それがパンドラだとはな……
―EX1-
ここは、今はもう使われていない雑貨ビルの一つ、その二階で起きた出来事だった。
始めはいくつかの部屋があったと思われるが、その壁を全て取り壊し、無理やり一つの大きな部屋にしたような――大部屋。
そこに、三人の男が向かい合っていた、三人が皆、腕に『デュエルモンスターズ』というカードゲームをプレイするために必要な、
先ほど、三人の男が向かい合っていると記したが、正確に言うならば――一人の男と、二人の男が向かい合っている――の方が正しい。
二人組の男は、凸凹コンビのような、太った背の低い男と痩せた背の高い男だった。
二人とも、七月だというのに真っ黒の外套に身を包んでおり、顔の半分には仮面を装着している。
「お前が誰だかは知らないが」「俺達の邪魔をするなら消えてもらうんだかんな!」
凸凹のコンビのように見えるが、二人の男の息はとても合っており、長年の付き合いの仲だと思われる。
「にょほほほほ――グールズだか愚か者だかは知りませんが――良いでしょう、精々私という邪魔者を排除する為に頑張るんですね!」
二人組に対抗する一人の男――その男の服装も、二人組に負けず劣らず奇抜なファッションだった。
手品師が身に着けるような黒のシルクハットに、仮面舞踏会の参加者が付けるような顔の上半分を隠す白黒模様の仮面、真紅のスーツにまたもや白黒模様の蝶ネクタイ。
まさに奇抜、奇天烈、奇想天外――奇術師と呼ぶのが相応しい――道化師のようにも見える服装だった。
「っていうか、お前昔グールズにいただろ!?」
二人組の、背の高い方、闇の仮面と名乗る男が、奇術師に抗議の声を上げる。
「え? 何の事ですか? グールズ? そんな意味不明な組織に私がいるわけないじゃないですかぁ――にょほほほ」
「嘘付けぇ! てめぇみたいな服装な奴忘れるものか!?」
「だから人違いでしょうね――知ってますか? 世の中には、同じ顔の人間が三人はいるようですよ?」
「お前みたいな奴が三人もいるかっ!? 一人いただけでも世界遺産レベルのファッションなんだかんな!」
今度は背の小さい、光の仮面と名乗る男が闇の仮面に続くように追撃する。
「ですから、気のせいでしょう。さぁ、とっとと始めますよ、二人とも」
「ぐっ、まぁ、いい。邪魔者は排除するんだかんな、いくぞ相棒!」「まかせろ相棒!」
そう言って、三人は皆、腕に装着している
LPの表示する場所に4000という数字が浮かび上がり、
そして、三人は、特に打ち合わせしたわけでもないのに、同じタイミングで同じ言葉を叫んだ。
『
と。
三人は、そう宣言し、四十枚の山札――デッキの上から五枚カードを引き抜く。
最初に動いたのは――奇術師――パンドラと名乗った男だった。
「二対一では私に少々分が悪いここは私の先攻から始めさせてもらいますよ」
パンドラは、デッキの一番上のカードを引き抜く――ドロー。
そのカードを始めに引いた五枚の手札の中に入れ、六枚のカードを見て、パンドラは手を動かす。
一枚のカードを掴み、それを表にして
「私は、魔法剣士ネオを召喚です」
すると、
鎧を着た、剣を構えた剣士だった、金色の髪に青い瞳。
魔法が使える剣士。魔法剣士ネオ。
「そして私は、カードを一枚セットします」
続いてパンドラは、手札のカードを一枚選び、裏向きのまま、魔法・罠ゾーンにカードをセットする。
すると、ネオの後ろに映像化された『デュエルモンスターズ』のカードが裏向きのまま現れる。
「私はこれでターン終了です」
パンドラは自分のターンの終了を宣言し、ターンプレイヤーを次に回す。
次に動いたのは、光の仮面だった。
「んじゃ! 次は俺のターンなんだんだかんな! ドロー」
光の仮面もパンドラと同じくカードを引き、六枚のカードを見て作戦を考える。
そして光の仮面は、この
何故なら、この
「俺は、仮面呪術師カースド・ギュラを召喚なんだな!」
光の仮面が召喚したカードは、南米の原住民族のような、奇妙な仮面を付けたモンスターだった。
