第1話 出航 ~始まり~
2024年8月7日、呉に引っ越して1年余り、だいぶここに慣れてきた。ここに引っ越してから少しだけだが友達も出来た。
俺は三河勇。1年程前に下関からここに引っ越してきた。3年前の海の厄災でに父さんが事故で死んで、今は呉に引っ越す前からここに住んでいる爺ちゃんの家で3人暮らしで生活している。父さんの影響で、俺は旧日本海軍の軍艦が好きになった。ここで、俺の友達を紹介しよう。
--和樹。ここに引っ越してからの俺の親友。海軍マニアですぐに仲良くなって、部活では旧日本海軍の戦艦のプラモデルを改造してオリジナル艦を作ったりしてる。
--梓。クラスで一番大人しい女の子。機械の組み立てが得意で前にラジオの修理でバラしてから組み直してそれを見ていた彼女の両親を驚かせた。ついでに通信機器を上手く使いこなせる。
--澪。明るい性格のムードメーカー。家の下が彼女の父親がやっている自動車工場で、度々手伝っている。たまにいじめられているが、特に気にしていないようで、持ち前の明るさで「運動にもなる」と言い返す程。
--サイ。アメリカから引っ越して来た。少しだが正義感が強く真面目な性格で、澪がいじめられているところを助けたことがある。
「うわぁ~、大和ってすごいな。あれで10分の1スケールって」
「だろ!?本物の大和は250mを超えるんだぜ!」
「あれとアイオワが撃ち合いになったらすごい迫力ありそうだな」
和樹と澪とサイが大和について語り合っている。
戦艦大和。それは、呉で建造られ、沖縄に向かう途中で沈められた世界最強の戦艦。その艦体は今も暗い海の底に横たわっている。大和が沈む運命を断つ事が出来たなら。俺はそんな妄想を抱いていた。
そんなことを考えていると、サイがあることに話を変えた。
「そう言えば、一昨日から世界各国との通信が途絶えているらしいな」
そう、サイが言った通り一昨日から世界各国との通信が途絶えている。原因についても未だに特定されていないらしい。
勿論、俺もこの事態がただの問題ではないと思っていたし、そもそもこんなに長くこんな状況が続く筈がない。
「ああ・・・何かおかしい」
「うーん・・・何というか、幾らなんでもこの状態がこんなに長く続く訳ないし・・・」
「だろ?まさか異世界に転移しちゃったりしてな~!」
「和樹、そんなオカルトみたいな話--」
俺が和樹が言う異世界説に異議を唱えようとしたその時、
「ねえ、みんな」
ふと、梓が口を開いた。
そして、
俺たちは、
その次の一言に戦慄を覚えた。
「何か、こっちに向かってくる」
刹那--
ドガアアアァァァァッ!!!
いつも窓から見える景色が爆ぜた。
「うわぁッ!?」
「のわぁ!?」
「キャッ!」
「キャアアア!!」
「な、何だ!?」
爆煙が収まった後に見えた窓から見えたのは--
散らばった瓦礫と焼け焦げた人の亡骸だった。
「みんな、早く逃げるぞ!」
ワンテンポ早く我に返ったサイが「こっちだ!」と皆に呼びかける。
「ハァ、ハァ、ハァ」
一体、何故こんなことになったのか。誰がこんなことをしたのか。
「クソッ!どこかに避難所は無いのかよ!?」
「嫌!死にたくない!」
「一体何なの!?」
「空襲だ!だが・・・何でこんな時代にレシプロ機が!?」
和樹達もこの事態に混乱している。早く避難所に行かないと--
「--ッ!?」
俺は見た。女の人が泣きながら跪いているのを。身長からして大学生だろうか。その隣では狐の耳がついた着物姿の女の人が紅い板のようなものを担いで海に飛び込もうとしている。
そして--その2人めがけて白い帽子を被った女の人が弓を構えて走ってくる。
その時、俺の脳裏に危険信号が響いた。
「勇--ッ!?あ、危ない!!」
和樹達が慌てて追いかける。
俺の何が危ない。危ないといえば、2人の女の人の命だろう。
あの人達が助かるなら、俺はどんなことがあっても平気だ。
