からカカト落としを放つ!狙うはアークガンナー!
「イヤーッ!」「グワーッ!」彼の脚部ブレーサーにまといつく不浄の炎が、ガードしたアークガンナーの腕を焼く!
ナラク・ニンジャは、それに止まらずに決断的カラテチョップを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」アークガンナーの周囲にヨロイめいてカラテ銃が形成され、そのチョップの軌道をそらした!バック転したナラク・ニンジャは、ほとんど反射的にスリケンを投擲!「イヤーッ!」「イヤーッ!」そして生じた一瞬の間の内に、サウザンドエッジに肉薄!「サツバツ!」情け容赦のないマワシゲリが、彼を襲う!
「グワーッ!」迎撃のためにサウザンドエッジの右半身から無数のカタナが飛び出るが、マワシゲリの前には無意味!くの字めいて、サウザンドエッジは吹き飛ばされる!
「ンアッ……」そして床に倒れたユカノに向かって、ナラク・ニンジャが走る!右手を引き、殺人的威力のジェット突きを、彼女に向けて放とうとする!「やめろ!ニンジャスレイヤー=サン!」ゲンドーソーは叫んだ!その瞬間、ナラク・ニンジャの動きが止まった!「イヤーッ!」BLAMBLAMBLAM!そのスキを逃すことなく、アークガンナーがナラク・ニンジャを射撃した!「グワーッ!」タタミ四枚分ほどを転がったナラク・ニンジャは、しかし受け身を取って即座に立ち上がる!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」暗闇の中で、四者のカラテと血飛沫が乱れ飛んだ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」時折、ボンボリのひとつが息を吹き返して灯り、壮絶なニンジャの死闘を、オボーンの供養火のように浮かび上がらせ、またすぐに消えていった。
「イヤーッ!」冷酷な殺人カラテをくり出しながらも、ナラク・ニンジャの目からは血の涙が流れていた。命の恩人であるユカノとゲンドーソーの叫び声が、フジキドの魂を呼び戻し、僅かながらに暴走を止めたのだ。だが、もう手遅れだ。(……こんなはずではなかった。あの二人を助けようと思って、ここに来たはずなのに……)
ナラク・ニンジャ……いや、ニンジャスレイヤーが力負けを始めていた。暴走が止まり、暗黒カラテが失われた反動で、彼女の体を猛烈な虚脱感と疲弊が襲い始めていたのだ。
「イヤーッ!」「グワーッ!」
アークガンナーのピストルカラテ技がまともに決まった。フジキドの体は砲弾のように三十メートル吹っ飛び、仏像の一つを粉々にする。壁に張られた「ショッギョムッジョ」のスローガンが、ニンジャスレイヤーを遠回しに嘲笑っているかのようである。
(……私は死ぬべきなのだ)とフジキドは思った。
(守るべき相手を殺そうとするなど、人の所業ではない)フジキドは苦悶した。(私はもう身も心もニンジャになってしまったのか……? あの夜、ケンジとトチノキを殺したニンジャのように。……だとしても。だとしても、憎い。憎い、憎い……私は、ノーティアー=サンが!モリエ=サンが憎い!)気を吐きながら、ニンジャスレイヤーは立ち上がる。(モリエ=サンを殺し!復讐を果たすまで!死ぬわけにはいかない!)人間性と憎悪に揺さぶられながらも、彼女はカラテを構える!
「すまんな、ギャラルホルン=サン!約束は果たせぬかもなァ!」そこに向かってくるは、サウザンドエッジ!彼はカタナを振りかざし……!
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
何ということか!インターラプトによって、サウザンドエッジの攻撃は外れた!
「……!!!」その乱入者を見たニンジャスレイヤーの瞳が、驚きで収縮する!
「……ドーモ、ノーティアーです」乱入者はアイサツをした。
◆◆◆
サップーケイ空間。無常の風の吹き荒れる、モノクロームの異界。
その中で、タタミ六枚分ほどの距離で、二人のニンジャが対峙していた。
「コレハ……」ネオサイタマを模した十字路の幻影を見ながら、ガントレットはただただ困惑していた。
(((さて、いったんサップーケイに避難だぁ……っと、予定がずれましたが、まま、ええわ。とりあえずてきたうにガントレット=サンをブッ殺して外出ましょ)))
ノーティアーは、無言のままカラテを構えた。
(((うーん、しかし……アレだな?あの狙撃は……ジュウ・ニンジャによるものと断定しちゃえますね。つまり……これはサプライズドにアセイルドが混じった最悪のパティーンなのでは?リアルニンジャ三体がいるやつでは?この時点でリアルニンジャ、すなわち神代の御伽話に出てくるような連中とかち合うと……この周回はここで終了です!リセだよリセ!終わり!閉廷!解散、それじゃあみんな解散!)))
