お正月の怪獣を考えていたら、番外編を思いつきました。
まだ本編に出ていない忍達との関係や、フュージョンとゼロのオリジナル設定を出してしまいますが、ご了承下さい。時系列と言ったものは無視していただければ幸いです。
番外編 お正月と餅つきだぜ、ペガ!
ー理巧sideー
暁月理巧がウルトラマンジードとなり、半蔵学院に編入し、飛鳥達と絆を結んでいき、ウルトラマンゼロと出会い、蛇女子学園と戦い、焔達と出会っていき、伏井出ケイと言う敵と遭遇し、月閃女学館の雪泉達や新蛇女子選抜メンバーの雅緋達とも出会い、彼女達とも絆を結んで、己の宿命『ウルトラマンベリアル』と死闘を繰り広げきた。僅か数ヶ月の間で目まぐるしい日々が続いた。
それでも、時と季節は流れて行き、理巧達は翌日に正月を迎えようとしていた。
秘密基地にて、飛鳥に斑鳩、焔に詠は年越し料理の支度に勤しんでいた。
柳生と雲雀、未来と春花は初詣で全員が着る着物の準備や基地の掃除をしていた。
本来ならば、月閃の雪泉達、新蛇女選抜の雅緋達も来る予定だったのだが、それぞれの忍学校の正月での行事があるらしく、それぞれの学校の代表のような立場の彼女達もその準備の手伝いをしており、年末年始は来れないと言われた(雪泉達も雅緋達も、本当は来たそうだったが)。
買い出しに出ていた理巧とペガ、葛城と日影が戻ってくると、ペガは料理支度中の飛鳥達に駆け寄っていた。
『飛鳥! 焔! 餅つきだよ! 餅つきをやろうよ!』
興奮気味に、飛鳥達に提案すると、飛鳥達はキョトンとした顔になる。。
「餅つき? どうして?」
「買い物途中で、町内会が餅つきをやるのを見てね。そう言えばペガには餅つきなんてやらせた事無かったなぁって思ってさ。ほら、ペガはペガッサ星人だから、ね・・・・」
『あぁ~・・・・』
飛鳥達も焔達も納得したように声をあげた。こうしていつも一緒にゲームをしたりご飯食べたり、遊んだりと共に生活していて馴れていたが、ペガは異星人だ。迂闊に外を出歩こうモノなら即座に大混乱になる。
AIBのシャドー星人ゼナのように人間に擬態できれば問題ないが、ペガには擬態能力はなければ擬態する装置もない。装置装置の方はAIBに申請すれば出るかも知れないが、地球人的には未成年のペガは親からの同意書が無ければ貰えない。
一応レムにそんな感じの装置の開発を頼んでいるが、中々上手くいっていないようだ。
毎年正月になると、ペガは理巧の実家の理巧の部屋に置かれているテレビなどで、餅つきの映像などを見ていて、自分でもやりたかったらしい。
「う~ん、そう言う事ならやってあげたいけど・・・・」
「外でやる訳にはいかないな。半蔵学院の屋上や展望台だって、何処に人の目があるか分からない世の中だからな」
『・・・・そっか、そうだよね。仕方ない、よね』
飛鳥と焔の言葉を聞いて、ペガは少しションボリしたような声を発する。
理巧がそんな親友を見て、肩をすくめながら声を発した。
「この基地の中なら、人の目を気にする事もないよ。この間、懸賞で『新潟産の特選餅米』が大量に当たったし、明日に臼と杵を借りてきて、皆で餅つきをやろう」
「りっくん」
「ペガだって、この半蔵学院に来てから、色々頑張ってくれたりしたからな。そのお礼みたいなモノでさ。皆で餅つきをやろう」
半蔵学院に理巧と共に来たペガは、秘密基地で皆のサポートをしたり、ダークゾーンを使って救出や潜入と言った方面で自分達の力になってくれていたのだ。
「・・・・それもそうですわね」
「雲雀もお餅つきやりたい!」
「雲雀がやりたいならオレも構わん」
「ゲヘヘヘ、アタイは餅も良いが、ここにある餅のように弾力溢れた柔らかな餅の方が好みだねぇ!」
「ち、ちょっと葛姐ぇ!」
「ま、たまにはいいか」
「うん。それについた餅が余るだろうから、貧民街の皆にもお裾分けしよう」
「それは素晴らしいアイデアですわ! わたくしがお餅に合うモヤシ料理の開発もしますわ!」
「ワシも構わんわ」
「私も」
「それじゃ決まりね」
