「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について   作:羽虫の唄

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半年近くも放置してしまいすみませんでした。


【番外編】TS淫魔は笑わない①

 半透明だった。

 何が、と問われれば弘原海(わたつみ)が、と回答しよう。

 

「お、おいなんだアレ…」

 

 雄英体育祭の熱が引ききらず、未だ世間が微かな賑わいを感じさせている頃のことだ。

 ヒーロー科はB組の教室の、その一角。出席番号21の男子生徒──現在は個性を用いて女体化しているが──は真っ白を通り越してまっさら状態になっていた。その様を遠巻きに眺めていた男女の集まりが、声量を抑えて会話を繰り広げている。

 

 声を潜めた鱗の問いかけに、我らがクラス委員長の拳藤さんが眉間に皺を寄せながら答えた。

 

「あー、えー。…んー、体育祭で()()やっちゃったじゃん? 個性の内容も相まって、有る事無い事噂されちゃってさアイツ…」

「ah.....ワタシ見ちゃったよー。弘原海サァン歩いてる、みんなさん隅っこにムーヴ、ひそひそ話すマス…」

「「何それ辛い」」

「まァじ?」

 

 憐憫の感情を露わにしながら言う角取に、鱗と鉄哲が声を揃え、驚愕の表情で取蔭がそれに続く。

 エロいことならなんでも出来る(エロくないとなんにも出来ない)〝個性〟「サキュバス」。何をするにしても異性どころか同性だろうと視線を集めるその個性だが、普段から如何にそのピーキーな個性の制御訓練に励んでいるかを知っているB組メンバーなら兎も角、確かに。ただただ体育祭でその能力の全容を知っただけでは…弘原海のひととなりを知らない人間からすれば忌避や好奇の対象となるのは、よく考えれば必然と言えた。

 

「「「………」」」

 

 彼ら彼女らは視線を件の弘原海へと。…数秒程そうした後に、拳藤の発した「……そっとしとこう」の一言に全員が揃って帰り支度を始めた。

 時に励ましの言葉は逆効果になることもある。そうでなくとも、適切な言葉を現状の弘原海に向けられる気がしない彼らは努めて静かに教室を後に

 

「──恋バナしてぇ」

「うんうん」

「なるほどなるほど」

「ポンデポンデ?」

 

 他者との会話を精神回復にあてがおうとでも考えたのか、弘原海が呟いた。

 ら、どぱァンッ!! と置き去りにされた空気が炸裂音を発する速度で取蔭・柳・それと某ドーナツを頬張った小森が弘原海の席を包囲した。

 

 正直彼女らは、今の弘原海の精神状態だとかそんな彼を慰めようと側に居た為に自分たちの突撃をモロに喰らい窓の外へとコミカルに吹き飛んでいった吹出と物間のことなどどうだっていいと言える精神状態である。

 それ程までに乙女たちは飢えていた。

 勉強訓練訓練訓練勉強訓練勉強勉強勉強訓練な毎日にすり減っていた乙女たちの心はそれ程までに欲していた。

 どんなに些細でもいい、兎に角アオハルをッ。

 

「え〜なに話すぅ〜?」

「理想のデートとか〜?」

「私的にはぁ〜、静かに水族館デートぉとか〜」

「や〜だ〜、素敵ィ〜」

「マジ卍解(ばんかい)

 

 なんか違くね? と取蔭からツッコミを喰らう弘原海。

 

「因みに聞くけどバッセンデートはアリなんスかね皆さん」

「「「ナシです」」」

 

 嘘だろう!!? と聞き耳を立てていたスポーツ大好き系男子数名が悲鳴を上げ、なんとなく思い描いていた理想のデートが砂塵とかしたことで膝から崩れ落ちる。

 そんな様子を視界の端に映しながらきゃいきゃいと盛り上がり始めた彼女らは話題を弘原海へと振るう。振られた彼女(かれ)は無駄に個性で肉体に改造を施し、髪や肌の色を変えてギャルと化した。

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 159/100*

 *欲求:「──黒ギャル彼ぴィいいいいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ッッッ!!!!」*

 

 

 

 

 

 視界に飛び込んだ情報(エロステータス)にお前は暴走した初號機か? と内心で思いつつ、デートとかではないんですがと頭に付けて語り始める。

 

