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「えっと……名前はなんですか?」「覚えていない」「何処から来たんですか?」「覚えてない」「お仕事はなにを?」「覚えてない」「なんであんな所で倒れていたんですか?」「覚えてない」「ご趣味は」「覚えてない」「特技は?」「覚えてない」「必殺技は?」「覚えてない」「好きな言葉は?」「覚えてない」
…………。…………。駄目だこりゃ。
公園というのも怪しいちんけな広場に倒れていた男性を、何の気の迷いか家に連れて帰ってしまった僕は、激しく後悔しながらも、今更追い出す事が出来ないので、仕方なく彼の事を色々質問して見ることにした。
結果、何も分からなかった。
ただ分かるのは、記憶喪失……という奴らしい。
そして、急に襲い掛かってくる危ない人ではないという事も分かった。
僕の実家は両親が共に海外で働いており滅多に帰ってこない。
兄弟もいるにはいる。兄が一人で姉が一人。
兄はもう社会人で現在ゲーム会社に勤めている。姉は現在大学生で教授に気に入られて毎日研究室で研究しているようで、帰りが遅い。
よって、この家には現在僕とこの拾ってきた記憶喪失の男性しかいないのだ。
うん、何で僕知らない人を家に上げているんだろう?
目の前の男性は、ただ、じっと、二つの目を僕に向けて、次の質問を待っているように見える。
真っ白な髪は無造作に伸びていて、目付きは凄く悪い、細い瞳に爬虫類のような瞳。頬はこけていて全体的に細い。
服装は、真っ黒な外套(がいとう)を羽織っている。今六月だよ? 梅雨というかもう半分以上夏だよ? 暑くないの?
という外見だった。
「えと…………」
「なんだ?」
男性は、ギロリと視線を僕に向ける。いや、もともとずっと僕を見ていたのだが、その眼力が強くなったのだ。うん、この人怖い。
害は今の所ないのだけれど……怖い。
「何も……覚えてないのですか?」
「ああ……」
男性は素っ気なく答える。ううぅ……何でほっとかないで助けちゃったの僕。気まずいよぉ……。
とりあえず、今僕の中に浮かんだ選択肢が――
①家に住ませてあげる。
②元いた場所に戻しておく。
③警察に連絡を入れて引き取ってもらう。
――の三つ。
①の家で住ませてあげる、の場合、現在僕と一緒に住んでいる姉に許可が必要である。
だが、結果は見えている。却下に決まっている。
犬や猫を拾って来たわけじゃない、身元不明のオッサンを連れてきたのだ、そりゃ駄目に決まってる。アホだろ。
②の元いた場所に戻しておく。は、うーん、この人帰ってくれるのかな? 帰って欲しいな。というわけで保留。
③の警察に連絡、は一番有効だと思う。だけど……まぁ、最終手段かな、と思う。まだ警察を呼ぶ程の大事になってないし。
という訳で、今は④現状維持にすることにした。
④は今作った。
そんな訳で僕は、姉が帰って来るまで、この男性と一緒にいようと思う。怖いけど。
でも、可哀想だから。
記憶がなくて、家もなくて、何も分からなくて、でも知らない人が助けてくれた、でもその人に怪しいからまた元の場所に戻されるって、すっごい悲しいじゃないか。
「じゃあ、まず……」
「なんだ?」
「あの……お腹、減ってませんか?」
「凄い……空腹だ」
と、男性は答えた。
僕は、犬を拾った訳ではないが、ホームレスを拾った。
そして、育てる事にした。
ホームレス育成ゲーム。うん、今度兄に新作ゲームの企画書として話してみよう。多分却下だと思うけど。
ホームレスのおっさんを拾う小説ってなんだよ……ヒロインいねーよ。
つうかこいつらまだカードゲームについて一切触れてねーよ…………。