「と、言う訳だ。ペガ、餅つきだよ」
『本当!? やったぁぁぁぁっ!!』
ペガが両手を上げて喜ぶを表現し、そして一同は長方形のコタツを二つ繋げて、大晦日を満喫する事に集中した。
年越し蕎麦に料理を全員を楽しく食べ、空中ディスプレイで年末『脱走中』と言う番組を見て、自分ならあの場面はああすると言ったり、赤白唄決戦を見て盛り上がったりと、大晦日を満喫していた。
ちなみに霧夜先生とゼロも呼んでいたが、学生で楽しめと言われ、今年は理巧の代わりに鷹丸達とゼナで年末年始を楽しむらしい。
そんな中、レムが近くに来た理巧に、皆に聴こえないようにソッと声を発した。
『理巧。たった今一瞬でしたが、月面上に奇妙なエネルギー反応がありました』
「・・・・敵か?」
『それは不明瞭です。反応は本当に一瞬でしたから』
「何が起こるか分からない。警戒はしておいてくれ」
『了解しました』
◇
そして翌日の新年。初詣に出掛け、神社でおみくじを引きや御守りや破魔矢を買って今年一年の無事を祈った。
「それじゃ皆、明けましてーーーー」
『おめでとうございます!』
晴れ着を着た皆はとても美しく、道行く人々はその麗しさに振り返ったりしていた。
理巧のおみくじは『小吉』で微妙な結果でありしかも、『待ち人 待ってもいないのに、これからもぞろぞろ増えてやって来る』、『恋愛・縁談 まだまだ増える。もはやハーレム。末永く爆発!!』と書かれ、理巧は頬に冷や汗を垂らし、飛鳥達と焔達はまだ見ぬ恋敵達に戦慄する。
そして一同は、神社の境内で行われる餅つきを見物していた。
『わぁ~!』
理巧の足元のダークゾーンからソッと頭だけ出したペガが、目を輝かせて見ている。
と、その時、理巧はふと上空を見ると、昼間の月から謎の影が現れる。
「・・・・何だあれは?」
理巧が昼間の月を見据え、飛鳥達に焔達も月を見ると、月から”何か“が此方に向かっているのが見えた。
「あれは・・・・!?」
「何だどうしたぁっ!?」
「なんなんや?」
月から舞い降りたように現れたソレを見て、理巧に飛鳥達に焔達や、その場にいた全員が目を見開いて唖然となり・・・・。
「う、臼ぅぅぅ~っ!?」
ビックリして、素っ頓狂な声を上げる飛鳥。
だが、そうなってしまうのも仕方ない、ソコに現れたのは、分かりやすく言えば、餅つきに使う『臼』であった。臼の中から大木のような物が伸びており、しかも、巨大な飛行船にロープ一本でぶら下がって浮遊している。
さらに言えば、サイズが桁違いであった。数十メートルはあろうかと言うバカみたいに巨大な臼。そして地上に近づくと、緑色の大木のような手足が生えてきた臼の怪物が、デンッと云わんばかりに立っていた。
『ふぁあああ、やっとついたぁ!』
赤くギラギラ光る三白眼に、長い二本の牙が下顎から生やし、まるで子供の落書きがそのまま実体化したような冗談のような、珍妙な姿なのだ。
「あれは確か怪獣のーーーー確か『モチロン』だったけ?」
基地の怪獣図鑑で読んだ怪獣を見上げながら、理巧が呟いた。
『おぉっ! 餅発見っ!』
『モチロン』はその大木のような腕で境内に置かれていた臼を摘まむと、自分の口元に持っていき、逆さにして餅を口の中にいれた。
『アムアムアムアム・・・・。んん~美味い美味い!』
『あぁっ! お餅がっ!!』
『ふははははははははぁぁっ!!』
ペガが悲痛な声を上げると、『モチロン』が野太い声で笑うと、その巨体がフワリと空に舞い上がり、再び手足を引っ込めて飛行船にぶら下がると、何処かへと去って行った。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『お餅を盗られたぁ! お餅泥棒だぁっ!!』
全員が呆然となる中、ペガだけかこの事件に大慌てになっていた。
ついでに、『モチロン』のインパクトが強すぎて、一般人はペガの存在に気づかなかった。
◇
昼がすぎ、基地に戻った理巧達は、モチロンの捜索を始める。
