これはかこがパトレンジャーになってから翌日の話。
ミッドチルダ、そこは魔法が科学で再現される世界で、管理局が指定した第一管理世界。
そこでは鳥のような生き物を連れたピンク髪で長い三つ編みを垂らした少女(?)が他の人と一緒にゴミを集めていた。
「…よいしょっと!
ふぅ、これでこの辺りのゴミは取れたかな、ヒポグリフ?」
ヒポグリフと呼ばれた生き物は少女(?)の周りを飛びながら頷く。
「おい嬢ちゃん、そっちのはもう全部集まったのかい?」
「はい、この辺りで見つけたのは、これくらいです」
「おぉ、こんなにたくさん!
嬢ちゃん、中々熱心だねぇ!
うちの若いもんにも見習って欲しいもんだ」
「いやいやそんな、ボクは大したことはしてないですよ。
それにボク、女じゃなくて男ですから」
「えっ?」
「じゃあ、ボクのボランティアもこれでおしまい!
じゃ、バイバーイ!」
思わぬ発言に呆然とする男性をよそに、少女(?)は先ほどとは打って変わってフランクな口調でその場を去った。
少女(?)、いや少年の名はアストルフォ・ローラン、16歳。
ミッドチルダの魔法学校に通う学生で、ボランティアにも参加している。
見た目はどこからどう見てもボーイッシュな少女に見えるが、れっきとした男子で、趣味で女装をして、服を改造できるほどに手先が器用である。
それを証拠に、彼が着ている服は元々男子用の制服で、制服の改造が学校でも許されてることであることから、自ら改造して、ズボンもショートパンツにしたり、上着やカッターシャツにはフリルを付けたり、そのズボンの上からスカートみたいな装飾が付いていたりと、いかにもアイドルが着てそうな制服姿になっている。
また、彼の家は所謂大富豪であり家自体も屋敷で執事も一人ついていて、両親は管理局を通して様々な世界と貿易をしている。
彼の隣を飛んでいる鳥のような生き物はヒポグリフ、アストルフォの使い魔にして相棒または家族である。
鳥のような生き物と言われるのは、鷲にも似た鳥でありながら馬の下半身を持っているからである。
元々はただ珍しい鳥だったのだが、幼い頃のアストルフォが死にかけだったヒポグリフを助けた時に光って変化してこのような姿になった。
それ以来アストルフォのことを慕うようになり、こうして傍を飛んでは何かとサポートをしてくれる賢い生き物なのであった。
「ふっふ~ん♪
さーて、今日はどうしよっかな♪
…?」
スキップをしながら歩いていると、ゴミ捨て場に子猫がゴミ袋の山に埋もれているのを見つける。
しかもよく見たらゴミ袋に挟まって苦しそうだった。
「…っ、大変だ!
待ってて、すぐに出してあげるから!」
アストルフォはすぐさまゴミ袋をかき分けて子猫を持ち上げる。
「もう大丈夫だよ、さぁ、体洗ってあげるから」
アストルフォは近くの公園の手洗い場で子猫の体を洗っていく。
子猫は体を洗われて気持ち良さそうに目を細めて、洗い終わると体をハンカチで拭いていく。
その後で子猫が自ら体を震わせて水分を落としていく。
「えへへ、もう大丈夫だよ」
「あっ、ここにいたんだ…!」
アストルフォが子猫を撫でていると、後ろから男の声が聞えてので驚いたのか、そのまま子猫はどこかに行ってしまった。
「あぁ行っちゃった…!」
アストルフォは男の声も気にも留めず子猫のことを考えてると、ヒポグリフがそれどころじゃないと言わんばかりに服を引っ張り振り向かせる。
後ろを振り向くと、そこにはフライトジャケットを羽織った刈り上げの男が息を整えていた。
「…あの、どちら様です?」
「はぁはぁ…、あーごめんごめん。
君が、アストルフォ・ローランくんだよな?」
「あってるけど、おじさん誰なんですか?」
「ふぅ、俺は亀山薫、時空管理局特命係の職員で、君に話があってきたんだ」
「…管理局の話ならお父さんたちの方が向いてると思うんだけどなぁ」
亀山薫と名乗る男に訝し気な表情になりながらも言葉を返す。
「じゃあ、君が以前倒れたことについて、心当たりがあるって言ったら、どうするんだ?」
「…、何でそんなことを…!?」
何で知ってるのかと眉を顰めるが、近くで子猫の悲鳴にも似た鳴き声が響き渡る。
「今のは、猫?」
「まさか、さっきの子猫じゃ!
