少年が、暁月理巧を名乗るようになってから、およそ8年弱。2年間は学校に通わず、『普通の生活』ができるように、訓練が行われた。
言葉は「はい」・「了解」以外はまるで喋れず、文字の書き方すらも知らず、それらの訓練を受けた。
自分を育てた恩人の三人の奥さん達が師匠となって鍛えられた。
亜麻色の髪をし、お淑やかな性格をした師匠から言葉と文字と礼儀作法を。
桃色の髪に、活発な性格の師匠からは、遊び方と家事全般を。
黒みががった青い髪をした、クールな性格をした師匠からはスポーツと体術を。
10歳を迎え、ようやく小学校に通うことが出来た。最初はたどたどしくだが、その当時のクラスメートに、黒い髪をして、まるでお日様のように明るい笑顔が特徴的な女の子と過ごし、なんとか学生生活を送った。その女の子とは、中学ではお互い違う学校になって離ればなれになってしまった。
そして中学生になると、容姿の事で問題が起こった。
理巧は髪の毛と瞳の色が燃えるような赤い髪と瞳をしていた。それを周りの人達がヒソヒソと悪く囁いた。
同級生達からは「目立ちたがり」だとか、「髪染めてる」なんて囁かれ、何度も地毛だと言ってきたが、今度は理巧を露骨に無視したり、理巧を見てクスクス笑ったりしたりした。
上級生は髪の毛で難癖を付けられ、何度も暴力を振るわれた。
教師に相談しても、「お前がそんな髪をしているからだ! 嫌なら染めるのをやめろ!」と逆に責められ、地毛だと言っても信じて貰えなかった。
よく言うところの虐めだった。同級生や上級生からの虐め、先生達はそれらを無視、二年生になって下級生も上級生達に唆され自分にタメ口や難癖を付けてくる始末。
「・・・・・・・・・・・・」
理巧は引き取ってくれた人達以外の周りの人間に、心を開かなくなっていった。
そんな理巧に、奇妙な出会いが訪れ、“奇妙な友人”が出来た。
そしてその“友人”が、理巧が虐めに合っていることをネットで配信し、学校の教員達、虐めをしていた生徒達は世間から糾弾され、教員達は免職処分、虐めをしていた生徒達は放校処分とされた。
しかし、理巧にとって、そんな事はどうでも良かった。それよりも、今まで虐めを受けてきたのに、それに気づけなかった事で、“鷹丸”さんと、“師匠達”が泣きながら自分に謝罪してきた。理巧にとってそれが何よりも申し訳なかった。
「ごめんなさい、鷹丸さん・・・・。ごめんなさい、師匠達・・・・」
自分を受け入れてくれた人達を悲しませた、それが何よりも、理巧は申し訳なかった。
◇
それから数年経ち、理巧は高校二年生となり、高校に入ってすぐバイトに励んだ。学校には出席日数を稼ぐ為にしか行かず、ほとんどの時間をバイトに費やしていた。
「いらっしゃいませ」
暁月理巧16歳、現在は『駄菓子屋 銀河マーケット』でバイトに励んでいた。働きながらテレビから流れる特番ニュースに目を向ける。
《『知りたいワイド』。今日は、『クライシス・インパクト』の真実に迫ります》
ラジオ番組『知りたいワイド』から司会者の声が響くと、ゲストの学者の声が続いた。
《えぇ~。かつての『クライシス・インパクト』は、“隕石落下が原因”とされていますが、違います。これを見てください》
学者が、ある写真を見せた。その写真には、“目付きの悪い巨人と破壊された町並”が写っていた。
《『クライシス・インパクト』の影響で、当時の記録は全て失われたと言われていますが、偶然に発見された1枚です。名前は、『ウルトラマンべリアル』!》
「(ウルトラマン、べリアルね・・・・)」
「お兄さん、あれ取って!」
「はい・・・・よっ!」
「わ~!」
「はいこれね」
理巧はニュースの内容を興味なしに聞き流しながら、客の子供がお菓子の棚の一番上にあるお菓子を取ってほしいと注文された。
