「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について 作:羽虫の唄
そして今回、TS豪を期待してくださっていた方申し訳ありません。作者の中の上条さんが「テメエはガチバトルを描きたくねぇのかよ…!」とそげぶしたので今回はガチバトルです。まぁ出来はナオキですが…。
書いてみた感想としましては、
もう2度とやらねぇ。
…、
……、
………、
…プロヒーローに成ってからと言うもの、それなりに修羅場をくぐって来たミッドナイト。冗談でも比喩でも何でもなく、文字通り火の中水の中土の中敵陣の中、多種多様な場面を駆け抜けて来た。
今でこそ教師を務めているものの未だそう言った対応をすることだってある(と言うか先日、襲撃事件があったばかりだ)。
彼女の研鑽の重ねられた思考回路は瞬時にそれを理解し、まず顔面筋が極限まで引き攣ることから始まると、後はドミノ倒し式に顔面が蒼白になり全身から嫌な汗の噴出を始めてしまう。
ミッドナイトの目が捉えたもの。ガゴンっ! と音を立て現れたそれは…。
──黒くて。
──大きくて。
──硬そうで。
──そして何より壁面に電光掲示板の様にある文字群を流していて。
『いやだぁぁああああああ!!!』
『クソがァあああああああ!!!』
ズドガガドドドガバゴーンッ! と爆豪が暴れているのであろう、悲鳴と怒号が発せられた後、『部屋』の内部から凄まじい爆破音が響いて来た。それに合わせる様にして会場のそこら中から悲鳴が上がり、それは雄英側も例外ではなく。
『イレェエイザァアァァアアアアアッッッ!!!??』
『うるせぇ今視る…! ──くそ、発動者本人を視ないと意味が無い! 個性で出現させたとしても『アレ』自体はただの物体だ!!』
『
手始めにプレゼント・マイクが腹の底から悲鳴を上げ、それに続いたイレイザーヘッドが非情な現実を解説し、最終的にブラドキングが自身の生徒の名を奇妙奇天烈な声音で呼んだ。
阿鼻叫喚に会場が包まれる中、それに負けず劣らずの声量で放たれる、爆豪及び弘原海2人の会話。
『
『まるっくすまるっくすうるせェわ! 良いからさっさと出せやクソモブッ!!』
爆豪の怒声が『部屋』内部から響くと即座に弘原海が在らん限りの大声で『ろくー! シーックス!』と叫ぶ。ついでに──壁でも叩いているのか──
フ…と、不思議なことにあれだけ存在感を放っていた『部屋』がその行為で瞬く様にして消失し、直後に内部に居た爆豪たちの姿が現れる…と同時に爆破音。青筋を無数に走らせた爆豪が弘原海に容赦なく襲いかかったのだ。
「おいおいおいィ…、随分と舐めた真似し──」
悪鬼羅刹を体現したかの様な様相の爆豪。
しかし彼の言葉は最後まで続かない。
『──…は、
「シてねェわクソがッッッ!!!」
観客席から飛来したトンデモ発言に思わず噛み付く爆豪だが、流石に今のは仕方がないと言えるだろう。因みに凄まじい表情で口汚く放送禁止用語を連発する爆豪を見る弘原海は、ちょっと刺激しないでと冷や汗を流しつつ内心で毒づいて居たりする。
「あ゛ぁクッッッソが…! ただで済むと思うなよテメェ…ッ!」
怒り心頭、怒髪天。
──ガゴンっ!
「「『また出た!?』」」
思わず揃う全員の声。当の本人である弘原海は慌てつつも迅速かつ的確に対処する。…爆豪が恐ろしいから。
『ソックス!! 靴下ー!』
言い終わると同時にフ…、と消失する『部屋』。ソックスの綴りはSOXではなくSOCKSだが、英単語でなくとも対応するらしい。
『部屋』が消失して現れたのは、ブチギレつつ笑顔を浮かべて淫魔の胸ぐらを掴み上げている爆豪だ。
「いい加減にして下さいよォ〜クソモブ君よォ〜……ッ!!」
「ちょ、違う待って! わざとじゃな…!?」
──ガゴンっ!
