ー理巧sideー
「ここで待っていろ・・・・」
案内した(された?)忍の女子は、理巧に気絶させられた友達を肩に担いで、そのまま去っていった。
床に座った雲雀は意を決して、隣に座る理巧に話しかけた。
「理巧くん、どうして雲雀がいなくなるって分かったの?」
「・・・・昨夜、柳生さんが基地に来て、雲雀ちゃんが部屋から居なくなったって言って、その時警報が鳴り響いたから、もしかしてと思ったんだ。そして案の定、雲雀ちゃんは連中、と言うよりも、あの『春花』って忍にハメられたと思ってコッソリ着いてきたんだ」
「あの、理巧くん・・・・」
不安そうに上目遣いになる雲雀の頭に手を置いて、グイッと自分に抱き寄せ、小さく囁いた。
「うわっ!////////」
「分かってる。雲雀ちゃんは悪くない。悪いのは雲雀ちゃんを利用したヤツだ。柳生さんも、きっと他の皆も分かってくれるよ」
「・・・・・・・・」
抱き寄せられて顔を赤くした雲雀だが、理巧の言葉を聞いて少し悲痛な顔になる。
「でも、雲雀のせいで・・・・」
「責任を感じているなら、『忍法書』を取り戻そう。そして皆に謝ろう。ボクも一緒に謝る。だから、自分をあんまり自分を責めないで、雲雀ちゃんが辛そうにしていると、ボクもなんか辛い気分になるからさ」
「っ・・・・! うん・・・・! うん・・・・!!」
「アラアラ、随分とロマンチックな雰囲気ねぇ?」
甘酸っぱい雰囲気の二人を茶化すように言って、髪をタオルで包み、その豊満な肢体にバスタオルを巻き付けた春花が自室にやって来た。
「わ! わわ! 理巧くん見ちゃ駄目!!」
「(ハルカさんと同じ名前だけど、慎みってものが無いのか?)」
雲雀は豊満な春花の肢体を理巧に見せまいと、慌てて理巧の両目をふさいだ。
「いらっしゃい。・・・・ごめんなさいね、本当にウチは乱暴な子が多くて困るわ。可哀想に、こんなに汚れちゃって・・・・」
そう言って春花が雲雀の口に舌を出して口づけしようとするが、雲雀が顔を反らした。
「あら。まだ口づけはしたくない? なら、身体を綺麗にしましょう。勿論、貴方も来てくれるでしょう? 暁月理巧様♥️」
理巧に向けて熱っぽい視線を送る春花に雲雀は、えっ? と、目をパチクリさせ、理巧はそんな春花に冷めた視線を送るが、春花は理巧の視線にゾクゾクッと身体を震わせた。
◇
三人で泡風呂に入浴する事になった。流石に三人も入るスペースが無く、理巧と雲雀は向かい合う形で風呂に入った。
理巧の隣には、魔性の色気を放つ春花のワガママな裸体が、正面には小柄だが出る所をしっかりと出た雲雀の凶悪な裸体があり、並の男ならば鼻血を吹いて失神してしまいそうな光景だ。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし理巧は、あまり気にしていないように毅然とした態度で、無駄な贅肉の欠片もない細い身体に、引き締まった筋肉を無駄なく付けた身体を惜しげなくさらしていた。
「あら、華奢そうに見えていたけど、以外に素敵な身体をしてたのねぇ」
「~~~~~~!!///////」
春花はうっとりとした目で理巧の身体をねぶるように見つめ、雲雀も理巧に何度も一緒にお風呂に入ろうと誘ってきたが、いざ一緒に入ると気恥ずかしさが出てしまっていた。話を変えようと雲雀が春花に話しかけた。
「あ、あの・・・・」
「ああ、気にしないで、私も入浴中だったの」
「は、はい・・・・」
「私の話したこと、ちゃんと分かってくれたのね。それに、まさかこの人まで連れてきてくれるだなんて、嬉しいわ」
春花が泡を両手に掬うと、フッと雲雀に吹き掛けた。
「・・・・(チラッ)」
「・・・・・・・・」
雲雀が理巧を一目見るが、理巧は瞑目した。
「・・・・もう、半蔵学院には、居場所がないから。でも、本当に半蔵学院の私が、蛇女子学園に転校なんか・・・・」
雲雀がそう言うと、春花は満足そうな笑みを浮かべて、雲雀に近づく。
「大丈夫。貴女もこの方も決して悪いようにはしないわ。だから、安心してこの私に身を委ねなさい」
春花は両手にそれぞれ、理巧の雲雀の頭を優しく掴んで、自分の胸元に押し当てた。
「(ウフフ。『オーナーの秘密指令』だなんてどうでも良かったのよ。私はこの子達が欲しかっただけ)」