大人でも少し高い段に置かれ、普通なら小さな足場を持ってくる所を、理巧は軽くジャンプすると、その段まで到達し、お菓子の袋を取ると子供に渡し、会計を済ませた。
「ありがとうお兄さんスゴいね!」
「・・・・これくらいなんともないよ。はいこれオマケね」
少し無愛想に答えた理巧は、いつも買いに来てくれる子供に、サービスでグミをプレゼントした。
「わ~! ありがとうお兄さん!!」
子供は大喜びで帰っていった。テレビでは、6年前から日本で起きている『怪獣騒動』の件で専門家や学者が大喧嘩を初め、番組は終わっていた。
「ふぁあ~」
『ん?』
理巧は大きな欠伸をすると、理巧の影から、異形の姿をした頭が出ていた。
◇
「ただいま~・・・・」
理巧は八年間お世話になっている、どこにでもある2階建ての日本家屋、『戦部家』に帰り、居間を見ると、テーブルに書き置きが置いてあったので覗いてみると。
【理巧へ。ちょっとハルカとナリカとスバルとで、浅草に行ってきます。戸締まりとか気をつけておけよ。お土産期待しててね。
追伸 ナリカが、冷蔵庫の苺大福に手を出したら修行5倍にする、だって】
「まったく直ぐどっかに行くなあの重婚者は・・・・」
『地球人って、大勢の奥さんを持っても良いの?』
「あの人達が少し変わっているだけだ・・・・」
居間の窓を開けた理巧はテレビを付けて、他愛ないバラエティー番組を聞き流しながら、台所からジュースを取りに行くと、“影の中から異形の生物が現れた”。
全体的に黒の体色で、頭は長く、カタツムリのように突き出た目はタレ目で、首にはハートの形の発光体を付け、服装は、上は白と黒のパーカー、下はジーンズでカラフルなベルトを巻いており、白いスニーカーを履いていた。
「“ペガ”、家の中では靴は脱いでくれって言っただろ?」
『あっ、ゴメン』
この生物の名前は、『ペガッサ星人のペガ』。地球で言うところの、宇宙人だ。
中学時代、理巧が出会った友人で、理巧を虐めから救ってくれた恩人でもある。
『でもさ。おじさん達がいないと、ペガがこうやって家の中を歩けるから、安心できるよ』
「宇宙人と同居しているなんて、世間に知られたら大騒ぎになるからな」
普段ペガは、異次元空間『ダークゾーン』と言う空間を作る能力も持っており、外を出歩く際や、理巧が戦部家に居る間は、彼の陰にダークゾーンを作り、その中に潜んでいる。
理巧がバイトに励んでいるのは、一刻も早く自立して、ペガとのんびりできる部屋を手にする為だった。
理巧はペガの内職の造花作りを手伝っていると、ペガが話をする。
『そもそも君は、自分が地球人だと思い込んでる』
「僕は地球人だと思うけど?」
『ペガの、“助けを求める声”を聞こえたのは君だけだ! それに、理巧のあの身体能力は・・・・』
「あんなの、ウチの師匠達だって余裕でできるよ」
『そうだけど・・・・』
ペガも理巧の三人の師匠達の身体能力の高さを知っているから、それ以上言えなくなった。
「しかし、本当にいると思う?」
『何が?』
「さっき特番でやっていただろう。『ウルトラマン』、宇宙の平和を守るために、『べリアル』と戦ったっていうさ」
『都市伝説だよ。『ウルトラマン』も、『べリアル』も』
「(今僕の目の前にいる宇宙人が、都市伝説を語るのかよ?)」
『そう言えばさ。ここ最近、夜になると出るって話の、“アレ”はどう思う理巧?』
「“アレ”って、忍者の事か?」
『ウンウン』
「それこそ都市伝説だ。今時に忍者だなんているわけ無いだろ」
『理巧のお師匠さん達だって忍者なのに?』
「・・・・・・・・あの人達が特殊なんだ」
なんて他愛ない話をしていた二人に、異変が起こった。
ドシィィィィィィィィィィン・・・・!
