「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について 作:羽虫の唄
コメディ「『お前は死んだはずだ』…なんて。頼むからそんな台詞はよしてくれよ、シリアス」
シリアス「──お前は死んだはずだァ!」
コメディ「…悪いが、
シリアス「あ、ああ…。──あああああああああああ!!」
と言うわけでシリアスさんは匣にしまわれました。
──月並みだが、光が有るからこそ影が差す様に、あらゆる物事はプラスマイナスが取れる様に出来ているのかもしれない。
職場体験当日。
雄英体育祭の熱も仄かに引き始め世間が落ち着きを見せ始めている中、反比例する様にして
「──伸ばすな芦戸、はいだ」
「アッハッハ! そんな今時小学生でも言われない様な注意を受けるとか!!」
「君はこんな時でも平常運転なのね」
だと言うのに物間クンと言えばこんな具合である。相澤先生から注意を受けたA組の芦戸サンに向けて口撃を開始した為、拳藤サンが手刀を放つよりも前に個性を発動して耳元でリップ音を奏でてやった。いつも彼女に任せっきりだし、偶にはね。
ビクゥッ! と肩を跳ねさせた後(中腰になって)黙りこくる物間クン。そんな彼を呆れた様子で注意してからブラキン先生は、
「ヒーローコスチュームは持ったな? …それではくれぐれも失礼の無い様に!」
と言うわけで始まった職場体験。コスチュームが収められた21のナンバリングが施されたケースを抱えつつ、時間まで待機する。
「あー、泡瀬クン向こうなんだ。いってらっしゃーい」
「お、おう」
お馴染みのヘアバンダナをしたクラスメートを見送った。人によっては目的の電車まで時間があるので、残った数人は談笑に花を咲かせている。
「鉄哲クンはフォースカインドのとこでしたっけ? いってらっしゃーい」
「…くぅ!」
オレの見送りを聞いた鉄哲クンは何かを堪えるかの様な表情で手をふり返し、電車へと乗り込んだ。気のせいか、その頬には一筋の光る何かが滴っていた様に思える。
クラスメートを全員見送り──A組の人も居なくなった──1人だけ残ったタイミングでブラドキング先生に声をかけられた。
「…良いのか? あれは完全に勘違いしていたぞ」
「あ、やっぱりですか」
先生の言葉に顔を引き攣らせる。オレに対するクラスメートたちの反応が微妙だったので不審に思ったのだが、やはり皆オレが職場体験先を確保出来なかったと思っているらしい。実際にはとあるヒーローが期日ギリギリに承諾してくれたので問題ないのだが…。
本当、都合をつけてくれた先生方には頭が上がらない。
「──にしても遅いな。指定の時間は既に過ぎ………ムゥ!」
と、突然先生が声を張るのと、駅構内に広がっていた雑踏の一角が
チュドンッッッ!! と轟音が炸裂する。
(まさか──ヴィラン!?)
喉が干上がった。白昼堂々とした犯行に体を緊張させながらブラドキング先生と音のした地点へ急ぐ。
果たしてそこに居たのは…!
「──よぉ、お前が雄英の
ピンと立った耳。褐色の肌。シルクの様な長髪。ラビットヒーロー・ミルコが、そこには居た。………仄かにクレーター状に陥没した地に伏すボッコボコに顔面を腫した大男の上に立って。
…どう言う状況?
「え、えーと…?」
状況を理解出来ずに惚けるオレを余所に、今回職場体験を請け負ってくれたミルコはその個性に反し肉食獣の様に獰猛な笑顔を向けながらこちらへ歩み寄って来る。
「よし、さっさと行くぞ! …あ、先生コイツよろしく。さっき向こうで強盗してた」
「え? あ、おう?」
ミルコから強盗をしていたらしい大男を受け取りつつ、
「そ、それじゃあコスチュームに着替えて来ま──」
「遅いな、現代っ子か! ヴィランは待っちゃくんねぇぞ!」
「イ゛ェアアアアア!?」
ガッ! と彼女がこちらの首根っこを掴むと、視界が一気に立ち並ぶビル群より高い位置に切り替わる。な、何だこの新手の恐怖アトラクションはァ───ッ!?