そう覚悟して、俺が跪いている女の人の前に出ると、
「危ないッ!!」
サイが狐耳の女の人を庇う。和樹達も俺とサイの横に並ぶ。
やめろ。そう言おうとしたその時、
「もらった」
白い帽子の女が目の前に迫っていた。
俺は必死の想いで跪いている女の人を守ろうと庇った。
「くッ!?」
女は驚きの表情を一瞬見せると、後ろに下がって距離を取った。
そして、
「・・・運が良かったな」
そう言い残し、立ち去った。
白い帽子の女の姿が見えなくなると、俺は後ろにいる女の人に振り返って、
「大丈夫ですか!?」
と声を掛けた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
女の人は今のがショックだったのか、困惑している。すると、何かに気付いた和樹が俺にそれを伝えに来た。すごいものを見つけたと言わんばかりの顔で
。
「おい勇!大和みたいな船を見つけた!あそこに避難するか!?」
驚いた。まさか大和に似た船があるとは思わなかった。大和と同じ大きさの船で俺の知るものは飛鳥Ⅱだけだが、今俺たちが見ているその船は形まで大和に似ている。
だが、迷っている場合ではない。
「みんな!あれに入ろう!」
「ああ!」
「うん、わかった!」
「オーケー!」
「わかった!」
そして俺たちは、2人の女の人を連れてその船の中に入った。
「うわぁ~!!!見ろよ勇!!」
和樹が新しいおもちゃを与えられた子供のような喜びの表情で言う。
「・・・あぁ。そうだな和樹」
「まるで自衛隊の船の中にいるみたい」
「でも、なんか昔っぽい感じ~」
「なんかミズーリに似たような感じだな・・・」
確かに昔っぽい船だ。だが、今時こんなに古い印象を持つような船を造るだろうか。さっきまで跪いていた女の人の方を見る。大和撫子のような服装でポニーテールが印象に残る。艦これの大和に似ている。狐耳の女の人の方は最初は庇ったサイに対してピリピリした態度を取っていたが、「危うく殺されてたところですよ」の一言で渋々納得した。
ふと、先程俺たちが対峙した白い帽子の女のことを思い出す。
女は大和撫子の人と同じくらいの身長でノースリーブの服を着ていた。そして手には空母の甲板を模した板と艦橋を模した弓を持っていた。
「ね、ねえ!あれ、かなりやばくない!?」
澪の悲鳴に近い叫びに反応して俺たちが窓から外を見ると、そこから見えたのは砲を持って海の上に立つ少女達に狩られていく海上自衛隊のイージス艦だった。
少女達がイージス艦を狩っていくその光景は、まさに壮大な殺戮ショーそのものだ。逆に、海上自衛隊の艦船がいくら撃っても少女達には死者はおろか、怪我人も出ていない。航空自衛隊や米軍の戦闘機も、一部の少女が放ったレシプロ機とまともにやり合っているが、やはり少女達にダメージを与えることができていない。
「どういうことだ!?あれ1発喰らったら即死だろ!?」
和樹が信じられないと戸惑う。他のみんなもまさかの事態に焦っている。
だが、女の人2人はというとさほど焦っていないように見える。
「・・・どうやら、やるしかないようですね」
大和撫子の人が決意を抱いたような表情でそう呟く。
「皆さん!艦橋に行きましょう!私に考えがあります!」
まさかの艦橋に行くぞ発言にみんなが驚くが、このまま悩んでは全員死んでしまうと思い、俺たちはついて行くことにした。
「ここは・・・」
「これ・・・本物の戦艦の艦橋なのか?」
「こんなのが・・・いつの間に造られて・・・」
「すんごぉい・・・」
「ミズーリとは違うが・・・」
驚いた。本当に驚いた。
艦橋に入るまではなんとなく大和に似ているなと思っていた。だが、この艦橋は紛れも無い、大和の艦橋だ。
間違いない・・・この船・・・いや、この艦は大和だ。
だとすれば、何故、大和がここにある?今、大和は海の底に眠っている筈だ。その大和が、何故今ここに存在するのか?