突然大きな音と共に、家全体が大きく揺れたのだ。テレビの画面がブツっときれた。
『なんだろう? 地震かな?』
「いや、揺れる前に何かが落ちたような衝撃音があった・・・・」
理巧は居間の窓から庭に出て、家の2階の屋根に一瞬で飛び上がると、周囲を見て愕然となった。
「・・・・・・・・マジかよ」
理巧の目の前に、巨大生命体、通称『怪獣』が現れた。
曲がった赤い角が頭部、背中、ひじ、膝に生えており、見ようによってはそれが触手のようにも見え、非常に禍々しい姿。
また、胸には血管の様な模様と、紫色の丸い結晶体がある。
『ピギャグワアアアアアアアアアアアッ!!』
赤い角の怪獣は、悠然と理巧の目の前に足を下ろし、そのまま横切って行った。
《住人の皆様は、速やかに避難行動を行ってください》
「っ!」
避難放送の声に理巧は正気に戻る。
『理巧~!』
「あぶねえ、危うく家が潰される所だった・・・・」
理巧はそのまま、ペガと共に速やかに避難した。
◇
時刻は夕暮れ、理巧は河川敷の原っぱに避難の時の為に用意していた荷物のリュックを置いて腰を下ろすと、携帯ラジオの放送とけたたましくなるパトカーのサイレンと、対岸で街を歩いて破壊している怪獣の足音が聞こえ、目の前で怪獣が歩く度に立ち込める黒い煙をを見ていた。
すでに怪獣の頭上では、自衛隊とマスコミのヘリコプターが入り乱れながら、怪獣周りを飛んでいた。理巧は小声で『ダークゾーン』に隠れたペガと会話する。
『良かったね。店長さん達が無事で』
「運良く店が怪獣の足に踏まれなかったからな。でも、怪獣が歩き去った場所は立ち入り禁止になったから、寝床は・・・・」
『理巧?』
「ペガ、隠れろ」
『う、うん・・・・』
ペガが『ダークゾーン』に引っ込むと、理巧は後ろを振り向いた。
「何か用かな?」
「うおっ! びっくりしたな。すまない、こんなところに座っていたから少し気になってね」
振り向いた先には後方の避難している人達の列から出て来て、背後から自分に近づいてきた人物は、理巧と同い年くらいの中性的な話し方をする女の子だった。
黒い長髪をポニーテールにし、小麦色に焼けた肌、鼻筋は整っており、黒いセーラー服は臍が見え、靴下はルーズソックス、そして制服の胸元を押し上げる大きなバストが特徴的なギャル風の美少女だった。
「(この子、タダ者じゃないな)」
「(コイツ、気配は消した筈なのに、わたしの接近に気づいた?)」
お互い相手の正体が分からず、しばし睨み合っていたがーーーー。
『ピギャグワアアアアアアアアアアアッ!!』
「「っ!!」」
怪獣が雄叫びを上げたので、二人の意識がそっちに向くと、怪獣は相変わらず悠然と歩きながら、街を破壊していた。
「それにしても、本当にいたんだな。怪獣」
「ただの都市伝説だと思っていたから驚いたよ」
「自衛隊が来て、何とかしてくれると思うかい?」
「・・・・無理だね」
少女の質問に、理巧は一瞬考えるが、直ぐに無理だと言って、腰を上げた。
「イヤにはっきり言うんだね?」
「正直、自衛隊でどうにかできる存在とは思えないよ」
「それじゃ、君ならどうするんだい?」
「さあね。僕はただの一般人だからね」
理巧はそう言って、少女と別れるように去っていこうとする。
「君、この辺じゃ見ないけど、どこから来たの? 家族とかは?」
「ああ。少し野暮用でここに来たんだ。家族は離れた所に住んでいるから問題ないよ」
「そうか、それはツイてないね。気をつけて帰りなよ」
「ああ、ありがとう」
理巧はそのまま少女に背を向けて去り、理巧と少女は、お互いの顔が見えなくなると、訝しそうにお互いを見据えていた。
「(あの子、堅気じゃないな)」
「(アイツ、まるで隙を見せてなかった。やっぱりタダ者じゃないな)」
理巧は、今日出会ったこの少女と、以外な場所で再び出会う事になることは、この時は想像すらしていなかった。
次回、変身します。