so-takさん、ソフィアさん、メイトリクスさん、カド=フックベルグさん、クオーレっとさん、Nekuronさん 誤字報告ありがとうございます。
「立てますか?」
「えぇ……」
とっさに差し出された手を握ってそのまま座り込んだ状態から立たせてもらう。
改めて彼の全身を見るが、武器であろうピッケルと持っている手以外血に染まっていなかった。
じっと見ているのも失礼なので、とりあえずお礼を言うことにする。
「あの……危ないところをありがとうございました。私はこの学校の教師です。その……失礼ですが、あなたは?」
真夜中にこの学校にいる人に名前を尋ねる。危険な人だったら私がどうにかしなければ。ポケットに入っているドライバーの感触を意識する。
「怪我は……ないみたいですね。初めまして、若狭 悠里の兄みたいなものです。悠里がいつもお世話になってます」
「いえ、こちらこそ、彼女はしっかりしてますからこちらの方も助かっています」
彼が若狭さんが言っていた人なのだろう。こうして私と話しながらでも周囲を警戒している。
「2階と3階にバリケードを張ってくれたのはあなたですか?若狭さんが貴方が張ってくれたと言っていたので」
「悠里がですか?それは困りましたね、私のことは気付かれてないと思ったのですが……」
「あなたが、柚村さんに残したメモの字を見て、貴方だと確信したみたいですよ」
彼は困った表情で血に染まってないほうの手で頭を掻いている。
なぜ若狭さんに存在が知られると困るのだろうか
「すみませんが、悠里には私と会ったことは内緒にしてもらってもいいですか?」
「なぜです?一日に何回も貴方の話を聞くぐらい貴方に会いたがっているのに」
内容も惚気話のようなものなので、恵飛須沢さんも私もちょっと辟易している。
彼が居れば、彼女の話も
「だからですよ。彼女に会ったら余程のことがない限り私と離れようとしないでしょう、私のやっていることは生徒用玄関を見た通りですし……悠里はしっかりしていますが、あまり強くはないので」
「……貴方は平気なんですか?」
「あの子達はもう十分怖い目にあった。この状況が好転するか分かりませんが、せめて安心して過ごせる環境は与えてあげたいですからね」
平気かどうかは彼は答えなかった。
無理はしているのだろう、しかし彼を止められる言葉を私は持ち合わせていなかった。
「分かりました。若狭さんには言いません」
「ありがとうございます。では、私はこれで、その先になにがあるのかは聞きませんが、気を付けてくださいね」
さきほど蹴り飛ばした『かれら』の死体の足をもって引きずっていく彼の姿を見えなくなるまで私は彼の後ろ姿を眺めていた。
私は彼がやっているような事はできないだろう、今、私のできることをやろうと、緊急避難マニュアルを握りしめ、地下の避難区画へ向かっていく。