墓守は馳せる遠き日の刹那に   作:愚者_揮毫

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何ヶ月ぶりの更新か、そしてそれだけに難産でした……


英雄は彼女を希う

昨日まで一緒に騒がしく盃を回していた者たちがいた。

昨日まで楽しく明日について語っていた者たちがいた。

昨日までけして悲しむことはないと愛する者を抱きしめていた者たちがいた。

 

ああ、わかっていた。そんなことは討伐隊が組まれた時点で皆わかっていたのだ。

ここが死地であると。

 

それでもなお、明日のために行くしかなかったのだ。

 

 

赤く染まるゼリー体がまるで波のように襲いかかる。

中心にコアのようなものが有り、掴めることは既に理解している。

ゼリー体がこちらを蝕まんと抗うも、それより早く掴み叩き潰せばいい。

 

「ッシ!」

 

コアを中心とした一つの塊を左手で掴み地面に叩きつけ、右手の刀でコアを裂く。

減らせども減らせども溢れ上がるゼリー体に対して、討伐隊は既に壊滅。

一部生存者のみを逃がし、こちらは殿が数名いたがそれすらも俺を除いて死亡を確認。

 

(この身体になってから6度目の戦場だ。敵味方の区別がつき、救える命は多段にあった。後悔はしていない。後悔など、出来ようもない。)

 

意地でもこちらを取り込み新たなコアにしようと学習したような動きをするゼリー体に、刀に力を込め、意識を深め突き刺す。

 

「火砕龍」

 

マナを使い火柱を立たせ、燃え盛る炎は次第にゼリー体を焼き払い煙を立たせる。

 

「灰吹雪」

 

刀を中心として黒煙を収束させ中いる全てのゼリー体を煙で埋める。

煙が晴れる前に足に力を込め駆け出す。

殿といえどもけして死ぬつもりで残ったわけではない。

 

(データさえ渡せればきっと役立ててくれる。)

 

ただ一心にリヴァイアサンにこの戦闘データを持ち帰るために足を進めた。

 

 

 

 

「戻りましたか、ウェザエモン将軍。体調は如何でしょうか。」

 

完全防護服により顔はわからないが、声の調子から恐らくアリスだろう。

 

「此レガ、データダ。気二スルナ」

「受け取ります。大部進行している様子ですね、天津気博士のところへ行かないのですか。」

「アリス。現在俺ハ一級監視下ダ。本来ナラバ、オ前モ会ウベキデハナイ」

「……そうですね、データを預かりました。」

 

どことなく何か言いたげな様子だが、現在のリヴァイアンにおいての重要な人物には間違いない。

重要人物が故に消して会うことができない刹那と同じ立ち位置なのだ。なんと言われようとも、これでは会わない意味がない。

 

「俺ハ戻ッテイル。何カアレバ何時モノヨウニ」

 

ゆっくりと足を緊急安置室へ進める。

けして誰も入ることのない、感染隔離室だ。

 

 

●●

 

身体に異常がで始めたのは将軍の地位を賜ってから3度目の戦場。この星の竜と思われる生物の脅威調査の時だ。

刹那とともに研鑽したデバイスと技は異様な力を放つようになった。

本来ならば生体電流による筋力の軽度増強と相手に干渉する晴天流の雷鳴が本当に電気が放てるようになるなど……誰が思おうか。

それ以降は刹那の仮説のもと検証を行い、俺はマナによる影響を過分に受けているのだと判明された。

 

「明日ノ為ト、ソノ結果ガ、英雄……カ」

 

俺自身のものではない。おそらくは人類による祈りがマナを通して影響したのではないかと。

 

(あの時の刹那の顔は今でも忘れられん)

 

伝えなきゃいけないと、どうにか出来ないかとよく考え優しい彼女が恐らく3日3晩寝てもいないだろう状態で、それでもけして泣かず、研究者の顔で伝えてくれた。

 

そこから先は1戦場ごとに力が増していく速度も早くなっていった。

しかし、力を増すがゆえに、徐々に俺が俺ではなくなっていった。

確実に脳のリソースが「戦い勝利するための英雄」に作り替えられていたのだ。

 

「アァ、イツカラダロウカ、刹那ト会エナクナッタノハ」

 

この部屋を用意ししたジュリウスにはどうにか刹那には伝えないでくれとは言ってある。

この身体は恐らく、あと1度が限度だろう。

それ以降は敵も味方もないただ「戦場で勝つためだけの怪物」になってしまう。

そんな確信めいた予感があった。

 

「…‥刹那……」

 

ジュリウスには最後までこの部屋のことは伝えて欲しくはない。

 

○○○

 

もう何日寝ていないだろうか、そんな事を考える程度には今この歩みを進めている時は余裕があるのだろう。

無機質な扉の前で三度のノックと名前をいう。

中から了承の声が聞こえ肺の中の空気を軽く吐き中に入る。

 

「ジュリウス。ウェザエモンの様子は、進行度は、今日の戦場での状態はどうなの。」

「矢継ぎ早に言われても困る。まず、様子は割と酷いようだ。進行度もデータを確認した限りあと1,2度戦場に行けるか怪しい状態だろう。今日のデータは既に確認したのだろうから、戦場での状態も理解できているのだろう。」

