墓守は馳せる遠き日の刹那に   作:愚者_揮毫

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刹那のキャラ崩壊注意


優しき男

「例の天気将軍と逢引してるって本当?」

「げほげほ……何、突然」

 

例の件から1ヶ月が経った頃、刹那はとある推論に基づいて実験を繰り返していた。

今日もそんな実験を行うために準備をしていたところだった。

噂好きの同僚のいつものちょっとした噂話だろうと耳を傾けてたらこれだ。

 

「だって会いに行ってからまだ通ってるんでしょ?何人もの人が見たって言うし、何より私も見たし?」

「見てたならわかるでしょ?実験に付き合ってもらってるの」

「実験って例の外界の物質とあの事件のことでしょ?どんな感じなの?」

 

リヴァイアサン内での人材入れ替えが落ち着いた頃、あの一軒は軍部も研究部に対し早急に手立てを考えるように言ってきていた。

様々な分野の科学者たちが二度とあのようなことにならないようにと、様々な対策を考え試し、挫折していった。

 

「私の方は……まだ調整段階ね。そもそも仮称:マナの存在が不可解すぎるもの」

「そうだよね?そもそも私たちは技術者であって生物学者とかではないし?そのへん考えるとやっぱり君は特別なんだろうね?」

 

何が特別なものかと刹那はため息を吐いた。

 

 

 

 

彼と出会ってから一ヶ月が経った。初めは行くたびに驚いた顔をされていたが、実験の手助けを含め最近では訓練の後少し話をしてくれるようにもなった。

 

 

「お疲れ様。」

「ああ。……みていてたのしいものでもないだろうに、よく見に来るものだ。」

「そうかしら。一生懸命取り組んでる姿はその……かっこいいし楽しいわ」

「……」

 

そっと顔を背けるウェザエモン。彼はこちらが褒めたりするとそっと顔を背ける。照れているのか呆れているのか表情は読み取れないが、最近は腰の刀を触るときは照れているのだと知った。もちろん今も触っている。

 

 

「今日のデバイスはどう?」

「……出力は従来のものの1.4倍程度、ただ刀身が重く慣れるのには時間がかかる。それと本来の肉体強化自体もあまり効果が見られていない」

「ありがとう。じゃあこの規格はダメね……量産性に富んで且つコストを安くするのは難しいようね」

 

 

現状は既存の物理法則と僅かな推論に基づいて作成している727式デバイス。出力は従来以上を確保しているが如何せん振れば振るだけ効果が薄れるとはウェザエモンからの言葉だ。

 

「しょうがないだろう。今なお、この惑星の法則は我々の知っているものと異なっていることしか、わかっていないのだから」

「そうなんだけどね……」

 

気遣うような言葉をかけてくれるウェザエモンに嬉しさがこみ上げるが、同時にその法則を見つけきれていない自分にショックを抱いていた。

自惚れではなく、私は人よりも手先と頭の作りが違うようだ。新しい基盤も、新しい理論も構築し実行することは容易かった。それゆえに期待され、今の研究室にいる。

 

 

 

「……天津気」

「何かしら?」

「このあと時間はあるだろうか」

 

思わず目を見開く。何故だろうか、今まで次の規格はどのような設定で統一させるべきか悩んでいたのに、突如として体温が上昇している。

 

「この、あと……あるけど、どうしたの」

「このリヴァイアサンでも多少の気候の変化はある。そのため温かいご飯でも……どうかと思ってだな……」

 

普段の引き締まった様子から一点、どこか歯切れの悪い言葉を顔を背けながら伝えるウェザエモン。

彼がこんなふうに誘ってくれるなんて初めてのことだった。

 

 

「あ、そ、そうね……じゃあ食堂でいいかしら?」

「あ……いや、その、だな……天津気がよければだが……部屋で食べないだろうか」

 

────ふと今日の下着がよぎった。

 

いや、待て私。流石にそれは気が早すぎるわ。そもそも私の性格としてもおかしい。

そうよ向こうは将軍。ただ普通にご飯を食べるだけ。その場合食堂だと変な噂、そう変な噂を立てられるから、そのことに対するこちらへの配慮だったのかもしれない、そうよそうに違いないわ。でもそれはそれで傷つくというか……

 

気が付けば頭を抱え座り込み目をぐるぐるとしていた。

その頭にぽんと固くも温かいものが乗せられる。

 

「すまない、こちらの配慮が足らなかったな。あまり食堂で大事になるのも考えていたが……やはり、男の部屋を選択肢にするのは控えるべきだった。」

 

 

見上げればそれはウェザエモンの手だった。人を守るために剣を握るその手が頭に乗っていた。頭を上げられず、目線だけウェザエモンへ向けると、ウェザエモンは困ったような顔をしていた。

 

彼はやはり優しい人だ。勝手な勘違いで傷つけてしまった。

 

私はそっと頭の手をとり、立ち上がる。

 

「ごめんなさい、大丈夫、むしろあがっていいの?」

「こちらが誘ったんだ。上がっていただけると……助かる」

「っふ……助かるってなによそれ。いいわ、なら向かいましょう」

「ああ、そうしよう。」

 

初めは強く凛々しいその眼に惹かれた。

今は柔らかくも温かい真面目な心に惹かれている。

たった一ヶ月でこれなのだ。外界がどんなになろうとも、私はきっとこの人に恋をしている。

優しくて誰も彼もを守ろうと一生懸命に刀を振るこの人を。

 

 

「それで、ご飯は何を食べるの?」

「鍋でも作ろうかと思っている。」

「いいわね、私も手伝いましょうか」

「ああ、そのほうが早く出来るだろう」

 

二人で並び、一歩の隙間を空けなら部屋へと向かった。


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