罰だぜ、斑鳩さん
ー理巧sideー
理巧はボウガンから放たれた矢を素手で掴み、指先でクルクルと回しながら、その矢を放ったボウガンを右手首に装備し、前髪に隠れた目を冷徹な細めて、こちらを睨みながら笑みを浮かべる少女を静かに見据える。
少女は、斑鳩を見据えながら唇を開く。
「わたくし腹が立っておりますの。お金持ち御用達の高級な野菜が値上がりする分には、なんの不平も御座いませんのよ」
「はぁ?」
少女の言葉に、飛鳥は緊張感無く首を傾げるが、少女は構わず続ける。
「でも、低価格で庶民の味方のモヤシまで値上がりするなんて、どういう事ですの?」
「モヤシぃ? あの、そんなに物を向けられてそんな事を聞かれても・・・・」
「っ!」
緊張感が無い飛鳥と違い、斑鳩は視線を鋭くすると、理巧の指先で回っていた矢を掴み、少女に向けて投げ飛ばすと、少女の髪を掠り、少女の後ろのモヤシの札に刺さった。
「貴女<斑鳩>に、尋ねているのですわ」
「っ・・・・行きますよ。二人とも」
斑鳩は飛鳥と理巧の手を取り、その場を離れようとする。
「ちょっ・・・・斑鳩さん・・・・!」
「外部の者との接触は禁止です」
「でもあの人たぶん・・・・!」
「逃がしてくれそうにないですよ」
理巧が呟くと同時に、少女は前髪の影を濃くする。
「そうですの・・・・あくまでもわたくしを無視なさろうと言う気ですのね」
少女は、フッと肩を竦めると、バッと手を上に伸ばした。
「『忍結界』!!」
少女がそう叫ぶと、周囲の風景が黒くなり、緑色の細い草が舞う。
「「っっ!!」」
「・・・・・・・・これが、『忍結界』か・・・・」
「じゃぁやっぱり!!」
理巧は初めて見る『忍結界』を見渡し、飛鳥と斑鳩は少女の方に向き直る。
「貴女の目的は?」
斑鳩が質問すると、少女は相も変わらず冷徹に微笑んで口を開く。
「あえて言うなら、貴女<斑鳩>が財閥のお嬢様だからですわ。そして、もう1人の殿方には、わたくしと一緒に来ていただきたいのですわ」
チラッと理巧の方に目を向ける少女。
「理巧くんと斑鳩さんが目的!?」
「どういう事でしょう?」
「先ずはそちらの殿方の方は、わたくしの依頼主が捕獲せよと命じられたからですわ。そして貴女の方は、お父様やお母様の愛情を、いっぱい頂いて育ったのでしょうね。・・・・ぬくぬくと、ぬくぬくと、何不自由無く暖かく・・・・!」
フフフフフフ、と薄く笑みを浮かべて近づく少女に、斑鳩は理巧と飛鳥の前に立つ。
「斑鳩さん!」
「飛鳥さんと暁月さんは下がってください」
「でも・・・・!」
「この方の狙いは、わたくしと暁月さんです。飛鳥さんは暁月さんを守っていてください。この方の相手はわたくしが!」
斑鳩がそう言うと、少女の右手首に装備されたボウガンが光り、大剣の姿に変わると、柄が少女の右手に収まった。
「フッ!」
「『忍転身』!!」
少女が大剣を構えると、斑鳩も『忍転身』して、刀を召喚した。
「降りかかる火の粉は、払わねばなりません! 舞い忍びますっ!!」
斑鳩が刀を鞘から抜くと構えて、少女と睨み合った。
「・・・・『ラベンダーの爛漫』!」
少女が大剣を振り抜くと、ラベンダーの色の斬撃が、斑鳩に襲いくる!