「ええ、そうね。理解しているわ、でも私の理解とあなたの理解があっているのかの確認よ。」

「天才天津気博士に理解確認する日が来ようとはな。」

「……それで、いつになったら教えてくれるの。」

 

もう何度目かわからない問をジュリウスに告げる。

彼も彼で肩をすくめ困った顔でこちらを見つめた。

 

「何度も答えているが、これはウェザエモン将軍の嘆願だ。教えることはできない。」

「……わかってるわ、私だってこの状態でいつ暴走してもおかしくない、そんな彼に会いにいくのが危険であるのは散々考えたわ。だから教えて」

「考えたからといって伝えることが出来る話ではない。」

「なら、一度だけ、お願いジュリウス。護衛でも何でもつけていい。一度だけ彼と話がしたいの。」

「……人間は1度教え、1度認めると、自然とそれ以降も続いてしまうもの。自分だけは大丈夫、自分だけは絶対に……天津気博士、あなたはこの星に来て見てきましたよね。人間とは選択肢が増えると暴走してしまう可能性があることを。」

「……ええ、そうね。ごめんなさい。わがままを言ったわ。」

 

若くして指導者になってしまった子に対してこれ以上のことは言えない。

一度新鮮な酸素を取り入れ、懐から封筒を机におく。

 

「なら、これをウェザエモンに渡して頂戴。中身を見てももちろん構わない。これだけは、渡して欲しい。」

「……わかった。それについては確認の後ウェザエモン将軍に渡そう」

「そう、ありがとう」

 

頭を下げ部屋を後にする。

何もない廊下をただただ口を強く閉めながら研究室へと向かった。

 

 

●●●●

 

とある日の夜。

一通の封筒が渡された。

書いた人物など、中を見なくとも今の身体では匂いでわかってしまう。

 

(また、ちゃんと休めてないのか刹那)

 

好まない香水などで体臭を消し、疲労から来る匂いと独特な油の匂いが混ざった彼女の痕跡。

 

ゆっくりと封筒を開け、中に入っていた数枚の紙を広げ目を通す。

 

 

『ウェザーへ

 お久しぶりです。というのも変な感じがしますね。あなたと出会ってからまだ2年ぐらいでしょうか、そこからこうして会えなくなって約4ヶ月。

 あなたの状態については把握しています。毎度毎度戦場後のデータは把握させてもらってますから、相変わらず無茶をなさっているようで、

 現在のあなたの身体はマナ粒子による変化で今までの肉体とは異なっています。それはあなた自身も自覚があると思っています。

 直接は確認出来ていませんが、全力で戦場に出れるのは良くても1,2回だと思います。消して無理をなさらないでください。

 また、将軍の立場であるあなたがその部屋に入りバハムート一番艦の情勢はやや研究者側にその指導権が移りました。

 このあたりあなたは、無頓着でしたのであまり気にはなさらないでしょう。

 それと、インベントリアに新しくデバイスを入れておきました。あなたなら使いこなせると思います。』

 

 

2枚目までを読み一度天井を見上げた。

無機質だがけして独房のようなものではなく、ただ少し寂しさのようなものを感じてしまった。

 

(ここまでは……そう、研究者としての一面だろう。肉体については毎回上げている戦闘データから目算だろう。ロクなサンプルも無い中で、こちらを把握しているのは流石だ。)

 

手首につけている腕輪から簡単にその中身を確認すると、見慣れない一本の大太刀が入っているのが確認できた。

恐らく、それが手紙に書いてあるデバイスなのだろう。

 

もはや形だけになりつつある肺に空気を入れ、体温を落とし残り手紙を確認する。

 

 

『時に、会えない間あなたはどのようにお過ごししてましたか?私の方はあなたと一緒に研究していた以上に忙しく、日々成果を上げろと禿げたおっさんに文句を言われていたりします。

 あ、一応読んで確認しているであろうジュリウスもこの件については、言わないでくださいね。

 そう、そのジュリウスですが、あなたの部屋については教えてくださいませんでした。だからこのような形で手紙を渡してもらいました。

 そのことについて不満はありますが、それでも理由はわかっているため文句は言いません。

 ですが、私としてはどのようなことであっても、あなたに会いたい。そのために私はマナについて研究を重ねています。

 あなたという英雄の偶像はこのバハムート一番艦だけではなく、他のバハムートにいる同胞による微かな願いによって固まってしまっています。

 私はそれを剥がす手段を調べています。

 だから、     だから、お願いウェザエモン。限界だと思ったなら戦場には出ないで、絶対に私が元に戻すから。

 ……私は、あなたに会いたい。 』

 

 

手紙はそこで終わっている。ところどころ擦られた跡などあることから……

 

(恐らくは、泣かせてしまったのだろうな)

 

この身体になってしまったことに対しての後悔などはない。それは前回の戦場でも身に染みたことだ。

 

「俺ハ、護ルダケダ。」

 

今出来ることは護るだけだ、だがそれでも、叶うことならば。

 

「モウ、一度ダケ……」

 

刹那はおそらく気づいているのだろう、この身体の限界を。

そしてだからこそ手紙を渡したのだろう。

しかし、俺は軍人であり、戦士だ。

ならば、もう一度戦場に出ることになるのだろう。

 

(そうなったとしても……絶対に戻ってこよう。)

 

 

 

静かなる月の日にそう胸に刻んだ。

 

 




そして次は満月の夜に。
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