ー理巧sideー
半蔵学院で半蔵の歓迎会が開かれた。
理巧はモヤシ炒め、モヤシ和え、モヤシのサラダ、モヤシの味噌汁、と、モヤシ料理を大量に作り、それらを自分のお膳台に置いていった。
「理巧くん、そんなにモヤシが好きだったの?」
「モヤシより烏賊の方が美味いぞ」
「・・・・今日はちょっとモヤシ料理を食べたくなってね」
私服姿の雲雀と柳生がモヤシ料理を置く理巧に首を傾げながら口を開くと、理巧はそう言ってモヤシ料理を台に並べ終える。
「//////////」
「あの、斑鳩さん・・・・」
「何も言ってやるな飛鳥。斑鳩は今、敗北の恥辱に耐えているんだ・・・・! まさか斑鳩のグラマラスバディによる『水着エプロン』に鼻の下を伸ばさないとは、 暁月理巧。とんでもなく恐ろしいヤツだぜ・・・・!」
「誰の提案した企画のせいだと思っているのですか・・・・!/////////」
「♪~♪~♪~♪~♪~♪」
先ほどの『水着エプロン』を披露した羞恥心で、マトモに理巧の顔を見られず、顔を赤くして項垂れている私服姿の斑鳩に、私服姿の飛鳥がフォローしようとするが、同じく私服姿の葛城が斑鳩の艶姿に無反応の理巧(呆れの感情が圧倒的に上回ったから)に驚きを隠せなかった。
斑鳩が怨みがましい目で葛城を睨むが、葛城は明後日の方向を向いて口笛を吹いた。
「うむうむ、若い乙女の『水着エプロン姿』。中々素晴らしい者であった」
「もう、じっちゃん!」
ご満悦に笑みを浮かべる半蔵に、飛鳥が怒ったような声を上げると同時に、ボワァンッ!と、煙が舞い煙の中から霧夜先生が現れた。
「遅れてスマン」
≪だからよぉ、一々煙出すのはやめろよ。みんなむせてるだろうが・・・・≫
ゼロもすっかり呆れていた。
ー霧夜先生sideー
生徒達から少し離れ、隣り合わせでお猪口の酒を飲んでいる霧夜先生と半蔵。
「んで、何があった?」
「先ほど、斑鳩の実家から連絡がありまして・・・・」
「斑鳩の?」
斑鳩の実家、『鳳凰財団』からの連絡に、半蔵は訝しそうな声を上げた。
ー理巧sideー
食事を摂る斑鳩と葛城と飛鳥、向かい側に雲雀と理巧と柳生が座っている。
葛城が飛鳥と斑鳩に話しかけた。
「お前らを襲った『悪忍』って、どんなヤツだった?」
「え~と、ヒラヒラしてました・・・・」
「なんだそりゃ? 暁月、お前の感想は?」
「・・・・・・・・彼女」
「ん?」
黙々とモヤシ料理を頬張っていた理巧は、料理を飲み込むと、先ほど出会った『悪忍の少女』の眼差しを思い出す。
「彼女は、まるで澄んだ泉のような目をしてましたよ」
「だからなんだそりゃ?・・・・んじゃ、強かったのか?」
葛城は理巧の言葉に首を傾げ、実力を聞いた。
「私、まったく何もできなくて、斑鳩さんが居なかったら・・・・! 斑鳩さん、本当にスミマセンでした」
「・・・・いいえ、わたくしが暁月さんを守りなさいと言ったのですから」
斑鳩は苦々しそうに呟く。
「そうか! 斑鳩が蹴散らしたのか! クッソォォォォッ! アタイもその場に居たかったぜっ!!」
「マトモに相手をしなかっただけです。忍は無意味な戦いは避けねばなりませんから」
「ちぇ~! アタイだったら本気でやっつけてやるのにな!・・・・こんな風に!!」
「うわぁーーーー! 何してるのぉ!!」
「オラオラ!! アタイが暁月のお尻に惚れたからって、寂しい思いをさせたなぁ~!」
葛城は飛鳥に飛びかかって押し倒すと、飛鳥の90センチFカップを揉みしだいた。
「いつもあんな感じなの? 葛城さんって?」
「うん。だから理巧くんも気を付けてね。はいアーン」
「アム。うん美味しい」
「尻を揉まれるか、最悪掘られる可能性もあるからな。ほらアーン」
「(掘られる???)・・・・ンム、烏賊も美味しい」
葛城と飛鳥のじゃれ合いを尻目に、理巧達は仲睦まじく食事を楽しんでいたが。
「(違う・・・・本当は手も足も出なかった、このわたくしが・・・・)」
本音は自分の完敗だった。斑鳩は初めて味わう敗北に、顔を俯かせていた。