ごめん、話はまた後で!」
それだけ言うとアストルフォは子猫の声が聞えた方向に向かって走りだし、亀山もついていくように走る。
「このあたりのはずなんだけど…!」
しばらく走って辺りを見回すと、そこには黒い怪盗風の格好をした男が乱暴に子猫を掴み上げ、子猫は抵抗するように爪を立てて引っ掻こうとするがその小さな体格故全く届かない。
「…この世界にも転生者がいるとは思っていたが、まさか猫の特典を持ってるとはな」
「誰だお前は!」
「そこの君、今すぐその子を放せ!」
「民間人は黙っててくれ。
こちらとしては面白い力を試すためにも必要なことなんだ」
「…なに、言ってるのさ」
「何をする気だ?」
「こうするのさ!」
すると、黒い怪盗が懐から歪な仮面を取り出し、それを子猫の顔に取り付けた。
瞬間、子猫は悲痛な鳴き声をあげ、体が青い炎に包まれ、二本の尻尾を持つ巨大な化け猫に変わった。
「これは、特典の暴走!?」
「暴走…?
一体あの子に何をしたんだ!」
「何、ただの実験だ…!?」
黒い怪盗が言いかけたところに足元に銃弾が撃ち込まれ、そこに変身したバンとかこがやってきた。
「そこのお前、動くな!」
「ほぉ、この世界には転生者の他にも戦隊がいるのか。
だが…」
そう言うと黒い怪盗は懐から銃を取り出すが、その銃の形はバンたちが持ってるVSチェンジャーに酷似しているが黒く、その上にはトリガーマシンとは別でダイヤルの付いた飛行機のようなアイテムがセットされていた。
「それってまさか、VSチェンジャー!?
でも、何か黒い」
「何で、あなたがそれを…!」
「さて、そこまで教えてやる義理はないな。
ただ、これだけは教えてあげるよ」
一息区切ると、黒い怪盗は銃を下に向ける。
「僕はルパンブラック、能力が作動するのか実験で来たのさ」
「実験…?
じゃあ、お前がこの状況を作ったってのか!?」
「そうとも言えるね。
いやあ、まさかただの実験のつもりで試したんだけど、ちゃんとこの子の特典を暴走出来て良かったよ。
人間以外に試した事なかったからね」
それだけ言って、ルパンブラックの足元が爆発し、姿を消した。
「なっ、消えた!」
『暴走させておいてなんだけど、早くその子を止めないと、死んじゃうよ?
ま、せいぜい死ぬ気になって頑張りなよ。
それじゃ、いずれまた会おう』
「くっ!」
ルパンブラックを追いかけようとした途端、化け猫が立ち塞がり、燃え盛る前足でバンたちを凪ぎ払おうとする。
「…っ、危ねぇ!」
バンは近くにいたアストルフォを庇い、ヒポグリフも空を飛ぶ形で避ける。
「おい、大丈夫か?」
「えっ、うん、ありがと…。
それよりも、あの子、何でこんな!」
「あれは、特典の暴走なんだ」
「特典の、暴走?」
「あの、失礼ですが、どちら様ですか?」
避けて物陰に隠れているときに、亀山が答える。
「君たちはバンくんとかこちゃんだな?