場所は特に名前も知らないホテルの1つ。
物凄い速度で物凄い上下運動を物凄い回数味わうことになったオレが訪れたそこは、ミルコが仮宿として利用している場所らしい。特定の事務所を持たずまた、サイドキックも雇用していない独自の活動体系を取っている彼女はこうした仮の拠点を同じヒーローや協力機関から利用させてもらっているとのことだ。
今日日、事務手続きも踏まえ全てを熟す、完全に単独活動のヒーローは彼女だけと言っても過言では無いだろう。
「──先に断っとくが頼まれたから受け入れただけだ、私ゃ指導なんてするつもりはないぞ」
調子を確かめる様に一度その場で伸びを行うミルコ。
「取り敢えずヴィランは見つけ次第蹴っ飛ばせ、
…そこまで言い終えたミルコはくるりとこちらへ振り返る。何の反応も示さなかったオレに、「聞いてんのかぁ現代っ子!」と少し声を荒げる彼女。…しかしながら、オレの姿を視界に捉えた瞬間彼女は口を一文字に結び、押し黙った。
…少し訂正しよう。厳密に言えば、オレ、ではなくて、ケースからヒーローコスチュームを取り出したオレ、を見てミルコは押し黙ってしまう。
恐らく取るべきリアクションとしては、プロヒーローがヒーロー免許を所有していない身分の学生にヴィランとの戦闘及びそれに併せた個性の使用許可を行うにはそうするに足る状況云々かんぬんな感じのものなのだろう。もしかすれば、そう言って実際の現場で活動することに対して尻込みするオレに、ミルコがプロヒーローの観点からためになる何かを述べたのかもしれない。
が、それはあくまでもifの話。実際には…、
「………お前
なんだかんだ言ってバニー服に似た装いのミルコだが、そんな彼女も疑問を口にしてしまう程にオレのコスチュームは『酷い』。だがしかし待て。オレの記憶が確かならばコスチュームは動きやすさと目立たなさを重視でデザイン性皆無のパーカーとズボンのはずだ。
「──すいません、少しお時間をいただきます」
断りを入れ、ポケットから携帯を取り出して電話帳を開く。
連絡先は雄英高校。更に言えばそのサポート科の──。
『はい、もしもし』
数度のコールの後に聞こえて来た声の主は、サポート科の担任を熟す傍ら、設備の用意やサポートアイテム・コスチュームの開発を行なっているパワーローダー先生…ではなく。
脳裏に、職場体験の数日前にコスチュームの改良を頼む為サポート科の工房へ訪ね、その時にオレを出迎えたある女子生徒の姿が浮かび上がった。確か名前は…、
「どうも発目サン。先日コスチュームの改良をお願いしに伺った弘原海ッス。パワーローダー先生はいらっしゃいますか?」
『はい、はい! パワーローダー先生でしたら数日前から出張中ですので──何用でしょうか? 実は只今私のドッ可愛いベイビーが最高の瞬間を生み出そうとしてますので手短にお願いします! おほーベイビー!』
…、
「少し質問なんですが、オレがコスチュームの改良をお願いしに伺ったのって何時でしたっけ?」
『え? はぁ…確か4日前デスね!』
「パワーローダー先生が出張したのは?」
『4日前デスね!』
「オレのコスチュームを受け取ったのは?」
『私デスね!』
「…最後にもう1つだけいいッスか?」
『はい。なんでしょう?』
「──オレのコスチューム誰が改良した?」
『貴方の様な勘の良い方は大好きですよ♡』
反射的に行った催眠術によって、発目サンはそのまま自分の
意外なことに電話越しだと意識が残った状態で体だけが催眠状態になるらしく、電話の向こう側からは『ひぃ私のベイビーが! いや、いやぁああああっっっ!!』と言う悲鳴が通話を終了するまで発せられ続けることになった。これは大発見である。サポートアイテムに音声変換機も良いかもしれない。
「「………、」」
で。
そんな経緯が有り勝手に改造──と言うよりも、最早別物を1から用意したらしき代わり様のコスチュームに身を包んだオレは、ミルコと揃って無言になっていた。
それも仕方のないこと。それ程までに今のオレの恰好はアレであった。
コスチュームは大雑把に言えば競泳水着である。材質はビニール…いやラテックスか? 詳細は分からないがそれらに近しいものであり、
流石にこれだけだと防御的観点からおざなりと言われかねないのか同材質のサイハイソックスやアームガードが付属されており、それと何の為に存在するのか分からない用途不明のクッッッソ長いマフラーも用意されていた。何だよこれ無限バンダナか??