「自己紹介が遅れました。私は・・・大和。戦艦大和」
・・・今、この人はなんて言った?戦艦・・・大和!?
そして、大和と名乗るその人は俺に近づいて、こう言った。
「はじめまして、勇」
その時、急に足元が揺れた。轟音がこっちにも迫って来ている。もう時間が無い!
「のわッ!こ、こっちにも撃ってきたぞ!」
「このままじゃ・・・みんな死んじゃうよ!」
「うわぁ~~~ッ!!死にたくないよ~~~ッ!!」
「あああーーーッ!!早く出させて欲しいですわーーー!!」
「勇!急げ!このままじゃみんなお陀仏だ!」
狐耳の女の人がよくわからないことを言っているが、気にする余裕はもう無い!
「・・・ああ!大和、戦えるか!?」
「はい!」
大和は即答した。
パソコンで見たことがある艦娘。少女の姿をした彼女に戦うことを命じるのに、抵抗はあった。しかし、彼女の瞳を見ると、何故か安心した。彼女ならば、この絶望的な状況をひっくり返すことができるのではないか、と。
「機関始動!大和、発進!」
港から出た直後、レーダーが敵艦の反応を示した。沿岸を見ると、陸のあちこちから黒煙が上がっている。かなりの惨状だ。陸やイージス艦への攻撃を続ける少女達の姿がはっきりと見える。敵の艦娘は米海軍や英海軍の艦船からなるものだろう。
わざわざ当時の米海軍による日本本土に対する攻撃の真似をするとは悪趣味な敵だ。
気がかりなことと言えば、人類同様、深海凄艦を日米英独問わず共通の敵として共に手を取り合って戦う筈の艦娘が、何故人類を攻撃しているのかということだろう。
「駆逐艦なら副砲でも十分倒せる!取舵一杯!」
「とーりかーじ!」
「副砲撃てッ!」
「副砲、撃てェーーーッ!!」
敵の駆逐艦娘は大和の副砲斉射に対して避けようとした。が、間に合わずに爆炎に包まれ、直後、轟音が響いた。
「す、すげぇ・・・」
「イージス艦で倒せなかったのが、一度に3人も・・・」
「副砲でもこんな威力なの・・・!?」
「これが・・・大和か・・・いや、まだまだこれからか」
和樹達も驚きの表情を隠せない。
だが、大和は安堵の表情を浮かべなかった。というのも、彼女の視線の先には湾を防ごうとしている重巡洋艦の姿があった。先程の駆逐艦娘とは違い、大戦時の艦船の姿をしている。しかもよく見ると無人艦なのだろうか、人が1人も乗っていないように見える。
「あれは・・・ペンサコーラ級だ!」
サイが眼前の重巡洋艦の正体を暴く。
「勇!ペンサコーラ級は重巡洋艦としては火力が高いが、トップヘビーで動揺性が悪い!」
「わかった!大和、聞いての通りだ!主砲発射用意!」
「主砲発射用意!」
大和の46㎝三連装砲の砲口がペンサコーラ級に照準を向ける。そして、
「相手の主砲が旋回した!撃てェーーーッ!」
「主砲一斉射、撃てェーーーッ!!」
46㎝三連装砲が火を噴いた。直後、ペンサコーラ級を巨大な爆炎が包んだ。
爆炎が収まった時、ペンサコーラ級は木っ端微塵となって沈没した。
「ッ・・・やった・・・のか・・・?」
「そう、みたいです・・・」
俺は大きく溜息をつく。
終わった。これで呉を攻撃していた敵は全て撃沈か撃退することができた。
「あ、あれが・・・」
「46㎝三連装砲の力・・・」
「あぁ・・・」
「本当にすごいもんに乗ってしまったな・・・俺たち」
和樹達も46㎝三連装砲の威力に度肝を抜かれたようだ。
俺の身体から力が抜ける。
「大和・・・よくやったな」
大和も初めての戦闘を無事に終えたからか、少し安堵した様子だった。
「いえ、勇がいなければ、私はーー」
大和がそう言いかけたその時、
艦内が大きく揺れた。
「「「「「「うわッ!?」」」」」」
何が、起こったんだ。
「ッ・・・今のは一体・・・!?」