俺は亀山薫、右京さんと同じ時空管理局特命係所属だ」
「右京さんの同僚、ですか?」
「あぁ、だが今はそんなことよりもだ。
早くあれを何とかしないと…!」
「あれって、うわぁ…。
あの特典、メラメラに燃えてんじゃねぇか」
「…一応私、再現で水の魔法使えますので、頑張りましょうよ」
「青い炎の化け猫に効くのかそれ!?
とにかくやるしかねぇな、行くぞ!!」
自分たちで太刀打ちできるか不安を覚えながらも、バンたちは化け猫の元へと走っていく。
「あっ、待って!
その子は…!」
「アストルフォくん、今は出るな!!」
「うわっ!」
二人に制止をかけようとした途端に化け猫の尻尾が当たりそうになり、亀山は伏せさせる。
「くっ、放して…!」
「今君が出たら大火傷じゃ済まないんだぞ!?
死ぬ気か!」
「違うっ、あの子が今でも苦しそうにしているんだ。
邪魔になるかもしれないけど、放っておけないよ!」
「それはわかるけど、話を…!」
「失礼」
どうしても化け猫の元へと行こうとするアストルフォに言い聞かせようとした途端、その言葉と共に二人の間に右京が立っていた。
「右京さん…!」
「この人が…」
「申し訳ありません、周辺の住民の避難をしていたので。
ところで亀山くん、彼がアストルフォ・ローランくん、ですね?」
「えっ、はい」
「なるほど、それで会った途端にこのような事態になったのですね。
詳しいことは後でお聞きしますが、それよりも今は君ですね」
「…え?」
右京はまっすぐとアストルフォを見つめる。
「…君には、戦うだけの力に選ばれたとならば、どうしますか?」
「それって、亀山さんが言ってた、ボクが倒れた時のことと、関係してるんですか?」
「えぇ、それを今、亀山くんが持っているんです」
右京の言葉と共に、亀山が懐からVSチェンジャーとトリガーマシンを取り出した。
「これは、VSチェンジャーとトリガーマシンっていうロストロギア。
これが君のリンカーコアと共鳴したんだ」
「リンカーコアと共鳴したということは、これらが君を選んだ、ということなんです」
「…それがあれば、あの子を助けられるんですか?」
「えぇ、やり方次第では」
「わかりました」
右京の答えを聞いた途端に、何の躊躇いもなく即座にVSチェンジャーとトリガーマシンを掴んだ。
その瞬間に使い方が頭の中に流れ込み、苦悶の表情を浮かべ、それを見ていたヒポグリフは心配そうに見ていた。
「おやおや、これは…」
「これで、ボクも戦えるんですよね…?」
「えぇ、間違いなく。
しかし、なぜ君は即座に戦うことを選んだのですか?」
「…ボクはただ、あの子を放っておけないんです。
それに、今も泣いてるかもしれないのに、何もできないなんて、ボクは嫌なんです…!
どうせやらずに後悔するくらいなら、迷わず手を伸ばして、助けたいんです!!」
「なるほど、それが君の考えですか。
…良いでしょう、では向かってください」
「はい!
…ヒポグリフも、それで良いよね?」
返事をするように、ヒポグリフは深々と頭を下げ、それを確認したアストルフォをVSチェンジャーとトリガーマシンを構えた。
それを確認したヒポグリフはその場から離れるように飛んだ。
【3号!
パトライズ!』
「警察チェンジ!」
【警察チェンジ!!】
【パトレンジャー!!】
アストルフォはVSチェンジャーにトリガーマシンをセットして変身し、化け猫に苦戦しているバンたちの元へと走っていく。
「ねぇ!」
「…!」
「あ、あなたはさっきの!」
「ボクはあの子を助けたいんだ、だから一緒に戦わせてよ!」
「良いも何も、あいつクソ熱い上に素早いんだぞ!?」
「私も、水の魔法を使おうにも避けられてしまいます…」
「…だったら、ボクとヒポグリフで動きを止めるよ。
少し待ってて!
