「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について 作:羽虫の唄
脳姦編、前編となります。それではどうぞ。
突然のことだった。予兆も前触れも無く、ある日を境に世界は一変してしまった。
今となっては思い出せない、日常会話の何かをきっかけに
「
オレの異変に気付き、それまで駄弁っていた鱗クンが訝しげに声をかけて来た。–––一歩後退り、オレは彼から距離を取る。
「んぁ? どした?」
「む。弘原海、顔色が悪いようだが」
「何だァ?」
鱗クンに続き、円場クンが。庄田クンが。鎌切クンが。
彼らが順に声を発する度、恐怖で引き攣った声をか細く漏らしながらオレは、一歩、また一歩と後退る。
いよいよ様子がおかしいと悟った鱗クンがこちらに近づいて–––それが引き金となり、オレの精神は遂に限界を迎えてしまう。
何度も心中で自分に言い聞かせた。
見間違いだと、何かの間違いだと。だって彼らは友達なのだから。友達なのだから、決して
そんなオレを嘲笑うかの様に、しかし現実はソレを突き付けた。
*鱗 飛竜–––
–––––
「デャァアッス‼︎ ダァシェリァアアッス‼︎‼︎」
奇声を上げながら清掃用具ロッカーに額を打ち付け始めたオレに、周囲からは恐怖から来る悲鳴と混乱した声が発せられる。
「ひぃ、何やってんだ弘原海!」
*円場 硬成・オカズカウント:5*
「ち、血が出ている! それ以上はいけない、止めるんだ!」
*庄田 二連撃・オカズカウント:2*
「オイィ、何してンだやめろォッ!」
*鎌切 尖・オカズカウント:3*
「ン゛ーッ!! んン゛ーッ!!」
周りから止めろと言われるが止めて欲しいのはこちらの方である。
なんだオカズカウントって馬鹿じゃないの!? クラスメートで致すなよ、っていうか個性発動してない時普通にオレ男だぞ!?
ガンガンと激音が鳴るに連れ足下には額から滴る血で赤い水溜りが出来始め、その頃にトドメの一撃が放たれる。
「ん!」
*小大 唯・オカズカウント:458*
「アンタに至っては何なんだァああああッ!!!」
「ん!?」
「先日はどうもすいませんでした。いや、ほんと…」
あれから数日経った現在、オレは先日の奇行について一人一人に謝罪を述べている。一通り終え、今は最後の2人である拳藤サンと塩崎サンたちであり、彼女たちにもこれまで通りに「クトゥルフのやり過ぎによるリアルSAN値直葬による奇行」と説明を行った。
…自分でも何ともふざけた理由だとは思っているが、こんな感じであっても今の所、全員納得してくれている。
「いややり過ぎたからってああはならな」
「君のような勘の良い委員長は嫌いだよ」
「アッハイ」
納得してくれている。
…はぁ、と小さく溜息を発しながらオレは教室の隅へと視線を向けた。そこではオレの頭突きによって凹んでしまったロッカーの扉を、
*泡瀬 洋雪・オカズカウント:4*
*凡戸 固次郎・オカズカウント:1*
…はぁ。と、再度溜息。オレのその様子を見て、塩崎サンが控え目に手を挙げつつ「どうされましたか」と訊ねて来るも、オレは彼女に何も答えることは出来ない。どうしたもこうしたも無い…と語れたらどれだけ楽だろうか。
〝個性〟「サキュバス」
他人のエロステータスの視覚化や、自身の肉体を絵に描いた様なドスケベボディにするなどの性的な能力に特化したこの個性。真面目であったり、普段のほほんとしている庄田クンや凡戸クン…あまり
オレ本人としては異性の物だろうがドスケベボディだろうが、所詮『自分の身体』でしかないのでどうとも思わないのだが…。
だがしかし、そう思っていても現にこうして影響が–––いや、寧ろこれは既に被害と言えるだろう。ある程度慣れてきたとは言え、年頃の男子高校生にとってこの肉体美はやはりキツイ。
早急な対応が必要だ。
「あー…。時にお2人方。少し質問と言うか相談なんですが、ちょっとイメチェンをしたいと思ってるんですけど、どう言うことから始めれば良いとかって分かりますかね…?」