『
『ヘックスッ!! 六角形ぃぃいいい!!!』
雄叫びの後に『部屋』が消失。悪魔じみた姿の弘原海よりも悪魔じみた爆豪が現れた。と、同時に振われた右腕が爆破を生み出し弘原海を吹き飛ばす。
踏ん張ったことで派手に吹き飛ばされるも場外にはならず、ラインより少し手前で停止した弘原海。彼は若干涙目であるが、制御出来ない自身の個性の所為かそれともその被害に遭っている爆豪の怒り具合かは不明である。
多分両方なのだろうが。
「もォダメだわ、欠片も残ると思うなよテメェ──ッ!!」
背面に向けた両掌から起こした爆発を推進力に変換。〝爆速ターボ〟と言う爆破の力を利用した、立体的な高速移動を可能とする爆豪の得意技の1つである。
「
──ガゴンっ!
『テメェは何がしてェんだ!?』
あの爆豪クンをあそこまで取り乱すことが出来たのは立派に誇れることじゃないだろうか、とは体育祭後の弘原海談である。
最早慣れすら感じさせる早さで中から『ファーックス!!』と大声。若干、数文字分にだけ力が込められていた気がしたものの…それを言及する者は1人も居なかった。今の弘原海の心境を思えば、殆どが同情ばかりだから…ではなくて。
『………? あり? 『部屋』が消えな──ォあは(吸い込み)」
奇妙極まりない声。だがそれも仕方が無い、何故ならば壁面を流れる文字群が──
『男女が同じ空間にいるんだ、それは最早セックスッッッ!!』
──だろう!! と『部屋』が消失するのに少し遅れて弘原海の咆哮が轟いた。公衆の面前・全国放送での暴論中の暴論中の超暴論である。
後には静寂だけが取り残された。
『な…ッ、なんだとっ? そ、それじゃあ今オイラは…!?』
『──障子、お前に決めた! ばくれつパンチっ!!』
…その為、A組から聞こえてたそんなやりとりと謎の破壊音と悲鳴がまぁ響くこと響くこと。
今度こそ静寂が訪れる。痛々しく、物悲しく、そして重苦しい静寂が。
「………ふ、ふはははははっ!」
と、突然高笑い。弘原海である。
「随分な怒り様じゃないかぁ爆豪クン! そんな冷静さを欠いた状態でオレに勝てると思ったら大間違いだぜ!?」
…さもこれまでのアクシデントの数々が意図的であるかの様な発言を聞き、そう言う路線で行くのねとミッドナイトがほんの少し涙ぐみ、内心で色んな方面にめちゃくちゃ謝りまくってんだろうなと思考を一致させたB組メンバーが交代交代で黒色にかけていたプロレス技のテンポを早めて行く。
彼ら彼女からは位置的に確認出来ない弘原海は目から滴る汗を拭い取りつつ、改めて構えた。本格的に仕切り直したい彼は表情を真面目なものに切り替えつつ、
「…来いよ爆豪クン。こっからが本番だ。君が言う
ドンッ!! と言う轟音が観客たちの肩を震わせる。
セリフの途中だろうが何だろうが容赦無く一撃を放った爆豪にB組席辺りから男らしくねぇぞと聞こえて来た気がするが、彼から言わせれば──例え爆豪でなくとも、だからどうしたと言うかもしれない。
今は真剣勝負の最中である。何故わざわざ悠長に相手の話に付き合わなければならないと言うのか、実際にヴィランを目の当たりにして同じことをするのであればそれは既に馬鹿を通り越して愚者としか呼べない筈だ。
「──あァ?」
…そんな思考を行なっていた爆豪は、唐突に間の抜けた声を漏らす。それもそうだろう、爆煙が晴れたそこに…吹き飛ばされずに、微動だにしていない弘原海が居たのだから。
先程と変わったところと言えば、靴を脱ぎ四つん這いとなっているぐらいだろう。それ以外、爆豪が爆破を行う前とは特に変わっていない。
それはつまり、先の一撃を耐えたと言うことで…。
「………ンだァクソが。何しやがったゴラァ!!」
バゴン! ドガン! と立て続けに苛立ちを隠そうともせずに爆破を行う爆豪。しかし晴れた爆煙が露わにするのはやはり、両手足を地に付けてその場に留まり続ける弘原海の姿だ。
舌打ち。その後にもう1度爆破…をする直前で弘原海が横に移動し、それを回避。
と言っても完璧では無く、纏っていたジャージの左足部分が大胆に吹き飛ばされ、その肉厚な脚部が大胆に露出してしまう。
(鱗…?)
