墓守は馳せる遠き日の刹那に   作:愚者_揮毫

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天を斬ろうとする男

初めはただ気になっただけだった。

 

噂好きの同僚から聞いた新しく配属された変わり者の「天気将軍」の話。

 

「この間の一件で軍部の方も何人か上役が亡くなったらしくてね?将軍職なんて何日も空けておくのは流石にダメだろってことでね?辺境流派の継承者でそれなりに戦果を挙げてるってことで今回のポジションに入ったらしいよ?」

 

この間の一件で研究部門から多数、視察と護衛でいたその場にいた軍部関係者。そして住居区画3画にいた一般人が焼却処分になった。そのため研究、軍部共に人材の入れ替えが行われている。

 

「それでね?その天気将軍っていうのが結構変わり者らしくてね?いつも第2層の平原区画の雨の時に訓練をするらしいんだよね?天気将軍って愛称なのかもわからないけど何人もの人が雨のタイミングでプロトデバイスで訓練をする姿を見たそうだよ?」

 

第2層の平原区画はこのリヴァイアサン内部において食料として飼育されている人工生物が放たれている場所だ。定期的に元いた気候に合わせて、暇な化学者によって作られた雨雲発生装置により雨を降らせている場所でもある。

 

「え?どうしてこの話を君に話したかって?そりゃ現状の機械工学の天才で机上で考えず現場とアドリブで規格外の“兵器”を作る天津気刹那という人物が、辺境流派というこのリヴァイアサンにおいてもはや劣化してしまった異物を身につけてる人物を、どのように“改造”するのか気になるじゃん?」

 

人をサイコな技術者のように言い放つこの同僚には、後で座ったとたんに机の引き出しが飛び出すように改造しておこう。

 

 

しかし、同僚の話は興味が惹かれた。現在作成されているデバイスは己の肉体の上限値を上げる仕組みがデフォルトとなっている。しかし、プロトタイプはそういった機構はなく、ただその武器そのものの性能を上げているだけだ。

わかりやすく言えば、とても切れ味の良い武器と切れ味がよく持っているだけで筋力がます武器だ。

訓練とはいえ、聞いた話によれば軍部で推奨しているのは新型デバイスであり、プロトタイプは非常時用として仕舞われているそうだ。

そんな中で頑なにプロトタイプを使用しているその人物は、技術者としても少し惹かれた。

 

(もしも、新型デバイスの出力が合わないとかなら、その旨を申請してもらわないとこちらも何もできないもの。新しく将軍についたというなら、その辺話をしても不思議ではないわよね?)

 

心の中でまるで言い訳をしているように自身の正当性を考えながら平原区画に足を進める。

 

第2層平原区画。エレベーター式で上がってくると、ちょうど雨のタイミングだったようで、背丈の高い草花に雫があたり地面を濡らす。ポケットからコーティング用の端末を取り出し右手で操作する。

 

「さて、ここ広いんだけど見つかるかしら」

 

ゆっくりと平原の中歩みを進める。

頭上から降り続ける雨粒は空中で何かに当たり別の場所へと流れていく。見通しの良い平原のため誰かがいたら割と早く見つかるのだが、大粒小粒構わず降り続ける雨で視界は悪い。また、雨の時間も長くて30分前後なのだから話すために急がないといけない。

 

ここで失念していたのは、別に訓練の最中に話をかけずに、もっと見つけやすいところで探せばよかったとこのあと気づいた。

しかし、別に後悔などはしていない。

 

何故なら、雨の中刀を振るう彼の姿が、余りにも綺麗だったから。

 

 

 

降りたエレベーターから少し歩いたところで彼はいた。

簡素な服装に身を纏いプロトタイプモデル刀を腰に構えただじっと空を見つめていた。

武術自体に疎い私だがそれが“型”なのだろうと見当がついた。

 

見えなかった。

 

不意に右肩から肘、手首と関節が動き抜刀したのだと思ったが、当の刀自体が見えず甲高い音だけが耳に届いた。

知識としてある“居合”と呼ばれる型であるのだろうと予測と、雨に濡れてなお天を睨みつけるような力強い瞳に心が揺らいだ。

 

どれくらい見つめていたのだろう。何度か動きと音を認識していようとも、その刀は見えず、まるで空の雨雲を切ろうとしている姿に私は見惚れた。

 

「いつまで、見ているんだ」

 

声をかけられた。今まで空に向けられていた瞳が私を見ている。

咄嗟に声が出なかった。

 

「あなたは……技術研究部門所属、天津気刹那博士。優秀な天才だと聞き及んでおります。私はウェザ……エモン。つい先日将軍の地位を就任しました。よろしくお願いします。」

「え、あ、よろしくお願いします。私のことご存知なんですね」

「現状各部門で人員編成が行われていますが、その中でもあなた方は一級保護に指定されておりますので、早急に覚えました。」

「なるほど……」

 

言いづらそうな名前の後、業務的に告げる彼の言葉は、必死に覚えたマニュアルをなぞっているように思えた。

私自身のことを知られていたことに対して違和感はない。軍部に提供しているデバイスは同僚ともに作成しているものなのだから、保護の対象として入っているのも頷ける。

 

「……」

「……」

 

お互いに無言のまま時間が進む。

なぜ私はここにいるのだろうか、そもそも問いかけられた質問に対して答えないと失礼ではないか、それ以前に先ほどの業務的ではない言葉はよかった、いやそれよりもじっと見つめられると不思議と体温が上がっている……など頭の中でぐるぐると言葉を考えるがそれらが口から出ることはない。

 

そして時間を動かしたのは対面のウェザエモンだった。

 

「失礼。訓練の時間が終了したため、私はこれで失礼します。」

「え、あ、お時間とらせてしまい申し訳ありません。」

「いえ、それでは。」

 

気が付いたら雨が上がり雨雲は消え、人工太陽が平原を照らしていた。

私はどれだけ見ていたのだろうか、そもそもなぜ来たのかも思い出せないまま、ウェザエモンはその場で頭を下げ、エレベーターの方へと歩いていく。

 

その姿に私は思わず声を上げていた。

 

「あ、あの!」

 

なぜ声を出したのだろうか、どうしてだろうとぐるぐるめぐるも、声を上げた以上はアドリブで済ます。

彼も何事かと立ち止まり振り返ってくれた。

 

「なんでしょうか」

「また、見に来てもいいですか?」

 

まだ見ていたい、そう素直な気持ちを口にした。

彼は少しだけその綺麗な目を広げ、驚いた表情をしていた。

しかしそれでも拒絶はせず、ただ頭を下げ戻っていた。

 

(これは……いいってことだよね?)

 

 

 

これが、最初で最後の私の恋の始まりでした。

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