「ふっ!!」
斑鳩が防御するが、衝撃波で『忍装束』が少しずつ破れ身を屈める。
「っ!」
「ふんっ!」
見上げた斑鳩の上に、少女が大剣を振り下ろすが、斑鳩はそれを刀で受け止めた。
「斑鳩さん!」
「・・・・・・・・」
飛鳥が斑鳩の名を叫び、理巧は静かに少女の動きを見極めようとする。
少女は斑鳩から離れると、空中に立つように佇み、斑鳩も目を鋭くする。
「なんと言う力・・・・!」
「そんなお上品な攻撃でわたくしに傷を付ける事は出来ませんわ! 『ローズの戦慄』!!」
少女は桃色のオーラを纏いながら、大剣を突き立てるように構えて、斑鳩に突っ込む!
「っ!」
が、斑鳩は大剣を受け流し、少女の上空に飛んで、刀を振り下ろすと、一瞬斑鳩の胸元に小さな光が現れ、刀から斬撃が飛び出した。
「お覚悟!!」
「っ!・・・・『秘伝忍法 ニヴルヘルム』!!」
が、なんと少女は斬撃を回避すると、大剣を大砲へと変化させて右手に装備すると、斑鳩に向かって発射した!
ドゴォオオオオオオオオンンッ!!
「キャァアアアアアアアアアアッ!!」
爆炎に呑まれた斑鳩の『忍装束』が燃え尽き、黒い下着を着用した肢体を晒して倒れた。
『転身』する忍の願望と性格、理想が具現化される『忍装束』は、物理的・精神的な大ダメージによって、崩壊または解除されてしまう。
「斑鳩さん!」
「・・・・・・・・」
「『秘伝忍法』を使う、余裕すら・・・・」
飛鳥と理巧が斑鳩に近づくと、理巧は着ていたYシャツを脱いで斑鳩に被せると、目を反らして少女の方を睨んだ。
「とりあえず羽織っておいて下さい」
「あ、暁月さん・・・・」
理巧を見上げる斑鳩は、今までやる気も覇気もない目をしていた理巧とは明らかに違う、まるでその瞳と同じように内なる熱が燃え上がっているような強い眼差しに目を奪われた。
「『善忍』とは、この程度の力ですの?」
「っ!」
襲撃してきた少女の声で、ハッとなった斑鳩は少女を睨む。
「そう呼ぶからには、やはり『悪忍』の手の者ですね。答えなさい! わたくし達を狙う目的は!?」
毅然と聞く斑鳩に、一瞬少女の目に不快な色がよぎった。
「その上からの物言い、ますます気に入りませんわ・・・・! ま、今日のところはご挨拶。精々お高い物でも食べて、束の間の休息をお楽しみ下さいませ」
背を向けて立ち去ろうとする少女に、理巧が唇を開く。
「1つ聞かせてください。貴女の依頼主は、どうして僕を捕獲せよと命じたのですか?」
「・・・・・・・・」
立ち止まった少女は理巧に目線を向けて一瞥する。
「わたくしも詳しくは聞かされておりませんの。ですが、忍は任務を全うするのみ。貴方にはご迷惑でしょうけど、悪く思わないで下さいましね」
「・・・・・・・・」
そう言って少女は結界の向こうへと消えようとした瞬間、理巧は少女の背中を鋭く見つめ、少女の姿は消えた。
それと同時に『忍結界』も解除され、周りの風景も、元通りの商店街に戻った。
斑鳩が『忍転身』を解除すると、元の制服姿に戻る。しかし、その身体には少女との戦闘での傷跡が残って、ヨロヨロと立ち上がる。
「斑鳩さん! 大丈夫ですか?!」
「・・・・大したことはありません。しかし、あの忍の目的が、暁月さんなのは一体?」
「・・・・・・・・」
理巧は少女が消えた方角を見据える。
「ただ、見ているしか、できなかった・・・・!」
そして飛鳥は、斑鳩の危機に、『初恋の人』が狙われているのに、何もできなかった自分の不甲斐なさを呟いた。
◇
買い物を終えた三人は、帰路に付いていた。
