ただ、今日は満月だし、解釈的にはこれでまとまったので投稿です。
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その日は突然やってきた。
『緊急放送、緊急放送。原生生物による攻勢を確認。戦闘員は直ちに迎撃準備を行ってください。』
リヴァイアサン艦内で慌ただしく人々が行き交う。
非戦闘員の民間人や研究職はそれぞれ事前に指定されているシェルターの中へと移動を開始する。
いくらリヴァイアサンであってもこの星の生命体が如何に危険であるかは、全ての人が理解している。
だからこそ、私は胸騒ぎを治めるために、人の流れに逆らいながら走り出した。
「ジュリウス」
以前のように無機質な扉を叩くこともせずに目当ての人物の部屋と入り声をかける。
声をかけられた人物は私が来るのを予想していたのか顔をしかめたままこちらに視線を向ける。
「天津気博士。現在は艦内アナウンスでもありましたが、現在は戦闘準備中です。特別顧問であっても、あなたも技術職です指定の場所へ移動してください」
「聞くことを聞いたら移動するわ。ウェザエモンはどこ」
「……何故今ウェザエモン将軍のことを?」
戦況について聞かれると思っていたのだろうか、目を見開き聞いてくる。
私も正直この胸騒ぎについて説明ができない。
しかし、もし説明として言葉を出すとしたらこうだろう。
「勘よ。科学的に説明ができない、天津気刹那としての勘。もしかして戦場に出てるんじゃない」
「……天才であっても説明ができないのでしたらこちらとしてもそれに説明を求めることはできないのでしょう。しかし、同様にこちらもお答えすることはできない、機密事項です。」
いつもよりも無機質な口調なのはこの場所にいるのが私とジュリウス以外にもうひとり人物がいるからこその配慮なのだろう。
軍部所属の将軍の一人。ウェザエモンよりも先輩であり幾つもの戦場をかけた故に左腕と右目を失った人物。
「悪いな、天津気博士。シャングリラ博士にはこちらから情報を止めてもらっている。あまり責めないであげて欲しい。」
「……あの状態になる前のウェザエモン将軍からお話は何度かお聞きしております将軍」
「それは感謝を。といっても今は軍部所属の敗残兵です。強いて言うならデバイスの調整ぐらいですかね。……だからこそ天津気博士、今あなたに行動されると困るんですよ。」
温厚だが食えない、独特の空気感を持つ人物だ。
気が付けば入ってきた扉側に2人軍服を着た人物が居る。
「俺も本来ならばこれ以上はあいつには戦場に出てほしくはないんだがな、如何せんこれ以上は被害が大きすぎる。」
「それは遠まわしに出撃しているのと同じ言葉では?」
「さあどうだろうか。ともかく、戦場が落ち着くまでは後ろの護衛の元行動していただきたい。」
「……わかりました。」
ここで下手な言葉を言えばおそらく隔離になってしまうだろう。立場が立場ゆえにこのような監視で落ち着いたと考えていいはずだ。
私はさっと頭を下げ扉を出る。同じように控えていた軍服二名も後ろからついてる。
「(ウェザエモン……)」
胸騒ぎは一向に収まらない。
●●
血の匂い
刀が舞う。矢が舞う。光と熱が飛び交い肉片が飛び散る。
目的はただ一つ、敵対者の排除のみだ。
ここにいる理由も、ここに存在する理由も、全てが“守る”ためだ。
英雄であるために、ただ、“ーーー”を守るために……
身体は最適を取る。彼の獣が何であれば、自身がいかに傷つこうともただ、斬ることに徹する。
使う獲物が壊れれば無意識にも新たな獲物を虚空から呼び起こす。
それはまだ真新しい大太刀、だが不思議と手に馴染む。
上段に構え最適ゆえに言葉を紡ぐ。
「晴天大征、流転ト手向ケヲ以ッテ終極ト為ス」
襲いかかる刃であっても、動き回る肉塊であっても、全ては流れのまま。
「晴天転ジテ我ガ窮極ノ一太刀。我、龍ヲモ断ツ……【天晴】。」
もはや目に映る全ては時が止まったように静止する。
あとは上段からただ下ろすのみ。
周囲の敵対者を屠る。ただの一太刀、されど奥義の一振りだ。
手に馴染む大太刀の性能だろうか、普段よりも広範囲に及ぶ屠るための一撃は戦況を打破するのに十分な一撃となった。
今までならばそこで落ち着けるだろう。戦線を整え次が来たとしても大丈夫なように構えるだろう。
だが、私はそれをしなかった。
そのまま大太刀を地面に刺し力を込める。
「火砕流」
地面より吹き出す火柱は龍を形どり敵対者を飲み込んでいく。
まだだ、まだ殲滅できていない。
ならば、整えることもなくただ、倒すのみ。
何故ならば、ここはこれ以上通すことはできないのだから。
○○○
やってしまった。
急いで外に出るまでのハッチへ向かう。
私に付いていた監視は避難途中の研究室で気絶させた。
かなり手荒なことをしてしまったけど、この際罰はあとで受けよう。
「急がないと……あの人が、人に戻れるうちに……」