砲弾が飛んできた方向を見て、俺たちは絶句した。
「嘘、だろ・・・!?」
「あれは・・・」
「艦娘・・・!?まだいたのか!」
明らかに見たことのない艦娘だ。長い金髪、白いマント、あんな特徴の艦娘は今までで見たことがないだろう。
「なんだあの艦娘!?勇、見たことあるか!?」
「いや、俺も見たことない」
当然、和樹達も知らないだろうと思っていたが、サイがあることに気付いた。
「ん?狐さんが何か言いたげだぞ」
「き、狐とは失礼ですわ!一航戦、赤城ですわ!」
「「「「「「えええーーーーーーーー!!!???」」」」」」
狐耳の女の人の衝撃の発言に驚くが、今は敵を倒すことが先決だ。
「は?赤城?赤城は狐の耳もそんな服装もしてないぞ!?ってかあの艦娘なんか知ってるのか!?」
「ええ・・・あのKAN-SENはーー」
赤城(!?)がそう言いかけた時、突如艦橋の無線から、見知らぬ女性の声が聞こえた。
『どうだ!お前たちセイレーンに対抗するため、結成された騎士団の実力!』
「「「「「「「!?」」」」」」」
オープンチャンネルなのか?そう思った俺たちは、女の次の発言に絶句した。
『そちらの指揮官に告ぐ!私はアズールレーン・ユニオン艦隊所属、軽巡洋艦クリーブランドだ!』
「「「「「「な、なんだってーーー!?」」」」」」
クリーブランド級といえば、第二次世界大戦で活躍した艦船の中でトップクラスの防空能力を誇るアメリカの軽巡洋艦だ。
『直ちに投降し、呉を明け渡せ!お前たちの命運は尽きた!さもなければここで撃沈する!』
クリーブランドの要求は街丸ごとだ。一体、どういうつもりだ。普通の高校生である俺たちがそんなの、渡そうと思っても渡せるわけがない。
「ふざけるな!ただの高校生がそんなことできるわけないだろ!?しかも、クリーブランドってことは・・・大和と同じ艦娘じゃないか!深海凄艦と戦うために手を取り合うべきじゃないのか!?」
「そうだ!なんでそんな平気な顔してこんなことができるんだよ!?」
「ひどい・・・ひどいよ!」
「それに同じアメリカ軍にも攻撃ってどういうつもり!?わけわかんない!」
「ああ、俺はアメリカ人としてとても怒っている。そのままお前らを焼き払ってしまうくらいにな」
『あ、あめりか・・・?いや、違うな!私たちはユニオンのKAN-SENだ!討つべき敵は、セイレーンとレッドアクシズだ!』
「どういうことだ?」
『レッドアクシズは、セイレーンの力を使おうとする!そして、重桜もアズールレーンを裏切り、レッドアクシズに寝返った!お前たちが戦争をしようと言うのなら、ここで始めよう!』
コイツだ。コイツがさっきのペンサコーラ級に海上封鎖を指示したんだ。
クリーブランドは全ての砲口を大和に向ける。
『さあ、選べ!未来を選ぶか、それとも未来を捨てるか!』
連合国にスレイブ・オア・ダイをを突き付けられた枢軸国のような気分だ。ただ、相手の言ってることはそれ以上に滅茶苦茶だ。降伏して属国となれ?先に攻め込んで来たのはお前らのくせに?
建物が焼けて、船や飛行機が沈められて、人が大勢死んでいるんだぞ。そんな一方的な正義と悪で決め付けていいものか。
だが、ここで容易く大和と和樹達を見捨てるわけにもいかない、そんなことはできない。大和は俺に従って戦って、みんなも俺に付いて来てくれた、それだけなんだ。なのに、俺がみんなを見捨てることはできない。
『そうだ。大和さえ見捨てれば、呉は助けてやる。どうだ、大和。それなら指揮官も呉も助かるんだ!お前もそれが本望だろう!』
「コイツ・・・」
どうする。このままでは詰みだ。どうすればいいんだ。
大和を、みんなを見捨てて呉を助ける?
呉を見捨ててみんな揃ってあいつらの仲間になる?
