それは意外過ぎる展開だった。
忍び名『柳生』。一年生ながら、忍び段位は先輩である飛鳥よりも高く、技の多彩さは半蔵学園・忍び科では最も優れ、クールな性格をした『天才』だった。
その柳生と相対するのは、一週間前に編入してきた唯一の男子、暁月理巧。忍びの授業はまったくと言っていいほどやる気が無く。常に求人誌を読んでおり、不真面目と言っていいほどの男子である。
その二人が格闘の模擬稽古を始めたのだ。当然、それを見ていた飛鳥と雲雀と斑鳩と葛城は理巧が柳生にボコボコに叩きのめされる姿を想像していたのだが・・・・。
「くっ・・・・! うぅっ・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
目の前で倒れているのは柳生、そしてその柳生を見下ろすように平然と立っている理巧だった。
「え? え?? 何があったの?」
「柳生ちゃんが、倒れているの?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
飛鳥と雲雀は状況が良く理解できず、葛城と斑鳩も唖然となっていた。
「・・・・霧夜先生」
「なんだ?」
「終わりでいいですか?」
「ま、待てっ! まだだっ!」
理巧は倒れた柳生を一瞥してから、霧夜先生に模擬稽古を終えて良いのか聞くが、柳生が立ち上がり構えた。
「理巧。柳生がまだやる気のようだから、続けるぞ」
「・・・・はい」
理巧はめんどくさそうに頭を掻きながら、再び柳生を向かい合う。
「ハァッ!!」
シュンっ!
柳生が理巧に向かって飛びかかった。が、一瞬で理巧の目の前から消えた。
「っ」
理巧はチラリと目を向けると、柳生が自分の死角から拳を繰り出していた。がーーー。
「・・・・・・・・」
「くっ!?」
柳生の繰り出した拳を、理巧はソッとそらすと、がら空きはなった横腹部に掌底打ちを叩き込んだ。
「ぐあっ!!」
掌底打ちを叩き込まれた柳生は再び床に倒れた。
「柳生ちゃん!」
「またこれか・・・・」
「先ほどから柳生さんの攻撃は全ていなされ、わずかに空いた隙間に針を通すように掌底打ちを叩き込まれていますね」
「理巧君、凄い・・・・!」
飛鳥達は柳生の苦戦と、理巧の実力に驚いていた。
そして、理巧の戦闘を見ている霧夜とゼロも。
「(どうだゼロ? 理巧の実力は??)」
≪才能はある。としか言いようがねぇが、あれじゃダークロプスゼロには敵わないな≫
「(お前もそう思うか・・・・)」
≪あぁ。あの戦い方ならダークロプスゼロの攻撃を受け流し、反撃する事はできるが、ダークロプスゼロの固い装甲をブチ破る事はできない≫
霧夜とゼロは、理巧の戦い方では、多彩な技と格闘能力をもったダークロプスゼロと“渡り合う”事はできるが、あくまで“渡り合う”ところであり、ダークロプスゼロの防御力を粉砕し、破壊する事はできないと瞬時に理解した。
「・・・・・・・・・・・・」
理巧は考え込んでいるように自分の拳を見つめていた。
「(ペガ君、理巧君は何してるのかな?)」
飛鳥達に聞こえないように雲雀はコッソリと、理巧の影から自分の影に移動していたペガに話しかける。
『(多分だけど、ダークロプスゼロとの再戦に向けて、どうすればあのもの凄く強いダークロプスゼロと戦えるか、柳生って子との模擬稽古で考えているんじゃないのかな?)』
「(え? 理巧君、ウルトラマンに興味なかったんじゃないの?)」
『(ん~。理巧って、負けっぱなしで終わるつもりないからね)』
雲雀は再び理巧と柳生に目を戻すと、柳生がまた立ち上がり、理巧に向かうが、今度は理巧は攻撃を回避したり、いなすだけで反撃しようとしなかった。
「お前! 舐めているのかっ!? 反撃しろっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
柳生は、普段の彼女からは想像できないほど声を荒げて理巧に怒鳴る。
