-34-
「ニィちゃん、なんでここに!?」
僕は実の兄の姿を見て、思わず叫んだ。
兄は今はもう実家を離れ、遠くに住んでいるはずだ。
「いや、妹から緊急連絡が来てね、飛んできたのさ」
兄がそう言ったので、姉の方を見ると、姉は嬉しそうにヒーロー――兄――の登場を泣きながら喜んでいた。
そういや、姉が昔、兄との緊急連絡ようにポケベル持ってるとか言ってたな。
ポケベルとかまだ使えるのかよ!? とか思っていたが、普通に使えるらしい。
というより、兄が特注で作った機械のようで、GPS機能も付いており兄は姉の位置が一目で確認できるらしい。
姉はグールズに連れ去られる寸前で、そのポケベルのような機械で兄に連絡を入れていたみたいだ。
でも、それでも兄がそんな短時間でここまでこれるわけがない。
兄はもっと遠くにいたんだ。
そのことを兄に尋ねると、兄はいつもの様に優しい笑みで爽やかに答えてくれた。
「僕の知り合いに自家用ジェット機持ってる人がいてね、ちょっと乗せてもらった」
「どんな知り合い!?」
「丁度取引相手だったんだよ」
「どんな取引相手なのっ!?」
「『海馬コーポレーション』の社長」
「すげぇ!?」
兄って日本一でかい玩具企業の社長と知り合いだったんだ……。
そして取引中に取引相手に自家用ジェット機でここまで送ってもらうって……どうなってんだこの兄は!?
「まぁいいや。まずは、そこにいるグールズの残党を排除するから」
どうやら兄は、状況を全て把握しているようで、こいつらがグールズの残党を中心に作った集団だという事を理解しているらしい。
僕の両腕を折ったグールズは、ようやく立ち上がり、兄に向かってガンをつけ、兄に襲い掛かる。
だが、再び頭部に飛んでくるサイコロ。
その一撃で男は怯み、今度は男の手の甲にサイコロが当たる。
手の甲への一撃で武器である鉄パイプを地面に落してしまい、丸腰状態となる。
そして、その丸腰の男の頭を、その手で掴み――ー思いっきり地面に叩きつけた!
『ベキィッ』という頭蓋にヒビが入ったような音がする。
「…………」
「…………」
どうやら、これで全てが終わったようだ。
「弟……妹を助けてくれてありがとな」
兄は、弟である僕に、そう微笑んだ。
「さぁ、帰ろうか」
こうして、僕の非日常は――ひとまず――幕を下ろしたのだった。
-35-
グールズの残党による、姉の誘拐事件が終わり、一ヶ月が経った。
季節は八月となり、夏もピークを迎える。
夏休みになり、僕の第一志望『デュエル・アカデミア』の受験日も刻一刻と近づいてきていた。
その後、兄が呼んだ警察によりグールズの残党は全員まとめてお縄に付き、僕等の平凡な日常は戻ってきた。
そして、僕が一体この一ヶ月何処で何をしていたかと言うと――病院にいた。
片腕ならまだ良いものを、なんとも情けない事に両腕を骨折した僕は、すぐに病院に搬送されて入院生活を義務付けられた。
ギプスを両腕に付けて、そんな生活を二週間続けさせられた。
ギプス生活が辛いのなんのって、蒸し暑いからギプスの中が蒸れて痒い痒い。
硬いギプスで固定されて掻いても掻いても収まらない――つうか、僕には掻く腕が一本のない。両方折れているのだ。
それと『デュエルモンスターズ』が出来ないのも辛かった。
そりゃカードもてないもん。できねーよ。
で、ギプス生活も二週間後にはなんとか終わり、今度はリハビリ生活が始まる。
二週間ずっと付けていた僕のギプスは汗ががっつり染み込んで柔道部の胴着のように汗臭かった。
骨折したため腕をずっと動かさなかったため、肘が恐ろしい程曲がらないのだ。
お見舞いにきてくれた姉が、「こんなん気合でなんとかしなさいよ」と僕の九十度に曲がった腕を百八十度に無理やりしようとして関節外れると思った時は姉に恐怖した。
結局偶然通りかかった看護士の方に止めてもらった。
まぁ、一ヶ月経った今では、真面目にリハビリをしていたので、なんとか以前の関節の動きは取り戻せたと思う。
あと、ペン持つのも結構大変。
あー、骨折とかマジするもんじゃないね。
