墓守は馳せる遠き日の刹那に   作:愚者_揮毫

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可憐な研究者の女

初めはただ関わりたくないと思っていた。

 

 

ひと月ほど前に起こった大規模の焼却処分により、リヴァイアサン内部で人員の変動により、俺は将軍の地位へと付いた。

 

幼い頃より祖父により教えられていた流派剣術。その技が今では外界の生物に対して一定上のダメージを与えるのに役だっているのだから、祖父には感謝している。

最初は尖兵として、次に斥候として、徐々に役回りが変わり最後はただ鉄砲玉のように俺は戦場で斬り伏せる役目をもらった。

 

「俺自身、頭で考え他人に命令を下すよりも戦場でただ剣を振るうほうが得意なんだが……そもそも、将軍職の証として“エモン”が進呈されて喜ぶ奴などいるのだろうか」

 

将軍への昇進式を終え、動きやすいいつもの服に腕を通しながら独りごちる。

 

もっと頭のキレるものがいるのではないか、俺に将軍なんて務まるのだろうか、そもそも戦場で功績を挙げたものをより考えることが必要な役職におくのは間違いではないか、俺はウェザーという名前であって、エモンなんてつけたら不格好だろうなど。

 

ハッとしていつもよりも饒舌に回る口に思わず苦笑いを浮かべた。

 

「ダメだな……よし」

 

腰のベルトに訓練用として貸与されているプロトデバイスを差し込む。

頭がごちゃごちゃしているときは何も考えずにただただ剣を振るう。

それがウェザー……ウェザエモンとしての習慣でもあった。

 

 

「今日こそは……斬る」

 

 

第2層の平原区画では雨が降る。それはそこで飼育している動植物の管理のためと聞いたことがあるが、詳しくはわからない。

ただ、外と同じように雨が降るならばと、ウェザエモンは構えた。

 

ウェザエモンが幼少から教わっていた流派は“晴天流”とい自然を冠した流派だ。

そのためその技についても自然の名前が多く使われる。

 

雨が降り続く平原をゆっくりと歩き、人が寄らないだろう場所で天を睨む。

 

「ふぅ……【疾風】」

 

俺は深めに息を吐き腰を落とし、地面を踏みしめる。

本来ならば移動も含めるこの技もただの訓練であれば踏み込みではなくその太刀筋と、抜刀術にのみ意識を割ける。

ただ一度その雨雲を斬る、その思いだけで刀を抜く。

ひとつひとつの動作に意味が有る。刀を前へ抜け、雨で滑るなら力をこめろ。

 

抜いて終わるなら半人前だと祖父にはよく言われた。

次へ繋げれなければその技はただの隙となる。そのため、疾風を放ってなお刀をすぐに収める。

 

「やはり良く馴染む」

 

プロトデバイスと呼ばれる現在使っている刀はウェザエモンの手によく馴染んだ。ただ斬ることしかできない道具だが、それこそが使いやすい。

むしろ新型のデバイスの方がウェザエモンは苦手であった。

 

「あちらは滑りやすいしな」

 

なにより、自身の肉体のリズムが狂う。

始めて握った時にそう思ったのだった。

新型デバイスとは刀自身の切れ味と使用者の肉体をより効率よく動かすために細工がしてあると聞いたが、一連の動作を是としている流派を使うウェザエモンとしてはむしろ使いにくいものであった。

 

 

そんな風に考えながら型を反復する。咄嗟に技が出るように、どのような肉体になろうとも人々を守れるようにと思い描きながら。

 

いつものように第2層で雨雲を斬るようにできないかと天を睨みながら、型を反復させていたら、視線を感じた。このような場所で訓練をするのが物珍しいのだろう。

時々そのようにして同じように軍部の人間からも見られることがあった。

ならば気にせずにおいておこうと、構わず刀を振るった。

 

しかし、その視線は一向に消えない。

 

 

「いつまで、見ているんだ」

 

気にしないように天を見ていた目を視線の方向へ向けた。

 

そこには白衣をまとった女性がいた。

その顔は美しく可憐であり、同時に見覚えもあった。

 

(確かデバイス開発などを行っている天才の一人だった……か)

 

ウェザエモンは記憶を呼び起こしつつも、自身の守るべきものの人と判断し軍人として対応した。

 

「あなたは……技術研究部門所属、天津気刹那博士。優秀な天才だと聞き及んでおります。私はウェザ……エモン。つい先日将軍の地位を就任しました。よろしくお願いします。」

「え、あ、よろしくお願いします。私のことご存知なんですね」

「現状各部門で人員編成が行われていますが、その中でもあなた方は一級保護に指定されておりますので、早急に覚えました。」

「なるほど……」

 

自身の名前を咄嗟にそのまま告げようとしてしまった事以外は及第点だと自身を褒めた。

そもそも、技術屋としての彼女がこのような場所に雨の時に来るのは不思議であった。

 

彼女を見つめるとその服や髪は濡れておらず、空中で雨が何かにあたっているのが見て取れたことから、特殊な道具を使用していると察せられた。ならば濡れることを気遣うのはおかしな話だ。しかし、だからといって彼女がこちらを見ていたのだから、何かしら用があるのだろうか。

 

 

「……」

「……」

 

ただただ無言の時間が起こる。

ジッと見つめるその目は興味。軍部の人間なんて珍しくもないはずだが、かの研究者は不思議そうにこちらを見ている。その視線が妙にくすぐったく、耳に届かなくなった雨音を言い訳に立ち去ると決めた。

 

「失礼。訓練の時間が終了したため、私はこれで失礼します。」

「え、あ、お時間とらせてしまい申し訳ありません。」

「いえ、それでは。」

 

結局何を言うためにこちらを見ていたのだろうか、そのように考えるもまたいずれどこかで出会うだろうと、リヴァイアサン内の移動用エレベーターに足を進める。

すると背後から再び彼女の声が聞こえてきた。

 

「あ、あの!」

 

やはり何かあったのだろうか?足を止め振り返ると、紅葉のような頬をした可愛らしい女性が緊張した面持ちでこちらを見ていた。

 

「なんでしょうか」

「また、見に来てもいいですか?」

 

目を見開いた自覚があった。いや、それほどに驚いたのだろう。

雨の中剣を振る姿が面白かったのだろうか、それとも何か技術屋として不思議に思ったことでもあったのだろうか。

ただの興味であるならば風邪もひいてしまう。拒絶の言葉を発しようと口を開きかけると、声をかけた女性は不安そうに見ていることに、改めて気づいてしまった。

 

 

(何も言わないのが正しい……か)

 

 

ただ頭を下げ、再びエレベーターを目指した。

 

叶うならば二度と関わって欲しくないと、平常を心がけるウェザエモンの脈は剣を振った時よりも早くなっていた。

 

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