が、霧夜先生が話しかける。
「斑鳩」
「っ、はい」
「ちょっと良いか?」
「はぁ・・・・」
霧夜先生と斑鳩は、大部屋を出ようとする。
「どうしたの?」
「あぁ・・・・なんでもない」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
雲雀の問いに歯切れの悪い答えをした霧夜先生を、理巧と雲雀と柳生は訝しそうな視線を送る。
「ほぉほぉ!!」
「「「っ!?」」」
そんな三人に半蔵がズイッと、顔を寄せた。
「お主ら三人は仲がええのぉ!」
「そうなんです! ね! 理巧くん! 柳生ちゃん!」
「ま、悪くはないと思うね」
「オレはただ、雲雀が危なっかしいから守りたいだけだ」
「むぅ、柳生ちゃんはまた雲雀を子供扱いして!」
むくれる雲雀の頭を理巧がポンポンと優しく叩きながら撫でる。
「フムフム。仲良き事は美しきかな」
そう言って半蔵はさらに顔を寄せる。
「あれか? もう三人で一緒にお風呂に入ったりするのかのぉ?」
「なっ!?/////////」
「セクハラですよそれ」
「柳生ちゃんとはいつも一緒に入って、背中流しっこしまーす! 理巧くんも一緒に入って欲しいんですけど・・・・」
「雲雀ちゃん。流石にそれは色々とヤバイよ」
「///////////」
柳生は赤くなった顔を隠すように反らすと、脳裏に雲雀と理巧の裸体を想像して、鼻血がツーと流れた。
「なんじゃ。最近の若い男子がオナゴの裸体を拝みたいと思わんのか? アレかの? 今時は草食系男子と言うヤツなのか?? 儂の若い頃はそれはそれはモテモテでのぅ、毎日のようにうら若き乙女達がーーーー」
「だからセクハラになりますよ」
「もうじっちゃん! 三人に変な事を教えないで!!」
半蔵の後ろから飛鳥が顔を赤くして怒鳴った。
「違うぞ飛鳥! これはコミュニケーションと言うヤツじゃ!」
「流石半蔵様。分かっておられますなぁ!!」
「あぁああああああ!!////////」
飛鳥の後ろからまたもや葛城が飛鳥の豊満なバストを揉みしだいた。
「ホッホッホッホッホッホッ」
「(わざとふざけた態度を取って、おじさんと斑鳩さんから意識を反らさせたな。食えない爺さんだよ・・・・)」
半蔵がじゃれあう飛鳥と葛城から離れ、その後ろ姿を一瞥した理巧は、再びモヤシ料理を頬張る。
ー斑鳩sideー
「お兄様が、行方不明?」
大部屋の外の廊下で、霧夜先生から斑鳩が聞いた話は、兄・村雨が行方不明になった事を実家から霧夜先生に連絡がきて、それを霧夜先生が伝えたのだ。
「念のため心当たりはないかと、お前の実家から連絡が有ってな」
「心当たりと言われましても、兄とは話したことすら余りありませんでしたから・・・・」
「そうか・・・・」
「すみません」
「あっいや、念のために報告だけはしておこうと思っただけだ。“家族の事”だしな」
「“家族”・・・・そうですね・・・・」
そう言った斑鳩の顔に、曇りが浮かぶが、霧夜先生は斑鳩の実家に連絡する為に斑鳩と別れ、斑鳩も大部屋に戻ろうと襖に手をつけようとしたその時ーーーー。
「っ!」
“何かの視線”を感じ振り向くと、廊下の向こうの暗がりしかなかった。襖を開けて、葛城が『甘酒』と書かれた瓶を持って顔を出した。
「どうした斑鳩?」
「イエ、今背後に視線を・・・・」
「何っ!?」
途端に葛城の顔がキリッとなり、飛鳥と雲雀と柳生も廊下に出て暗がりの向こうを見る。
「・・・・誰も居ませんよ」
「・・・・どうやら、気のせいのようですね」
「大丈夫斑鳩さん?」
「問題ありません。さぁ、宴会の時間は後30分ですよ!」
「「はぁーーーーい!」」
手をパンパンと叩いて斑鳩がそう言うと、飛鳥と雲雀が元気良く挨拶し、三人は宴会場に戻ったが、斑鳩は廊下の向こうに目をやる。
「(悪忍と今の先生のお話で過敏に、わたくしとした事が・・・・)」
「・・・・・・・・・・・・」
ただ1人、その“視線の気配”をさっきから鬱陶しそうに察知していた少年がいたがーーーー。