先日インベントリアにいれた新型デバイスには大気中のマナ因子を取り込む機構が組み込まれている。
従来のデバイスにも少なからず組み込まれていたが、新型デバイスはウェザエモン用にカスタイムズされている。
ただし、通常時はマナ因子の過剰貯蔵にセーフティーをかけているため、もしも今使っているならそれは従来と変わらない。
「こんなことなら、さっさと伝えておけば……」
一方的であるが出ないで欲しいと伝えたのに、それなのにあの人は戦場へと行ってしまった。
私がそれを分かってくれると思ってしまったから。
「お願い、間に合って……」
私はハッチから戦場へと足を踏み入れた。
●●●●
火柱の龍により燃え盛る肉塊から煙が立ち昇り円を描く。
徐々に固まる黒煙は次第に渦に変わり生き物を窒息させる。
「灰吹雪」
もう、守るべきは全て下がらせた。
ここに寝転ぶは覚悟を決めた同志たち。
それらの想いをただただ感じつつ一心不乱に刀を振るう。
時に神速の抜刀を、
時に強烈な叩きつけを、
時に上段からのひと振りを。
ただ、殲滅するために、ただ、ここを守るために。
不意に鉄錆とヘドロのような匂い以外が鼻腔を刺激した。
汗と疲労から来る匂いと独特な油の匂いが混ざった、己にとっての好きな匂い。
「刹……那」
もはや猿声のような叫ぶ声もままならないかすれた声が己の喉から発する。
視界に映るは肉塊だが、それでも確かに守るべきもの気配を感じる。
「ウェザエモン!こっち!」
足を進める。迷いなどはない。守るべきものが戦場にいるただそれだけで、その場所へ行かなければならない。
己は”英雄”だからこそという気持ちと、一目見たいという”俺”の気持ちが重なり邪魔なものは切り捨てる。
「刹……」
「……!喋らなくて良いわ、1分……30秒頂戴、すぐに調整する。」
何をとは聞かない。ならその30秒を稼ぐだけ。
デバイスを渡し別の太刀を取り出す。
流れ込む力の奔流は己を狙うのではなく明確な意思のもと、守るべきものを狙っているようにも思えた。
「旋風」
右へ左へ渦を巻いた刃が襲いかかる肉塊を切り刻む。
大きな一撃が襲いかかるも上段から断ち切る。
どれだけが来ようとも消して傷つけさせないとしていた。
30秒経ち油断はなかった。しかし、匂いには異物が混じった。
振り返ると切り捨てた肉塊が刃となり守るべきものを貫いている。
「セ……ツ……ナ!」
距離を詰め肉塊の刃を取り除き、抱き抱える。
今すぐにでも戻れば治る可能性は高いと判断しすぐにでも戻ろうとするが、”英雄”がそれを許さない。
今この場を動けばすぐにでも蹂躙されるだろう。届けて戻る間に戦線は崩壊する。
後方部隊での戦線の引きなおしなど未だに整ってなどいないだろう。
そうでなければここに守るべきものがいることなどありえないのだから。
「これ……したから……ごめん……ね」
か細い声で刹那が呟く。
潤んだ瞳はただ未だ脅威が消えぬ肉塊を睨み、ただ、デバイスとこちらの服を握っている。
「むり……しないで」
吐血。すぐにでも動かせばこの状態でも助かるだろう。
調整したというデバイスを使えば今だけはウェザエモンとして動けるのだろう。
ゆっくりと刹那の身体を地面に置き刀を構える。
故にこそ、俺はこの刀を振るおう。
「……我ガ一太刀ヲ以ッテ手向ケトス」
この一撃で敵を倒せばすぐに間に合うだろう。
なら、全身全霊を以て敵を倒そう。
居合の態勢を取りイメージをする。
全てをなぎ払うただ一撃を。
「断風」
デバイスに吸収されるマナを無理矢理に抜刀の刃に上乗せし放った。
そこで、意識が朧げになった。
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私はもうもたないだろう。
呼吸も荒く目がかすみ、既に四肢の感覚もない。
もっと言うならば意識がかすかにあるだけ奇跡というレベルだ。
このままリヴァイアサンの治療システムを使っても一命を取り留めるまでにはいかないだろう。
色々と思うところはある。それでもここで終わるのが運命というならば仕方ないことと思ってしまうのもまた私だ。
後悔はたくさんある。残しているものも山ほどある。
一番はウェザエモンだ。このままデバイスを使えばある程度したら良くなるはずだ。
(そうしたら……また、一緒にいられたのにな)
だからこそ、あの人が私が死んでまで私に縛られて欲しくない、人として偶像ではない英雄としてあの子達を支えて欲しいとさえ思ってる。
(だから……神様でもなんでもいい、叶うならあの人がもし、縛られてたりしたら……殴ってでも止めてくれください)
***
これは明るく照らされた月の刻に起こった天才の死と墓守誕生の話である。
これにて一旦メインは終わりですかね。
あとは別途また適当な新月だったり満月だったりでウェザエモンと天津気刹那のお話を投稿できたらいいなと思ってます。