ふと、爆豪の視界がそれを捉えた。扇情的な肌を覆う、深い色合いの、文字通りの鱗。見れば露わになった左脚以外にも、手先や首元・翼部分などにチラホラと似た物が認められる。
四つん這いの体勢に加え、肌を覆う鱗。それらを見た爆豪が脳裏で立てていた仮説を決定的なものに変えたのは、びたりと音を立てて地面につけられた野太い尾である。ズボンとその下のパンツを(結構ギリギリで)ずらして現れたのは、もともと生えていた淫魔らしい形状と異なり、びっしりと鱗に覆われ…先端に向かうに連れて細くなっていく代物。その見た目は深く考えずとも爬虫類のそれであり…、
「──ファンデルワールス力か!」
「人が精一杯考えた作戦をそう簡単に看破しないでもらいたいねホント!」
ガギャリ、と叫びながら生成した鋭利な爪で地面を掴み一息に駆け出す弘原海。爆豪からだと確認が難しいが、大型爬虫類を連想させる動きの弘原海の掌や足裏には独特の形状が見られた。
ファンデルワールス力。手っ取り早く言えば、微細な突起を特定の配置で組み合わせることで分子間に引力が発生する作用のことである。身近なところではヤモリが壁面を登ることに利用されている、と言えば分かりやすいだろうか。
〝個性〟「サキュバス」。その能力の最も基本的な肉体改造が、爆豪の意表を突く。
「チィ…ッ!」
張り付いているならばその地面ごと吹き飛ばしてやる、とばかり、彼は麗日戦で見せた下から掬い上げる様な爆破で持って強化コンクリートの床を抉る。
しかしそれを考慮しいない程、弘原海も馬鹿ではない。ファンデルワールス力の吸着力を利用して慣性を減衰させ、急激な方向転換で死角へと潜り込んで行く。
独特なフットワークに翻弄される爆豪。なまじ、反射神経に優れ先読みも瞬時に行なってしまうが為に却ってそれが隙を生んでしまった。
『うきゃー♡! 弘原海後でその尻尾見して貸して触らせてーっ♡!』
…そんな時にそんな野次(?)が飛んでくる物だから思わずずっこける。今ガチバトルやってるから黙っててね
に、爆破を放つ爆豪。ファンデルワールス力のお陰で吹き飛びこそしないが、逆にその所為で連続で浴びることになる。
「ごふっ!? 容赦無いな!?」
「何で手加減しなきゃなんねェ!」
それもそうだ、と後転した弘原海が再度死角に潜り込む為に駆け出した。この少しの間に変則的な動きに段々と慣れ始めている爆豪に、心底嫌気が刺した表情をしつつ拳を振るう。…と見せかけて睡眠効果を持つ毒液を爪先に生成して狙うも、その悉くが避けられていった。
どうやら本命は見透かされているらしく、その表情に隠すことなく苦渋の色を浮かべる弘原海。
「ッらァ!」
ドムッ! ともう何度目かも分からない爆破。
違いがあるとすれば、先程からその狙いが…。
(野郎、顔面狙いやがって…!)
