「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について 作:羽虫の唄
「……あぁは〜ン?」
誰に聞かせるでもなく似非外国人じみた声を漏らしたのは、どこか爬虫類を連想させる三白眼が特徴の少女、取蔭 切奈だ。
通路の角から僅かに顔を覗かせ、気分はさながら家政婦は見たである。
彼女の視線の先。そこには2人のクラスメートが居た。
1人は頭部に双角を生やした小柄な少女。ヒーローの本場・アメリカからの留学生、角取 ポニーである。
もう一方は、個性のおかげで–––どちらかと言えば悪い意味で–––話題に事欠かない、
『……–––、–––』
『–––…………。–––、……–––?』
『–––––、–––……』
距離が離れている為に2人が何を話しているかは分からないものの、その様子はしっかりと確認可能だ。
俯き加減で話す角取に、何か確認を取る様な仕草をした弘原海。に、彼女の顔は仄かに赤く染まり出し、モジモジと体を動かしてから–––小さく首を縦に振った。それを見た弘原海は少し困った表情で笑いつつ、揃ってどこかへと移動を開始する。
「こいつは面白くなってきたじゃん……!」
主に、何かしらを恥じらっていた角取の様子に彼女の中の
〝個性〟「トカゲのしっぽ切り」
自分の体を細かく分割、且つ、その部位を自由自在に操ることが出来る彼女は、2人に気付かれることなく追跡を開始する。
そうして訪れたのは仮眠室。彼らが入室したのを物陰から見届けてから、取蔭はドアの前へと移動。にししし、と笑いながら聞き耳を立て–––
『–––こんなビッグなものが、今から私のナカに……!』
「は?」
『–––ァゥ……、自分で広げて見せますカ……? 恥ずかしいデス……』
「(ぬぅおああああ!!)」
『–––あ、アっ! は、入って来て……ンン!』
「(ふんぐうううう!!)」
「……え、何やってんの?」
鍵がかけられた仮眠室のドアの前で孤軍奮闘を見せていた取蔭。そんな彼女の元に現れたのは、駄弁り仲間の柳 レイ子であった。
若干引き気味で訪ねた柳だが、悠長に事情を説明している暇は無い。
「(手伝って、早く!)」
「……なんで小声?」
「(んぎぎぎぎぎ!!!)」
首を傾げる柳だが、取蔭の様子から只事では無いと感じたのだろう。ぴたり、と彼女はドアに耳を貼り付けた。
『–––そ、そこダメです弘原海サ、ぁん……! お、奥に……奥に当たってまひゅぅ……♡』
「(ポニイィィイイイイイイイ!!)」
「(弘原海オマエええええッ!!)」
中から聞こえたクラスメートの艶を帯びた声に一切合切を理解した彼女は取蔭に倣いドアをこじ開けようと取っ手に指をかけ、それだけでは足りないと個性の「ポルターガイスト」も発動する。
花も恥じらう女子高生とは言えど、2人はヒーロー科の生徒。詰めに詰め込まれた訓練の日々を過ごす彼女らにより、次第に仮眠室のドアが軋んだ音を発し始めた。
『–––で、デる!? あン♡! あぅ、デちゃうんですか……♡!?』
「「((させるかああああっ!!))」」
–––ギッ、と。憤怒に駆られた乙女たちによって嫌な音が発せられる。
『–––……? なんか外が騒がし–––』
不意に聞こえた角取の喘ぎとは別の声。
同時に開け放たれる–––否、吹き飛ばされる仮眠室のドア。
「「弘原海ィアッ!!!」」
「?! キャァアァアアアっ!?」
「っ
放たれた怒号に悲鳴が返される。
取蔭と柳の2人の視線の先、備えられたソファの上に彼女は居た。
……耳かき棒を持った弘原海に膝枕された状態で。
「弘原海サァン。ナニ、聞いてマスカー?」
ある日のこと。重力に逆らわず机に身を任せイヤホンから聞こえる音に意識を集中していると、肩をトントンと叩かれる。イヤホンを外しながらそちらを見れば、角取サンが興味深そうにこちらを見ていた。
「ああ、コレですか? 耳かき動画……ええっと何だっけ。
Autonomous Sensory Meridian Response. 縮めてASMRと表記されることが多い。
簡単に説明すると、何がしかの音で聴覚を刺激された時に脳が感じる快感のことだ。今オレが聞いていたのはひたすら耳かき音をループ再生したものである。
この
さて。そんなオレの説明を聞いた角取サンであるが、何やら神妙な表情で「oh……」と呟いていた。どうしたのだろう?