(……)ノーティアーは沈思黙考する。この場でガントレットをスレイすれば、この空間からは抜け出せるであろう。
しかし。「ガントレット=サン、このジツ、ご存知?」彼女はキリングオーラを意図的に下げた。
「知ッテイル……ジツヲ使エナイ空間ヲ作リアゲルジツ……一対一デノ戦闘ヲ強制スル……」ガントレットはサイドアームのスリケンマシンガンを起動させる。この近距離戦闘では、カラテに乏しい彼は極めて不利だ。しかし、こうなったからにはやるしかあるまい。
「そう。で、私はあの狙撃手から身を守るためにこのジツを使ったんだけど……仲間割れはしたくないんです。だから、お互い協力して、ここから出る、というのはどう?」
「……ホウ」
(((はい?)))
彼女の語った提案は、単純なものである。ガントレットのスリケン射出装置でもってひたすらサップーケイ・フィールドの壁にスリケンを発射し続け、空間ごと破壊し脱出するというものだ。
「わたしが直接カラテで破壊する……というのは不可能です」やや欺瞞だ。試したことはないだけで、ノーティアーも壁に触れられ、そして攻撃することは可能であろう。しかし、背後からガントレットがスリケンを投げた場合、ノーティアーにとって極めて不利な状況となるのは明らかだ。なるべく近接し、ガントレットの生殺与奪の権を握ることが、彼女が求めることである。
「……イイダロウ。オソラクハ、俺モオ前ニ助ケラレタノダカラナ」ガントレットは右腕のスリケン投擲ユニットを取り出し、腹ばいになって構える。このピッチングマシンめいたシステムの投擲ユニットは、スリケンの速度を加速的に上昇させ、スナイプを可能にするというものだ。左腕に備え付けられたスリケン形成装置から、同一の形状の円形スナイパースリケンが供給され、装置そのものの安定性と精密な狙撃性を高める。
ヂュン、という甲高い音がして、スナイパースリケンが射出される。それを見ながら、ノーティアーは己のニューロンの同居人との対話を行っていた。
(((ど……どうしてこんなことしちゃったんですかァ~~~ッッッ こんなオリチャー
(じゃあ何?恐らくはヘルカイト=サンに状況がバレている中でこのままおめおめ逃げ帰って、ケジメで済むと思うの、ザンキョウ=サン?それともソウカイヤをヌケニンしろと?オーテ・ツミに限りなく近い状態だけど……生き残る可能性があるのは……)
(((なるほど。確かに。ドージョー襲撃への貢献であり、そのためには仲間を失いたくない……と。ンン、素晴らしい忠誠心とその場しのぎオリチャー構成力ですね!痛みに耐えてよく頑張っている!感動した!
……本当の所はニンジャスレイヤー=サンにまた会いたいんじゃないのォ?)))
ノーティアーは何も答えない。
ざりざりと、サップーケイの風が彼女のニューロンを苛む。かつて死んでいった人々たちのオバケが、視界の端でモリエを睨む。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
体感時間にして、一日ほど経ったのだろうか。確かに、スナイパースリケンはサップーケイの殻を痛めつけ、ヒビを入れていた。だが、まだ破壊させる気配はない。
ノーティアーは右手の掌を切り、血をスリケン形成ユニットに流し込む。
重金属パーティクルの存在しない空間において、大気中からスリケンを作成することは至難の業である。それ故に、血を固めてスリケンを作成することで、二人は同意した。
「疲弊シテイルナ」無感情にガントレットが呟く。「サップーケイハ、人ノ精神ニ影響ヲ及ボスソウダ」
確かに、と、ノーティアーも同意する。ゆっくりと、しかし徐々に、己の心がヤスリがけされたようにすり減っているのを感じる。「ガントレット=サンは大丈夫なの?」「俺ハ、平気ダ。脳改造ヲ受ケテイルカラナ」……ヂュン。……ヂュン。
「……どうしてサイバネティクス手術を?」退屈と精神的苦痛を紛らわすためか。思わず、ノーティアーが質問した。「あ……ごめんなさい。厭な思い出だったかしら」
「ソンナコトハナイ」ガントレットは目標地点から視線を逸らさずに答える。「懐カシイナ。電子戦争ノ折、孤児ダッタ俺ハ『射技塾』ニ拾ワレ、訓練ヲ受ケ……ソシテ、ニンジャニナッタ」
「射技塾?スナイパーの育成所のようなものですか?」
「ソウダ。ソシテ、戦場ノ中デ、俺ハアル結論ニ達シタ……
「はい?」ノーティアーが聞き返す。
「シンプルナ話ダ。IRC監視網ヲ共有シ、アラユル武力・カラテヲ蜂起前ニ遠投スリケンデ殺ス。コレヲ全世界デ行エバ、スナイパーニンジャハ支配階級トシテ君臨スルコトニナル」
「ソ、ソウデスネー」ノーティアーも思わず目線をそらした。あまりにも稚拙で、しかしまっすぐな思想である。
「……ダカラコソ。ゲンドーソー以外ノリアルニンジャガ現レ、ソシテ十数キロレベルデノ狙撃ヲ成シタコト。コレハ、古事記ノ逸話*2ト、俺ノ考エガ正シカッタコトノ証明ニナル」
