数分後。飛鳥が雲雀と葛城に連れられて教室に戻ると、霧夜先生がコツンと軽く飛鳥の頭を叩く。
「ごめんなさい、霧夜先生」
「以後気をつけるように」
「はい・・・・(チラッ)」
「・・・・・・・・」
飛鳥はチラッと、理巧の方に目を向けると、理巧は飛鳥に近づく。
「えっと、その・・・・」
「僕と君は、小学生の頃、会った事があるんだよね?」
「う、うん・・・・」
無表情に聞いてくる理巧に、飛鳥は少し目を伏せて頷いた。
「・・・・じゃ、思い出してみる」
「えっ?」
「忘れたままじゃ君に悪いしね。思い出したら、忘れていてゴメンと謝るから、少し待っていてくれるかな?」
「あ、うん・・・・待ってるね・・・・」
ペコッと頭を下げた理巧に、飛鳥は戸惑いがちに頷くと、頃合いと見て霧夜先生が口を開いた。
「では本日の修行。1限目は『格闘術』だ。全員着替えて『修行場』に集まるように。理巧、ついてこい」
「はい」
言い終わった直前、霧夜先生は足元にドロンッ!と、煙を大きく上げて、理巧と共に消えた。
後にはむせるように咳き込む飛鳥と葛城と雲雀、目を線にして呆れる斑鳩と柳生だけだった。
ー飛鳥sideー
「飛鳥さんの、初恋の人?」
「あの赤頭がか?」
「うん・・・・」
更衣室で運動服(下はブルマ)に着替えている飛鳥に、同じように着替えている斑鳩と葛城が理巧との事を聞いていた。
ちなみに3年生の斑鳩と葛城は青のブルマ、2年生の飛鳥は緑色のブルマ、1年生の雲雀と柳生は赤いブルマである。
「小学校五年生の頃にね。凄い綺麗な赤い髪に、赤い瞳をしていた男の子が転入してきたんだ。小学校を卒業したら別々の中学に入って、それっきりだったけど、面影が有ったし、それに『暁月』って特徴的な名字もしていたし、『理巧』って名前だったから間違いないはずなんだけど・・・・」
「当の本人は覚えていないと言っていますが?」
「それに赤い髪と瞳って、アイツの髪と瞳って、赤と言うよりも緋色のようだったぞ?」
「でも、あの子はりっくんだと思うんだ。記憶にあるりっくんと面影が有ったし・・・・」
「ふぅ~ん・・・・。そ・れ・で、『初恋の人』ってどういう事だ~♪」
「ひゃあんっ! ち、ちょっと葛姐ぇ!」
葛城が暗い顔色となった飛鳥の豊満な胸を揉みしだきながら、理巧との事を聞くが、揉みしだかれた飛鳥は身を捩って、葛城を振り払おうとするが、葛城はお構い無しに揉む。
「ん~♪ この素晴らしい大きさ♪ そしてこの柔らかさと弾力♪ なんならこのおっぱいで迫れば『初恋の人』も思い出してくれるかもしれないぞ~♪」
「そ、そうかな・・・・じゃなくて! やめてよぉ~!」
「やめて欲しがったら、『初恋』の事を洗いざらい話しやがれ~♪」
「だ、だめぇ~!」
「ふざけてないで、さっさと準備なさい」
などとこの世の天国のような光景を繰り広げている飛鳥と葛城を無視して、委員長の斑鳩は衣服を整えながら二人に注意をした。
雲雀も着替え終えると、ポォ~と、惚けた顔になっていた。脳裏に浮かぶのは、色鮮やかな緋色の髪と瞳の少年
先ほど見た、暁月理巧だった。
「(凄く綺麗だったな~、あの男の子の髪の毛、目も燃えているように綺麗だったな~)」
「どうした雲雀?」
着替えている柳生は、背中越しに雲雀に話しかける。
「あっ、その、雲雀、『格闘術』苦手だから・・・・」
編入した男の子の事を考えていたと言えない雲雀は、授業の事を言って誤魔化した。
「雲雀」
「なに?」
「がんばれ!」
「うん!」
柳生は雲雀に向き直ると、今までのクールな表情から一変して、優しい笑みを浮かべ、雲雀も元気良く頷いた。
ー理巧sideー
霧夜先生に連れられて、道場のような場所に移動すると、霧夜先生と同じ運動用のジャージに着替えて、舞台のような踊り場に仁王立ちする霧夜先生を見ながら、理巧は道場の壁に寄りかかりながら座っていた。
「理巧、少し意外だったぞ」
「・・・・何がですか?」
「飛鳥の事だ。基本鷹丸達以外には心を開かないお前が、飛鳥にあんな事を言うだなんてな」
鷹丸やハルカ達以外の人間には興味を示さない理巧が。
理巧が何よりも大切にしている人達、鷹丸とハルカとナリカとスバルだけの(あと霧夜先生は知らないがペガも入っている)あの理巧が、他人である飛鳥に対してあんな思いやった行動を取ることに驚いたのだ。
「・・・・別に、ただナリカさんに、【女の子を泣かしたら男として最低よ。女の子にはなるべく優しくしなさい】って、教えられていたからですよ」
「ああ、そうか・・・・」
あくまで家族の人達からの“教え”だから優しくしただけだったので、素っ気なく答える理巧。
少しは『他人嫌い』が治ったのかと、期待した霧夜先生は少し肩を落とした。
プォオオオン! プォオオオン!