さてさて。人は第一印象が重要とされるが、服装であったり髪型などの変更で、その印象はある程度の操作が可能である。…なのだが、残念ながらオレはそう言ったことに疎く、精々ポニーテールにするのが関の山。
なので、そう言ったことには強いであろう女子からアドバイスを頂こうと言う考えである。
どうすればいいだろうかと訊くオレに対し、塩崎サンが訊ねて来た。
「具体的にはどの様にイメージチェンジを行おうと考えていらっしゃいますか? それによっては、対応も変わって来ますが…」
ふむ、と彼女の言葉に思考する。
兎にも角にもエロくないことが目標だ。それこそ正に–––
「–––えぇっと、そう。取り敢えず清楚っぽく…」
*欲求:「「「そのおっぱいで清楚は無理でしょ」」」*
オレが言った瞬間目前の2人どころかクラス中の
努めて笑顔を意識するも、ビキビキと言う
そんなオレの様子から何かを察したらしく、少々引き攣った表情で拳藤サンが言う。
「あ、あー! 清楚、清楚ね! そういうことなら、唯がぴった」
「あんな
「弘原海の唯に対するその評価は何なの!?」
思わずと言った具合に拳藤サンはそう叫ぶのだが…。いやだって、ねぇ?
ちらり、とオレは件の小大サンへと視線を移す。
*欲求:「そんな、いきなり言葉攻めだなんて……っ。だ、だめ! 皆が居るのに……っ! ひぐぅッ♡!」*
(近寄らんどこ)
と、表情をピクリとも動かすこと無く心中でアヘアヘしている彼女に戦慄している時だった。
フ…と、教室が暗闇に包まれ、突然のことにざわめきが生まれる。何だ何だと混乱していると–––音を立てて教室のドアが開かれた。注がれた全員の視線の先、そこに居たのは…。
「–––話は聞かせてもらったわ!」
そこには、柱の男たちを連想させるポージングをとったミッドナイト先生・取蔭サン・小森サンが–––それぞれの手にヘアスプレーやメイクブラシを持ち、光に照らされて立っていた。
………暗幕とスポットライト、どこから持ってきたんだろう。
「イメチェン–––ってことなら、ミッドナイト先生は勿論、あの2人は…とっても心強いよ」
変な物を見る目を3人に向けていると、突然後方から声をかけられた。ビクッとしながらそちらを見ればそこには柳サンが居り、手にしたスマホの画像をこちらに見せてくれる。拳藤サンや塩崎サンたちと共に、何だろうかと覗き込む。
「ホラ。私服の2人」
「うわっ、めっちゃ気合入ってる」
「まぁ、これは…凄いですね」
「おおぉ…。黒色クンとか鎌切クンみたいッスね」
「えっ、あの2人こんな感じなの? 見たい見たい」
「ちょっと待ってください。…えぇっと、あった」
「え、凄い…」
「この前街中で見かけて、思わず撮っちゃったスね。…これはあれですか? バンド系ってやつですかね」
「いやぁ、これは…ビジュアル系だと思うよ」
「なるほど」
「普通にかっこいいな黒色…」
そんなやり取りを挟みつつ。
「そういう訳だから、あの3人にしてもらうと良いと思うよ。–––あと弘原海、耳かき
「断る(鋼の意思)」
トロ顔で耳かき棒を取り出した柳サンは、とても残念そうな顔で「そう…」と呟き、ふよふよとどこかへ漂って行った。
そのタイミングで、オレは(未だポーズを取っていた)3人へと近づく。
「あー、それじゃあ、よろしくお願いします…?」
「善は急げって言うしねー! ホラホラ早速するよ、ホラホラ! 今なら向こうの空き教室使えるからホラ!」
「いやぁ〜、弘原海がぁ〜どうしてもって言うから〜さぁ〜! 仕方なぁ〜く、そう、仕方なぁ〜く! –––ほら早くするノコ!」
「さぁさぁいらっしゃいな! 安心して、優しくするから!」
…もしかしたら彼女たちはオレで遊びたかっただけだったのではなかろうか。そう思いながら、よいさよいさとまるで祭りの神輿の様に3人に運ばれ教室を後にする。
『先ずはメイクからするノコー♪ …何だこのモチモチスベスベはぁーッ!』
