あたちはイマイチ自分の出生がわかっていない。
といっても重苦しい話ではなく、ただただ疑問があるだけだ。なにせ最初の記憶は海の中に気が付いたらいた、というものだったのだから。
しかも、あたちはその時から少女の姿をしていて、水中でも何の問題もなく生存できていた。
それからしばらくは特に何をする訳でもなく、海流に流されるがままにになっていた。自我というものもなく、存在理由があるわけでもなく。本当にそこに在るだけだった。
喋ろうとすれば水中でも話すことが出来て、食事をしなくても生きてゆける。人の姿をした化け物ともいうべき存在のあたちは、しかしさしたる感慨もなく海を漂っていた。
「あたち」
不便があるとすれば「わたし」と言おうとすると、どうしても滑舌が悪くなってしまうことくらいだ。見た目は10歳前後の、白色と水色の着物を着た白髪で青い瞳をしたいわゆる『ブルーアイズホワイト大和撫子』だし、それくらいは許してほしい。
そんな無味乾燥な日々が終わりを告げたのは、本当に偶然の出来事だったと思う。
海を漂っているとほかの生物に会うことがよくある。それは魚だったり、クラゲだったり、ラッコだったり様々だ。ただ、それらはやけにあたちにフレンドリーだった。あっちから近づいて来ては、話しかけてくる。ナンパされたことだってある(その後周りの仲間からボコボコにされていたが)。
だから暇はしなかった。海の中で会った生物達と戯れ、別れてまた漂う。そんな、サイクルをあたちの『嫁ポケ』は撃ち破った。
「ーーーーーシェル?」
「……どうしたの?」
紫色の貝殻に身を包む、大きく丸い瞳と長い舌が特徴の子。その子はあたちをひと目見ると近づいて来た。なんだか、今までとは違う雰囲気にあたちは首を傾げた。
そして、特に図ったわけもなくあたち達は触れ合った。
「あ」
すると、その貝の子は突然白く輝き始めた。
「ーーーーーーーーーー」
その輝きは次第にその輪郭を変えていき、元より大きくなる。そして、一連の現象が収まった頃にはその子はまったく別の姿になっていた。
「シェン! シェン!」
紫色の貝殻は向きを上下から左右に変え、さっきまでは見えなかった顔を見せた『彼』。黒い球体の顔には鋭く切れた目つきに、歯の見える少し悪そうな笑みを浮かべていた。更に、額には大きく伸びる角。
雄々しいとまで言えるそれらをじっくり見ていると、不意に強烈な衝撃があたちの頭を走った。
No.091『パルシェン』
シェルダーの進化形
2まいがいポケモン
タイプ みず、こおり
たかさ1.5m おもさ132.5kg
とくせい シェルアーマー、スキルリンク
かたいカラは ナパームだん でもくだけない。 カラの なかみのしょうたいは いまだ ふめい。
種族値
HP 50
こうげき95
ぼうぎょ180
とくこう85
とくぼう45
すばやさ70
合計 525
思い出した。そう、彼はパルシェン。あたちが最も好きなポケモン。カッコよくて強くて、可愛くて愛らしくて、会いたくて触れたかったあたちの嫁(一方的な感情です)。
そうだ、この世界はポケットモンスターの世界だったのだ。
嫁に出会ったことによる衝撃は、あたちの前世の記憶を蘇らせた。この世界にポケモンと呼ばれる様々な生物がいることも、彼等と人が共に暮らしていることも私は知っていた。
しかし、思い出したのはいわゆる意味記憶と呼ばれるものだけで、前世のあたちがどんな人物だったのかは思い出せなかった。知識として、ポケモンを中心とした事柄が頭の中にあるだけだ。
つまり、結局のところあたちは自分自身のことを何も思い出せなかった。けど、一つだけわかったことがある。
「はじめまして」
とりあえずまずは挨拶。そして、間髪入れずにもう一言。
「それと、あたちと結婚を前提にお付き合いして下さい!!」
頭を下げて、愛の告白!そう、自分のことが何一つ分からなくても、あたちがパルシェンを好きだということだけはわかる。
そして、それだけで十分だった。
「シェー!?」
パルシェンの反応が、あたちの知識の中にある出っ歯のイヤミったらしいキャラクターと重なった。
つまりこれがあたちたちの出会い。成り行きと勢いだけの初対面ではあったが、あたちにとっては千金にも勝るひと時だった。
「あたちはシンジュ。よろしくね、パルシェン。」
「シェン(パルシェンって誰)?」
今もだけど、割とあたちたちの会話は噛み合っていなかった気がする。
因みに私のパルシェンへの想いの大きさは、とりあえず全性格の6vパルシェンがいます。
みんなの嫁ポケへの想いも教えてくれても良いんだぜ?