──いや、うん。これだけだったら、ギリギリでちょっとフェチズムを刺激する感じの恰好で済むかも知れないが…そうなっていないからオレたちは黙っているわけで。
………柄が。その、柄、がさ。完全に素肌に蛍光色のマイクロビキニなのよね。
その上なんかこう、さ。良い感じの肌色とさ、小麦色を使い分けている、所為で、さ。凄い大胆な露出で日焼けした見たいになっていて、さ。布面積で言えばミルコと同程度のはずなのに、何故かオレの方が遥かにスケベなんだけど?(絶望)
「「………、」」
──沈黙が、重い沈黙が場を支配している。
「………無理に着なくて良いと思うぞ」
ひたすら慎重に言葉を選んでくれたであろう彼女の優しさが沁みる。
「………いや、この程度の羞恥心に耐えられない様じゃ、ヒーローは務められません。…このまま行きます」
自分でも分かるくらいに顔に熱を集めるオレの言葉を聞き、ミルコはただ静かに頷いて。──そうしてオレは、痴女まっしぐらの恰好で外へと躍り出た。
──炎が歩いていた。
色は紫黒。その勢いは激しく、キャンプファイヤーなどの轟々と言う表現よりも、手筒花火と言った方が良いかも知れない。
双眸と思しき真紅の光以外は曖昧な輪郭しか判別不能なそれに、道行く人々は数度視線を向けるもそれ以上の──例えば撮影を行うと言った──ことはしなかった。誰もがあの炎に関われば最後、「さあ、怖がる必要はない…」の一言と共にDESTROYEDされると本能的に理解したのだろう。
歩く炎の正体は弘原海だ。
己の恰好の所為、と言い聞かせるには余りにも向けられる欲望が下衆で無遠慮で卑俗過ぎた。
もういっそのことヴィラン蹴っ飛ばさせるか、折角交戦・個性使用許可出したんだし…と考えるミルコであるが、彼女自身がヒーロービルボードランキングにてトップ10入りすることと現在の弘原海がエンデヴァーと(別ベクトルで)匹敵する勢いの炎の化身となっている為、両者を恐れてか全くと言って良い程ヴィランと出会わない。
抑止力として作用出来ているのでヒーローとしては良いことなのだが。
「──あの〜…」
どうしたもんか、と弘原海がどう言った境遇にあるかは最低限知っているミルコが頭を指で掻いた時である。不意に、横合いから声をかけられた。
おうコラこちとらいつでもブチコロおっけいじゃぼけとばかりに首を動かす弘原海が捉えたのは、チェック柄のサマーコートで身を包んだ女性である。ほんの少しボサついた髪を適当に後ろで結え大きな黒縁丸メガネをかけた…言い方は悪いが、洒落っ気の見られない草臥れた社会人と言った風体だ。
「失礼ですが雄英の…弘原海と言う方、ですかねー」
恐る恐る、と言った感じで確認を取る女性。に、弘原海は炎を滾らせながら頷くことで応える。
──すると次の瞬間、弘原海は女性に手を取られた。突然のことに面食らう弘原海(炎)に、女性は疲労感の伺える顔に笑顔を浮かべて見せる。
「いやぁ、運が良いです。直接話しをしたかったんだけどまさか本当に会えますとは…」
そう始めに言うと。
「私は
女性の言葉に首を傾げる弘原海。
そしてこいつは何時まで燃えてるんだと考えるミルコ。
「痺れましたよー、『ふざけた個性と嗤っていろ』と叫ぶ君の姿。…ここだけの話、実は私の個性も世間に受け入れられ辛いものでしてねー。だからかなぁ、あの時の君の言葉が胸に突き刺さって忘れられなくなってしまいまして」
…ゆったりとした女性の語りを聞く内、次第に弘原海の炎が勢いを弱めていった。
「今までは自分が世間に受け入れられないのは個性の所為だーって思っていたんですけど…あの時の君の言葉にハッとしまして。自分よりも若い子があんな大人数の前で、しかも全国放送ですよ? 凄いなー、とか、カッコいいなーと思って…」
言いながら視線を手元…繋いでいる自身と弘原海との手に向けていた女性・誤井は、そこで顔を上げて、にっと花の様な笑顔を照れながら見せる。