「弘原海サァン、ショージキに答えてくだサイ。……さもなくば命はありまセーン」
オレは一体何をされるのだろうか。
「–––アノー……。耳かき、は
「? まぁ、個人差はあるでしょうけど……。大抵はスッキリして気持ちが良いと思いますよ。これはあくまで音だけッスけど」
「Hmm……」
オレの返答に唸る彼女。その意図が読めず首を傾げたオレに、角取サンが説明をする。
彼女の地元–––或いは、欧米–––では耳かきをあまりしないんだそうだ。何でも、炎症等を懸念して医者があまり推奨しておらず、角取サンにとっては『耳かき=医療行為』に似た方程式となっているらしい。
国が違えば文化も違うと言うやつだろうか。
その後、日本人も実際はやり過ぎらしいなどの会話を交わし–––そんな会話もしたなあ、と思える程度に日数が経過した頃だ。
「わ、弘原海サァン……」
廊下にて、雑踏に紛れて聞こえた自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには角取サン–––なのだが、何だか様子がおかしい。
顔はほんのりと赤く、何だかモジモジと体を忙しなく動かしている。具合でも悪いのかと心配するも違うらしく、一体どうしたのだろうと思った時だった。
「……アノ! 耳かきヲ、してくれまセンカーっ?」
……話はこうである。
角取サン自身元々耳かきに興味(関心?)はあったのだが、いきなり未経験の自分でするのは恐ろしい。が、一度くらいは経験してみたい……と悶々としていたところ先日の会話が有り、思い切ってオレに頼んだとのことだ。
「いや、オレじゃなくて拳藤サンとかに頼んだ方が良いんじゃ……」
「は、恥ずかしくてお願い出来ないデース!」
(よく分からん)
確かにオレは
クラスメートからの認識に不安を覚えるところだ。
そんなことを考えつつ「あれ、でも耳かき棒……?」「買って用意あるマス!! (集中線)」角取サンと仮眠室へ。保健室も考えたがわざわざ耳かきの為に使用許可を貰うのもなぁ。
取り敢えず、先にソファに腰掛け膝に頭を預けてもらう様に促す。
「フツツカモノですが、よろしくお願いしマース!」
期待と不安からか奇っ怪なことを言う角取サンであった。
–––そんな感じに
「うん。なんかゴメン」
オレの説明を一通り聞き終えると、取蔭サンが気まずそうに言葉を漏らした。2人はオレと角取サンの対面のソファに座ってこちらを見ている。
いや、別に彼女は悪くない。あんなピンク一色の声を出されたら誰だって勘違いするはずだ。
「–––あー……。そ、それじゃあ反対側……入口の所からやっていきますね〜……」
「ォ、お願いしま–––あひぃ♡」
そしてそれをこれから目の前で実践しなくてはいけないんだよなぁ……。
本音を言えば辞退したい気持ちでいっぱいである。しかし、オレの腹を見る形で頭を預けている角取サンに腰を掴まれているので、辞めるに辞められないのだ。絶対に離さないと言う強い意志を感じる……!
一体何が彼女をそうさせるのだろうか。戦慄しつつ、耳かき棒を動かす。
先ずは入口の細かなものを剥がし取り、そこから段々と奥の方を目指して進めていく。角取サン曰くちゃんとした耳かき自体は今回が初めてらしいが、ドライタイプの耳垢が薄く
「ふぅっ、ふうぅ〜……っ! あ、あァ……。–––ッあ!」
うん、キツい。
耳垢を剥がす度に体をビクビクと震わせ艶かしい声を吐き出す角取サンに、オレが今しているのは本当に耳かきなのだろうかと疑問に思ってしまう。
耳かきとは、一体? うごごご……!