授業開始の法螺貝が鳴り響くと、道場の上から、運動服に着替えた飛鳥達が降りてきた。雲雀は着地に失敗して尻餅をついたが。
「(『内閣特務諜報部諜報一課付特殊機密諜報員養成所 通称、忍者学科』。3年の斑鳩と葛城、2年の飛鳥、1年の柳生と雲雀、か・・・・)」
「では、先ず『空中格闘術』だ」
「あの霧夜先生。暁月君は?」
斑鳩が挙手して、壁に寄りかかって座る理巧を一瞥した。
「今日は暁月は見学だ。お前達の修行を間近で見てもらう。・・・・のだが」
「・・・・『コンビニバイト』、まあ無難だなぁ。(キュッ)・・・・『配達作業』、学校行ってる余裕無いなぁ。(ピッ)・・・・『バーガーショップ店員』、愛想笑いは苦手だからなぁ(ピッ)」
当の理巧は、どこから出したのか『求人誌』を取りだし、スカルゴモラの出現で殆んどのバイトが無くなったので、新しいバイトを探し、めぼしいバイトにはマーカーで○をつけ、駄目な所にはペケをつけていた。
「おい理巧。バイトを探すのは修行後にしておけ」
「・・・・分かりました」
霧夜先生に注意されたが、正直忍びに1㎜も興味が無い理巧は、小さくため息を洩らすと、求人誌を仕舞った。
あまりにもやる気が無い理巧の態度に、斑鳩が不快そうに眉を寄せ、葛城はムッとした顔を浮かべ、飛鳥と雲雀は理巧をジッと見つめ、柳生は理巧に興味無しの態度だった。
それから、斑鳩と葛城が空中格闘の組み手を行い、霧夜先生が「止めっ!」と合図すると二人は着地し礼をして終えた。次に飛鳥と柳生が組み手を始めるが・・・・。
「くぁ~・・・・」
理巧は退屈そうに欠伸をかき、飛鳥と柳生の組み手をまるで興味無いと言わんばかりの態度だった。
斑鳩も葛城も、飛鳥も柳生も雲雀も、同年代から見れば圧倒的かつ暴力的なバストとプロポーションをしており、思春期の男子にしてみれば目の保養にも、目の毒にもなる光景なのだが、理巧はまるで興味無い態度であった。
『(理巧。他の皆が恐い目で見てるよ・・・・)』
理巧の影の『ダークゾーン』からペガが理巧にソッと呟くが、理巧と構わずもう一度欠伸をかいた。
「ふぁあ~・・・・」
『・・・・・・・・』
あまりにも不真面目な理巧の態度に、飛鳥達(特に斑鳩)は渋い顔を浮かべる。
「(・・・・これは不味いな。・・・・仕方ない)」
このままでは飛鳥達との関係が悪くなるかも知れないと考えた霧夜先生は、理巧に向き直る。
「理巧。雲雀と組み手をしろ」
「へ?」
「ええっ!?」
霧夜先生に指示され、理巧は不承不承で立ち上がり、道場の中央に移動すると、小動物のように震える雲雀と向き合った。
「霧夜先生、なんで転入生と雲雀をやらせるんだ?」
「『格闘術』に自信が無い雲雀さんに、態度の悪い転入生を倒させて、自信を付けさせようとしているのかも知れませんね」
「なるほどな。しかしあの転入生、運が良いかもなぁ~♪ 上手くすれば雲雀の80センチのCカップにお触りできるかもしれないし♪」
「そうしたら俺がヤツを潰す」
「や、柳生ちゃん?」
柳生の目が鋭く据わっているのを見て、飛鳥が冷や汗を浮かべる。
「初め!」
「・・・・・・・・」
「うぅ~・・・・やぁ!」
理巧はボゥと突っ立っており、雲雀は躊躇いがちに走りだし、拳を突き出して、理巧にせまり理巧の顔面を捉えた。
ーーー次の瞬間、なぜか雲雀が床に倒れていた。
「あれ?」
「え?」
「あ?」
「ん?」
「なに?」
「ほぉ・・・・」
倒れていた雲雀本人は唖然呆然となり、飛鳥達も思わずまの抜けた声を発し、霧夜先生だけは、“倒れた雲雀の腕を掴んでいた理巧”に目を向けた。
「(雲雀が拳を突き出して顔に当たる寸前、片手で拳を受け流して掴み、僅かに体制が崩れた雲雀の足を引っかけ返し投げをした。合気道の小手返しの応用だな。ハルカ達め、過保護なわりには、相当鍛えようだな)」
「(この子、スピードも動きも他の四人に比べると劣っているけど、パワーは凄いな)」
霧夜先生は理巧の戦闘技能に感心し、理巧は拳を受け流した時に感じた雲雀のパワーに内心驚嘆していた。
「い、今何が起きたの・・・・?」
「雲雀が回転して倒れたように見えたけど・・・・」
「雲雀さんが、足を滑らして倒れたのかもしれませんね・・・・?」
「なんだ・・・・? 俺でも何が起こったか分からない・・・・」