「──ありがとう
──笑いながらのその言葉には、文字通り嘘偽りは一切無い。似非とは言えど読心を行える弘原海が1番それを理解出来た。
「──…あ、あり。が、ど……っ」
だからこそ。
「あり、がど…う、うぅ…! ありが、ど…っございま…ッ!」
一瞬でも堪えることなんて叶わず、吸い込まれそうな大きな瞳をした目から大粒の涙をこぼし落とす弘原海。終いには隠すことなく涙と鼻水を垂れ流して大声で泣き始めた為に誤井は慌て、その傍らでミルコは乗せた手で弘原海の頭を──ナデナデ、と言うよりはペシペシと叩く様に──撫でる。
もう直ぐ昼時と言った時間帯。淫魔の泣き声がわんわんと響いていった。
オレの涙腺を天元突破させた誤井サンに謝罪と一緒に別れを告げ──去り際にも頑張ってなんて激励を添えてくれちゃうもんだから、漸く落ち着いていた顔面を超絶ぐしゃぐしゃにしながら別れることとなった。祭りではぐれたよつばやお父さんに怒られたつむぎちゃんなんか目じゃ無いくらい涙を流したぞオイ。
「んじゃ、パトロール再開するぞ」
「
「大丈夫か」
「あ゛ぃ゛」
こちらの事情を把握しているらしきミルコ。彼女に気を遣わせてしまっていることを察知し、気合を入れ直す為にも顔を拭ってから両頬にビンタを食らわせる。…勢い付け過ぎた、痛い。
「──よし! すいませんご迷惑おかけしました、もう大丈夫です!」
「おう、さっさとヴィランを蹴り殺しに行くぞ!」
信じられるか? これトップランクのプロヒーローの発言なんだぜ?
因みに彼女の
「そんじゃあ先ずは──」
『『『ぎゃァー! 変態ーッ!!』』』
遠くから聞こえて来た悲鳴に、ミルコの赤眼が輝いた様に思えた。
それどうやったんです?
悲鳴の元へとミルコと共に急行。そこで見たのは…。
「誤井サ──誤井様!」
誤井様!? とオレに名前を呼ばれた誤井サンが目を丸くして驚きの声を上げる。
いかんいかん、オレの中で彼女の存在がかなり高位の位置に居ることが態度に出てしまった。
「何の騒ぎだ…?」
「誤井サン、これは…?」
ミルコとオレは揃って首を傾げる。
目前で広がっているのは、ボディスーツを纏った──恐らくは彼らがこの喧騒の元凶たるヴィランだろう、ガタイの良い2人と恰幅の良い1人の3人組が、広い街道を滑る様にして移動しており…その後ろを大勢の人が年齢性別問わず追いかけると言う、何とも不思議な光景だ。
思わず誤井サンに確認を取ると、彼女は何故か自身の腰付近を神経質そうに撫でながら、
「いやぁさっきぶりですねー。あんなヴィランも居るんだなぁ、早い話が彼らは下着泥棒ですよ」
そう彼女が答えるのとほぼ同時。
『『『ははははは! 我ら、疾風怒濤三兄弟!!』』』
高らかに名乗りを上げた疾風何某たちは、そのまま個性だろうその滑走じみた移動速度を保ちながら真っ直ぐにオレたちの方へと向かって来た。地味に結構な速度である。
先ずは先頭を駆けていた『1』のナンバーを持った男。
「俺がめく…へぶぉ!?」
誤井サン曰く下着泥棒らしいヴィランの男は、数あるヒーローの中でも足技を用いた近接戦闘では頂点に近いミルコの一撃になす術無く吹き飛ばされる。その健脚が放った左背足の回し蹴りだが、素人目に見てもその洗練さが窺える攻撃で意識を刈り取らずも行動不能にするミルコの絶妙な力加減か、それともそんなミルコの蹴りをまともに食らっていながら未だ意識を保っているヴィランを褒めるべきなのか迷うところだ。
というか、そもそも彼は
「ぬ、ぬぅ…流石はヒーロービルボードチャートにてトップ10入りを果たしているだけのことはある…敵ながら天晴れ!」
「
わぁ良い笑顔。直接向けられたわけでは無いにも関わらず、思わず体が竦んでしまった。それ程までに彼女のそれは『凄絶』である。
しかしそんなミルコを前にしてもヴィランは怖気付く様子は無く…何だ、その余裕とも取れる態度はどこから湧いてくるんだ…?