暁月理巧は、柳生にとってどうでもいい存在だった。興味も持たないそこらのモブの1人のような認識だった。しかし、彼は編入初日で雲雀となにやら仲睦まじい雰囲気だった。柳生は理巧と一緒にいる時、時折見せる雲雀の顔が気になっていた。
まるでそう、LIKEでは無くLOVEの感情の異性と一緒にいる乙女のような表情だった。
あんな乙女な表情をする雲雀を柳生はとても気に入らなかった。
雲雀から手合せを頼まれた時は、少し痛い目に合わせてやろうと軽い気持ちでやればこの体たらく。
理巧はほとんど攻撃せず、柳生が攻撃を受け流してのカウンター戦法ばかりで来ていた。完全に舐められていると柳生は感じていた。
「(技の多彩さ、スピードに動き、ダークロプスゼロに近いものがあるけど、これじゃヤツを倒す事はできないな)」
理巧は柳生からの攻撃を受け流しながら、頭の中では柳生をダークロプスゼロに置き換えて、ヤツとの戦闘シミュレーションをしていたが。カウンター戦法は柳生が生身の人間だから効果的で、鋼鉄の身体をした堅牢な防御力のダークロプスゼロにこの戦法は通じないと思考していた。
「(これ以上戦っても意味無いな。さっさと終わらせよう) っ!」
「っ!!?」
理巧がキッ! と目を鋭くした瞬間、柳生は言い様のない迫力を感じて、思わず後ずさろうとしたが。
「・・・・」
「なっ!?」
「速いっっ!!?」
後ずさった柳生に、理巧が一瞬で肉薄した。あまりの速さに、柳生どころか、スピードは半蔵学院で最速とも言われている斑鳩ですら、追えないほどのスピードに、柳生だけでなく、斑鳩も驚愕した。
「くぅっ!」
「っ!」
理巧は柳生の両足、両肩、両腕に掌底打ちを打ち込み、最後に腹部に両手による掌底打ちを叩き込んだ。
「ぐあっ!!」
衝撃で吹き飛んだ柳生は床に倒れる。
「フゥ~~・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
「(ハルカ達め、アイツを過保護に育ててたのに、随分鍛えたようだな・・・・)」
≪スバルはともかく、ハルカとナリカもアイツを鍛えたのか?≫
「(ああ。10年前、世に災いをもたらした妖異集団をたった3人で全滅させた、『伝説のくノ一の三忍』とも呼ばれた3人。その3人が親身になって鍛え上げたのがあの、暁月理巧だ)」
≪霧夜、お前はアイツの事を知っているんだよな? どんなヤツなんだ?≫
「(そうだな。用心深く、他人を簡単には信じず、いつくか手札を備えて、それを簡単に見せず、切り札から奥の手まで隠すタイプだな。およそ忍びに向いている気質を備えたヤツだよ。正直飛鳥と雲雀は、簡単に他人を信じてしまうのが難点だがな・・・・)」
だが、そんな雲雀だから、他人嫌いの理巧が警戒を解いたとも言えるがな、と、霧夜先生は雲雀を見ながらそう思った。
「あっ、柳生ちゃん!」
雲雀がそう言って、霧夜先生とゼロも再び柳生に視線を戻すと、ヨロヨロと立ち上がる柳生の姿をとらえた。
「ハァハァハァハァハァ・・・・!」
「もうやめなよ。軽くだけど両手足に掌底を叩き込んだ。しばらくは動けないよ」
「ま、まだだ!!」
忠告する理巧の言葉を聞かず、柳生は構えた。
「・・・・・・・・」
「お、お前が俺より、強い事は、十分に分かった。だ、だが、簡単に、負けるわけには、いかないっ!」
「・・・・・・・・」
「柳生ちゃん・・・・」
理巧と雲雀も、立ち上がる柳生を見つめる。
「柳生ちゃん、どうして・・・・?」
「もう勝負は着いているでしょうに・・・・」
「そんなに暁月に雲雀を取られたのが妬ましいのかねぇ?」
飛鳥も斑鳩も葛城も、もう勝敗は火を見るよりも明らかな状況なのに、立ち上がる柳生に止めようと動こうとするが・・・・。
「イヤ、柳生はそんな理由で理巧に挑んでないな」
「どういう事ですか霧夜先生?」
霧夜先生の言葉に、雲雀達は首を傾げる。霧夜先生は柳生を指差す。
「見ろ柳生のあの顔を」
指差す方を見ると、息も絶え絶え状態の柳生。葛城は息が弾んでいる柳生の身体が揺れて、柳生の85のEカップがユサユサと揺れるのを見て、顔をにやつかせていた。