「先日ちょっと目撃したんですけど、とある男女がッスね、こう…自販機の前でやりとりしてまして。女性の方がコーヒー買ったんスよ。そしたら、微糖のつもりが無糖だったらしくて──

 

『うぇッ! 無糖じゃんこれ!』

『ちゃんと見て買えよ』

『うぇー…、あげる』

『自分で飲めよ、ったく…』

『──きゃーっ、間接キスじゃーん♪』

『ブフッ?!』

 

 …見たいなやりとりはちょっと微笑ましいと言うか素敵かなーと思ったッスねぇ」

 

 弘原海が言い終えると柳と小森がきゃーきゃーと騒ぎ立てた。やだ距離近〜いやら、手玉に取られてる〜反応がウブい〜などと笑う2人だが、何故か取蔭だけは異なり、それまでのテンションが鳴りを潜めてたらりと汗を流していた。

 

「う、うん? ちょいちょい、待ってそれ──」

 

 彼女が何か言う前に、にっこり笑った弘原海が爆弾を投下する。

 

「因みにそれ取蔭サンたちのことで」

 

 

 

 

 

「逃がすなッ、追えッッッ!!」

「捕らえしだい詳細を吐かせろ!!」

「待って下サーイ切奈サァーン」

「ん」

「宜しければお話をお聞かせ下さいませんかいえいえ邪な気持ちなど持ち合わせてはいませんよ世の為人の為にヒーローを目指しているとは言え私も年頃の少女であるので恋に興味が無いかと問われればやはり否なのです今後の参考に是非ともええ是非ともお話を」

「ヒャア新鮮な恋バナだァ!」

 

 

 

 

 

 柳を筆頭に普段であれば頼れる姐御・拳藤も肉を放られたハイエナと化し駆け出した取蔭の後を追って行く。覚えてろテメェええええッ!! と言う彼女の叫び声はドップラー効果を引き起こしながら遠くの方へと溶けて消えていった。

 後に残されたのは嵐が過ぎ去ったかの様な静寂──も、一時のことでありすぐさま男子たちの怨嗟の声に飲み込まれてしまう。

 

「ふ、ざ、ふざけるなよ! 性別に関係なくフレンドリーに接してくるあの取蔭に彼氏だと!?」

「スキンシップが強めで俺たちの心を常日頃から掻きむしるあの小悪魔ガール取蔭が…!?」

「普段はもっとしっかり考えなよ男子と厳しめだが、そのくせ他人の機微に敏感で本当に辛い時には慈愛に満ちた慰めの言葉をくれる取蔭とそんなうらやま関係に…! い、一体誰だって言うんだよ弘原海っ!!」

 

 君ら気持ち悪いね、の一言をギリギリで飲み込んだ弘原海は、血涙を流す彼らの質問に答えるべく先程同様ににっこりと笑みを浮かべ。

 

「ヒント、『3』」

 

 刹那の空白。

 直後。ぐりんっ、と彼らの視線は出席番号3の男子生徒へ向けられた。

 

 

 

 

 

「逃がすなッ、追えッッッ!!」

「捕らえしだい血反吐を吐かせろ!!」

「待ァてよ鎌切ィィイイイイ!!」

「宜しければお話しを致しませんか鎌切氏いやいや邪な考えなど持ち合わせてはおりませんぞ世の為人の為にヒーローを志しているとは言え私も年頃の男児ですのでな恋愛トークに興味が無いと訊かれればやはりNOなのでして是非ともええ是非とも肉体言語(おはなし)を」

 

 

 

 

 

 ハイエナの群れとかそう言うレベルではなく、怨嗟の鬼と化した彼らの追跡を振り切るべく全速力で逃走を図っているであろう鎌切の弁明が向こう側から轟いてくる。

 

 

 

 

 

『ち、違ェッ! アイツとは小学校から顔馴染みってだけで…!』

『それで距離感が近いんですね、分かります!』

『だけど段々お互いに男女の意識が強まっちゃって来てるんですね、分かりますッ!!』

『それでふとした拍子に変な空気になったりするんですね、分かりますッッ!!!』

『そんでこの後女子ズに関係訊かれてうざ絡みされたりしてイラつきながら否定しようとしたらふとこっちには気付いていない彼女の姿が目に入って少し昔のこと思い出した後で静かに「…別に。ンなんじゃねェ」とか呟いたりするんですね、分かりますッッッ!!!!!』