春花は歪んだ気持ちを隠そうとせず、笑みを浮かべて二人をさらに抱き寄せた。
「(理巧くん・・・・)」
「(慌てないで、チャンスを待つんだ)」
「(了解)」
が、当の二人はアイコンタクトで、『忍法書』を取り戻す機会を窺っていた。
◇
それから春花に連れられて屋外に出ると、灯籠が幾つも置かれた広い荒野についた。
「ここが『訓練場』。蛇女は悪忍の膨大な財力で、能力の有りそうな生徒を日本中からスカウトしてくるの。ウフフ、その分ハズレも多いけれどね」
少し離れた場所に、傷だらけの武器が捨て置かれていた。まるで、“ハズレの烙印を押された生徒達の墓標”のように。
「これは珍客だな」
「はっ!」
「・・・・・・・・」
背後から聞こえた声に振り向くと、焔、詠、日影、未来、今まで襲撃してきた蛇女の悪忍達が揃っていた。
「誰や思ぅたら、半蔵学院の忍にターゲットの男子やんか?」
「警備担当は、懲罰物ですわね」
「この子達は、今日から蛇女子学園の生徒よ。私がスカウトしてきたの♪」
『っ??』
春花の言葉に、焔達が驚いたような挙動をする。
「スカウトって、男子のボクが蛇女子にですか?」
「ああ安心して、貴方は私の大切なお客様だから」
「・・・・そうですか」
「はぁ~ぁ、また春花姉様の悪いクセが。・・・・ま、その男子の方は別に良いけど・・・・」
未来と詠は、理巧に対して少々熱っぽい視線を送るが、焔と日影は若干の警戒心を込めた視線を理巧に送った。
「まぁボクとしては、いい加減狙われ続けるのがイヤになったって理由なんですけどね」
「・・・・ほぉ、それで大人しく来たって事か」
「ええ。それに、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』。あんなものを誰が持ってきたのか、少し興味が出たんでね」
理巧の妙に静かな雰囲気が、焔達が身体を強ばらせる。春花だけは恍惚とした笑みを浮かべていたが。
「お前が春花の客人ならば、直ぐにオーナーに会わせる訳にはいかんが、問題は・・・・」
焔が雲雀に目を向け、近づく。
「本気なのか?」
「・・・・ほ、本気です! もう半蔵学院には戻れませんから!」
「そうか。では、今からお前は私達の仲間だ」
「えっ?!」
「どうした?」
「どうしたって・・・・」
妙に簡単に仲間認定された事に、雲雀は若干戸惑う。
「雲雀を疑わないの?」
「疑うって、何を?」
「今まで敵だった者を、簡単に受け入れすぎる。貴女そう思ってるんでしょう?」
未来が口を開き、焔が続ける。
「善と言うのは窮屈で差別的だ。悪は善よりも寛容なのさ」
「それが善忍と悪忍の違いなのですわ」
「もし、雲雀が裏切ったら、どうするの?」
「ま、一度裏切ったモンは、また裏切らんとは限らんわな」
日影が武器のナイフを取り出して呟き、雲雀が不安そうに顔を俯かせる。
ここで焔達に不信感を持たれれば、『忍法書』の奪還は難しくなる。
がーーーー。
「やれるものならやってみれば良いさ」
「えっ?!」
「悪は来るものは拒まない。だが全ては、自己責任だ」
焔達がちょうど横を通りすぎていく、タンカーで運ばれる傷だらけの忍の少女を見てそう言った。
「(自己責任、か・・・・)」
理巧の脳裏に、『幼少時代の過酷な記憶』が過った。
「まぁ、お前よりも厄介そうなヤツがいるからな。そっちの方を警戒するさ」
焔は警戒の色を濃くしながら、理巧を見据えていた。
「あれ? 僕?」
「お前は危険だ。が、どちらかと言えば私達に悪忍に近い気配があるからな」
「僕って悪忍寄りなのか」
「まぁ何はともあれ!」
未来が話に割って入り、理巧を見上げる。
「言っておくけど、私を無視したら許さないからね」
理巧は未来を見下ろしながら、ソッと頭に手を置いて、優しく撫でた。
「大丈夫。未来さん、で良いかな。無視したりなんかしないよ」
「~~~。気安く撫でるんじゃないわよ・・・・////」
とか言いつつも、理巧に大人しく頭を撫でられ、顔を赤くする未来。
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!」」」」」
未来の様子から、雲雀も含んで焔達も何かを察した。