「半蔵様の歓迎会と言う事で奮発しましたけど、予算範囲内で収まって、良かったですね」
「そうですね・・・・」
「フフッ、後は腕に寄りをかけるだけですわ!」
意気込んでいる斑鳩に、飛鳥がおそるおそる訪ねる。
「あの、さっきの人、斑鳩さん家が『お金持ち』だって事、どうして知ってたんでしょう?」
「・・・・・・・忍ならその気になればすぐに調べられる事です」
「相手が敵対する『善忍』なら、身元や身辺調査は基本的ですしね」
飛鳥がそう言うと、斑鳩の顔つきに陰りが生まれ、理巧はチラッと一瞥すると後に続く。
「そっか、特に斑鳩さんの家は『超有名な財閥』だもんね」
飛鳥は気づかないが、斑鳩の顔に何処と無く悲痛な顔色が浮かんだ。
「・・・・とりあえずお腹が空きましたね。早く行きましょう」
「あっ、理巧くん?!」
理巧は飛鳥の手を取って、斑鳩の先を歩き出した。
「(暁月さん・・・・?)」
一瞬、斑鳩は理巧が自分を気遣ってくれて、飛鳥の手を引いたのかと考えが過ったが、まさかですよね、と思ってかぶりを振った。
「理巧くん。そう言えばなんでそんなにモヤシを買ったの?」
「別に、あの女の子の話を聞いて、モヤシが食べたくなっただけ・・・・」
飛鳥は理巧が“自分のお金で買った大量のモヤシ”を見て、そう聞くと、理巧は何でも無さげにそう返した。
ー霧夜先生sideー
「申し訳有りませんでした!」
「ん?」
≪なんだぁ?≫
半蔵学院・忍教室に戻った斑鳩は、葛城に手当てをし(不思議な事に、葛城が触れた箇所の傷が綺麗に無くなっていた)、霧夜先生の元に赴くと、霧夜先生に平身低頭をし、霧夜先生とゼロは訝しそうな声を上げた。
「言いつけを破り、外部の者と接触を・・・・! “罰”は何なりとっ!」
「仕掛けてきたのは向こうだ。気にするな」
「イエ。禁を犯す事は忍にとって最も恥ずべき行為です!」
「相変わらず固い奴だな・・・・」
≪真面目って言うんだな?≫
襲撃されたのだから仕方ないと、霧夜先生は言うが、斑鳩は納得しなかった。
「霧夜先生! 先生がそんなに緩くて規律が守れますかっ!?」
斑鳩がズズイっと、霧夜先生に詰め寄る。
「さあ先生! このわたくしに何なりと“罰”を!!」
「うぅ~~ん・・・・」
≪真面目の上にクソが付くなこりゃ・・・・≫
霧夜先生とゼロがどうしたものかと悩んでいるとーーーー。
「話は聞いたぞ」
斑鳩の後ろから、半蔵が屋根から舞い降りるように登場した。
「「半蔵様っ!」」
≪爺さん≫
「霧夜よ。斑鳩の言うことは最もじゃその忍としての使命感や良し!」
「っ!」
斑鳩は今度は半蔵に向かって平身低頭した。
「半蔵様。しかし・・・・」
「ならば、儂が斑鳩に“罰”を与えてしんぜよう!」
「半蔵様、御自ら!?」
「“罰”を? それで、一体どんな?」
「ウム。それはな斑鳩よ。お主はこれから・・・・『暁月理巧くんと仲良くなる』のじゃっ!」
「えええぇっ!!?」
半蔵が斑鳩に宣告した罰は、『暁月理巧と仲良くなる事』だった。
「は、半蔵様! な、なぜ暁月さんと仲良くならねばならないのでしょう?」
斑鳩は戸惑いがちに訊くが、半蔵は静かに口を開く。
「今日見た限りでは、雲雀と柳生は暁月理巧くんとの関係は良好のようじゃ」
「(良好と言うより、あのお二人は恋慕の感情を向けておりますが・・・・)」
半蔵の言葉を聞くと、斑鳩の脳内人間相関図では、雲雀と柳生は理巧に対してハートマーク付きの矢印を向けていた。
「飛鳥も少しずつじゃが、暁月理巧くんとの距離を縮めておる」
「(まぁ、飛鳥さんは元々暁月さんに恋心を抱いておりますし)」