ふと、視線をみんなの方に向ける。
和樹は艦橋から見えるクリーブランドを睨み、梓はどうしてと言わんばかりに泣いている。澪も何故こうも脅してまで呉を占領しようとするのかと冷や汗をかき、サイは表情こそ出ていなかったがそれでもわかるほど怒りに燃え、大和はこの襲撃の目的に絶望している。
やはり、どっちも冗談ではない。しかも要求を呑んだところであいつがその通りにする根拠など無い。あいつは艦隊所属と名乗った以上、他にも仲間がいる可能性がある。ましてや、白帽子の女がいる可能性だってある。
絶対絶命。そんな言葉がみんなの脳裏に浮かんだ、その時だった。
『くッ・・・!?』
クリーブランドが対空迎撃をするかのように全ての砲口を空に向けつつ、回避運動を始めた。どうしたのか、そう俺たちが思っていると、こちらの対空レーダーも何かを探知した。
『な、なんだ!?艦載機!?』
「ユニオンの援軍・・・いや、違う!これはーー!」
俺たちは空を見る。それは、クリーブランドにとっても、大和にとっても、当然俺たちにとっても予期せぬ事態だった。
急降下してくるのは日本軍機としては珍しい液冷エンジンが特徴的の爆撃機、それを護衛るのは後ろに付いた二重反転プロペラ、他のレシプロ戦闘機では見られないであろう独特のシルエットの戦闘機。そう、艦これを知っている俺や和樹、サイこそが知るその航空機達はーー
「彗星改・・・震電改まで・・・」
「すげぇ・・・援軍に来てくれた・・・!」
「よっしゃ・・・あいつの驚く顔が楽しみだぞこれは!」
「『トラ・トラ・トラ、我、奇襲ニ成功セリ』・・・赤城さんの子達でしょうか」
「え・・・重桜にあんなのあったっけ・・・?」
そう、飛来してきたのは彗星改と震電改。第二次大戦での完成・実戦投入が叶わず、艦これで晴れて実戦投入された艦載機だ。
これにはさすがのクリーブランドも驚きを隠せない。
『なんだあれは・・・重桜がいつの間にあんなものを・・・これでセイレーンの技術を使っているということが証明されたな!』
慌てて逃げながら対空迎撃をするクリーブランドだったが、急降下してきた彗星改の爆撃を喰らってしまい、爆炎に包まれた。
何はともあれ、助かった。さっき大和が受け取った打電からして艦載機達を繰り出したのは赤城だろう。この機を逃す手は無いだろう。ここで撤退して態勢を整えるには絶好のタイミングだ。
「大和、撤退できるか!?」
「・・・いえ、それはできないようです」
「何だって!?」
「ど、どうするつもりなんだよ!?」
「エェーーーッ!?」
「ここでクリーブランドを逃せば、きっと仲間を呼んでくるでしょう。もしそうなれば、さらに被害が広がります。それを防ぐには、今ここで沈めるか、それとも・・・」
「沈めるーー」
さっきは無人の艦船だった。だが、今度は艦娘だ。喋りもするし、意思だってある。沈める、ここで殺す事に俺はストッパーを掛けていた。
「ーーですが、一つだけ殺さずに無力化する方法があります」
「え・・・?」
「殺さずに・・・無力化する、のか?」
「本当に、そんなことができるの?」
「・・・で、どうするんだ?」
「はい、それは・・・」
その方法を聞いた俺たちは、決心した。
「・・・ああ、やろう!それでクリーブランドを殺さずに済むなら!」
「オーケー!リスクはあるが、やってみる価値ありそうだぜ!」
「うん、上手くいくよ!」
「オッケー!信じるわよー!」
「全く、どうなっても知りませんわよ!」