「それで、りっくん・・・・? あの面しーーーー変な顔した大きな臼?のような怪獣、なのかな?」
着物を脱ぐのも面倒なので『忍転身』した飛鳥達と焔達。
飛鳥はモチロンの顔を思い出して笑いそうになるのを堪える。周りを見ると、焔と斑鳩と詠があのふざけたモチロンの姿を思い出し頭痛を堪えるように頭を抱え、柳生と日影と春花は、あの珍妙な姿を思い出し、必死に笑いを堪えているようで身体を震わせていた。葛城と未来はツボに入ったのか爆笑しており、ペガと雲雀はお餅を盗られてプンプンと怒っている。
「・・・・レム。説明宜しく・・・・」
理巧も頭痛を感じているのか、説明するのも面倒と思いレムに代わって貰った。そしてレムが説明する。
『あの怪獣の個体名は、『うす怪獣 モチロン』と呼ばれる怪獣です』
「そのまんまだね・・・・」
飛鳥が苦笑いを浮かべながら素直な感想を述べ、他の皆もウンウンと同意するように頷いた。
『そしてモチロンは、お餅が大好物なのです』
「本っ当に分かりやすいね・・・・あはは・・・・」
飛鳥は乾いた笑い声を上げるしか無かった。斑鳩達や焔達も同様であったが、葛城と未来は笑いすぎて呼吸困難に陥りそうになる。
理巧も半眼で呆れ果てながらも説明した。
「モチロンはなんでも、昔から『月ではウサギが餅つきをしている』って、伝説によって生まれた人々の想像力が集まって怪獣化したヤツらしいよ・・・・」
「伝説と想像力によって生まれた怪獣、ですか・・・・?」
「ファンタジーだな。って言うか何でも有りだな・・・・」
「あの姿じゃロマンチックの欠片もありゃしないけどね・・・・」
ツッコミ所が有り過ぎて、コメントに困る斑鳩と焔と春花。
最早笑い話になりそうだ。日影と詠と柳生が気になった事を聞いてみる。
「ほんで、あの臼は一体何しに来たんや?」
「まさか、お餅を盗みに来ただけなんですの??」
「まさか伏井手ケイが呼び出した怪獣って事は無いだろうな?」
最もな疑問だ。伏井手ケイが関与しているのではないかと考えてしまう。これまで幾度となく恐るべき怪獣達と遭遇し、時に戦ってきたのだから当然と言える。
しかし理巧は、頭を抱えながら推察を述べた。
「多分だけど、本当に餅を食べに来ただけだと思う。怪獣図鑑によると、奴は日本中の餅を、特に新潟県の米でできた餅を食べ尽くそうとしていたからね・・・・って、皆。気持ちは分かるけど、一応真面目な話だから聞いてくれる?」
理巧が半眼になって一同を見る。
飛鳥は苦笑いがひきつり、焔に斑鳩に詠と一緒に基地に置いてある救急箱から頭痛薬を取りだし。葛城と柳生、日影に未来に春花はやる気が失せたのか、コタツに入って蜜柑を食べてダラケながら空中ディスプレイで正月特番を見ていた。
ただ二人、ペガと雲雀は餅を盗られた事を怒り、レムに手伝って貰いながらモチロンを捜索していた。
「はぁ・・・・まぁ気持ちは果てしなく分かるけどねーーーーん?」
モチロンのしょうもない理由に皆が微妙な空気になっていると、理巧のスマホが震えた。取り出して画面をを見ると『美野里』からである。
「美野里ちゃん?・・・・何か嫌な予感が・・・・(ピッ!)もしもし美野里ちゃん、どうしたの?」
理巧の耳に、美野里の慌てた声が響いた。
《りくくん大変だよ! 臼の怪獣さんが月閃に現れたの!》
「・・・・はぁ? モチロンが月閃女学館に現れたぁっ!?」
『え”っ!?』
『ブッ!』
「「はい?」」
葛城達がコタツから此方に顔を向け、頭痛薬を飲んでいた飛鳥達が吹き出し、ペガと雲雀が理巧に振り向く。理巧はスマホをハンズフリーにすると、美野里の声が響く。
《今日は月閃で新年の行事で『月閃餅つき大会』が開かれたから、りくくん達にもお裾分けしようとみのり達も参加したんだけど・・・・!》
「そんな行事があったのか・・・・ソコに臼の姿をした怪獣が現れて、餅を全て平らげてしまったと?」
《うん! ゆみちゃんにむらくもちゃんによざくらちゃんが立ち向かったんだけど、怪獣さんの口から火を吐いて、三人を撃退しちゃったの!》
