「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について   作:羽虫の唄

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10000文字と数百文字。
もっと丁寧にまとめられる様になりたいでござる。


【番外編】TS淫魔は笑わない③

「心操君、コレどーぞ!」

 

 時は放課後・場所は数ある訓練場の内の1つ。筋力トレーニング用の機器が一通り並べられたそこは、規模で言えば訓練『室』の方がしっくり来る表現かもしれない。

 そんな中でとある生徒が同クラスの女子生徒からスポーツドリンクと清潔感溢れるスポーツタオルを受け取っていた。

 

「……ありがとう」

 

 獅子の(たてがみ)の様に掻き上げた髪、気怠げな表情、眼の下に薄く隈。

 心操 人使が努めて笑顔を意識してそう返せば、女子生徒は若干頬に朱を滲ませながら後方の他の生徒の元へと、小さく悲鳴を零しながら駆けて行く。

 

 受け取ったは良いものの果たしてこれは洗って返すのかそれとも貰ったままで良いのか、どっちなのか。

 そんなことを考えつつ流れる汗を拭う心操。その横では、駄弁り仲間なクラスメートが何やら会話を広げていた。

 

「あぁあ〜。気付いてしまうー、気怠げな雰囲気の中に熱い思いを秘めた心操の魅力に皆が気付き虜になってしまうぅーっ!」

「ヒーローは人気が出てナンボ。心操を個性だけで判断して敬遠していた連中が心操に傾倒し始めるのは喜ばしいが、反面寂しくもあるのは確かだなぁ」

「おろろーん。デビュー当時から追っかけ続けていたバンドグループが急に人気が出始めた古参ファンの複雑な気持ちが今なら分かるぅ……」

 

 …雄英に入学してから今日に至るまで心操の個性に知識を深めても気の置けない友人として接してくれた彼と彼女だが、この時ばかりは何を言っているのか理解出来ない心操だった。

 

 さて。

 ヒーロー科への入試試験には落ち、雄英体育祭でも好成績を納められたかはちょっと微妙な──だからと言ってヒーローになることを諦めずこうしてトレーニングに励みだした心操。

 そんな彼の姿勢を見て先程の彼女らの様に声援を送る者も居れば、自分も負けていられるかとばかりに精を出す者も現れ始めた。確実に、体育祭を分水嶺(ぶんすいれい)にして彼を取り巻く環境は変わりつつある。

 

(…ヒーローになる。……こんな個性でじゃない。()()()()()だ)

 

 そうしてその変化には彼自身も含まれていた。

 客観的に見てそう自覚出来る程度に、()()()()を経てから心操は心に余裕を持てていた。

 

 よいしょ、と一通りトレーニングを終えたことであるし、そろそろ時間もいい頃合いである。放課後を利用した自主訓練を切り上げてそろそろ帰った方が良いだろう。そう思い、汗を流す為にシャワー室へと心操は向かい始めた。

 

「……ファンクラブ兼応援団兼追っかけ隊第一号としては周りと差を付けておきたいところだし…ここは心操の裸体を拝んでおくべきか?」

「やめて」

 

 女子生徒の呟きに割と全力で拒否する心操である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…──凪いでますよ今オレの心は。無です」

「違うんだ、違うんだよ! アレはタイミングが悪すぎたんだ、事故なんだよ…ッ!」

「オレの信用の無さを実感出来る良い機会でした」

「やばい、弘原海(わたつみ)の心に深すぎる傷が!」

 

 茜の色濃さがピークを過ぎようとしている頃である。

 既に数時間前に経営科や普通科生徒は下校を済ませているものの、自主訓練を終えたヒーロー科やアイテム開発に精を出していたサポート科の生徒が帰宅を始めている為に、意外と雑踏が生まれている校門前。

 

 帰り支度を終えた心操たちが見つけたのは、そんな隅っこの方で何やら上記の様なやりとりを行なっている生徒たちだった。周辺の空間ごとなんだかセピアカラーに染まっている1人を中心に、何事か慌てている2人組の内片方が顔見知りであった為に心操は声をかける。

 

「……なにやってんの? 物間」

 

 名を呼ばれて振り返った男子生徒──物間は、「おお心操君」と声を発した。

 

 雄英体育祭の第二回戦・騎馬戦にてチームを組んでからと言うもの事あるごとに何かと話しかけられる場面が多々あり、彼のクラスメート──困ってるだろと言いながら手刀を物間に放っていたサイドテールの女子──曰く、どうにも気に入られたらしい。