「やってみようじゃないか!」
そして俺たちの、クリーブランド無力化作戦が始まった。
今、この海域は大きく2つの戦域に分けられている。
まず、あっちの方では自衛隊と米軍がクリーブランドと一緒に残っていたのだろうもう1人の艦娘と戦っている。そしてこっちでは大和とクリーブランドの1対1の状況だ。爆撃機の対応に追われているクリーブランドを急襲するのは今しかない。
俺たちは俺たちのできることをやり通すだけだ。
「大和!再突入だ!最大戦速!」
「機関始動、最大戦速!」
「主砲発射用意!」
「主砲発射用意!」
大和は再び進み始めた。
爆撃を喰らいながらもなんとか爆撃機を追い払ったクリーブランドは、主砲を向けて最大戦速で突っ込んで来た大和に対応するのが一瞬だけ遅れた。
『チィ!まだ戦えるのか!?』
主砲が火を噴き、水柱が上がった。今度こそ仕留めた、と笑みを浮かべるクリーブランド。しかし、そんな程度の攻撃が大和に通じる筈がない。
『くッ!何故そこまで未来を捨てようとする!?』
「ヘン、やってみなきゃわかんねーだろ!」
「そうだ!可能性はゼロではない!」
「至近距離は不利だ!この距離で撃つぞ!」
「主砲いつでも行けます!」
「よし、主砲一斉射、撃てェーーーッ!」
「主砲一斉射、撃てェーーーッ!!!」
クリーブランドから300m程の距離で46㎝三連装砲が火を噴いた。まもなく巨大な水柱が上がった。少し爆発が早い気もしたが、46㎝三連装砲であれば、小型艦はもちろん、戦艦クラスとて喰らえばただでは済まない代物だ。本体を狙わずとも、周辺に放てば悪くても数秒くらいは行動不能になるだろう。
そう誰もが思っていたーーだが、
『あ、あはは!どうやら練度がまだ足りていないようだな!』
クリーブランドは何故か未だに健在だったのだ。
「そんな!?あの砲撃を受けても平気だなんて!?」
「嘘だろ、まさかそんな!?」
「ええっ・・・!?」
「そんなの有り!?」
「馬鹿な、小型艦があれを受けたら即死の筈だ!」
いや、違う。さっきの主砲弾の早い爆発の意味を考える。
まず考えたのは砲弾の不発。だが、1発ならともかく全ての砲弾が不発するのもなんかおかしい。すると、もう一つの可能性が浮上した。それは・・・
「違う、撃ち落とされたんだ!」
「撃ち落とされた・・・!?」
「何だって!?」
「嘘だろ・・・いくら防空能力が高いクリーブランド級でもそんなことをするのは至難の業だぞ!?」
「いや・・・奴ならできますわ」
「えっ・・・?」
赤城(!?)が何か思い出したというような顔つきで言う。
「奴・・・クリーブランドには飛んで来た砲弾を撃ち落としたという噂がありますわ。ただの冗談と思っていましたが、まさか本当にやってのけるとは・・・」
「流石に軽巡が戦艦の砲撃をまともに喰らえば一撃でやられる。あいつの砲弾は、街に砲撃するためだったからか榴弾を中心に使っていたようだし、効果があると思ったのか大和にも榴弾を使っていた」
「その調子で砲弾を撃ち落とした、ということよ」
「だとすれば・・・」
「わかってる。どのみち殺さず無力化するにはさっきのあれしかない。それにあの作戦、主砲でこそできる技なんだろ?」
兎にも角にもこの作戦は戦艦クラスの主砲でしかできない離れ業をやってのける必要がある。だが、相手もこっちが主砲で撃ってくることはわかっている。確実に対策を講じてくるのは誰の目にも明らかだった。