体のあちこちに装飾品を身に着け、腰にも同じような奇妙な仮面をいくつも身に着けている。
だが、このモンスターでは、パンドラのモンスター、魔法剣士ネオを倒すことは出来ない。
魔法剣士ネオの攻撃力は1700。対する仮面呪術師カースド・ギュラの攻撃力は1500だ。
モンスターどおしの戦闘だと、攻撃力の高いモンスターが勝つ。
つまり仮面呪術師カースド・ギュラが魔法剣士ネオを倒すには攻撃力をあと200上げる必要があるのだ。
だが、そんな初歩的な事を考えていないわけが無い。
光の仮面は、召喚に続け、魔法カードを発動する。
「更に魔法カード、凶暴化の仮面を発動なんだかんな」
このカードを発動した瞬間、カースド・ギュラの顔に、仮面が装着される。
仮面の上に仮面を着けなんとも滑稽な場面だが、相手のパンドラからすれば笑ってなどいられない。
何故なら、このカードは場のモンスター一体に装備できるカードで、装備モンスターの攻撃力は700上がるのだ。
これにより、カースド・ギュラの攻撃力は2200となり、攻撃力1700のパンドラのモンスターを上回った。
「いけ! カースドギュラで魔法剣士ネオを攻撃!」
カースド・ギュラは、持ち主である光の仮面の命令により、魔法剣士ネオに攻撃を仕掛ける。
この攻撃が通った場合、パンドラの場に自分を守るモンスターはいなくなり、なおかつ次のターンに闇の仮面からの追加攻撃を受けてしまう。
運が悪ければこの
だがしかし、パンドラはこの程度の攻撃など、既に読んでいた。
その対策カードも既にスタンバイ状態だった。
「甘いですね、私は、伏せてあるカードを発動します。攻撃の無力化です!」
魔法剣士ネオの前に、全てを受け止める時空の渦のようなものが出現し、カースド・ギュラの攻撃は通らない。
「このカードの発動により、このターン全ての攻撃は渦に飲み込まれ通りません」
「ぐっ……なら俺はカードを一枚伏せてターンエンドなんだかんな!」
光の仮面は、悔しそうにしながらターン終了を宣言した。
「気にするな相棒。お前が攻撃してくれたお陰でもうあの野郎を守る伏せカードはない」
「そうだな、お前に任せるぜ相棒」
闇の仮面もカードを一枚引く。そして同じようにモンスターを場に召喚した。
「俺はシャイン・アビスを召喚」
下半身が球体、上半身が機械の天使のようなモンスターだ。
攻撃力は1600。これではパンドラの魔法剣士ネオを倒せない。
「更に魔法カード。弱体化の仮面をお前のモンスターに装備!」
闇の仮面は、更にカードを発動した。それは相手のモンスターに装備する魔法カードで、装備されたモンスターの攻撃力は半分になるという恐ろしいカードだ。
これにより、魔法剣士ネオの攻撃力は850まで落ちてしまい、シャイン・アビスの攻撃力1600を大きくした回った。
「シャイン・アビスで魔法剣士ネオを攻撃だ!」
シャイン・アビスは、両腕から光を放ち、魔法剣士ネオに浴びせる。その光を食らったモンスターは破壊され、パンドラの場のカードは0枚と丸腰状態になってしまった。
そして、モンスターどうしが戦闘した場合、負けたモンスターの持ち主はその攻撃力の差だけダメージを受けLPを削られる。。
シャイン・アビスの攻撃力1600から魔法剣士ネオの攻撃力750を引くと、850。
よってパンドラのライフは850削られる。
パンドラの
これが0になった時パンドラの敗北は決定する。
「くっ……やはり二対一は分が悪い。しかし、負けませんよ。一周したので次は私のターンですドロー!」
再びパンドラのターンが回ってきて、パンドラはカードをドローする。
そして、起死回生の一手を繰り出す。
「私は、キラートマトを召喚です」
大きなトマト。いや、それをトマトと呼んでいいのか躊躇するほどの大きさのトマトだった。
これはもはやトマトではない、怪物だ。
果汁ではなく、血で染めたと言っても過言ではない真っ赤なボディに、凶暴な目と口をした化物トマト。
野菜でありながら、他者に喰らい付くような凶暴性を持ったモンスターだった。