「炎を吐くねぇ~」
「餅を焼く為の能力か?」
葛城と柳生がまだやる気が出ないのか暢気な声を漏らす。
気にせず理巧は美野里に状況を聞く。
「それで、雪泉さん達は無事なの?」
《う、うん。でも、三人とも軽傷で済んだけど、怪獣さんに負けたのがショックで今落ち込んでるの。特にむらくもちゃん、お餅が大好物だからちょっと泣いちゃってるの》
「・・・・四季ちゃんと美野里ちゃんも戦ったの?」
《・・・・えっと、その、怪獣さんの顔が凄く面白くて・・・・》
「あぁ分かった。良く分かったよ。唖然と笑いの感情が複雑に絡み合って、マトモに戦闘できなくなっちゃったんだね」
《う、うん・・・・》
理巧が、唖然となる四季と美野里と、果敢に挑んだがノサれて体育座りで落ち込む雪泉と叢と夜桜の姿を想像し、苦笑いを浮かべた。
「まぁ無事なら安心したよ。怪獣の方はこっちも捜索しているから、今は雪泉さん達を慰めてあげて」
《うん・・・・お願いね、りくくん》
「ああ」
美野里との連絡を切ってすぐ、LINEが来ており、画面には『紫』のアイコンが表示されていた。またもや嫌な予感がする。
「まさか・・・・【紫ちゃんどうしたの?】」
【・・・・理巧さん大変、臼の怪獣が現れてお餅を奪われた】
「やっぱり・・・・【そっちでも餅つきをしていたの?】」
【うん。蛇女子の『餅つき死闘』が行われていたの】
「・・・・『餅つき死闘』? 蛇女ってそういうのやるの?」
「あぁ~そう言えばそんな事やってたわねぇ」
「忘れてたわ」
春花と未来が思い出したように声を上げ、焔と詠と日影もあぁ~って顔になった。
善忍も悪忍も、年の始めにやる事は同じだなぁ、と、理巧は半眼になるが、紫との会話に戻る。
【雅緋さんとお姉ちゃん、両備さんと両奈さんが立ち向かったんだけど、怪獣が手足を引っ込めて転がってきて、四人共踏み潰された】
「何っ!? 【雅緋さん達は大丈夫なのかっ!?】」
【うん。転身していたから、地面にめり込んで気を失っただけで済んだ】
「【命があっただけでもめっけもんだな】」
【でも、まだ暫く気絶しているから、お願い】
「【紫ちゃんは戦わなかったの?】っと」
【・・・・お餅盗られてちょっとイラッとしたけど、怪獣がすぐに逃げ出した】
「【あらそう】」
紫がキレて暴れたら、餅騒動じゃ収まらなくなっていたから不幸中の幸いだと思う理巧。
「【まあ怪獣はこっちでも何とかしておくから、雅緋さん達の介抱を頼むよ】」
【うん】
紫とのLINEを終えた理巧は、深いため息を吐いた。
「まさか、ここまで大事になるとはなぁ。ここまで来ると逆に笑えてくるよ、ハッハッハッ」
「りっくん、笑ってる場合じゃないよ」
理巧が呆れ果てた顔で乾いた笑い声を上げると、飛鳥も困り顔でそう言った。
「しかし、あの怪獣は一体何処に」
「今映っとるで」
『えっ!?』
焔が顎に手を当てて考えていると、日影がそう言い、一同が指差した方を見ると、空中ディスプレイに映されている正月特番で神社で餅つきをしている場面に、モチロンが現れて餅を奪って食べている光景だった。
《『やはり地球の餅は美味くて柔らかくて最高だぁ』》
《ご覧下さい! 突如現れた謎の臼型怪獣が、つき終えたお餅を平らげてしまいました! あぁ、ご相伴にあずかろうと昼食抜いてきたのにぃ・・・・!》
キャスター(バストサイズ柳生クラス)が悲痛の声を上げていた。
「派手に暴れてるわねぇ」
「これだとAIBも動きそうですわね」
「だとすると、そろそろ先生から連絡を来るんじゃないか?」
『・・・・理巧。霧夜先生から通信が入りました』
「・・・・繋げてくれ」
春花が感心したような声を漏らし、詠と柳生が言った瞬間、レムからの報告を聞いた理巧が、霧夜先生と連絡を繋いだ。
《理巧。状況は分かるな?》
「うん。こっちも間近で見たからね」
《AIBも本格的に動く。すぐにモチロンを捕獲したい所だが、モチロンは怪獣レーダーに映らない特殊性質を持っているだけでなく、本来は『月の海』と呼ばれる月の黒い所の化身であり、ヤツが死滅すると月は真っ白になってしまうらしいから、倒す事はできんぞ》