ふいに、クリーブランドがフィギュアスケートでよく見るドリフトのような動きで移動を始めた。そしてーー
『行っけェーーーッ!!』
なんとクリーブランドはサーフィンよろしく波に乗って空高く舞って砲撃をしてきたのだ。
『これでどうだ、大和!』
クリーブランドは波に乗っては空を舞い、波に乗っては空を舞いを繰り返して大和の周囲を高速で移動する。
「まさかジャンプしながら攻撃してくるとは・・・大和、弾幕を張って牽制できるか!?」
「駄目です!照準が追いつきません!」
クリーブランドは水上移動とジャンプを使い分けてちょっかいを掛けるように攻撃しながら移動している。
大和も弾幕を張るが、やはり防空能力はもう一息といったところで牽制は期待できないだろう。
駄目だ。対空戦闘に関しては俺も知識があまり無い。彼女にどう指揮すればいいのかがわからない。
『これで終わりだ!』
艦橋に狙いを付けるクリーブランド。
不味い、このままでは全員即死だ。
「取舵いっぱーーい!!」
「とーりかーー」
「不味い、空母艦娘がこっちに来るぞ!逃げ道を塞ぐ気か!?」
「ーーッ!?」
艦橋から見て左の方に目を向ける。その方向から爆撃機らしき淡い青色の飛行機が2、3機こっちに来るのが見えた。
「不味い!トドメを刺す気だ!」
「ッ!?回避ーーーッ!!!」
大和がクリーブランドの砲撃を躱そうと艦首を左に向けるが、逃げ道は無いと言うかのように爆撃機が爆弾を投下した。
「「「「「「うわぁッ!」」」」」」
爆発の衝撃で艦内が大きく揺れた。
『沈めェーーーッ!!!』
クリーブランドの全ての砲が火を噴いた。
もはやここまでか、誰もがそう思ったが、何故か一向に死は訪れない。何故ならーー
『ッ・・・!?』
「ふぅ・・・危ないところでした。大和は健在です!」
そう、大和のウルトラ回避で砲弾はギリギリで艦橋直撃コースを外れ、被害は後部マストの線が切れただけに留まったのだ。
『馬鹿な、今のを避けたのか!?』
想像以上だ。大和は驚くべき戦闘センスを持っている。今さっきの攻撃を回避することができた今、まだ負けてはいない。(というか戦艦が対空特化の軽巡に負けたら笑いモノにされかねないのだがby作者)
「大和、副砲で牽制してくれ!」
「えっ・・・でも副砲では・・・」
「弾幕で逃げ場を抑えるんだ!あんな動きはテクニックがいるし場所も取る!爆撃機はこの際空自と米軍に任せて、左旋回しながら副砲を連射してクリーブランドの動きを止めて主砲で撃つんだ!そうしないよりはマシだろ!」
「ああ、それなら成功しやすくなる!目に物見せてやろう!」
大和も決心がついたようだ。要は、今度こそ行動不能にすればいいのだ。相変わらず空では爆撃機・・・サイの話によるとあれはヘルダイバーという機体らしい・・・が飛んでいるのだが、先程の彗星改より爆弾の威力が低く、数も3機と少ないのだ。
「・・・わかりました。副砲、威嚇射始め!」
そう言うと、大和は全ての副砲を連射してクリーブランドの周辺に弾幕を張った。いくら巡洋艦の中で防空能力と回避率が高い軽巡洋艦といえど、戦艦相手に逃げ場を失ってはそんな能力も意味が無い。そもそも軽巡にはどう頑張っても戦艦に対抗できる程の火力は持てない。
だが、さっきのように300m程の距離で撃てば砲弾を撃ち落とされる。どうにかして迎撃されずに行動不能にさせなければならない。
ん、待てよ・・・爆炎・・・?
いいことを思いついた!