だが、非常に残念な事にキラートマトの攻撃力は1400、光の仮面のカースド・ギュラ2200、闇の仮面のシャイン・アビス1600には届かない。
「そして、カードを二枚伏せます。さぁ、ターンエンドです」
パンドラはそれだけしてターンを終了した。
それは、二人のモンスターが強力で、早くも守りに徹しようとしているようにも見える。
だが、パンドラはそんな風には見えなかった。
ただ不敵に、笑うだけであった。
「さぁ、あなたのターンですよ? にょほほほほ!」
ハッタリか本物か、分からないが、二枚の伏せカードはやはり怪しい。
自分の有利にも関わらず、パンドラの不敵な笑みを見て、不安が募る。
「くっ……」
大丈夫、自分がプレイミスをしても、次のターンに相棒の闇の仮面がフォローしてくれる。
光の仮面はタッグ
「俺はメルキド四面獣を召喚だかんな!」
カースド・ギュラの隣に召喚される、四つの仮面を着けたモンスター。
仮面一つ一つに別々の仮面が着けられており、四種類の技を使うといわれている。
その仮面の一つが、パンドラを睨みつける。
だが、これは失敗だ。
光の仮面は、奇術師の奇策に嵌った。
「あなたがモンスターを召喚するのを待っていましたよ!」
「何っ!?」
「罠カード発動!」
パンドラの場の二枚の伏せカードの内一枚が、表になる。
そのカードは、相手がモンスターを召喚した時にトリガー条件、つまり発動条件を満たすカード。
「悪魔の天秤!」
「うげげっ!? しまった~!?」
光の仮面は、そのカードの効果を知っているため、パンドラの罠に、自分が失敗した事に気づいた。
だが、気づいた時にはもう遅い。今の光の仮面の手札には、対抗する術はない。
そして、パートナーの闇の仮面もこの状況をフォローする手がない。
「悪魔の天秤の効果により、私の場と相手の場のモンスターの数は同じになります。私の場にモンスターは一体。そしてあなた方の場にはモンスターが三体」
そう、これは二対一、変則的ではあるがタッグ
つまり、二人のモンスターはパンドラからすれば全員敵モンスター扱いなのだ。
悪魔の天秤の効果により、仮面コンビは場の三体のモンスターを一体になるまで減らさなければいけない。
やはりというべきか、最も攻撃の高いカースド・ギュラを残した。
パンドラは、たった一枚のカードで相手のモンスター二体の破壊に成功したのだ。
「ぐぐ……だが、それでも俺の場にモンスターはある。行け、カースド・ギュラ! キラートマトに攻撃!」
「にょほほほほ――甘い、甘いですよおチビさん!」
「なっ!? チビっていうなー!」
「私は再び罠カードを発動。マジカルシルクハット!」
パンドラは、光の仮面の攻撃宣言と同時に、残ったもう一枚の伏せカードを使った。
パンドラの場に四つの大きなシルクハットが出現し、その一つがキラートマトの上にかぶさる。
そして、高速で動き出す四つのシルクハット。
動きが止まったときには、もう何処にキラートマトが入っているのか分からない。
四つのうち、一枚はキラートマト。残りは空。パンドラは敵のモンスターを破壊する攻めの一手と、自分のモンスターを守る守りの一手を同時にこなしたのだ。
彼のデュエルタクティクスはただものではない。
「さぁ、ここに四つのシルクハットがあります。あなたには見えましたか? 何処に私のモンスターがいるのか?」
もちろん光の仮面に分かるわけが無い。ボクサー並の動体視力があったとしても分かるはずが無い。
そういうので分かるようなゲームではないのだ――当たり前だけど。
「一番右のカードだ!」
光の仮面は、四分の一の確率にかけ、シルクハットの一つを攻撃する。
だが、シルクハットの中は空。空振りに終わった。
そして残るシルクハットは三つ。
「にょほほほほ――さぁさぁ私のマジックショーはまだ――始まったばかりですよ」
奇術師パンドラは――不敵な笑みを浮かべた。
原作をリスペクトさせてみたので、使用カードは漫画オリジナルがいくつかあります。
パンドラかっけーな、自分で書いたくせに…………そう思ってしまう。