ー理巧sideー
理巧は女子寮の雲雀の部屋で、雲雀と柳生とペガとゲームで遊んでいたが、そろそろ雲雀と柳生が風呂に入ろうとし、理巧とダークゾーンに入ったペガは男子寮に帰ろうと廊下を歩いていた(雲雀から一緒にお風呂に入ろうと誘われたが、丁重に断った)。
「・・・・・・・・・・・・」
理巧は廊下の先で、斑鳩と“先程の気配”が接触した事を察知し、その場所に行ってみるとーーーー。
「ーーーー俺達の『家族』のつもりか? 確かに俺にはコイツは使いこなせないさ。だけど、これは我が家に伝わる宝刀なんだ! 『血の繋がらない他人』が持ってちゃいけない物なんだよ! 『飛燕』は俺が、本当は俺が・・・・!!・・・・お前さえ! お前さえいなければ!!」
悔しさや憎しみを吐き出すように叫ぶ黒髪の男性。
男性の言葉の内容から、おそらく斑鳩は『養子』で、男性は『実子』であったにも関わらず、『宝刀』を継承出来なかった事への怨みであると、理巧は推察した。
それから男性は斑鳩の『宝刀』を自分の物だと言うが、斑鳩が一瞬で取り戻し、男性は鎖鎌を構えて取り戻そうとするが、斑鳩の速さにまるで付いていけず、斑鳩に簡単にあしらわれていた。
『(うわぁ~、斑鳩ってあんなに速いんだぁ! 全然見えないよ! 理巧は見える?)』
「(全然余裕)」
確かに斑鳩は速いが、『理巧の三人の師匠達』の方が速いので、理巧は余裕で目で追っていた。
「(あの斑鳩さんの、お兄さんか? あの人、口で言うほどの実力はないな。正直雲雀ちゃんにも劣っている)」
圧倒的に斑鳩の方が優勢。それでも男性は鎌で攻撃するが、斑鳩は余裕で回避し、部屋に置かれた信楽焼の狸の口から紐を引っ張ると、男性の足元の床が開き、男性はまっ逆さまに落ちていった。
「俺は絶対お前を認めないぞ!! 絶対にーーーーーーーー!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それから水に落ちる音が響き、斑鳩の瞳には、涙が流れていた。
『(あっ、理巧・・・・)』
理巧は斑鳩の部屋に入ると、斑鳩にハンカチを手渡した。
「っ! 暁月さん・・・・!?」
「宴会場から変な気配があったから、雲雀ちゃん達が心配で来ていたんですけど・・・・。すみません、覗き見するような事をしてしまって・・・・」
「そう、ですか・・・・」
「斑鳩さん。明日僕は少し寄るところがあるので、修行には少し遅れます。おじさーーーー霧夜先生には許可を得てますから」
「え、えぇ、わかりましたわ・・・・」
斑鳩は理巧のハンカチを手にとって、涙を拭うと、理巧は背を向けて去ろうとした。
「何も、聞かないのですか?」
斑鳩が、先程の兄とのやり取りを詮索しない理巧を見て呟く。理巧は背中を向けたまま、静かに呟いた。
「・・・・“分からないんです”・・・・」
「“分からない”?」
「例え、“血の繋がりがなくても”、『家族』には変わらないと思うのに、あんな風に『他人』って切って捨てる人の事が、僕には、“分からないんです”・・・・」
「・・・・・・・・暁月さんは・・・・」
斑鳩は、どこか哀愁が滲んでいる理巧の背中に向けて声を発する。
「暁月さんは・・・・血が繋がらなくても、『家族』にはなれると思いますか?」
「・・・・・・・・僕は、血なんか繋がってなくても、お互いを大切に思いあっていれば、『家族』になれるって・・・・そう信じたいです」
理巧はそう言って、斑鳩の部屋から去っていき、ペガも理巧の影に隠れた。
ー斑鳩sideー
「【血なんか繋がってなくても、お互いを大切に思いあっていれば、『家族』になれる】。・・・・わたくしとお兄様には、無理な話なのかもしれませんね・・・・」
斑鳩は自嘲するように呟くと、理巧のハンカチを借りたままである事に気づき、明日洗濯して返そうと思った。
ー村雨sideー
村雨は斑鳩の部屋から地下の川に落とされ、何とか這い上がって、這い出ようとする。
「クソッ! クソッ! あの女! いつか必ず・・・・っ! 誰だ!?」