「……」
「……」
–––何がキツいって、角取サンの喘ぎ声もそうだが取蔭サンと柳サンからの視線が兎に角キツい。そちらを見なくとも分かる冷ややかなそれに、全身がじっとりと嫌な熱を持ち始めた。
は、早いとこ終わらせよう。これ以上はオレの精神が持たない。
「お、奥に大きいの有るので〜……。痛かったら言ってくださぁい……」
粗方細かなものを取り終えたところで、一際大きな耳垢を発見。これさえ取って終えば後は問題無いと思われる。そういう訳で早速–––怪我をさせない様に慎重に–––対象を剥がし取る作業を始めた。
ゆっくりと耳かき棒が耳奥に入って行き–––その先端が、耳垢の裏側を捉えたところで一息に掻く。
–––かりっ。
「お゛っ♡」
止 め て く ん な い 。
到底、女の子がしてはいけない低く野太い声に、オレは自分の感情をひたすら殺すことに専念した。
耳かきをするだけの機械と化したオレに対し角取サンもこれ以上だらし無い声を出すまいと、強く、強く歯を食いしばり始める。
段々と吐息の熱で腹部に湿っぽさを覚え始めた頃、短い様で途方も無く長かった耳かきを終えることが出来た。
本当に長かった……。途中から無間地獄かと錯覚していたレベルである。
「あ……。はァ、う…………」
「……ポニー?」
「……ド、る……ズ……」
恐らく「
「……」
「……」
「……」
対面に座る2人の視線から逃れようと顔を下に向けるも今度は恍惚の表情を晒す角取サンと目が合ってしまい、忙しなく顔と視線を動かし続けること暫く。取蔭サンが徐に立ち上がり–––
「………………先生呼んで来る」
「待って違うから! お願いだから待って!」
慌てて取蔭サンに制止の声を発するも、まるで汚物を見る様な目を向けられる。
「何が違うんだよこの変態! 個性使ってまで女子にやらしいことするフツー!? レイ子、
「ち、違うもん! 個性使ってないもん!!」
言い訳無用! と、取蔭サンと討論を交わしていると、ふと、柳サンが控えめに挙手をした。一旦中止してそちらを見る。
「……豆知識。人は
「突然ナニ言い出すんだアンタは」
「良いから、最後まで聞いて……。–––で、擽ったい≒神経が多く通っている、或いは敏感。……元々耳には神経が多いし、その中には性に密接に関わるものもあるって……聞いたことがある」
「……つまり?」
取蔭サンに先を促され、柳サンは続ける。
「ポニーは私たちと違って今日が初めての耳かきらしいし、慣れていなかったせいで過敏な反応を見せた……ってことだと思う」
彼女の説明を聞いても、取蔭サンは微妙な反応でこちらを見る。いや、気持ちはわかるけどさ……。
「–––と言うわけで、弘原海。私も耳かきして……」
「「ゔぇっ!?」」
突然の柳サンに思わず取蔭サンと山羊の様な声を出してしまう。
「これで私が平気だったら、弘原海の無実が証明されるでしょう……? –––後、丁度、耳が痒いから……」
そう言いながらふよふよと漂う彼女は角取サンを退け、「よろしくー」と一言添えてから自身の頭をオレの膝に乗せて来た。彼女の提案は有難いが、本当に良いのだろうか……。
不安に思いつつ、取蔭サンに睨まれながらオレは耳かき棒を柳サンの耳へと–––。
–––数分後。
「–––ひ、へひぃっ♡! ほお゛ぉ〜……っ♡♡♡!!」
–––そこにはすっかり出来上がった柳サンの姿が有った。
「お前は耳かきに媚薬でも塗ってんのかああああああああああああっっっ!!!!」
「叫びたいのはこっちの方じゃボゲェえええええええええええいっっっっ!!!!」
何、本当に何なの!? 何か仕込まれてるこの耳かき棒!?
未だ蕩けている角取サンと、びっくんびっくん(主に腰の)痙攣を繰り返す柳サン。変わり果ててしまった姿のクラスメート2人だが、どちらもオレが生み出したと思うと背筋に寒気を感じずには入られない。
「今度と言う今度は許さないからね! ホラ、キリキリ歩く!」
「くそぅ、冤罪だ! オレは何もしていないのに……!」
「黙って歩け!」
取蔭サンは制服の上着を突然脱いだかと思えば、個性により分離した両手を駆使し、脱いだ上着でオレの両腕を拘束する。昨日授業で学んだばかりの『身近なもので行う
新世界の神を目指した全国模試1位よろしく粉☆バナナと叫ぶも、オレを連行する取蔭サンは既に聞く耳持たず。
そのまま彼女に引き摺られ、仮眠室を後にした。
「アゥ……。Just a moment–––待ってください、デース……」
–––の前に、角取サンが立ちはだかったことでそれは遮られる。
頬は上気し、整っていた金髪は汗で肌に張り付き、内股の脚は細く震え、とろんと潤んだ瞳は虚空を覗いていた。
正常な状態でないことは誰が見ても明らかであるが、そんな状態でも彼女は言葉を紡いでいく。
「ワタ、ツミ……サァンは、悪くありまセーン……」
角取サン……!