しかし端から見ていた飛鳥達には、雲雀が足を縺れさせて、勝手に自爆したように見えていたのだ。あまりにも滑らかかつ無駄の無い動きで雲雀を倒した理巧の動きに、目が追い付けなかったからだ。
「???・・・・・・・・」
当の雲雀に至っては、真っ直ぐに理巧に向かった自分が、いつの間にか自分が床に倒れている事態に、脳の理解が追い付かず、目をパチクリさせていた。
そして理巧は握っていた雲雀の手の温度が上がっている事に気づいた。
「(ん? この子の手、なんか・・・・熱い?)」
それは体温が上昇しているなんてものではなかった。まるで火が点火するかのように熱く燃えているような感覚があった。
「雲雀。いつまで倒れている? 早く立て」
「は、はい!」
「あっ・・・・」
霧夜先生に言われ、慌てて雲雀が手を払い立ち上がり、理巧から距離を取った。
「雲雀ちゃん! 頑張って!」
「マグレだ! マグレ! おもいっきりやっちまえ!」
「う、うん!」
飛鳥と葛城が声援を出し、それに答えた雲雀が、理巧に拳や蹴りで攻め立てる。
「はぁっ! えいっ! タァッ!」
「・・・・・・・・・・・・」
しかし雲雀の攻撃はまるで当たらず、理巧はヒラリヒラリと余裕で回避しながら、雲雀の拳を観察していた。
「(なんだ? この子の拳、なんか、燃えているような?)」
すると、雲雀の握り拳が、“まるで発熱したように真っ赤になった”。
「っ、なんだ?」
霧夜先生も、雲雀の異変に気づき、飛鳥達も雲雀の拳が段々赤く発光している異常に、気づき始めた。
「雲雀ちゃん! その手!!」
「え・・・・?」
雲雀が飛鳥に言われて自分の手を見ると、異常に気づいた。自分の両手が真っ赤に発光すると・・・・。
「な、なに? これなに!!??」
ブォアアアアアアアアアアアアアアアア!!
雲雀が狼狽すると、両手から炎が噴射した!
「きゃあああああああああああああああっ!!!」
「っ!」
雲雀が悲鳴を上げるよりも早く、理巧は火を吹き出す雲雀の両手を下に向けさせ、炎を床に向け、雲雀に静かに声をかける。
「落ち着いて」
「あ、ああ・・・・」
「大丈夫。落ち着いて」
訳が分からず涙目になった雲雀に、理巧は静かに、優しく囁く。
「先ず心を落ち着かせて。大丈夫、深呼吸だ」
「・・・・う、うん」
「息を吸って」
「すぅ~・・・・」
「吐いて」
「はぁ~・・・・」
「もう一度」
「すぅ~・・・・、はぁ~・・・・」
雲雀が深呼吸して落ち着いてくると、手から放たれた炎が徐々に弱まり、消えた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」
「おじさん・・・・!」
「っ・・・・」
雲雀が小さく呼吸しながら腰を落とすと、理巧は雲雀の両肩に手を置いて支えながら霧夜先生に呼び掛けると、霧夜先生は、ピクッ、と反応すると、何処からか消火器を取りだし、消火器を使って、床で燃える炎を鎮火させた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」
「・・・・・・・・」
怯えるように呼吸する雲雀を見て、理巧は過去を思い出していた。
昔自分も、こんな風に怯えていたとき、ハルカが優しく頭を撫でてくれたーーー。
「・・・・・・・・」
「えっ・・・・?」
理巧はなにも言わずに、雲雀の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、大丈夫だからね」
「・・・・・・・・」
理巧に撫でられて、雲雀の呼吸が落ち着き、目を閉じると雲雀はそのまま眠った。それを見た理巧は、消火器で火を消火し終えた霧夜先生に向けて口を開く。
「おじさん。この子を保健室に連れていきます」
「ああ分かった。斑鳩、葛城、飛鳥、柳生」
『は、はい!』
突然の異常事態に、呆然となっていた飛鳥達も、霧夜先生に名前を呼ばれ正気にかえった。
「俺達はこのまま雲雀を保健室に連れていく。お前達は教室で自習をしていろ」
「せ、先生! 私達も!」
「雲雀を連れていく!」
「駄目だ。お前達は教室にいろ!」
飛鳥と柳生が申し出るが、霧夜先生に却下され、霧夜先生は雲雀を背負った理巧を連れて、ドロンッ! と煙を巻くと、『修行場』から姿を消した。
『・・・・・・・・・・・・』
「(ギリッ)」
後には、愕然となる飛鳥達と、口惜しそうに歯ぎしりする柳生が佇んでいた。
次回。雲雀ちゃんと理巧が急接近の予感!
蛇女の人達はしばらく後です。