 口を開けばやれ打倒A組やらと口に出す物間は現在、普段の様子が嘘の様に疲弊した具合で背後のセピアカラーな物体(?)を緩く指す。

 

「いやぁ、何から話せばいいんだろうね…」

 

 頭部が漫画の吹き出しになっている生徒の言葉を右から左に透しているセピア物体を指す物間の話を要約するに、なんでも勘違いからクラスメートからリンチ紛いの扱いを受けたとのことだ。説明を聞き終え、改めて見たその物体が弘原海であると認識を終える心操。

 重力に負けるどころか既に重力の影響下から脱しつつある件の弘原海は、周囲の存在を認識しているのか不明な調子で声を漏らした。

 

「自分の心臓ぶん殴って身体能力を底上げする拳藤サンだとか、「死して賢者となりなさい…!」って叫ぶ塩崎サンとか、マタンゴみたいに全身を茸で覆った小森サンとか…他にも、水蒸気爆発しながら突っ込んで来る角取サンも、個性(ポルターガイスト)で空間ごと念力でプレスしてくる柳サンも、CV:悠◯碧で「どうしたエビの様にピクピクして、豚の餌になりたいのか?」って言ってきた取蔭サンも、そりゃあ怖かったスよ……」

 

 一呼吸挟む。

 その後、でも、と続けた。

 

「──…でも1番怖かったのは、ただただ静かに聴取してくるブラドキング先生だったんスよ………」

 

 ぶわわっ、と涙を流した物間ともう1人の生徒が駆け寄りその体を抱きとめる。脳裏に絶対零度のマグマを人の形に固めた担任の姿を思い出している当人には、そんな級友たちを認識する余裕が無いらしくカタカタと虚空を覗きながら微振動を行っていた。

 

 ──さて。そんな姿を見た心操は、と言うと。

 

「…何があったのかなんて知らないけどさ」

 

 片手をポケットに。もう片方で後頭部の髪を弄りながら言う彼はその言葉のとおり、物間の説明を聞いたとは言え、弘原海がこうなった理由なんて殆ど知らない。

 …が、体育祭後から耳につく様になった『ある噂』に関しては異なる。1人の人間の全てを個性だけで判断し、有る事無い事繰り広げられる陰口や嘲笑…。

 

「こっちのクラスでも聞くよ。なんか美人な……クラスメート? 彼女さん? に、エグいボディブローとかバックドロップとか、突然暴力振るったって言う話」

 

 かつての自身の境遇を思い出しつつ言葉を紡ぐ心操。幸いなことに彼の視線(いしき)は脳裏に浮かんだ苦杯に向けられていた為、ちょっと頭を抱えていた弘原海に気付くことはなかった。

 現状、出回っている弘原海に関しての噂は『その個性からよく知りもせず人となりを決め付けている物』と『クラスメートに暴行を繰り返して行なっている物』の2種類あるのだが、前者は兎も角として後者に関しては割と事実であったりする。尾鰭の付いた個性関連の噂と違い悪質な(たちのわるい)ことに、暴力云々はそうするまでの前提条件が異なっていると言う傍目からは判別が困難なものなのだ。

 

 心操は2つの噂を混同しているらしく、暴力云々についても尾鰭の類であると思っているらしい。義憤の念を燃やしているその瞳から顔を背けている弘原海に気付くことなく、彼は続ける。

 

「でもさ、周りがどうこう言おうが関係ないだろ? そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()良い。…そう言ったのはアンタだろ?」

 

 重要なのは自分がどうするか・どうしたいかである。

 幼い頃から向けられ続けた周囲からの評価で前後不覚になっていた最中。『ヒーローになりたい』と言う夢の──言うならば純真さを思い出すきっかけになった、かつて戦った時に自身に向けられた言葉を引用しつつ語る心操。

 そんな彼はやはり、すっげぇ小さい声で「ココロガイタアイ」と漏らす弘原海には気付かない。

 それにさ、と更に続ける。

 

「…少なくとも。あんな噂よりもアンタのことを信じてる人間が物間たち(そこの2人)以外にだっているんだからさ、しっかりしなよ。…体育祭であれだけ言っといてこんな格好見せられちゃうと、正直幻滅しちゃうなァ」

 

 …挑発混じりなその言葉。

 彼の隣に居た普通科の生徒たちが肘先でその脇腹を突くなどして揶揄い始めると、当人も()()()自覚はあったらしく居心地悪そうに身を捩っていた。

 ──さて。

 先の言葉を聞き、そんなやりとりを眺める弘原海。そよ風が一つ吹けば砂城の様に崩れてしまいそうな儚げな笑顔を浮かべる彼は、

 