『いや、そういう個性だし』
『んじゃ次は髪型をー♪ …何だこのサラサラツヤツヤはぁーッ!』
『いやだから、そういう個性だし』
『…因みに弘原海君、カップって幾つかしら?』
『…
『『『………なん…だと……ッ!?』』』
『いやあの、個性でだからね??』
–––そんなことがあり、十数分後。
「これが…
用意された鏡に映る自分を見て、思わずそんな言葉が零れ出る。その程度にはオレの雰囲気は何時もと異なっていた。
「どんなもんよー!」
「会心の出来栄エノキー!」
やり切った表情を見せる取蔭サンたちだが、確かに普段のオレとは比べ物にならない程ガラリと印象が変わっている。
小森サンに…こう、なんかナチュラルだかパーティクルだかのメイクを受け、全体的に明るく清涼感溢れる感じに仕上げてもらい。
取蔭サンに髪型を、パーマをかけたわけではないのだが何と言うかふわぁ〜っとした感じにどうにかしてもらい。
最後にミッドナイト先生が用意した水色のワンピースだとかブーツサンダル? で仕上げてもらい…何かこう、こう。(語彙力)
兎に角、要望通り…いやそれ以上に清楚且つ爽やかに仕上げてもらったオレは暫く鏡に釘付けとなってしまい、その様子を見ていたミッドナイト先生は頬に手をあてがいながら。
「本当なら化粧のやり方だとか教えてあげたいんだけどね、貴方一応男だから…」
「…うーん。でもここまで印象操作出来るなら、ちょっとこれからやってみようかなぁ…」
「その言い方止めて弘原海」
「印象操作て」
そんな会話を行いながら、オレたちはB組の教室へと戻る。
部屋へ入るなり、オレを見たクラスメートたちは感嘆の声を発していった。
「「「おおー…」」」
その反応に少々照れつつ、髪をかき上げて耳に掛けて見せる。
「「「おおーっ」」」
少し大きくなった周囲の声を聞き、今度はその場でくるりと回転。ふわりとワンピースが舞い上がった。
「「「おおー!」」」
パチパチと拍手を交えつつ周囲から笑顔を向けられ、気分はさながら新世紀の少年である。
十分に視線が注がれる中、仕上げとばかり、オレはその場で小さく跳躍を行った。
–––ぽいんっ、と言った具合に胸が弾み、視線を向けていた男子諸君の頭もぽいんと縦に連動して動く。
「き、気にしないで弘原海!」
「弘原海は悪くないよ、大丈夫!」
彼らの反応に思わず両手で顔を覆いその場に蹲ってしまい、そんなオレを慌てた様子で小森サンたちが慰めてくれる。尽力してもらったと言うのにこんな結果となってしまい、彼女たちには申し訳無さでいっぱいである。
やはり胸か、胸なのか…ッ! 3桁超えの癖に重力に逆らって綺麗な球なのは自分でも凄いとは思うけども、そんな露骨に見られていたか…ッ!!
禍々しいオーラを放ちながら蔓を蠢かす塩崎サンに怯える男子
ふぅむ。一体全体どうしたものか…。
「個性でどうにか出来ないかなぁー…」
「いや個性の所為でこうなってんでしょ?」
思わず呟いたオレの言葉に、取蔭サンが反射的に口に出す。まぁ彼女の言う通り、個性の所為なのだが。
うーんと唸り続けるオレを余所に、側では小森サンたちがオレの個性についての会話を広げていく。
「弘原海の個性って異形型?」
「増強でしょ? 異形だったら常時女になってる訳だし」
小森サンの疑問に取蔭サンが答えるが、残念ながら不正解だ。少々特殊であるがサキュバスはあくまで異形ベースの個性であり、その証拠にサキュバス状態でA組の相澤先生の「抹消」を受けても、男に戻ったりはしなかったりする。
異形型ベースの増強、と言えば分かりやすいだろうか。
「変身すると何が出来るんだっけ」
「えーと、声で相手の動きを止めたり…?」
取蔭サンの疑問に今度は小森サンが答えるも、他に何かあっただろうかとこちらに視線を寄越したのが気配で伝わって来たので、そちらを見る。
「–––他には睡眠ガスの生成だとか、媚薬の分泌とかッスかね。基本的には肉体改造する個性で–––」
–––––(´・ω・`)?