悪態を口に出すことすら難しい。
幾分か威力は下がったが出の早い攻撃は顔面に向けて。弘原海の繰り出す魅了の声や睡眠ガスを封じる以外にも、その攻撃は単純に弘原海から酸素を奪っていく。実に効果的と言えた。
殴る。
防がれる。
蹴る。
いなされる。
爪を振るう。
避けられる。
こちらの攻撃は決定打にならず、対して爆炎は容赦無く体力を確実に削っていく。
(えぇいくそ! こんなもんどうしろって…ッ!)
一息つく間も無く動き続けていた為、いよいよ酸欠の兆候が出始めてきた。既に始めの頃にはあった動きのキレも見られず、避けるのにも精一杯であり、次第に被弾数も増していく。
『──頑張れ、負けるな!』
だと言うのに、そんな激励が鼓膜を震わせて。
(〜〜〜…ッ! ほんッッッと、オレってばチョロイン!)
男だけどナ! と心中でそんな言葉を発しながら一歩を踏み込む。顔面に向けられた爆破をマトモに喰らいつつも、更に一歩。
「うぜェ…、いい加減くたばれクソッ!!」
青筋を浮かべた爆豪が迎撃する為に爆破を連発する。
ドガガガガガンッ!! と凄まじい音が会場に響いた。
「(ぐゥう…!!)」
呻き声を巻き上がった炎と煙と轟音にかき消されながら、一歩。
その様子に重心を少し落とし、次いで足の開きを前後に大きくした爆豪が連続爆破の速度を早める。もっと早く出来るんかい、と言う弘原海の悪態じみたツッコミが発せられる前に吹き飛ばされた。
轟音に轟音が重なり、爆音に爆音が連なる。
『オイオイ…流石に……』
観客か実況席の誰かは不明だが、誰かが漏らした声すらかき消す勢いだ。直撃を受け続ける弘原海がどうなっているかは想像に難くない。
──にも関わらず、その激音の最中に発せられた硬質な音が、確かに爆豪の聴覚を刺激した。爪でも地面に突き立てたかと判断した彼の苛立ちが加速する。
(ッソが。何で倒れねェ…!)
既に彼我との差は歴然だそれなのに諦めず立ち向かってくるその様に、爆豪は自分でも制御不能に陥りそうな程感情を昂らせた。
どうしてここまで苛立つのか──その原因に、今戦っている相手に無意識の内に
ぬっ、と。
「!!」
これが、ダガーを取り出してから投擲された様な状況であればまた対応も違ったかもしれない。衣服以外切断出来ない事前情報は既にあるのだ、例え顔面に向かってこようとも一切臆することなく…寧ろそのまま顔面で受けまでして見せたかもしれなかった。それが出来るのが爆豪と言う少年である。
しかし、今は違う。
どうしようもなく働いてしまう反射。唐突に現れた『危機』に体は意図せず爆破を中断して回避に専念してしまい、そして漸く生まれた決定的な隙を逃す筈もない。爬虫類じみた腕が、遂にその胸ぐらを掴み上げた。
そして──。
「──あ!」
──誰が漏らしたか、煙が晴れ露わになった戦況を見て、声が上がった。
結果は………爆豪が立ち、その目前で倒れる弘原海。
「う──ぐ…! か、ふぅ…ッ!」
もぞもぞと蠢く様は芋虫か。必死に起きあがろうとする弘原海だがその下半身にはろくに力が込められていないことが瞭然であり、腕を動かすだけでも精一杯なことが伺える。
構えを取っている爆豪に、駆け寄って来たミッドナイトが手を向けることで制した。
「あ、ぐゥ! くそ、まだ…!」
掠れた瞳を未だ