「あんな珍妙怪獣にそんな能力があんのかよ・・・・」
「能力のムダ遣いだな・・・・」
「でもあんなお間抜けなそうな怪獣に負けたとあっては・・・・」
「善忍も悪忍も末代までの恥になるね」
葛城と焔が呆れた声を漏らすと、斑鳩と理巧が半眼になって言った。そして雲雀とペガが声を上げる。
「それでこっちのレーダーにも映らなかったんだ!」
『でもレムは気づいたんだよね!?』
『モチロンらしき反応が生まれた瞬間だけです。今は探索不可能です』
「じゃあどうやって探すのよ?」
未来の言葉に一同は悩むが、理巧はすぐに、ポンッと、手を叩いた。
「そうだ。ちょっと考えが思い付いた」
『えっ?』
一同に理巧が作戦を伝えると、ペガと雲雀はナイスアイデアと叫び、他の皆はえぇ~っと、言わんばかりに苦笑いを浮かべた。
◇
そして夕闇が広がり、そこは冬休みですっかり無人となった半蔵学院の屋上にて、斑鳩と詠がご丁寧にコンロを置き、AIBに特別に手配して貰ったり、基地に置いてあった『新潟産の特選餅米』を土鍋で炊いている斑鳩と詠。
そしてその周りでは。
「おりゃ! おりゃ! おりゃ! おりゃ!」
「何で! こないな! 事を! ワシがっ!」
葛城と日影が祭などで使われる大きなうちわを扇ぎ、土鍋から漏れる餅米の香ばしい香りを周囲にばら蒔いている。
「・・・・本当にうまくいくの?」
「『炊きたての餅米の匂いでモチロンを誘き出す作戦』、だなんて、そんな原始的な作戦が成功する?」
近くにいた未来と春花が半眼で、斑鳩達の近くで臼と杵を持ち出し、餅つきの準備をする理巧とペガにそう言った。
「モチロンは数十キロ離れた餅の臭いを嗅ぎわける。絶対来る筈だ。近くに霧夜おじさんとゼロが控えているし、半蔵学院周辺はAIBが避難させているよ。モチロンを誘き出し、尚且つペガが堂々と餅つきができる。一石二鳥の作戦だ」
「それって、ただりっくんがペガくんにお餅つきをやらせてあげたいって個人的な考えの方が多く含まれていない?」
「・・・・そんな事ないよ」
「出来上がりましたわ!」
飛鳥の言葉に、理巧が明後日の方角を見てそう言うのと同時に、斑鳩と詠が土鍋を持ってきて飛鳥が蓋を開けると、中から芳しい餅米の香りが辺りに広がり、葛城と日影が扇ぐうちわに勢いをさらに高める。
「うわぁ~良い匂い・・・・!」
飛鳥がそう言うと、斑鳩と詠が餅米を臼へと入れた。
「良し。それじゃ始めよう、ペガ! 行くよ!」
『やったぁ!』
理巧が臼の隣で片膝をつき、水が入った桶を足元に置き、ペガが杵を持ち上げてそして、
『えいっ!』 「はっ!」 『それっ!』 「よっ!」 『おりゃっ!』 「ふっ!」 『うりゃっ!』 「はいっ!」 『こりゃさっ!』 「なんのっ!」
ペガが杵を振り下ろして餅米を叩き、理巧が相の手役で水の含んだ手で餅米をひっくり返しを繰り広げていくと、餅米が徐々に餅へと変化する。
『よいしょっ!』 「よいしょっ!」 『よいしょーーーーっ!』
やがて飛鳥達と焔達も、それぞれペアを組んで餅つきを初め、二人のノリに合わせて声を上げた。
怪獣をどうにかしなければならないシリアスな状況なのだが、モチロンのあの舐めくさった風貌と、作戦の和やかさから、まるで子供の頃に読んだ、日本昔話の世界に入ったような朗らかな気持ちになっていた。
『あぁーーーー!! 良い匂いがするぞぉ!! 餅の良い匂いがするぞぉーーーー!!!』
が、そんな平和な雰囲気を壊すように、夕日の向こうから、飛行船にぶら下がったモチロンがやって来た。
「うわっ! ホントに来たっ!?」
「ああ、バカだ」
未来と柳生が言うと、モチロンは手足を出して地面に着地すると、走りながら半蔵学院へと向かう。本当に日本昔話のような展開だ。
『ワーイ! この匂いはまさか、夢にまで見た新潟県の餅かっ!? 貰うぞぉ!!』
モチロンが半蔵学院に後少しで到着するその時、
