「ウェザエモン。私とデートしましょう」
ある程度の雑務を終え、待機時間として自室でお茶を飲んでたところ、仕事着をそのままにどこか焦った様子の天津気が部屋の中に入ってきた。
お互いがそれなりに等しくなって数ヶ月。天津気の研究データも順調に集まり、俺たちは気が付けば半同棲のような形に収まっていた。
それも、研究などには熱心で俺では理解のできない範囲の機械などを作る天津気が、料理が下手だったり、身の回りのものなども意外とだらしなかったりする様子を見て、俺から提案したことだったりする。
なので、現在俺の部屋に天津気が突撃してきたとし特に問題はなかったりするのだが、如何せんらしくはないという点はやはり聞いたほうがいいのだろう。
「どうした天津気。突然“でーと”など……そもそも、今の環境で“でーと”とは些か難しいのではないか」
「ええ、わかっているわ。でもそれでも……!」
やはりなにか焦った様子の天津気だが、心当たりがないというわけでもない。
おそらく原因は、天津気と同じ研究室の噂好きと天津気が揶揄する者だろう。
天津気はこうみえて浪曼を求め、空想を現実へと置き換える天才だが、その実中身は乙女な要素がある。こういう手合いは研究一筋だと思っていたが、存外可愛いところもあったりする。
今回は同僚に唆されたりしたのだろう。
しかし……
「“でーと”か……俺たちの立場だと、やはり小休憩などは可能だが、休暇というものは取れないと思うぞ」
俺と天津気はこのリヴァイアサン内部において責任者と行っても過言ではない立場に居る。そのため、ここで職務を放棄、もしくは休務するというのは難しい。
何故なら今もなお、外界では我々を排除せしめんとする異形が存在し、我々はその対策を行わなければいけない最前者なのだから。
「わかってるわ。だから、その休憩時間を……その、伸ばしてもらって、ちょっとでも……」
頬を赤らめしどろもどろになりながら、気持ちばかり先行している様子の珍しい天津気に、思わず目を見張る。最近は特に戦術機獣というものを製作しようと図面とにらめっこを続け、何日か徹夜繰り返しと机の上には栄養ドリンクが積まれていると耳に挟んでいた。
(一つの息抜き程度にはなるのだろうか……)
ここ数日はろくに会話をすることも、デバイスの調整という名の二人っきりの時間も取れずにいた。一緒にいたいという気持ちは何も天津気だけが持っているものではない。
(今思えば、あの時間も随分と心地の良いものであったな……)
若干うるんだ瞳でこちらの言葉を待つ普段と違いすぎる様子の天津気を見て、思わず天津気の頭に手を伸ばす。
「わかった。俺の方も調整してみる。だからそんな眼で不安そうにするな。」
思えば初めは関わりたくないと、そう思っていたのだと、天津気の頭を撫でながら思わず微笑む。
とうの天津気と言えば、少しだけうつむいている。
しかし、耳などの見える箇所が赤くなっていることからきっと喜んでいるのだろう。
「しかし、“でーと”とは……どこか見たい場所でもあるのか」
「ええ、その……一緒に工廠に行ってくれない?」
「工廠……今天津気が研究している兵器が保管されている場所という認識だが……
工廠……天津気が現在作成中兵器の置き場だ。
天津気だけではなく、様々な技術者がそこで開発に勤しんていでるという。
「デートもそうなんだけど……ウェザエモンに……将軍のあなたに見て欲しいの」
工廠。正式名「機舎」。そこには2m大の棺桶のようなものがあった。
「なんだ……これは」
「外敵に対抗するために作成した試作23号機全身パワードスーツ。今のところ試作の域をでなくて……」
どうやら、戦闘用装束鎧の一種のようだ。
「これを、俺が試せばいいのか?」
「いいえ、既にモデル人形で試してみたの……おそらくあなたが入っても同じ結果だと思う。」
「それで、その結果というのは?」