「………そう言ってもらえただけで、オレはもう救われてるんスよ」

 

 小さな小さなその呟きに、誰かが反応を示す間も無かった。

 ボンっ、と音を立てその肉体が異性・同性問わず虜にする魔性の代物に切り替わる。

 直後だった。

 

 

 

 ドバッ!! と、その首から間欠泉じみた勢いで赤色が噴き出した。

 

 

 

「き、ひ……ッ?!」

 

 真っ先に反応を見せた普通科の女子生徒は悲鳴を上げ切ることも出来ずに崩れ落ち、それを男子生徒の方が慌てて受け止める。

 何が起きたのかなんて分からなかった。呆然と立ち尽くす心操は、噴き出る血の勢いと対称的にゆっくりと体勢を崩して倒れる淫魔に物間たちが放つ怒号を聞くことしか出来ない。

 

「こら弘原海! 体の一部をスライム化させて色素操作するのは敵味方双方にダメージが入るから使っちゃダメだって言われてたでしょ! 普通科の人気絶しちゃったじゃないか!」

「さっきの心操君の言葉が嬉しかったのは分かったけれど、もっと他に適切な表現があっただろう!?」

「み、んな……。──ごめん、ねぇ……

「どんどん声量を弱々しくして今際の際を再現するのを辞めろ本当に…!」

「ごめんねって言うなら今すぐやめない!?」

 

 お前のその悪ノリは何なんだ一体! と、物間の怒鳴り声が辺りに轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやーお騒がせしましたと頭を下げるや否や、結構鋭いローキックを心操クンたちから頂くことになったオレは現在土下座中である。

 

 いやさっきのはですね心操クンの言葉がどれだけ嬉しかったのかの規模を表現したのであってですね、やだなあみなさんそんな怒らないで下さいよ……あっ、ダメですかすみませんでした。

 

 一通りどつかれたことで心身共にボロボロだった状態から更にボロボロになったオレは力無く立ち上がると、そのまま帰路に着く為に、雄英バリアーの備えられた校門へ物間クンや心操クンたちと一緒になって向かう。

 …そう言えば心操クンたちは普通科なのだが、どうしてこんな遅い時間まで残っていたのだろうか。時期的にテスト勉強はまだ先だと思うのだが。

 

「え、このまま帰んの? クラスの誤解とか解いといた方がいいんでない?」

「そうしたいのは山々なんスけど、今は皆さん聞く耳持たずッスからどうせ…」

 

 校門に向かう途中、普通科の女子生徒サンに提案されたオレは苦笑しながら──なにわろとんねん──答える。

 クラスもそうだが、それ以上にブラキン先生が此度の騒動を信じてしまったのが致命的である。現在の心境を表すならまさしくどうしてこうなった、だ。

 全ての元凶たる小大サンをどうしてくれようか、そう思考を巡らせようとした時である。

 

 

 

 

 

「ん」

 

 

 

 

 

「『追放戦士の逆転劇 〜転生した先の異世界で勇者パーティから追放されたけど、実は俺が真の勇者だった!?〜 』!!」

「弘原海落ち着け! お前は異世界転生していないし個性こそあれどここは科学が発展した現代社会だから! なんちゃって中世ヨーロッパじゃない! ──っておい、何するつもりだ!?」

 

 唐突に背後から発せられた声に奇天烈な悲鳴を上げながら倒れると、慌てた物間クンが叫んだ。

 突然すぎる怨敵・小大サンの登場にあっという間に恐慌状態に陥る。ちくしょう、今は例の一件でミッドナイト先生辺りに聴取されているんじゃなかったのか!? と心中で混乱を極めながらも身を守る為個性を発動し、谷間から抜き出した刀で反射的に小大サンを斬りつける。

 

「「「事()ェ──ッン!!」」」

 

 心操クンたち普通科トリオがオレの突然の行動に悲鳴を上げ、それとほぼ同時に刀の効果が現れたことで、小大サンの四肢(りょうてあし)が硬質な音と一緒に千切れ落ちた。

 

「んんん!?」

「あ、ごめん無理。──おふぅ」

 

 美少女(ガワのみ)が唐突に達磨状態になったことで、限界を迎えた普通科の女子生徒サンが意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、支えを失ったことで地面でのたうつ小大サンだが、その様は宛らひっくり返った昆虫である。