–––教室の空気が固まった。オレが媚薬と言ったから–––ではない。
…………ちょっと待とう。何だ、今の自分の発言に途轍もなく違和感を感じるぞ…?
『–––他には催眠ガスの生成だとか、媚薬の分泌とかッスかね。基本的には
「–––ねぇ弘原海」
「言うな…」
「弘原海、ねぇって」
「何も言うな…!」
自分のアホさ加減に呆れ果てているオレに、心底不思議そうな表情で彼女らは言う。
「「よく分かんないけどその肉体改造でどうにかすれば良いんじゃないの…?」」
口から波動砲じみた咆哮を放つことをやっとの思いでオレは堪えた。
馬鹿! ほんともう、馬鹿! 何だオレの頭は飾りで空っぽなのか!? 受け継いだとは言え今はもう自分の個性なんだぞ!!?
怒りで顔を真っ赤にするオレを、とても残念な物に対する目で見つめる周囲。そんな中でオレは両手をその豊満な乳房へとあてがった。
「フンッッッ!!」
力任せに手を押し込むや否や、ボンッと音を立ててあんなに大きかったオレの胸は多少の膨らみを残し跡形も無く消え去る。–––そしてそれと同時に男子が膝から崩れ落ちた。
『そんな、嘘だこんなこと…!』
『神よ、俺が一体何をした! 何故こんな非道な仕打ちを…!』
『明日からどうやって生きていけば…!?』
『へ、へへ…! ドジっちまった…! 悪いお前ら、先に逝ってる、ぜ……』
『馬鹿野郎、お前1人で逝かせるかよ…ッ』
『俺たち、友達、だろ…?』
なにやら熱い友情ドラマが繰り広げられているが、知ったことではない。
*欲求:「明日からどうやってイキていけば…!?」*
男子に混じって小大サンもなにやらほざいているが、知 っ た こ と で は な い 。
「よし、成功!」
「そんなこと出来るんだったら最初からしろよ!?」
「うるせえそんなのオレが一番思ってんだよ! –––
呆れながら言う拳藤サンに怒鳴り返しながら友人の名を呼ぶと、頭部が吹き出しとなった男子生徒が「しゅた!」と声に出しつつ側に訪れる。
男子でありながら *カウント:0* の表記を頭上に持っている彼は数少ない頼れる同性だ。…一応先に断っておくと、別に性欲が無いわけじゃなく、あくまで吹出クンの場合全て
「スマン吹出クン! ボーイッシュ + メガネ + スレンダーで参考画像を頼む!」
「\ボクニマカセテ!/」
「御三方! オレの変態が終了次第今のラインナップに合わせたコーディネートをお願いします!」
「大船に乗ったつもりでいなさい!」
「「おっしゃ任せろー!」」
その後も胸に続き、吹出クンが用意してくれた画像を参考にして臀部や脚に改造を施し、肉体が完成すればミッドナイト先生たちによる飾り付けが行われていく。
そして–––。
「「「おおお…!」」」
姿見に映るショートヘアの少女。快活さを覚えるスポーティな肉体を備えた中性的なその美貌に、オレだけでなく先生たちや吹出クンも思わず声を漏らしていた。
「我ながら何だこの美少女…!?」
「は? 綺麗すぎるんだけど?(半ギレ)」
「ふ、普通に可愛いノコ…」
「フォオオオ! 筆が進む進むゥ!」
「えちょ、こんな可愛い生命体が存在して良いの!? ヤバい食べたい」
隣に居る倫理担当の教師の口から信じ難い発言が聞こえた気がするも、きっと気のせいだろう。そうに違いない。
ミッドナイト先生から距離を取るオレは戦慄を覚えつつも、今後多少は安泰に近付いたであろう学校生活に想いを馳せるのであった。
『『『………』』』
因みに背後では、最早屍と化した彼らが床に転がっている。
後編は早めに投稿出来るよう頑張ります。