「強いて言うなら……そうね、動く棺桶かしら……全てのデータにおいて外敵にかなわない。それでどころかわざわざ死ににいくのを手助けすることになるわ」
ぱっと見の印象と天津気の評価で益々棺桶にしか見えなくなるそれを、天津気が近寄り手をかざす。
「これを製作したおかげでどうにかロジックが固まったの。これで奴らに一泡吹かすこともできる。」
「なんと……この星のルールがわかったのか?」
「いいえ、私ができたのはルールを解明するのではなく、どうにかその原理を言語かして当てはめたに過ぎないの……そこでねウェザエモン」
改めてこちらを見つめる天津気の目はどこか遠くを、俺を見ているようで、違うような目をしていた。
「あなたにお願いがあるの」
「なんだ」
「私はこれから誰もが使えるような汎用性に富んだものを作る。そこであなたには、そのテストをお願いしたいの」
「それは今までのデバイスとは違うのか」
「ええ、まず一機は既に作成してあるのだけれど──それは今のこのリヴァイアサンにおいて使えるのはあなただけ」
「……」
現在リヴァイアサンには約10000人以上の軍人が所属している。それは当初の人口から大きく削られた状態だ。そしてその中には俺以上の技巧者は少なくとも10人。しかし、そのものたちを除いて俺が使えるというのはどういうことだろうか。
「私がこのパワードスーツの後に作成した特別型戦術機獣プロトタイプ……麒麟よ」
そこには巨大な鋼鉄の馬のようなものがあった。
「これはその……今までのデータを元に仮称:マナをエネルギーに変換して動くことのできる機械。それでいて使用者のモデルデータを参照し、最適な形で装着することができるの」
「……そこに俺のデータを入れてあるわけか」
「ええ、そうよ。だって……それ以外の詳細なデータがなかったんですもの」
なるほど、それは確かに現状俺のみ。しかも俺の動きによって最適な形で装着ができるということは、この馬に乗るだけではなく、そのままなにかしら動かすことが出来るのだろう。
「それで、これを試すことで量産を考えるということか」
「あ、いいえ、これ一機作るだけで小型の戦艦ぐらいのコストを使うの……流石に量産は不可能よ」
「なら、俺は何を手伝ったらいいんだ?」
元々は天津気はテストをお願いしてきた。ならば、量産こそ無理なもので俺は何をやったらいいと言うんだ。
「これからいくつか作る予定のダウングレード版。もっと言うならば機能分割型の戦術機獣をテストして欲しいの。流石にそれにまで使い手のデータを入れたら全てあなたのになってしまうし。」
「確かに。ふむ……了承した。では、天津気」
「なにかしら」
「元々は“でーと”をしに来たのだろう」
そういうと先程までどこか遠くを見ていたような天津気が固まり、目を見開いた。
おそらく伝えなければという気持ちと、研究意欲のようなもので忘れていたのだろう。
「……流石にここからほかの場所というのもあれだ、どこか座れる場所はあるか」
「え、ええ。こっちにあるけど……」
「ならそこで、この場所について話してくれないか」
「話?いいけれど……デート?」
「“でーと”とは言えないかもしれないが……それでも、残り少ない休息の時間を歩き回るよりは、この天津気にとって慣れた場所で天津気とともにいたほうがより良い逢瀬となるものかと……その思ったわけだ。」
なお、このあたりの話は全て先輩将軍が日頃より言ってくる小言の一つだ。
少ない時間に張り切るよりも、その日常をともに過ごしたほうが有意義である、と。
天津気はおそらく、これが俺の言葉でないことも見抜いたのだろう。
さっと顔を背け先行して手を引く。
ただ一言小さくだが確かに届く声で
「私も、そのほうがらしくて好きよ」
そう呟いた。
余談だが、その後休憩時間いっぱいまで天津気は機獣のことを話をして、それに対して俺はつまらない駄洒落を口走りしばらくの間、天津気からは駄洒落禁止と言い渡された。