『ヒャア新鮮な人肉だァ!』

 

 

 

 

 

 ズダドドドガガガバゴーン!! と言った破壊音も次第に遠ざかって行き……1分も経つ頃には完全に鳴りを潜める。

 自分でしておいてなんだが、女子の方は兎も角キリングマシーンと化した男子生徒から彼は無事に逃げ切れるんだろうか、と思考する弘原海。そんな彼のすぐ横では、呻き声を漏らしつつ窓から教室内へ戻ろうと蠢いている吹出・物間の姿が。

 

 彼らを手助けしながら弘原海は言う。

 

「……恋愛相談(恋バナ)しません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレ、吹出クン、物間クン。

 教室に残ったオレたち3人はオレの席の周りに椅子を集めると……まず始めに、物間クンが口を開いた。

 

「…まぁ十中八九ぅー…、小大に関してなんだろうけどさ」

 

 腕を組み、悩ましげに下を向いていた彼は視線をこちらへ向け、

 

「正直今すぐ帰りたいんだけど」

「おっぱい触らせてあげますからァ……ッッッ!!!」

 

 こちらの懇願に、ガチ泣きじゃねえかよと普段の口調を崩して浮かせた腰を落ち着かせてくれる物間クン。

 体育祭にて小大サンの本性を垣間見た彼にとって、オレからの相談など面倒事以外のなんでもないだろうにひたすら感謝の念しか無い。彼の気が変わる前にしからば早速…と。

 

「あー、弘原海。すまないが話の前に少しいいか?」

 

 うん? と疑問の声をあげれば、片手をこちらに差し出した物間クン。…あぁ、()()()()()()()と意を汲んだオレは彼の手を軽い調子で(はた)き、それと同時に互いに個性を発動した。

 

「『7』ッス」

「こっちは『3』だ」

 

 ──言って、互いに安堵から溜息。

 オレたちの行動の意図を読めず、首を傾げて話に着いて来れていない吹出クンの姿を認めたので、軽い謝罪を述べてから事情説明へとオレは移る。

 

「えー…と、ッスね。オレの個性(サキュバス)なんスけど、実は色々と他人の情報を見ることが可能でして…」

「うんうん」

「まず始めに、相手の性欲値がどの程度のものか分かります」

「ふむふむ」

「それから、相手の感度の高さも分かります」

「なるほど」

「他には興奮だとか発情だとかの精神状態だとかオレを何回オカズにしたかだとか今何を欲しているかだとかのエロステータスが判別可能で──」

 

 ぽん、と。そこまで語ると、吹出クンはそっとオレの肩へと片手を添えた。

 

「……今まで辛かったよな、苦しかったよな。ごめん、お前の苦しみに気づいてやれなくて」

 

 それはそれは優しい声音である。

 おいやめろ優しくするな、泣いちゃうだろ。

 

 さて、そんなこんなで。オレのサキュバスの副次能力について知識を深めた吹出クンは、「それじゃあ小大を避けてるのは()()が原因なのか?」と訊ねてきた。

 もちろん、その答えはYES一択である。

 

「さっき言った性欲値なんスけど、これは上限100に対して現在がどの程度かで冷静か興奮しているか、はたまた発情しているかが判別できまス」

「さっき2人が言ってた感じか」

 

 ッスね、と首肯すると、続けて小大は? と訊かれる。

 

「…今のところ小大サンは臨界点突破(159)をキープしてまスね」

 

 …言うや否や吹出クンの背景が宇宙に切り替わり、その横で物間クンは過呼吸に陥った。

 

「ちょ、ん? それってどう、えぇ…???」

 

 混乱極まれり、と言った具合である。彼女のその高すぎる性欲を理解しやすい様オレは実例を述べる。

 

「すいません、突然言われても信じられないし何が何だかって感じッスよね…。えっと、大体10〜20辺りで軽い興奮状態。30〜40、若しくは50…で、もう肉体に症状が出始めています。それ以上となると既になんらかの行動をしてる感じッスかね。自慰行為とか痴漢とか……」

「弘原海の言うとおりなら痴漢の3倍近いんですが!?」

 