この間の忍務で二人の距離が少し縮まった事は、斑鳩どころか全員が周知だった。
「葛城も暁月理巧くんと良好になっておる」
「(良好と言うよりも、セクハラの加害者と被害者の関係ですが・・・・)」
セクハラの加害者が葛城(女)、被害者が理巧(男)であるが。
「しかし斑鳩。お主だけが暁月理巧くんと、距離を置いておる。これから共に学ぶ学友に対して、それは善いことではない」
「っ・・・・それは、そうです、が・・・・」
まさか最近自分たちの近辺で起こっている、ウルトラマンジードと怪獣騒動に関係しているのではと、疑っている少年と仲良くしろと言われるとは思わなかった。
「これからお主は暁月理巧と少し歩み寄ってはどうじゃ?」
「・・・・・・・・分かりました。それが“罰”ならば、やって見せます!」
そう言って立ち上がり、斑鳩は部屋を出て行った。
「宜しいのですか半蔵様? あんな事を言って・・・・」
「よいよい。斑鳩のような堅物の乙女は、きっかけが無いと異性に歩み寄る事は出来んからな」
≪面倒な事になる気がするぜ・・・・≫
ほっほっほっ、と笑みを浮かべる半蔵に、霧夜先生とゼロはため息を吐いた。
ー斑鳩sideー
「んで? 暁月にどうやって近づいて仲良くなったら良いか分からないと?」
「はい・・・・」
威勢良く出た斑鳩だが、改めて考えると、同年代の異性とマトモに会話したことが皆無の自分が、どうやって理巧と仲良くなれば良いのか分からず、立ち往生していた。
そんな時、ちょうどバッタリ会った葛城に、それはもう藁にもすがる気持ちで忍教室に赴いて相談した。
「アタイだったら暁月のあの、キュッと引き締まり、それでいて形も美しく、見ているだけで垂涎止まらないお尻を、掴んだり揉んだりこねくったり頬擦りしたりするけどな~!」
「それは葛城さんだけしか出来ないコミュニケーションです。と言うよりも、その内本当にわいせつ罪で逮捕されますよ」
そう熱弁する葛城に、斑鳩は半眼になって言う。内心、相談相手を間違えたでしょうか? と、思ってしまった。
「まぁまぁ聞けって、どんなに無表情にCOOLぶっていようが、男なんて簡単でしょうもないモンだ。斑鳩、お前のその93のGカップバストと、ウエスト59、ヒップ90のグラマラスバディでちょっとお色気の忍術をお見舞いすれば、男なんてチョチョイのチョイと骨抜きにできるぜ」
葛城は自分の95Hカップバスト、ウエスト57、ヒップ90のグラマラスバディを惜しげなく魅せるようにポーズをとった。一瞬斑鳩は、自分よりもウエストが2センチも細い葛城を羨ましそうに見る。
「そう、なのでしょうか・・・・?」
が、斑鳩は他に名案が無いので、葛城の話に耳を傾ける。
「そうそう♪ と言うわけでなーーーー」
そう言って、葛城は何処からか“服”を持ち出した。
ー理巧sideー
「あ、暁月さん! お、お手伝いいたしますわ!/////」
「・・・・・・・・・・・・・・・・取り敢えず斑鳩さん。その格好は料理をするには不適切だと思うんで、着替えて来て下さい」
調理室で『もやし料理』を作っていた理巧は、水着にエプロンを着けた『水着エプロン姿』の斑鳩を見て、呆れ半分の目で冷たく言った。飛鳥と雲雀と柳生も、唖然とした顔で斑鳩を凝視する。
「クソっ! やっぱり『裸エプロン』じゃなければ反応しないかっ! 斑鳩! まだ間に合う! 今すぐ『裸エプロン』にーーーー」
「なりませんっ!!!!」
羞恥心から『水着エプロン』で妥協した斑鳩に、『裸エプロン』で攻めようと考えた葛城そう言うが、斑鳩は怒鳴り声を上げた。