「ハァハァハァハァハァハァ・・・・!」
「柳生ちゃん・・・・笑ってる?」
そう、雲雀が指摘した通り、柳生のその口元には笑みが浮かんでいた。今まで『天才』と呼ばれ、勝ってきた柳生にとって、自分が敵わないな相手が目の前にいることが、純粋に嬉しかったからだ。しかしーーー。
「(妙な気分だ、コイツ本当に強い・・・・! だが、コイツは俺を、見ていない・・・・!)」
柳生は理巧の実力認めた。
おそらく自分が全力でぶつかっても理巧には勝てない。だが、目の前の理巧は柳生を見ていない。理巧は柳生を通して、ダークロプスゼロとの再戦を見ている。それを柳生は、拳を合わせることで直感していた。もちろん柳生は理巧がウルトラマンジードである事も、ダークロプスゼロの事も知らない。
だが柳生は、理巧が“目の前の柳生を見ていない”。
「お、俺を見ろ! 暁月理巧っ!!」
「・・・・??」
「い、今お前の目の前にいるのは、俺だ! お前が誰を見ているのか知らないが、今は、俺を見ろっ!!」
「・・・・・・・・・・・・!」
柳生に怒鳴られ、理巧は少し考えるように俯かせると、無言になって、一瞬で柳生に肉薄し、始めて攻勢に出て拳を振るった。
「しっ!」
「くぅっ!」
『柳生(ちゃん)っ!!』
「≪っ!≫」
理巧の拳が柳生の腹部を捉え、拳が柳生に腹部に当たる。
しかしその瞬間ーーー。
「っっ!!」
「(っ! あれはっ!!)」
なんと!柳生の胸元からちいさな光が輝くと、柳生が思わず出した手から、亀甲形の障壁が展開され、理巧の拳を防いだ。
ガンっ!!
「ぐうぅぅっ!!」
理巧は柳生から距離を空けると、拳を開いて痛みを払うかのようにヒラヒラと動かした。
「(今彼女の胸元が光った。まさか彼女も・・・・!)」
「(またこの力か・・・・!)」
前回、ダークロプスゼロが暴れた際、崩れたビルの大きな瓦礫が落ちたとき、不覚にも逃げ遅れた柳生に突如この能力が現れて、瓦礫を防いだ。
柳生自身、この能力の事を分かっていない。偶発的だが、また発動した能力で、目の前の理巧を負かすつもりだ。
「さて、どうしたものか・・・・」
理巧は熟考しながら、柳生の障壁をブチ破る手段を考え、ふとスバルとの修行を思い出していた。
【良いか理巧。自分の攻撃力や武器の破壊力を上回る防御力を持った相手が現れた時、お前はどうする?】
【・・・・・・・・動きで翻弄する?】
【まあ確かにそれも手段の1つだが、攻略にはならないな】
【ではどうすれば?】
【相手の防御力を打ち砕くまで攻撃する】
【それってただ闇雲に攻撃するって事では?】
【いや、腰や身体の捻りや足の踏ん張りなどで攻撃力を高めるといった方法は幾らでもある。だが、何よりも攻勢に出るにあたって必要なのは・・・・】
【・・・・必要なのは?】
【相手に恐れず、己を力を信じる、『勇気』だ】
理巧はそこで思考の海から戻り、拳を握り、静かに歩を進める。
「・・・・・・・・僕の本気、見せるよ?」
理巧は拳を強く握り絞め、柳生の障壁に向かって歩く。
「・・・・・・・・あぁ、望むところだ」
障壁を張った柳生は、理巧の攻撃を防ごうと、障壁を張る手に力を込める。
『・・・・・・・・・・・・』
飛鳥達も、柳生が突如張った障壁に驚いたが、すぐに二人の戦闘を黙って見守っていた。
『「・・・・・・・・・・・・」』
雲雀とペガも、柳生が『リトルスターの宿主』と分かって驚愕していたが、飛鳥達同様に、二人を見守っていた。
それは、霧夜先生とゼロもそうだった。
「・・・・フゥ~」
理巧が柳生の障壁を見据えると、呼吸を整え、中腰になり、拳に力を込めるように構える。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
沈黙が稽古場を包み込む。そしてふと、誰かの喉を鳴らす音が響いた。
ゴクッ・・・・。
「っっ!」
理巧は柳生の障壁に向けて、拳を放った。
ガンっ!! ギギギギギギギギギギギギ・・・・!!