 あんなことがあった後だ、全面的に被害を被った当人としてはこのままこのガワだけ美少女は捨て置きたいところなのだが、鬼の剣幕の心操クンに詰め寄られた為に──向こうは事情を知らないので至極当然の反応なのだが、いかんせん理不尽と感じてしまい渋々ながら──小大サンの四肢を繋ぎ直していく。繋ぐと言っても、断面に断面を軽く押し当てるだけなのだが。

 

 見た目こそ猟奇的ではあるが容易に相手を行動不能にすることが可能な上、こうして元に戻すのも簡単なので案外使い勝手が良い副次能力だったりする。

 ……発動したての時は、朝起きたら胸から刀が飛び出して両手脚が千切れていてかなり驚いたものの。

 

 話を戻して、五体満足元の状態に戻った小大サン。数度制服についた汚れをはたき落とす彼女は一体何をしに来たのか、すわ第2ラウンドかと刀を構えるオレ…なのだが、そんな考えに反して彼女は静かに頭を下げた。

 オレはもちろんのこと、物間クンや吹出クン、近くに居た心操クンたちも一様に首を傾げたのが気配で伝わってくる。

 

「ん。──ごめんなさい」

 

 謝りに来た、と行動の意図が読めずに眉を顰めていたオレに、小大サンが言葉を紡いだ。

 先程の──戯言でB組女子ズの善心を利用し怒れる彼女たちをオレにけしかけたことを謝りに来た、と。…ふむ。

 

「ちぇすと」

「流れる様に刀を振るうんじゃないっ」

 

 その四肢を切断すべく再度刀を振るうも、横合いから滑り込んで来た吹出クンの『擬音(ガキン!)』に遮られてしまった。

 

「いやいや、逆に聞くがあれだけのことをされて謝罪だけで済ませられると思うのか…? その身で償えよ」

「怖いよ!? 普段のでゅるわ〜んとしたお前はどこ行っちゃったの!」

 

 吹出クンの中のオレのイメージが気になるところだが、割と普段からこんな感じである。

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 159/100*

 *欲求:「そ、そんなに彼ピが言うんなら仕方がないンゴねぇ…、言われたとおりこの身で償うンゴ。…フヒッ!」*

 

 

 

 

 

 もう土に還そうぜこの産業廃棄物以下の生ゴミ。

 

 その後、聞くだけ話を聞こうじゃないかと言う物間クンの提案により、甚だ遺憾だが小大サンに発言する時間を与えることとなった。

 仕切り直しの為か、まず神妙な表情で咳払いを挟んだ彼女は、取り敢えず一言。

 

「ん。──まさかあんなことになるとは思ってなかった」

 

 そう語った小大サンは心なしか青ざめており、よく見なくともその身体が小刻みに振動していることが認められる。

 

 オメーもちょっと拳藤サンたちがトラウマになっちゃってんじゃねぇか。

 

 …ハァ、と溜息が自然と溢れ出る。何と言うか、冷や汗を流しながらカタカタと震える今の小大サンの様子を見て、気を削がれてしまった。押し寄せて来た疲れが怒りよりも勝ってしまった状態である。そんなオレを見て、改めて謝罪の言葉を述べながら頭を下げる小大サン。

 謝るくらいなら最初からするな、と言うのが素直な感想だった。

 

 ──そんなやりとりを行っている内に、そろそろ本格的に日も暮れ始めた頃である。いい加減帰ろう、と結局最後まで付き合わせてしまった物間クンや、オレのせいで気絶してしまった普通科の女子生徒サンの介抱に当たっていた心操クンたちに謝りつつ、帰路へとついた。

 雄英バリアーなるクソダサい名前の備えられた校門へと辿り着くまでの少しの間、小大サンが話しかけてくる。

 

「ん。──ごめん、ありす」

「はいはい、もういい……いや良くねえな。…取り敢えず、明日以降、クラスの誤解解いといて下さい」

「んん……」

「何でちょっと不服そうなの? 全面的にアンタが悪いッスよね?」

 

 あれだけのことをしでかしてくれておきながらのその態度に思わず噛み付くと、向こうも向こうで、むっと口角を僅かに下げて反論して来た。

 

「ん。──ありすだって私のことを弄んだし、()()()()()()()もした」

「まだその虚偽(ざれごと)を言うか貴様」

 

 小大サンの発言に心操クンらがジトリとした視線を投げかけて来た為、こちらも慌てて返す。

 今日のほんの少しの間だけで心操クンの中でのオレの株価が大暴落してしまった気がして仕方がない。それもこれも、目前のこの性欲大魔神のせいで──

 

「──え?」

「「「え?」」」

 

 小大サンの反応に、思わずオレと物間クン、吹出クンの声が重なった。そんなオレたちを見ながら、彼女はもう一度。

 

「──え?」

 

 もう一度、本当に不思議そうにオレの方を見ながら首を傾げる小大サン。

 

 

 

 えっ。何そのはんの…何そのはんえっ何その反応??