「しかしぬかったなヒーロー! 我らは疾風怒濤三兄弟! 三位一体の怒涛のコンビネーションを捌き切れるかな!?」
「「「食らえミルコ、進化したスリップストリーム脱衣──名付けて!! スリップエクストリーム脱衣・零式!!」」」
ネーム力ぅ…ですかねぇ…。
…何で改良元が存在するのに零が付いたんだよ。何でもかんでも零って付ければ格好良くなると思うなよ?
「──う!?」
呆れるオレだが、しかしその技名に反し効果自体はあったらしい。
側から見た限りでは、特定の方向に3人が若干動いた後無駄にポージングを取っただけとしか認識出来なかったが、それなのにミルコは呻き声を発しその手を自身の腰へと…まるで先程の誤井サンの様な動作を行った。気の所為かその頬は僅かながら朱に染まり、若干内股気味でもある。
何故? …と、オレの疑問は他でも無い疾風怒涛(ryが答えてくれた。
「ふっふっふ…。スカートでないからと油断をしたな? 甘い!」
「既に以前の我らとは一線を画している! 今の我らに抜き取れぬ下着など皆無だ!」
「我ら疾風怒濤三兄弟! そこにパンツがある限り、我らはどこにでも駆けつけよう!!」
そのセリフを最後に、ミルコのものらしき下着を──コスチュームの都合上
「い・い・な・あァ〜ッ、生意気だァ……ッ!」
歯を剥き出しにするミルコ。──ここでオレは彼女に声をかけた。
「ミルコサン、ここはオレが」
「あ?」
怖ぇーよ。
「個性的に、あのヴィランたちならオレの方が相性が良いはずです。それに…流石に今のミルコサンを向かわせるのも、男としてちょっと…」
苦笑いしながら言えば僅かに逡巡した様子を見せた後、ミルコは腕を組み、顎で疾(ryが駆けて行った方向へ視線を促す。…これは許可を取れたと言う認識で良いのだろう。
それでは、早速。
──意識を集中させ、視線を落とし足元へ。そこには極彩色の焔が灯る両脚がある。
タンっ、と。一歩を踏み出した次の瞬間に、オレの視界が凄まじい速度で切り替わった。
──ゴダンッッッ!!!
「「「ぬぅ…ッ!?」」」
衝突音。正体は、痴女そのものの服装(に見える格好)をした淫魔である。疾風怒濤三兄弟たちを追った弘原海は彼らを通り越し、その
唐突な登場に声を発することになった彼らだが…極彩色の焔を灯す弘原海を見て、何事か、得心のいった面持ちとなる。『1』の数字を飾った男が語る。
「ふむ、そのコスチューム…なるほど。先程はマイクロビキニのみを身につけているかと思ったが──」
一呼吸挟む。
「──どうやらそれ自体はボディスーツに近いと見た。ならば下着も履いているな、貴様!」
「ほほう、ならば話は変わってくる。…引くなら今だぞ、我らは子供とて容赦せん!」
続く『2』の男。彼らにも何かしらのポリシーがあるらしく、あくまで取るものは下着のみ。裸体を拝みたいわけではない様だ。
対して弘原海は彼らの発言を静かに聞くだけで、何かしらの反応を見せることはしない。──交戦の意思あり。引く気は無いらしい。
「良い覚悟。…ならば全力を持って応えよう!!」
「「「我ら疾風怒濤三兄弟!! 食らえ、スリップエクストリーム脱衣・零──
………誤算が有ったとすれば、彼らの中で弘原海が訪れた理由が『ヒーローとしてヴィランを倒しに来た』と、無意識の内に定義されていたことだろう。
もちろん、それも有る。だがしかし、今回は違った。彼はヒーローとしてでは無く、弘原海 ありすと言う一個人として疾風怒濤三兄弟の前に現れていた。
──ありがとうヒーロー! 君のおかげで元気が出ました!