圧倒的に敗北したにも関わらず、斑鳩への復讐を燃やす村雨の目の前に、鳥唐揚げの串を持った半蔵が現れた。
「お前さんの所業は学院に入った時からすべて把握しておったよ。運が良かったの。もしも、“あの少年”に目を付けられておったらその程度では済まなかったじゃろう。家に帰って素直に商いをやったらええ」
「どうしてそれを?! 勝手な事を言うな! 俺は(ヒュン!)っ!?」
怒鳴ろうとする村雨の手元に唐揚げの串が突き刺さり、村雨は黙る。
「このまま帰れば全ては不問に伏そう。お前の親父は言っておったぞ。【忍にするには叶わなかったが、息子には商いの才がある】、とな」
「っ!・・・・父さんが・・・・」
「忍だけが道じゃない。道は人の数だけあるのじゃ」
そう言って、半蔵は背を向けて歩き去る。
「あ、貴方は?」
「知らん方が身のためじゃ。ただの通りすがりの爺。そう思うてくれて構わん。アッハッハッハッハッ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って歩き去る半蔵を、村雨はただ静かに見つめていた。
◇
それから村雨は、実家に帰ろうと思ったが、途中で足を止めて立ち止まる。
「・・・・いやだ・・・・! 今まで頑張って来たんだ・・・・! 俺なりに努力だってしてきたんだ・・・・! それなのに・・・・! それなのに・・・・!!」
幼い頃から、『鳳凰財団』の一人息子として努力をしてきた。勉強も鍛練も、どれも手を抜いた事なんて無かった。
忍としての適正が低い事は分かっていた。でも頑張っていれば、努力していれば、名刀『飛燕』に相応しい人間に、父に認められる人間になれると信じていた。しかし、現実は残酷で、結局名刀『飛燕』は、養子として迎えられた遠縁の斑鳩の物になった。
「こんな理不尽ってありかよ・・・・! 才能のあるヤツが手に入れて、無いヤツは諦めて別の道を行くって・・・・! そんなの理不尽だろう・・・・!!」
村雨は夜空を見上げて悔し涙を流した。
「そうですね。貴方の言うとおりですね」
「っ、誰だっ!?」
突然暗がりから声をかけてきた、フードを目深に被った人物に、村雨は警戒を抱いて鎖鎌を構える。
が、その人物は、両手を上げて、敵意が無いことをアピールした。
「驚かせてしまって申し訳ありません。私は貴方の力になりたいと思って来たのです」
「俺の、力にだと・・・・?」
村雨は警戒を解かず、その人物を見据えると、暗がりとフードを目深に被っており、その顔は見えなかった。
その人物は、村雨に向けて口を開く。
「酷いですよね? 不公平ですよね? 努力をしてきた人間が求める物を諦め、才能のある人間が望む物を手に入れるだなんて、あまりに理不尽でしょう?」
「っっ!」
警戒する村雨の耳に、その人物の悪魔のような囁きが入り、鎖鎌を握る手が弱冠緩む。
「私は貴方の力になりたい。貴方も見返したいと思いませんか? 貴方よりも才能のあるコソ泥や、貴方に忍を諦めろと言った人間達を見返したいでしょう? 貴方の方が優れていると証明したいでしょう??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
その呟きを聞いていると、悔しさでボロボロになっていた村雨の自尊心に染み込み、徐々に鎖鎌を握る手に力が抜けていき、鎖鎌は、ガシャンッ、と音を立てて地面に落ちた。
「私が貴方をプロデュースします。了承するなら、これを取ってください」
「ぁ・・・・・・・・」
差し出された『水晶の人形』と『赤と金のロボットが描かれたカプセル』を、村雨は思わず手に取った。
「さぁ見せてやりましょう村雨さん。貴方を貶した人間達に、貴方の力で・・・・エンドマークを打ってやりましょう」
その人物の口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。
理巧の寄るところとは? 村雨はどうなるのか??
待て次回!