が、それを未来と理巧の間に割って入ったのは、詠だった。
「そ、そう言えば暁月さん! 貴方モヤシは美味しいって言ってましたわよね!?」
「ええ、言いましたよ。美味しいですよねモヤシ」
「でしょ!! モヤシと言うのはですわね・・・・!!」
それから詠がモヤシについて熱弁し、理巧は真面目に応対していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
未来と詠の様子から、二人が理巧に好意を持っているのは明白だった。それを見て何故か雲雀の心が静かに、燃えるような感覚が沸き起こっていた。
「良かったな詠さん。モヤシ話に付きおうてくれるヤツが現れ・・・・っ!」
日影がふと雲雀を見ると、前髪が目元を隠した雲雀の背後に、紅蓮の炎が燃え上がっているような幻覚が見えた。
「なんや、あれ・・・・?」
「これは、ちょっと予想外ね・・・・」
「まさか詠と未来が・・・・。それに、この娘にもこんな一面が・・・・」
焔と日影と春花も、理巧を中心に起こった展開に、少し引きぎみになっていた。
ー雲雀sideー
修行の時間となり、屋内に戻った雲雀は蛇女の制服を着て春花に連れられると、何人もの忍装束を着た悪忍の少女達が、和室の忍教室で授業を受けていた。
ちなみに理巧は焔達に修行相手として連れていかれた。
「どうしたの?」
「いえ、生徒が多いなって、半蔵学院は6人しか生徒が居ないのに・・・・」
春花はフッと笑みを浮かべると、雲雀を案内しながら口を開く。
「善忍のように、“血筋”を重んじるような考えは悪忍には無いもの。“お金の為”、“世間の目から逃れる為”、入学してくる事情は様々だけどね。焔ちゃんって、元々“善忍の家系”でね、本来なら“貴女達のクラスメートだった筈”」
「じゃ、どうして悪忍に?」
「当然貴女は知っているでしょうけど、善忍の忍学校である半蔵学院は、“過去に違法行為をしていない者しか入学資格を得られない”」
「“違法好意”?」
「“人を刺したそうよ”」
「ええ?!」
「あの子には、悪忍になるしか選択肢が無かったわけ。
未来は虐められっ子だったらしいわ。世の中全てを虐め返す為に悪忍の道へ。
日影ちゃんは子供の頃から戦場で育ち、戦闘マシンである事を余儀なくされたし。
貧民街で育ち、貧しさから両親を亡くした詠ちゃんは、世の中の仕組みその物を憎んでいる」
春花の口から聞かされら焔達の悪忍へと至った経緯を聞く。
「この蛇女子学園の中から、自分達の力でのし上がって認められたのが、私達5人って訳、貴女達とは、前提から違うのよ。・・・・いえ、1人例外がいたわね」
「それって、理巧くん、ですか・・・・?」
雲雀は、理巧の事だと何故か分かった。
春花と交戦した時の理巧から、普段の暖かくも優しい雰囲気と打って変わった、氷のように冷たい雰囲気が頭を過ったからだ。
「ええ。あの人はおそらく私達に近い物がある。初めてあの人の目を見たとき、全身がゾクゾクと震えるような快感があったわ。あの人は『悪の素質』を持っていると、あの人ならば“悪忍の頂点”にすら立てる、そんな確信さえあるほどにね」
「・・・・・・・・・・・・」
雲雀は春花の言葉に、顔を俯かせて黙った。
『悪の素質』。それは理巧の体内に宿る『ベリアルの細胞』が、深く関わっていると思ったのだ。
ー理巧sideー
理巧は岩場の修行場で、焔達四人を相手取っていた。
左右の手の指に挟んだ3本、両手合わせて6本の刀を振り抜く焔の攻撃を余裕で回避していた。繰り出される斬撃は命を刈り取るような鋭さを宿す。
「(鋭い剣撃。が、両手に3本もの刀を装備しているが故にーーーー)」
「なっ!!? がはっ!!!!」
「(懐に入ってくる攻撃には、対応が遅れる・・・・!)」
焔が両手の6本の刀を交差するように振り下ろすが、理巧は刀の切っ先がギリギリに掠る程の距離で回避すると、一瞬で焔の懐に入り込み、拳底打ちを焔の腹部に叩き込んだ。
叩き込まれた焔は空気を大量に吐き出すと、そのまま地面を転がった。
「やっぱアンタやるなぁ?」
「ウフフ・・・・!」
その焔と入れ替わるように日影と詠が飛び出してくるが、理巧は目の前の二人ではなく、自分の後方に意識を向ける。
ガンッ!!