ヒポグリフ、幻獣召喚!!」
アストルフォの叫びと共に、ヒポグリフは雄叫びをあげながら大型の鳥の幻獣へと変わる。
『spear form』
そこからさらにアストルフォはヒポグリフに跨り手には黄金に輝く馬上槍のデバイスがあった。
「…よし、行くよ!」
ヒポグリフは化け猫の周りを飛びながら翻弄していく。
化け猫はヒポグリフを叩き落そうとするが当たる直前に瞬間移動するので避けられる。
そこからさらに化け猫は振り払うために俊敏な高速移動を行うが、アストルフォとヒポグリフはそれよりも早かった。
「悪いけど、これ以上君を苦しませるわけにはいかないんだ!
行くよ!!」
アストルフォが馬上槍を構えた瞬間、馬上槍は光輝き、その光と共に化け猫の足を一閃する。
すると化け猫の足は力が入らなくなりそのままその場に倒れ込む。
「これなら、今だよ!」
「はい!
リプロダクション!!」
『reproduction water splash』
「だったら俺は縛り付けた上で力を吸収するぜ!」
『multi form』
かこが水の魔法を再現して大量の水をかけていき、その上からバンが多節棍にしたデバイスで縛り付けて自身の魔法で少しずつ力を吸収していく。
「あとは、ボクも行かないとね」
『sword form』
アストルフォの馬上槍は剣へと変わり、さらに剣の刀身がいくつもの関節に分かれて蛇腹になってバンと同じように縛り付けていく。
ヒポグリフもそれに加わるように化け猫の周りに竜巻を発生させて全身に水が行き渡るようにする。
足の力が入らなくなり、縛られた上で鎮火されて力を吸収されてことにより本格的に弱っていく。
それを確認してから全員は魔法やデバイスを解除する。
「これで、終わらせるよ!」
『benefit sealing second』
アストルフォはVSチェンジャーを回転させて二回トリガーマシンの引き金を引く。
そして再び元に戻し、化け猫に目掛けて撃ち込んだ。
瞬間、化け猫の姿は砕け散り、子猫が地面に倒れ込み、子猫から出た光はトリガーマシンに吸い込まれるように消えていった。
『protection completed』
アストルフォは変身解除して、すぐに子猫に駆け寄った。
「ねぇ君、もう大丈夫だよ!
しっかりしてくれ、目を開けてくれよ!」
子猫を抱き締めながら声をかけるアストルフォ。
その声が届いたのか、子猫はうっすらと目を開けて小さく鳴いた。
「…っ、良かった!
本当に良かったよぉ…!」
「お前、結構優しいんだな」
「…そんなんじゃないよ、ボクはただ、この子を放ってはおけなかったんだ、そりゃあ会ったのは今日が初めてだけどさ」
「じゃあ、私が魔法でこの子の治療をしますね」
「うん、お願い」
かこに子猫を預けると、右京と亀山が歩み寄ってきた。
「お疲れ様ですアストルフォくん。
まさか、このような形で子猫を助けるとは驚きでしたよ」
「元々あの子は何も悪くはなかったので、そうしただけですよ、そう思えたらすぐにさっきの方法ができたんです。
それに…」
アストルフォはその拳を強く握る。
「あの子にあんな目に合わせたあの黒い怪盗は絶対に許さない、絶対に取っ捕まえて償わせたいんです。
だから、ボクもあなたたちの元で戦っても良いですか?
元々、そういう話でボクに会いに来たんですよね?」
「あっ、そうなんだよ!
それで君の家に行っても出掛けてるって聞いたし学校とかボランティアとか探し回って大変だったんだよ!」
「亀山くん、大変なのはわかりますが、何事も冷静に対処してこそ、ですよ?
さて、君がそう言うのでしたら…」
右京はアストルフォに手を差し伸べる。
「ようこそ、時空管理局特命係へ。
これから君たち三人は警察戦隊パトレンジャーとして、転生者を取り締まるためにも、その力を僕たちに貸してください」
「望むところ、ですよ」
アストルフォは力強く右京の手を掴み微笑んだ。
こうして、アストルフォは特命係のパトレンジャーに入ったのだった。