 

 

 

 小大サンの予想外の反応に、ぶわっと一息に全身から変な汗が滲み出たのを自覚すると同時、背後からの物間クンたちによる「弘原海…?」と言う声を聞く。

 や、やめて! その「今まで信じていた奴は実は度し難いクソ野郎だった…?」みたいな表情でこっちを見ないで! その『擬音(グチャッ)』しまって! 赤黒い、赤黒いよ!!

 

 その内心操クンたちも眉を顰め始め、小大サンも「本当に覚えてない…?」と呟いたことでいよいよパニックに陥る。

 

 ま、待て待て、彼女の今の反応は明らかにおかしすぎる。この期に及んで未だオレを陥れようと…ッ!?

 …にしては純粋に不思議がっている様な、そうだエロステータス──ダメだ、こっちも『覚えていないことに対する疑問』で何も表示されていない!

 

 状況を打破すべく、必死に脳をフル回転させる。

 何だ、いつ・どこで・何を・小大サンにした…!? 口振りや反応から見るに、これまでの正当防衛に関してのことではなさそうだ。そうすると体育祭での彼女に対する拒絶…? いやそれ以前の、香水等の思わせぶりな──小大サンの言を借りるならば、心を弄んだとかそう言う類のことだろうか。いや、だとしたらわざわざ区分して言わないだろうし…ッ。

 

 背後から凶器を手にしつつ迫り来る物間クンたちの気配に危険を感じるも、一向に答えを導き出せる気がしない。

 …そうこうしている内に、正解を教えてくれたのは他でもない小大サンであった。オレが終ぞ答えを言えなかったことに対し、彼女はどこか寂しさを感じさせる表情で吐息をこぼしながら。

 

「ん。──本当に覚えてないの? 私のこと、()()()()()()こと」

 

 蹴り飛ばす…、と口の中で反芻する。

 ………──うん、ダメだ。そのくらいの暴力だと心当たりしかねぇや。

 悲しいことに小大サンから身を守る為、その程度は日常茶飯事であったのだ。

 

 そんなオレを他所に、小大サンは続ける。

 

「ん。──()()()()()()

 

 にゅーがくしけん…? と、一瞬、予想外の単語の登場に理解するのに時間を要してしまい、何とも間抜けな声を発してしまった。

 そうして1秒、10秒、1分…。

 時間を消費したオレは、漸くその記憶を思い出すことに成功した。思いがけないアハ体験に、思わず大声を出してしまう程である。

 

「──『アレ』小大サンだったの?!」

 

 驚愕を露わにしながらのオレの言葉に、毎度お馴染みの「ん」の一言で肯定をする小大サン。そうして背後から肩を叩かれて見れば、説明ヲ求ム、と言った具合の表情の物間クンたちの姿を認めた。

 ほんの少し肩を跳ねさせながら、こちらも死にたくはないし勘違いから彼らに罪を背負わせてしまうのは申し訳ないので、急ぎ説明を始める。

 

「あ、あーッ。えーとッスね。入試ン時に、最後の方で……0P居たじゃないッスか、あのでっかいやつ。オレたちの会場に配置されてたのが試験終了間際で倒れたんですけど、丁度その先に人が居たので全力でドロップキックしたんですが──それがどうやら小大サンだったらしくて」

 

 オレの説明に彼らは揃って驚愕の表情を見せてくれた。

 良く無事だったなと言われるが、もちろんあの巨体が倒れて来たのならただ蹴り飛ばしただけでは焼け石に水である。当時は普通にその後、監督官の先生に救出された。

 なるほどなるほど…まぁ確かになァ。小大サンからすればただ不必要に、見知らぬ男子から渾身のドロップキックを喰らった訳である。そう思えば、彼女のあの時の行動にも納得

 

 

 

「する訳ねぇだろカスがテメーの所為でどんな目にあったと思ってんだボケあーやっちゃおっかなァー半径5km圏内の不快害虫を誘引するスモークグレネードのピン引っこ抜いちゃおっかなぁああああ!!!」