それに、クラスメイト誰一人お見舞いにこねーし。
来ると思っていた親友の絽場(ろば)君まで来なかった。
ま、そんな地獄の骨折生活を送り、なんとか現在は普通の生活を送れている。
そう、日常が、平凡が、普通が戻ってきたのだ。
そんな僕は久しぶりにカードショップを訪れた。
この町で唯一のカードショップ。『カードショップパンドラ』。
久しぶりの『カードショップパンドラ』は、殆ど変わっておらず、いつも通りの風景だった。
――いや、ちょっとだけ違った。
「シャレイー。
店の真ん中で、身長百八十を超えた強面の男性が、小学生を中心に沢山の人間に囲まれていた。
シャレイは、グールズ事件が終わったあと、僕の家を出ていった。
なんでも、記憶も戻ったし、働き口と寝床も見つかったらしい。
で、その新しい職場と寝床というのが――『カードショップパンドラ』だ。
店長がシャレイを雇い、このカードショップで働いているのだ。
シャレイがここで働いて一ヶ月、シャレイは早くもこのカードショップで受け入れられ、一気に人気者になった。
特に小学生に人気があり、よく遊んでいるらしい――らしいというのは入院中に姉から聞いたから。
記憶が戻り、一人で生きていけるようになり、こうやって、皆から求められている人気者のシャレイを見ていると……あの時僕がシャレイを見捨てなくてよかったと、本当に思う。
「やぁ、お久しぶりですね」
そんな事を思っていると、いつの間にか隣にいた店長が話しかけてきた。
手足が異常に細く、優しそうな風貌な男性だ。
「お久しぶりです店長」
僕も店長に挨拶をする。
「いやいや、君のシャレイ君、なかなか有能でしてね、お陰で助かってますよ」
「いや、僕は何もしてませんよ……ただ、ちょっときっかけを作っただけで」
「いや、君は人を一人救った。それは凄い事だよ。君がやった事は決して間違いではなかった」
「そうですかね?」
「そうだとも、君は正しいよ」
店長は、優しくそう言ってくれた。
「あ、そうだ店長」
「ん? なんだい?」
「すいませんが、今日一日シャレイを借りてもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。一ヶ月振りに再会したんだ。積もる話しもあるだろう。持っていきなさい」
「ありがとうございます」と店長に言って僕は、小学生に囲まれているシャレイに近づく。
シャレイは、僕に気づいたようで、視線を合わせてくる。
「久しぶり、シャレイ」
「ああ。久しぶりだな」
「どう? 最近の生活は?」
「見ての通りだ」
シャレイは、体中に集まる小学生を見ながらそう言った。
シャレイの周りにいる小学生は、皆楽しそうに笑っている。
「楽しそうで、何より」
なんだか、僕のシャレイが知らない子供にとられたみたいな、小さな嫉妬を感じたがそんな感情はすぐになくなった。
「シャレイ。ちょっと僕の家に来てよ」
「ん?」
「久しぶりに会ったんだし、僕の家で一日遊ばない?」
「しかし俺には仕事が」
「大丈夫、店長に許可取ったから」
シャレイは、不安そうに店長の方を見るが、店長は笑顔でシャレイにウィンクを返した、OKという合図のようだ。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
シャレイは、周りに集まっている小学生の集団を引き剥がし、僕についてくる。
「シャレイー」「待ってー」という声が背後から聞こえてくる。ははは、随分と人気者のようで。
そんな無邪気な小学生を後にし、僕は店を出ようとした。
だが、店を出る前に、僕は店長に一声かける。
「じゃあ、シャレイ借りますね」
「ああ。精々沢山話しなさい」
「あと……」
「ん? ないだい?」
「先月は……ありがとうございました――奇術師さん」
「さぁて。心当たりがないなぁ」
そういいながらも、店長はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
次回最終回!