オレは思わず声を零し–––
「むしろぉ–––えへっ! こんな
「正直に言って弘原海。今ならまだギリで許せるから」
「分かりました、正直に言うッス。メチャ怖い」
口の端から涎をだらしなく垂らし、アヘアヘしながらこちらに近づく様は下手なホラー映画を遥かに上回る恐怖を与えて来た。取蔭サンと2人揃って、じりじりと後退を始める。
–––ガシッ!
……と、突然そんな音と一緒になって両足に何かが纏わり付いた。
「ぴゃいぃっ!?」
慌てて足下に視線を移せば、自分の口からは甲高く情けない悲鳴が漏れる。
そこには–––ある意味予想通りに–––柳サンが居た。双眸とその口を、きゅうと音が聞こえそうな程に三日月状に歪ませて。
恐らくこれがホラー映画であれば次の瞬間には暗闇か水中の中にオレは引き摺り込まれていただろう。
そう思わせるだけの気迫を顔面に張り付かせている柳サンは、目にも留まらぬ速さでオレの体を駆け上って来た。
アナコンダかな?
「いひっ、いひひ……っ! 1人だけ……仲間外れは、可哀想だもんね〜……。–––ね。切奈も
どうしよう、オレがとんでもない屑野郎に聞こえる。
蛇の様に絡み付きながらそんなことを宣う柳サンだが、反論をする前に彼女の個性によって身動きを取れなくされてしまった。取蔭サンの方を見れば、彼女は彼女でオレの様に角取サンに絡み付かれながら、個性の
「あでっ!!」
「ぎゃっ?!」
4人で揉みくちゃになりながら、半ば叩き付けられる形でソファに追い込まれたオレは、最終的に2人にした時と同様、取蔭サンに膝枕をする形となった。
「く、くそ! こんな所に居られるか! 私は部屋に帰る–––って、だだだだだ!? 痛い痛い痛いたいたいたいたいぃ!!?」
ポルターガイストで体の動きを封じられているオレの所為で抑えられている頭だけを残し、首から下を離脱させた取蔭サンであったが、超反応を見せた角取サンにマーシャルアーツを極められ、痛みに悶えている隙に柳サンに追撃を仕掛けられ……。
……あの、すいません。さっきから2人が人間離れした動きをしているとか突っ込む所は多々有るんですが取り敢えず、クラスメートの生首を抱えている絵面が猟奇的過ぎるんでどうにかしてもらえないでしょうか。
「–––えぇい、こうなったらさっさと終わらせる!」
動こうにもギチギチと音を鳴らすだけに終わったオレは意を決し、しかし膝上の取蔭サン(頭)は「はぁ!?」と–––まぁ、当たり前だが声を荒げる。
「や、止めろこの変態! そんなことさせるわけないでしょ!?」
「オレは何もしてない、信じてくれ!」
「2人のことあんな風にしといて–––」
「デュラ蔭サン!」
「デュラ蔭!?」
思わず飛び出した奇妙な単語に驚くが、オレの真剣な眼差しに彼女も覚悟を決めてくれたらしい。
分かった、と、短く頭につけてから。
「……弘原海を信じる。なんで2人がああなったかは分からないけど……ホントにただの耳かきなんでしょ? だったら何にも問題無
「ひぎゅううう♡♡ へっ、ほへっ♡ ……ぉお゛♡♡! おねが、もう抜い……くひぃっ♡♡!? やめ゛ッ! あだまお゛がぢぐなる゛♡♡!! ほぉ、っおおお゛おお゛お゛お♡♡♡!!?」
「–––て言うことがあった」
「お、おう」
オレが吐露した先日の出来事に、吹出クンは微妙な反応を示した。
因みに視界の端では件の3人組がこちらに熱っぽい視線を向けている。
……その手に耳かき棒を持って。
4ヶ月経っての投稿にヒロインが登場しないっていう。
どんな話が見たいですか?
-
ほのぼの
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おっぱい
-
脳姦
-
小大さんとイチャつく
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本編はどうしたァ!