 

 

 

 谷間から取り出した煙幕装置を見て、さしもの小大サンも顔色を真っ青に染め高速で首を左右に振り出した。数ある副次能力の中でもトラウマ必至の凶悪な部類に入るであろう代物に、何度も衝動的に目前のバカタレ向けて放ってしまいそうになるのを──止めに入った物間クンや心操クンたちにも手伝ってもらい──堪え、何とか抑える。

 強力な分、自分も巻き込まれてしまうからな、我慢できて偉いぞオレ。

 

 …さてと。

 

 肩で息をするオレ(たち)は、いよいよ時間がまずいので、どれだけ怒り足りなくとも切り上げて帰宅を優先することにした。

 校門を目前にしてどんだけ立ち往生しているんだと唸るオレを見かねて、道中、話題転換8割:興味2割な表情の心操クンに入学試験をどの様に突破したのかを訊ねられた。

 どの様に、と訊かれてもな…。

 

「別に大したことはしてないッスよ? 怪我してたり無理してそうな人を片っ端から声かけて安全な場所に誘導したり、落ち着かせたりしてただけですし」

 

 入学試験──当時は感度6000倍(超パワー)も持っていなかったので、ぶっちゃけてしまうと敵Pは0だったりする。その代わりに、上記の行動やその他、()()()()()()()()()()()()()()受験生から他の受験生を庇うなどが功を奏したらしく、レスキューPが合格ラインに達し、こうして晴れてヒーロー科へ在籍することが叶った訳である。

 

 今現在はどこぞの小大サンの所為で本気で除籍の危機も心配な状態になっているが。

 

「──いやぁ、にしても。思い返すとあの時は本当危なかったッスねぇ…」

 

 半ば現実逃避の様な呟きに、隣を歩く小大サンが「ん」と漏らす。

 何ナチュラルに寄り添って来てんだこの人。

 

「まさか0Pが倒れてくるとは思わなかったですよ。誰かがぶっ飛ばしたんですかね? 直前に、()()()()()()()()()()()──」

 

 言って、小大サンたちが同時に「ん?」と声を漏らし、オレも自分の発言に眉を顰めることとなった。

 はて、何だろうか。なにか、そんな掛け声を放つ同学生を知っている様な気が…?

 

 

 

「──ぼっ、ボクは何てことを…ッ!!?」

 

 

 

 背後から、声。

 振り返って見たのは、モジャモジャとした癖の強い毛髪の男子生徒。ヒーロー科はA組の緑谷クンである。悲痛な面持ちをこちらに向ける彼は、オレたちの誰かが反応を見せるよりも早く、目にも留まらぬ速度で土下座の体勢を完成させた。

 額を地面に押し付けながら彼は言う。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…! 本当にごめんなさいっ!!」

 

 うん待ってね。あの時のアレが君が原因であることは良く理解した。でも土下座は辞めてくれないかな。時間が時間とは言えまだ疎らに人が居るのよね。周りの人見てるのよね。

 

「ちゃ、ちゃうねんデクくんは悪くないんよ! 私があの時転んだりなんかしたから…!」

 

 緑谷クンの側に控えていた…麗日サンだったかな? が、彼を庇う様にして続けて土下座フォームに移行する。

 うん、だからね別にね、オレも誰も怒ってないから辞めてくれ周りが見てんのよ。麗日サンの更に隣に居る…飯田クンも何とか言ってやってくれませんか?

 

「待ってくれ、彼らは共にヒーローとしての行動をしたのであって──」

「おう分かったから先ずはその土下座辞めよーぜなぁ。見てんのよ、人が見てんのよ! やめてよー、ただでさえ噂が出回って今日に至っては婦女暴行の疑いまでかけられたんだよこれ以上とかもうガチで除籍コースじゃんやだァ──ッ!!」

「「ごめんなさい、ごめんなさい!!」」

「だからその土下座を辞めろって言ってんだろォおおおおおッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日(このあと)、滅茶苦茶校長室に呼ばれた。




〜今回主人公が発動しなかった能力一覧〜

蠱惑([削除済み]ホイホイ)
スモークグレネード。使ったが最後、特殊なフェロモンを含んだ煙幕が広がり、5キロ圏内に存在するゴキブリを始めとした不快害虫を呼び寄せ地獄を作り出す。

ブラキン「どけ! 俺は先生だぞ!!」←書いて♡

  • ワカリマシタ!^p^
  • お前が書くんやで^^(腹パン)
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