及ばなかった。
諦めずに居ても、届かなかった。
…その事実が非情に突き刺さる。
『──うおぉー! よくやったぞ弘原海ー!』
『ナイスファイトー!』
『ん!』
…そんな時に聞こえて来た、B組席からの…クラスメートたちからの声。弘原海が悔しそうに顔を俯かせる。
疎らに起き始めた拍手は次第にその大きさと数を増していった。
『…ィヤハ! 色々あったが中々手に汗握る戦いだったんじゃネーノ!?』
その状況を認め、『締め』に入り始めたプレゼント・マイクの声がスピーカーから発せられる。それに合わせて、ミッドナイトが勝敗を宣言する為に右手を掲げた。
「弘原海君! 戦闘──」
「【
ズヴァヂッ!! と響いたのはミッドナイトが振るった鞭が爆豪の腕を掠めた音だ。これに驚いたのはプレゼント・マイクである。
「えァ!? 何してんだミッドナイトぉ!?」
素っ頓狂な声を上げた彼に答えたのはブラドキングだ。
「騎馬戦で見せた催眠術か、考えたな!」
「いや、でもこれアリぃ!?」
次にイレイザーヘッドが。
「ミッドナイトはただ
どーなのセメントス! とインカムに向かうマイク。そうして返って来たのは『ここで止めるのは野暮では?』の一言。
「………つー訳で試合続行だぜリスナー共! まだ勝負はついてねーぜ、声出して盛り上がってけぇーッ!」
会場を盛り上げる作業に移ったマイクを横目に、ブラドキングたちが会話を始める。彼らの視線の先では、プロヒーローの戦闘能力を遺憾無く発揮するミッドナイトとそれを相手取る爆豪。それから、その背後でよろよろと立ち上がろうとしている弘原海の姿があった。
「…止めなくていいのか?
「──セメントスも言っていただろう、本人が諦めていないのに中断させるのは野暮なことだ」
「それであいつが倒れてもか」
「そうだ」
ふん、と2人は同時に鼻を鳴らす。
ヒーロー志望と言えどまだ15歳の子供である。『大人』として接する為、生徒の意思を尊重させすぎるきらいのあるブラドキングとはどうも反りの合わないイレイザーだ。人間関係的には良好な部類ではあるものの。
「責任なら俺が取る! 存分にやれ弘原海、ヒーロー科はA組ではなくB組であることを教えてやれ!!」
がははは、と笑うブラドキングからうるさそうに距離を取るイレイザー。その視線の先で、漸く立ち上がった弘原海が駆け出す。
『………説教だけで済むと思うんじゃないよ』
唐突にインカムから聞こえて来た声の低さに、ブラドキング以外の2人も肩を震わせたのは内緒である。
ビリっ、とスーツを破き露わになった肌から眠り香を放つミッドナイト。それが周囲に広がる前に爆風で吹き飛ばした爆豪だが、弘原海の接近を許してしまい彼が吐き出した睡眠ガスが即座にその意識を奪い去った。悪態を吐かせる暇さえ与えない。
「──あぁ〜…。両足どころか全身生まれたてのバンビぃ…」
素人目に見ても悪い顔色の弘原海は、体を不自然に震わせつつ、眠りに落ちた爆豪の腕を掴み引きずり始めた。彼の──今は彼女だが──横のミッドナイトは、光の灯っていない空な瞳で虚空を見つめたままぼうと立ったままである。
ズリズリ…、ズリズリ…。既になけなしの体力を催眠術で消費した弘原海は、亀の様な鈍間さで爆豪を引きずって行き、場外まで残り半分程。
──ズドンッッッ!!