「うぉあっ!!!」
ビキッ! ビキビキビキビキビキビキビキビキっ!!
拳を叩きつけた理巧は腰、腕、身体全体に捻りを付けて力を込めると障壁に皹が走りーーー。
バカーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!
「っ!」
理巧の拳が柳生の障壁をブチ破り、柳生の胸元に勢いが無くなった理巧の拳が当たった。
「・・・・・・・・フッ。僕の勝ち、だね?」
「・・・・・・・・ハハッ。俺の、負け、か・・・・」
体力の限界が来たのか、力無く仰向けに倒れる柳生。
「おっと」
が、寸前で理巧が柳生を抱き抱えた。
「・・・・結構楽しめたよ。えっと、柳生、さん」
「・・・・あぁ、俺も楽しめぞ。暁月」
柳生は満足そうな笑みを浮かべて、瞼を閉じて、眠った。
◇
「はっ!」
柳生が目を覚ますと、保健室のベッドで横になっていた。
「ん? 起きた?」
ベッドの傍らでは、拳に包帯を巻いた理巧がパイプ椅子に座っていた。
「お前か・・・・」
「ちょっと聞きたい事があってさ」
「聞きたい事?」
「何で柳生さんは、俺に敵意を向けてきたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
理巧の質問に、柳生はバツが悪そうにするが、小さく口を開いた。
「俺は、暁月、お前に嫉妬していたんだ・・・・」
それから柳生は淡々と話した。
交通事故で亡くなったたった1人の妹、『望』とよく似ている雲雀の事を気にかけていた。
しかし、暁月と一緒にいる時の雲雀がとても幸せそうな笑顔を浮かべていたから、理巧に敵意を向けていた事を。
「そうか。それで僕に敵意を・・・・なんか分かるなその気持ち」
「??」
「僕ね。実は8歳まで孤児だったんだ」
「何?」
「暁月理巧って名前は、今僕を育ててくれている人達が名付けてくれたんだ。僕はそれまで、マトモに言葉も喋れなかったし、学もなくてね、ただ戦闘技能だけしかない感情もまったく無い、つまらないお人形のような子供だったさ」
「・・・・・・・・」
「でもそんな僕をその人達は、人間にしてくれた、家族だって言ってくれた、だから僕はあの人達が大切だし、あの人達に迷惑をかけたくないって思っているんだ」
「・・・・・・・・」
柳生は理巧の話を黙って聞いていた。
「僕はあの人達が大切で大好きだ。だから、雲雀ちゃんと仲良くしている僕に敵意を向ける柳生さんの気持ち、少しは分かるつもりだよ」
「(ドキッ!)///////」
不意に見せた理巧の憂いを帯びた笑みに、柳生は、ドキッ!っと、胸の鼓動がときめいた。
「(な、なんだこの鼓動は!?)//////」
ドキドキと理巧を見ると早鐘のように弾む鼓動に、柳生は理巧に顔を背ける。
「ん? どうしたの柳生さん?」
「う、うるさいっ! こっちを見るなっ!/////」
柳生は赤くなった顔を隠すように、両手で枕を持って理巧を叩いた。
「なんなの一体?」
柳生の行動に理巧は呆れながらも、柳生の枕攻撃から回避し、雲雀がやって来るまで、柳生は暴れていた。
ー???sideー
『ダークロプスゼロの怪獣カプセル』を持った黒服の男は、ビルの屋上から、離れた場所にある半蔵学院を見据えていた。
「さて、次の実験と行きますか」
『ダークロプスゼロ』
『ダークロプスゼロ』
『ダークロプスゼロ』
『ダークロプスゼロ』
『ダークロプスゼロ』
男は、装填ナックルに『ダークロプスゼロカプセル』を次々と入れて、ジードライザーで読み込み、起動させた。
次回、新たなジードの姿が現れる!