『させるかコラーーーー!!』
『ギャフッ!?』
ウルトラマンゼロが『ゼロキック』をおみまいして、モチロンがひっくり返った。
「ゼロ。少しの間宜しく」
『あぁ。しっかし、こんな作戦で上手くいくのか?』
『「まあソコは出たとこ勝負だな」』
ゼロと霧夜先生も頭を掻きながら、モチロンと対峙する。起き上がったモチロンは、腰を落として大地を揺るがしながら相撲のように四股を踏む。
『どすこい~っ! 何だお前はっ! オラは漸く見つけた新潟の餅を食べたいんだ! 邪魔するなっ!』
『あぁ~、悪いんだけどよ。お前が餅を食べまくると大勢の人達が迷惑するんだよ。大人しく月に帰ってくれねぇか?』
『どすこい~っ! どぉすこい~っ!! 帰らせたきゃ、オラを相撲で負かしてみろ! オラは餅をいっぱい食って力持ちなんだぞぉ!』
説得しようとするゼロだが、モチロンは聞く耳持たないようだ。
『仕方ねぇっ! 相手してやんぜぇっ!!』
『ごっつぁんでぇぇすっ!!』
ゼロとモチロンがぶちかましをすると、立合いを始める。
『よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ!』
「よっ! よっ! よっ! よっ! よっ!」
が、そんな戦いが繰り広げられているのを尻目に、ペガと理巧は餅つきを続け、飛鳥達も料理を始めている。
「こんな状況でお料理している私達って・・・・」
「相当、感覚が麻痺しているのかもな・・・・」
調理している飛鳥と焔だけでなく、他の皆も、怪獣とウルトラマンが戦っている近くでこんな暢気な事をしている自分達の感覚が麻痺し始めている事に、苦笑いを浮かべるしかなかった。
ーゼロsideー
『シェァッ!!』
『ヌォゥッ!!』
威勢良くゼロに挑むモチロンだが、ゼロの回し蹴りを浴びて倒れる。
『この! 『モチロンボイラー』!!』
『よっとぉ!』
モチロンが口から火を吐くが、ゼロがモチロンの真上を飛び越える。
『あら? たっ! たったったったったったっ、ありゃぁあっ!?』
ゼロを追って火を吐きながら見上げるように仰け反るモチロンだが、バランスを崩して倒れた。
『あいたたたたた!』
『へっ!』
ゼロが下唇らしき部分を親指で拭った。
『このぉっ! 食らえ! 『うすぐるま』ぁぁっ!!』
『おわっ! そんなのアリかよっ!?』
モチロンが手足を引っ込めて転がるとビルなどを破壊しながらゼロに向かっていく。
『「ゼロ! 『ストロングコロナ』だっ!」』
『応!』
霧夜先生が『ウルトラマンゼロ ストロングコロナカプセル』を取り出して起動させる。
ーーーーセェヤッ!!
装填ナックルに入れて、ウルトラゼロアイNEOと合体させたジードライザーで読み込む。
[ウルトラマンゼロ ストロングコロナゼロ!]
『「ブラックホールが吹き荒れるぜ!」』
ジードライザーを眼前に持ってスイッチを押すと、炎が吹き出し、全身を包んだ。
そして炎の中から、身体が赤と銀に染まり、金のラインが走った姿、『ウルトラマンゼロ ストロングコロナゼロ』へとタイプチェンジした。
負傷した身体でタイプチェンジは出来なかったが、『リトルスター』として回収した『ストロングコロナカプセル』を読み込む事で、その内包されたエネルギーを使い、タイプチェンジが可能になったのだ。
『はっ!』
ストロングコロナゼロは、両拳を叩き合わせると、エレキギターのような音が響き、転がってくるモチロンを両手で止め、持ち上げた。
『はい?』
『これでぇ! 終わりだぁっ!』
『ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!!』
『待った無し! 『ウルトラハリケーン』!!』
『のわぁああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』
その場で回転し、竜巻を発生させながらモチロンを天高く投げ飛ばし、
ーーーードシィィィィィィィィィィィィィンンッ!!