「アッハイ」
「オ前モ、イズレ……射技塾、イヤ、『シャーテック』ノ門下ニ下ルトキガ来ルダロウ」……ヂュン。スナイパースリケンは、精密に飛んでいく。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
…………ヂュン。
浅い眠りからノーティアーは目覚めた。もはや……三日ほどが経過したのか?彼女の感覚は泥めいて摩耗している。
「目覚メタカ」ガントレットは、立膝で彼女を見ていた。スリケン形成の出来ぬ彼にとっては、寝首を掻くことすらも難しいのだ。「……コレヲ」ガントレットはおもむろにタッパーを取り出す。最後の携帯用オーガニックスシが入っている。……ギリースーツに隠された彼の表情は窺い知れない。
「アリガトゴザイマス」それを受け取り、口に放り込む。スシはニンジャにとっての完全栄養食であり、食せば感覚が鋭敏化され、カラテがみなぎる。ノーティアーのように、出血を繰り返して血中カラテが不足したものにとっては極めて重要なものだ。その最後の一つを、ノーティアーは咀嚼し終えた。
「……」壁を見る。亀裂はますます大きくなっている。痛む頭を押さえながらも、ノーティアーはガントレットの傍らに立ち、血を流す。スナイパースリケンが、壁を傷つける。卵の殻を砕くように。
「オ前ノ恩情ニ感謝スルヨ」ぼそりと、ガントレットが呟いた。「オ前ノオ陰デ、オレハ、リアルニンジャノアーツヲ観察シ……シャーテックヲ、更ナル高ミニ導ケルカモシレナイ。コノキリングフィールドニ取リ込マレタタメニ、ナ」
ぱき。
ぱきぱき。
ぱきぱきぱきぱき。
サップーケイの殻が、崩れ落ちていく。超自然の霧が晴れ、夜の闇と、重金属酸性雨が、墨絵を侵食していく。
「……ッハ!」センチピードは起き上がった。先ほどの狙撃により、彼の外殻サイバネティクスは殆どが吹き飛び、ムカデめいて脊髄などを収めた予備ボディのみで、彼は起き上がる。「ッフー、ふわふわローンで第二の心臓入れといてよかったぜ」そこで、雨に打たれて蹲っていたノーティアーとガントレットを視認した。
「テメェら生きてやがったか。どんなジツを使ったんだ?」
ノーティアーはそれには答えない。「行かなきゃ」とだけ、無機質に呟き、背後の陣地に置かれていたスシを喰らった。それを終えるが早いか、恐るべきスピードで下山していく。
「アッ、オイ!待てよノーティアー=サン!何をそんなに急いでやがる!」
センチピードの叫びが遠ざかる。「フユコ=サンがアブナイ」という彼女の答えは、センチピードには聞こえなかった。
◆◆◆
「ノーティアー=サン……!」
ニンジャスレイヤーの眼が、怒りを湛える。さきほど押し込めたばかりのナラクが湧き戻るかのように、不浄の炎が彼女の腕に宿った。
「うん、ワカル、ワカルヨ」ノーティアーは彼女を見た。その表情は、ジョルリ人形めいて硬化している。「でも、フユコ=サン、あなたを死なせたくない」そして、アークガンナーとサウザンドエッジに対して、カラテを構えた。
「ヒギィ!ヒギィ!何かと思えば新たな肉が!コロス・ニンジャ=サンの徒弟のゲニン風情が、随分な物言いよのォー!」
「全くだ。まとめて銃のサビにしてやろう」
「ソウカイヤのニンジャ……それのスケダチとはな……」
彼らも同様に、武器を手にした。ドラゴン・ゲンドーソーは油断なくジュー・ジツを構え、乱入者を見定めんとしている。
「……」ニンジャスレイヤーも素早く状況判断し、カラテを練り上げる。「後で、必ず……」そして、ノーティアーの横に立った。
【続く!】
「ふむ。これはこれは。一体、如何なる風の吹き回しかね?」
ギャラルホルン……ケイトー・ニンジャは、ドージョーから離れた場所にて、ニンジャの一団と対峙している。
その先頭に立つは、二人のニンジャ。一人はオベリスクめいた巨大な槍を持ち。一人は貴族風のニンジャ装束で、刺突剣を帯刀している。
「さてな。貴公には大計画の全容など知るはずもないのだから」
「邪魔立てするならば、貴様とて容赦はしない」
「おお、恐ろしい恐ろしい……モズのレリック持ちに……鷲のニンジャの末裔か」ケイトー・ニンジャは笑いながらもジツを放つ!
KABOOOM!しかしその緋色の雷は、オベリスクめいた槍によって阻まれる!『ツ ラ ナ イ テ タ オ ス』のルーンカタカナが踊る!
「然り、然り。貴様なら知るだろう、この武器の由来を。貫き、哭かせ、倒す。故に、ツラナイテタオス……!イヤーッ!」ニンジャ……ドラゴンベインは跳躍!何たるニンジャ膂力であろうか!
「ハハハ、随分と物知りだな、ギャラルホルン=サン!私の事も忘れてくれるなよ!イヤーッ!」そして地上からは、洒脱なりしスワッシュバックラーが刺突剣で連撃を仕掛ける!
ケイトー・ニンジャに相対する、後にアマクダリ・アクシズと呼ばれることとなるニンジャたち!新たなるイクサが始まろうとしていた!