「が…っ?!」
直後、爆発。何が起こったのかと霞む視線を動かせば…。
「──ごほっ。あァクソが、クソモブが…!」
咳き込みながら立ち上がったのは、爆発の中心点に居た爆豪。青筋を浮かべる彼の掌を見る弘原海は立ち上がろうとするも上手くいかないのか、ガクガクと両膝を震わせながら舌を打った。
「くそ、
「背中痛ーっ!?」と吹き飛んだ後の落下の衝撃で催眠術から抜け出したミッドナイトの悲鳴を聞きつつ、
「──テメェは、絶対に潰す…!」
怨敵に対する様な恐ろしい眼光が爆豪の両目から放たれる。
…しかしながら、それを受ける弘原海の反応は酷く奇妙なものであった。
「いやぁ、無理だよ」
ニタリ、と。
耳元まで裂かんばかりに口角を不気味に吊り上げる弘原海。異様な笑みであってもその美貌が害されることは無く、それが返ってその不気味さを際立たせている。
「あ゛ァ!?」
「だって触ったから」
苛立った爆豪が声を荒げるも、弘原海が態度を崩すことは無い。
未だ立ち上がることすら出来ていないにも関わらず、どこか余裕さを見せるその様子に、どこからかブチリと何か野太い物が千切れた様な音が発せられた。
「訳分かンねェな。…テメェ見てるとイラつくンだよクソが!!」
そう言って彼は右手を突き出す。
直後に爆発が容赦無く放たれた。
衝撃。音にするなら、
「…来いよ爆豪クン」
「端役の全力見せてやる」
「──セメントス!!」
『言われなくとも!!』
少しの間意識が曖昧で、気づけば目前では爆豪・弘原海の
「両者そこまで! これ以上は──ッ」
「「まだだッ!!」」
眠り香を、生き物の様に動く強化コンクリートを。怒号と同時に放った爆破でそれぞれがそれぞれを吹き飛ばした。
──ッッッドン!!! と背面に向けて爆破を行なった弘原海が不出来なペットボトルロケットの様に…ただし決して笑えない速度で接近して来る。
重心を落とし両足を開く。両手に許容限界ギリギリの量で爆破液を溜める爆豪。その表情は獰猛極まり無い、肉食獣を思わせる笑み。
(俺の個性をコピーした? …違ェな、あのコピー野郎みたく単純じゃねェ。俺のニトロを『作り』やがったのか…!)
漠然と、弘原海の個性の能力の1つである肉体改造を理解し始めた爆豪。
〝個性〟「爆破」はあくまでも
──迫り来る、お互いの必殺の間合いに入るまでもう僅か。これまでの片手ではなく、両手を持って相手を迎え撃とうとする爆豪。
そして──。
──ガゴンっ!
爆豪 勝己は天才である。
頭脳はもちろん常人離れした身体能力に加え、桁外れの戦闘センスはクラス内外評価されていた。…人より秀でているが故に傲慢さが膨れ上がってしまったきらいこそあるものの。
爆豪 勝己は、天才である。
故に、
だからこそ、
そうであるが為に。
──
思えば違和感を覚えるべき場所は多々あった。
何故一々単語を言い換えたのだとか、どうして突然それまで制御出来ていなかったのに以降は出現しなくなったか、だとか。
(──待て、何で『さっき』…!)
今更ながら気づいた爆豪の脳裏に思い出される、とある場面。『出られない部屋』などとふざけきった物を出現させた、その一幕。具体的に言えば、その脱出条件が明確なものとなった時。
『男女が同じ空間に居るんだ、それは最早セックス
そう、この時。
思い出した爆豪の中で、違和感が加速して行く。
どうしてその時は気にもかけなかった? あからさまな異常があったと言うのに…!
(──何であの時、
…もし単語に反応する仕掛けなのならば、それ以前はどうして一言分、クッションを挟まなくてはならなかったのか。
…まるで、最後だけ
(や、ろう…ッッッ!)
つまりは、ブラフ。あれら全てが爆豪を油断させる為の演技。
ふざけた文字群を壁面に流しつつ、爆豪の爆破を連続で浴びてもビクともしなかったソレが瞬く間に消失。迎撃の為に一際大きな一撃を放った爆豪は反動で僅かに両腕が反れ、対称的に、盾代わりに展開された『部屋』から現れたのは、既に両腕を構え終えている弘原海。
そして──。
〜今回発動した主人公の能力一覧〜
『ドラゴンフォーム』
ドラゴン娘になる。これ自体は肉体改造を利用しているだけだが、やはりそこはサキュバス。本人の意思に反して自動生成される尻尾の所為で半ケツになりかけたりなどオートでスケベな目にあってしまう。
後半駆け足すぎるのできっとどこかで手直しすると思います。
漸く体育祭の終わりが見えてきた…!