モチロンはそのまま重力に従って、地面に盛大に落下した。
『はらほろひれはれ~~・・・・』
引っ込めていた手足を戻しながら、目を渦巻きにして奇妙な声を発するモチロン。
『「ここまでやれば良いだろう」』
『あぁ。さ、もう気が済んだろ? 大人しく帰ーーーー『悔しいぃぃぃぃぃぃっ!!』あ?』
悔しがるモチロンは、手足を投げ出して大の字に寝そべる。
『さあ殺せ! 一思いに殺してみろおっ! だがオラを殺せば月の影が無くなって、もう月見も出来なくなるからなっ!!』
『・・・・・・・・』
『「・・・・・・・・」』
相変わらず往生際が悪いモチロンに、ストロングコロナゼロも霧夜先生も呆れ、半蔵学院の屋上にいる理巧を一瞥した。
ー理巧sideー
「理巧さん。予想通りの展開になりましたわ」
「良し。それじゃ次の段階だ。あーちゃん、交代ね」
「は~い!」
理巧が相の手役を飛鳥に交代して貰うと、ジードライザーを取り出す。
「それじゃ正月早々、ジーッとしてても、ドーにもならない!!」
[フュージョンライズ!]
「守るぜ! 希望!! ジィィィィィィィド!!」
[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父! ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]
理巧は月をバックに、『ウルトラマンジード マグニフィセント』に変身した。
『ん? げぇぇぇぇっ!? ア、アナタはっ!?』
側頭部に生えた大きなウルトラホーンを見て、モチロンが顔を青ざめたようになる。
『「モチロンよ。いい加減にしなさい」』
『や、やっぱり! ウルトラの父!?』
『(いや、違うんだけどな・・・・)』
ストロングコロナゼロが内心呆れる。モチロンはウルトラの父に頭が上がらないと言う情報から、理巧がウルトラの父と容貌が似ているマグニフィセントになって、モチロンを説得する作戦なのだ。
『「モチロンよ。地球の人々に迷惑をかけてはいけない。お餅を返し、月に帰るのだ」』
何やら理巧もノリノリでウルトラの父のような態度になる。
『で、でも! オラ漸く新潟のお餅を腹一杯に食いたいんだ・・・・』
『「しかし、お前と同じようにお餅を楽しみしている子達はいっぱいいるのだ。自分一人が満足する為に、他の人達の食べる分のお餅を食べてはいけない」』
『うぅ~・・・・!』
モチロンが名残惜しそうに頭を抑えると、頭の大木が光り、ソコから小さな光の粒が降り注がれる。
良く見るとソレはーーーーお餅だった。
『・・・・霧夜』
『「あぁ。AIBに連絡して、全て回収させよう」』
と、ストロングコロナゼロと霧夜先生が話し合っていると、ジードは半蔵学院の屋上にいるペガ達に目を向けると、ソコにはモチロンの手の平に収まる位に大きなお餅が置かれており、ジードがその餅を手に取り、モチロンへと近づく。
『「良く考えを改めたなモチロン」』
『うぅ~、すみません・・・・』
『「これは、自らの過ちを改め、ちゃんと謝罪したご褒美だ。受け取りなさい」』
『えっ? あぁっ!! 新潟のお餅!!』
モチロンはジードからお餅を貰うと、先ずは匂いを楽しみ、そして満面の笑顔を浮かべてお餅を口に放り込んで咀嚼すると、
『うっ、うぅぅっ・・・・なんて旨いんだぁっ・・・・! うぉおおおおおおおおおおおんん! オラが間違っていたんだぁあああああああああああああああああああ!!』
『「うんうん」』
大粒の、いや最早滝のような涙を流しながら、モチロンは自分の非を認めると、ジードもうんうんと頷いた。
『・・・・・・・・・・・・いや、これで良いのかよ?』
『「まぁ、無駄に殺生をしないで済んだんだから、良いんじゃないか?」』
ツッコミ処満載で、何処から突っ込めば良いのか分からないゼロと霧夜先生は、呆れるしかなかった。
そして、半蔵学院の屋上にいるペガはモチロンもの和解に涙を流し、飛鳥達と焔達は、完全に日本昔話の世界にいるような奇妙な感覚に苦笑いを浮かべるしか無かった。
モチロンは飛行船にぶら下がり、月に帰る準備をした。
『「では、モチロンよ。気をつけて月に帰りなさい」』
『はい・・・・。あっでもオラの飛行船だと、大気圏落下は兎も角、大気圏脱出は無理なんですが・・・・』
『「成る程。しかし、安心しなさい。ゼロ」』
『あん?』
ジードがストロングコロナゼロの耳にコショコショと話すと、ストロングコロナゼロは頷き、ジードと共にモチロンの背後に回り、そしてーーーー。
『「『メガボンバーパンチ』! 威力弱めっ!!」』
『『ガルネイトバスター』! 手加減バージョンっ!!』
ーーーードゴォォォォォォォォォォォンン!!
『ドエェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!』
緑色の光を纏った拳と炎を纏った拳で、モチロンの背後を殴った。
『うわぁぁぁぁぁぁっ!! これなら大気圏も余裕で脱出できるだーーーー! ありがとうウルトラマン!! 地球の皆さん、良いお年をーーーーーーーーっ!!』
そう叫びながら、モチロンは月へと真っ直ぐに吹っ飛んでいき、月にに向かってその姿がキランッと消えると、月に満面の笑顔でサムズアップしているモチロンの姿が見えたのは、恐らく気のせいではない。
『「一件落着だね」』
『だな』
『「うむ」』
『うんうん』
『いやそう言うのアリっ!?』
ジードとゼロに霧夜先生とペガが頷くが、飛鳥達と焔達が思わずツッコミを入れた。
『「さて皆、ここから忙しくなるよ」』
『あ、はいはい!』
飛鳥達と焔達が、作っておいたお汁粉とお雑煮の入った寸胴鍋を見て頷いた。
◇
そして理巧達は、AIBに協力してお餅を回収し終えた雪泉達月閃チームと雅緋達新生蛇女チームと合流し、貧民街でお汁粉とお雑煮を配膳していた。因みに中身のお餅は、余ったお餅と回収したお餅を少し使わせてもらっている。
貧民街の大人や子供や老人達が、美味しそうに暖かそうに食べており、皆笑顔になっていた。さらに、斑鳩と叢の実家から古物だがコートやら暖かい飲み物を配られていた。
『見て理巧! 皆凄く喜んでいるよ!』
「うん。そうだね」
皆から少し離れた場所で様子を眺めている理巧と、足元のダークゾーンからペガが現れる。
『理巧、今日はありがとう。おかげで餅つきができたよ』
「・・・・お礼は、むしろ僕が言いたいよ」
『え?』
「ペガがいてくれたから、僕は友達を得たんだ」
中学での凄惨な虐めの数々、鷹丸達にも相談できず、一人心を磨耗していく日々の中、ペガと出会い、ペガと友達になり、心が癒されていった。ペガのおかげで、虐めをしていた奴らを学校から追い出せた。全てペガが、理巧の友達になってくれたおかげだ。
「ありがとうペガ。僕の、『友達』になってくれて」
『ペガも、お礼が言いたい。理巧がペガを見つけてくれたから、ペガは一人ぼっちにならなかったんだよ』
子供一人宇宙の旅に出て、宇宙船は地球に着いた時に壊れ、助けも呼べず、孤独感に押し潰されそうだったペガを見つけてくれたのが、理巧だった。そして理巧と出会えたから、地球でこんなに友達ができた。
「そっか。・・・・『友達』になってくれて、ありがとうペガ」
『『友達』になってくれて、ありがとう理巧』
お互いを見ながら、二人は笑みを浮かべた。
「りっく~ん! ペガく~ん!」
「お前ら何二人だけサボってんだ!」
「早く来て下さい二人共!」
「お前達の分も取っておいているぞ!」
『理巧(くん/さん/様)!! ペガ(くん/さん)!!』
飛鳥と焔、雪泉と雅緋、そして仲間達が自分達を呼んでいる。その事が、二人の笑みをより大きくさせる。
「行こうペガ」
『うん! 理巧!!』
ダークゾーンから出たペガの手を取って、理巧は走り出す。ーーーー愛すべき皆の元へと。
理巧とペガを迎え入れ、笑い合う皆の姿を、月は強く、優しい光で夜を照らしていた。
『皆、これからも仲良くね』
と、笑顔のモチロンの顔が、月に浮かんでいたーーーー。
本編のストーリーの構築がうまくいかず、番外編を書いてしまいました。
なるべく本編を投稿できるように頑張ります!