たった1人。されど1人。本人にその気はなくとも、弘原海の心に寄り添い支柱とも呼べるべき存在と化した女性。彼女の言葉にどれだけ弘原海が救われたか。その言葉に、どれだけ弘原海が報われたか。そしてそんな彼女に彼らは手を出してしまっていた。
…そう。疾風怒濤三兄弟はただタイミングが悪かった。本当に、その一言に尽きてしまう。
「──、」
幾重にも巻かれ、蜷局の様に首に鎮座するマフラーに遮られながら、淫魔は何かしらを声に出した。
変化は直後に訪れる。足元──弘原海の『影』からナニカが躍り出た。
のっぺりとした黒で平面的なそれは──一言で表すなら、鮫。
「
刹那、疾風怒濤三兄弟の体が食い千切られる。
わざわざ振り返らずとも、職場体験初日からして何とも濃いぃ1日であった。
発目サンのお陰でコスチュームはこんなになるわ、変な3人組のヴィランと出会うわ…あの後、
さて、初日の内容としてはそんな感じであり──この際だ、
こうなった経緯としては以下の通り。とあるヒーロー…ドラグーンヒーロー・リューキュウの事務所へミルコと共に宿泊を頼みに訪れたオレは、そこでリューキュウともう1人、雄英高校が誇る『ビッグ3』とか呼ばれている先輩生徒と一緒になっていた鱗クンの姿を認める。
そこからは早い。彼も彼でオレの職場体験先がミルコと知らなかった為、お互いがお互いをカメラで激写。『鱗クンが両手に花だゾ〜』やら『【速報】弘原海がミルコを侍らせてる』などと一文を添えつつB組のグループラインに送ったことで、それまで行われていた職場体験の報告会は(主に男子の)嫉妬と殺意に満ち溢れた呪詛の放出場と化した。
…小大サンの『殺す』の一言を見た瞬間、反射的にグループを脱退してしまったオレは悪くない。
悪いのはこのおさげ男子である。えぇい鼻の下伸ばしやがって! 普段からオレと小大サンの関係性で散々いじっといて、裏ではこそこそとスタイル抜群のクールビューティ系お姉さんと天然属性持ち先輩のサンドイッチを楽しみやがってこの、控えめに言ってくたばれ!!
…何、お前こそ褐色男勝りバニーといちゃつきやがってだと? そんなんじゃないわい! バトルジャンキーどころか中身バーサーカーだぞ! 一緒にいるだけで疲れるわ!!
…まぁ、そんなこんなで。
鱗クンとのポカポカフレンドリータイムを堪能したオレは、リューキュウ事務所のシャワーで1日の汗を疲れと一緒に洗い流し、就寝するのであった。
…鱗クンの野郎本気で殴りやがって。情けなんてかけずに金的狙うんだったな。
広がる炎に炙られても、その体から確実に熱を失いながら
──私の〝個性〟の話さ、少年。
突き出された拳から伝わる、自身のナカにチカラが送り込まれてくる感覚。
──冠された名は「
もう、幾度と無く見て来たその
──1人が培い別の誰かへ。「サキュバス」はそうして聖火の如く引き継がれて来た! 誰かの
……………本当。最後の最後で涙が引っ込むのやめてほしい。
〜今回発動した主人公の能力一覧〜
『トコジョーズ』
痛みだけを対象に与える影っぽい何かで出来た鮫。与えた痛みで対象がショックによる絶命や発狂はしないので、お手軽にリョナプレイが行える。
前話にて主人公のヒーロー名の件で混乱を招いてしまいましたので、謝罪も踏まえ、ほんの少しですが主人公が個性を受け取った場面を入れてみました。
…余計混乱を招いた気がする。