 ……慌てて言う彼に、オレは数度の深呼吸の後、告げる。

 

「──体育祭前のことッス。オレは薬を盛られて眠らされた挙句、キャリーバッグに詰め込まれてお持ち帰りされ、目が覚めた時には服をひん剥かれ、目前には上気した小大サンの顔が(ドターンッ)」

「物間ァ───ッ!!」

 

 オレの言葉の途中で物間クンが椅子ごと背後に倒れたので、恋バナは一時中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…──いや、いやいや、いやいやいや。薬を盛った挙句に誘拐だぞ? それは普通に警察案件だろう!?」

 

 ショックから復帰した物間クンは、未だ蒼さの感じられる顔色のまま開口一番そう言った。

 まぁ彼の反応もごもっともではある。あるのだが、今日までオレが彼女の行いに対して暴力で対抗こそすれども先生方や警察機関になんの報告もしていないのにはきちんと理由がある。

 …まぁ、理由としては酷く自己保身的な物なのだが。

 

「実は……スね。小大サンが()()なった原因がオレにあるかもしれなくてですね……」

 

 思い出されるのは体育祭前。USJ襲撃事件後、件の小大サンの性欲値が臨界点を突破してすぐのことだ。彼女の性欲解消(もんだいかいけつ)の為にオレは鎮静薬を生成し香水と称して渡したのだが──。

 

「──その時の香水…鎮静薬を使った後に小大のステータスが急上昇した……? でも、きちんと成分や効果については然るべき機関で保証された物なんだろう?」

「なんスけど…」

 

 オレの説明に物間クンと吹出クンは揃って首を傾げた。

 彼の言うとおり、生成した鎮静薬については雄英御用達の研究機関にきちんと安全・効果諸々問題ないと証明された物だ。にも関わらず、現に小大サンはそのエロステータスを常軌を逸脱した値に変容させてしまっている。これを問題があるのはこちらではないのだろうか、と思い込んでしまうのは仕方がないことではないだろうか。

 暫しの間、オレたちは沈黙。そうして口を開いたのは物間クンだった。

 

「──仕方ない。この際だ、徹底して調べよう。弘原海、その鎮静薬はすぐ出来るか?」

 

 彼の問いかけに首肯しつつ、尻尾の先端から青白い液体を滲み出させる。

 しかし、調べるとは一体?

 

「もう一度その鎮静薬の効果を実際に試すんだ。協力を募ってね」

 

 …こんなことに協力など一体誰がしてくれるのだろうか。そんな疑問の視線に物間クンは答える。

 

「ミッドナイト先生にさ。あの人なら、この手の相談には必ず乗ってくれるだろう。…もちろん小大のことについてはある程度ぼやかしてだけれど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物間クンの提案に、早速職員室へ向かうオレたち。

 鎮静薬はA組の八百万サン──の、個性をコピーした物間クンに創造してもらった容器に詰めて持ち運んでいる。…雄英体育祭で彼女をあられもない(パンツまるだしの)姿にしてしまったオレはA組女子から基本的に敵対生命体レベルで嫌われているので、こんな簡単な依頼も他人を頼らざるを得なくなってしまっていた。

 

 因みに当の八百万サンに関しては、体育祭後に彼女の(恐ろしくデカく豪華な)家へ足を運びジャパニーズ土下座を敢行した際に「雄英体育祭に真剣に臨みご自身の個性を正当に扱った結果のことであり、こうして謝罪にも訪れて頂きました。そうお気になさらないで下さい。…は、恥ずかしくはありましたが」的なやりとりがあったりする。

 本人からは一応の赦しは得ているのだが……まぁ、この辺は仕方がないことだろうなぁ。トホホ。

 

「すみませーん、B組の弘原海です。ミッドナイト先生はいらっしゃいますか?」

 

 そんなことを思考しながら到着した職員室の扉を開け、目的の人物へ声を発する。

 

「あら、何かしら?」

 

 こちらの声に、18禁ヒーローは笑顔を向け──

 

 

 

 

 

*香山 睡──オカズカウント(オレをオカズにした回数):4**1

 

 

 

 

 

「おっぶうぇべ」

「「「ぎゃーっ!!?」」」

 

 吐いた。

*1
体育祭のアレ




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