日影と詠の攻撃を回避すると、二人の攻撃が地面を砕き、土煙が舞うが、理巧は二人よりも、後方にいた未来に向かっていた。
「ーーーー!!」
未来は傘に仕込んだ機関銃を理巧に放つが、理巧は蛇行して回避する。
「なんで当たんないのよっ!」
「(機関銃の命中精度は低い。銃口と目線と指先の動きでどこを狙っているのかはすぐに分かる)」
「うわっ! (ベシンッ!!) あだっ!!」
未来の眼前につくと、理巧は脳天チョップを振り下ろして未来は痛みで踞る。
「っ!」
「しっ!!」
背後から日影がナイフを振りかぶるが、理巧は寸前で回避すると、日影の脇の下に拳底打ちを叩き込んだ。
「生憎ワシには通じんわ・・・・!」
日影にニンマリと笑みを浮かべ、ナイフを繰り出すが、理巧は日影の攻撃の合間に拳底打ちを何度も脇の下に叩き込んだ。
「せやから、ワシには・・・・!?」
その時、日影は声を出せなかった。声を出そうにも肺の中から空気が無くなり、声を続けられなくなったからだ。
「か・・・・ぁ・・・・!!」
日影は呼吸ができなくなり、身体が空気を求めて動きを静止してしまった。
「(いくら頑丈でも内臓は少しずつダメージを受ける。しかも彼女の戦闘スタイルでは常に動き回る、脇の下から受けるダメージは肺から少しずつ空気を抜く。生き物に取って空気が取れなくなれば数分は生きてられない)」
常人ならば一撃で身体が動けなくなる攻撃に何発か耐えただけでも、日影の頑丈さの証明になっている。
理巧はさらに両手による拳底打ちを日影の胸に打ち込んだ。
「かはっ!! はぁ! はぁ! はぁ! はぁ・・・・」
地面に転がった日影は、大量の空気が肺の中に入り込み、荒い呼吸で動けなくなった。
「はぁっ!!」
すかさず詠が大剣を振りかぶるが、理巧の身体に斬り込まれたと思ったがーーーー理巧の身体が霞のように消えて、大剣がスカッと空を斬った。
「えぇっ!?」
仰天した振り下ろした大剣の上に、理巧がヒラリと降りてた。詠が斬ったのは、理巧の残像だったのだ。
「う、そ・・・・」
唖然となる詠の胸に理巧が腰の回転を加えた拳底打ちを叩き込み、詠は悲鳴を上げる間もなく吹き飛んだ。
「・・・・・・・・・・・・」
理巧は手をパンパンと払いながら、倒れた焔達を見据える。
「くぅ・・・・っ!」
「痛たた・・・・!」
「かな、わん、な・・・・!」
「はぅぅ~・・・・」
焔達も痛みに堪えながら、ヨロヨロと立ち上がり、理巧に向けて再び武器を構えた。
「(なるほど、この修行場の雰囲気から、蛇女子学園は完全なる実力重視の校風。そんな学園で半蔵学院と敵対する為に選別されているだけに、焔さん達もそれ相応の実力だな)」
あまり目立つのは良くないが、理巧にとってそれは都合が良かった。
何故なら、“この学園に潜入しているもう1人の仲間の事を悟られないように立ち回る”のが、理巧の目的だったから。
「(さて、調査は任せるよ・・・・ペガ)」