「大和、一番主砲だけ榴弾、他は煙幕弾で撃てるか!?」
「えっ・・・?う、撃てますが・・・」
「それで爆炎と煙幕を同時に張ってクリーブランドの視界を遮る。その間に弾種を戻して一斉射、わかったか!?」
「・・・わかりました!主砲一斉射、撃てェーーーッ!!!」
最初の1射が放たれた。すかさずクリーブランドが撃ち落とすが、直後、爆炎と煙幕がクリーブランドを包んだ。
『な、なんだ!?ケホッ、ケホッ・・・』
「よし、もう少し近づけるか!?」
「はい!後どれくらい近づけますか!?」
「もう100mぐらいはいけるか!?そこまで近づいてから主砲をもう一回撃つ!」
「わかりました!」
煙幕がクリーブランドを包んでいる間に大和は接近しつつ弾種変更する。
そして、ついにその時は訪れた。
「今だ、主砲一斉射、撃てェーーーッ!!」
「主砲一斉射、撃てェーーーッ!!!」
大和の砲撃の直後、46㎝の爆炎がクリーブランドを包んだ。
『うわあああああああああああ!!!』
そして爆炎が収まった後に見えたのは、気絶したクリーブランドの姿だった。
「よっしゃあ!やったぜー!!」
「よかった・・・上手くいったよ・・・」
「すごい迫力だった・・・」
「ああ、クリーブランドも沈む心配は無いな・・・」
「そうだな・・・大和、クリーブランドの方に寄せてくれ。回収したい」
「はい・・・わかりました」
こうして、クリーブランド無力化作戦は無事成功に終わった。ふと、もう一方の戦域に目を向けると、あっちも既に戦闘が終わっていたようだ。おそらく、米軍の赤いF-14Dと青いF/A-18Eの活躍により敵艦娘を戦闘不能に追い込み撃退したのだろう。アメリカも、よくこれほどの腕を持つエースを岩国基地に送り込もうと思ったな。
何はともあれ、瀬戸内海に混沌をもたらし、呉を地獄に変えたユニオン艦隊は全て撃沈・撃退された。
「・・・あ、勇。それでこの後どうするんだ?」
「え?あ、ああ。それがまだ・・・」
「ああ・・・後で自衛隊のお世話になるな、俺たち」
「「「「「「「あっ・・・」」」」」」」
そうだった。70年以上前に沈んだ筈の大和が乱入して戦い、終いには主砲を一斉射でぶっ放したと自衛隊が知ったらすぐに拿捕しに来るだろう。それで高校生の俺たちが、艦娘である大和と一緒にそれに乗り込んでいたと知られたら今までの生活を送ることができなくなる可能性だってある。
「あっ、来た。自衛隊の船」
梓が海上自衛隊の内火艇を指差す。もう逃げられないと悟った俺たちは、甲板に出て自衛隊の人達を出迎える事にした。
その後、俺たちは大和や先の戦闘のことで尋問を受けた。その結果、俺たちと大和は事態は急を要するということで海上自衛隊に編入された・・・震電改と彗星改を繰り出した一航戦も編入されたそうだ。クリーブランドは戦争犯罪者として逮捕されたそうで、彼女の艤装は技研に送られて解析しているらしい・・・ついでに言うと、警察の尋問に対して彼女は「パールハーバーを奇襲したお前たち重桜が言えたことか!」と逆ギレしていたとか・・・。
翌日、記者会見の生放送を今か今かとみんながテレビにクギ付けになっていた。
そして、ついにその時が訪れた。
『えー、昨日、呉で攻撃を行った謎の軍隊。この軍隊の正体について現在調査中ですが、様々な情報解析の結果、3日前の諸外国との連絡の途絶から日本が異世界に転移したこと、そしてこの事件がユニオンなる国家に属する艦隊によるものという二つの可能性の高い説が並立していることが分かりました。』
記者会見が始まる前の静けさから一変、テレビから記者達の騒然とした声が聞こえる。それもそうだ。なにせ日本政府、それもそのトップである総理大臣がその可能性を認めたという事態で驚かない筈がないのだ。
『また、この事件で瀬戸内海に進軍、呉を攻撃していた艦隊は壊滅、生き残った兵士は戦争犯罪人として逮捕しました。なお、この事件は「呉事件」と呼称します。この呉事件では敵国合わせて16000人以上の死傷者が出ており、我が国で起きた戦争行為の一つであると考えております。今後の対応と致しましてユニオンとのコンタクトを図り、この事件の解決を模索していく所存であります。国民の皆様には何卒ご理解とご協力を重ねてお願い申し上げます』
記者からは戦争行為ではないのか、その国の友好国から警戒されるのではないかといった質問が飛び交っていたが、鹿島首相はその質問に答えられるだけ答え、記者会見は幕を閉じた。
記者会見の後、政府の決定に合わせてユニオンの対策会議が行われ、その結果、ユニオンとの国交開設の為に外交官を向かわせ、その護衛に第4護衛艦群とその日のうちに結成された特務護衛艦群、通称『大和艦隊』が就くこと、呉事件を他国からの武力攻撃と捉え、鹿島総理を本部長とする武力攻撃等対策本部の設置が決定した。
こうして、俺たち『大和艦隊』の戦いが始まった。