ゼロの使い魔 桜の亡霊   作:十和田 真歩

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キュルケとタバサの描写はあんまりする予定がありません。ルイズと幽々子メインにやっていきます。
というか男主人公がいないと、タバサはともかくキュルケってほぼモブだと思う。なんかやってたかな。
いや、重要な役目は何度かあったけど、クロスものだと主人公がなんとかできちゃう場合がほとんどだし……


第五話 討伐

 ルイズ達一行は、森の中に佇むボロ屋を見つけた。あそこがフーケの拠点だと、フーケ本人が言っている。

 

「……誰もいなさそうね」

 

「私が周囲を見張っていましょう」

 

 ロングビルがそう進言した。

 

 幽々子とロングビルの視線が交わる。あまりにも露骨すぎる罠。しかし幽々子は罠があったら踏みぬくタイプであった。

 

「そう、それは心強いわね。さあルイズ、行きましょう」

 

 

 

 

 ボロ屋の中はホコリだらけで、人が住んでいるような気配はなかった。

 そして、目当てのものはすぐに見つかった。

 

「これが、破壊の杖?結構重いわね……」

 

 ルイズが手にしたそれを見た幽々子は、猛烈な違和感を覚えていた。

 

 幻想郷は現代日本に存在するが、結界で隔離され妖怪がはびこっていた時代風景で止まっている。しかし時折、結界の外のから人やモノが幻想郷に流れ着くことがある。忘れられた存在が幻想郷へ流れ着く現象、『幻想入り』。

 自然にそうなったり、黒幕として紫がいたりするのだが、ともかく幻想郷の住人であっても、幻想郷の時代には見合わない存在を見聞きすることがあった。

 

 破滅の杖は、いかにも現代的な外見をしていた。いや、正しくは現代ではないのかもしれないが、少なくともハルケギニアで見られるような外観ではない。杖と言うには太すぎて、深緑色の筒。それが何なのかはわからなかったが、それはまさに、幻想入りした物体のように見えた。

 

「この世界も幻想郷のようなものなのかしら……?つまり──」

 

 ──オモテがある?

 

 時代錯誤な物体が目の前にあるのだから、時間を超える存在か、並行した世界があることを示している。それが地球なのか、はたまた全く違う世界なのかはわからない。

 しかしここが平行世界であるなら、紫が糸を引いているというのもあながち間違っていないのかもしれない。

 

「サイギョージも持ってみる?」

 

 不意にルイズが幽々子に破壊の杖を差し出した。ルイズには、少々重すぎたらしい。差し出されたそれを考え事をしていた幽々子は素直に受け取った。

 

「っ!!?」

 

 幽々子がそれを受け取った瞬間、“思い出した”。

 

(これは……この“M72”の使用方法!?)

 

 破滅の杖は、軍隊で使用される、ロケットランチャーであった。名前はM72。幽々子は知らないはずの知識であるが、幽々子は“知っていた”。

 彼女が考えを巡らせているその瞬間。小屋の外からキュルケの叫び声が聞こえた。

 

「ルイズ!!!」

 

 その直後、ルイズと幽々子の頭上を、巨大な腕が横切った。腕は、小屋の上半分を吹き飛ばした。

 破片とともにルイズは吹き飛ばされてしまう。気持ちの悪い浮遊感を覚えながら、ルイズの視界には忌まわしい巨像が映っていた。それは昨日、学院を襲ったあのゴーレムだった。

 

 落下寸前に、タバサが使役する竜がルイズをキャッチし、事なきを得た。ほっとしたルイズだったが、ゴーレムが今まさに踏み潰さんとしている小屋の跡地には、幽々子が佇んだままだった。

 ゴーレムはその圧倒的な質量と大きさで以って、幽々子に迫る。

 

「幽々子!!」

 

 小屋は、踏み潰されてしまった。

 

 

@@@@@@@@

 

 

 幽々子は普段はゆったりしているのだが、戦うとなると結構機敏である。特に、静止状態からのステップの速さは幻想郷でも随一だっただろう。亡霊としての身軽さと、莫大な妖力を持つ彼女は、速さと威力を兼ね備えていた。

 使い魔になり亡霊らしからぬ存在となったが、妖力と能力は失っていなかった。

 

 ゴーレムの足は、幽々子の体を踏み潰してはいなかった。

 優雅にギリギリの回避をした幽々子は余裕そうな顔でゴーレムを見上げる。

 

「まさに大鬼ね。生きてないけれど」

 

「幽々子!!」

 

 ルイズが叫ぶ。

 主人の悲痛な叫びに、幽々子は微笑みで返す。

 

「へっ!随分余裕そうじゃねえか!こいつでもくらいな!」

 

 フーケが、追撃せんとゴーレムに指示をだす。しかし、幽々子は身軽にジャンプしゴーレムによる薙ぎ払いを回避する。

 つぎつぎと繰り出される攻撃を、幽々子は華麗に避け続けた。それを見ていたルイズたちは肝が冷えっぱなしだったが、誤射を警戒し手が出せずにいた。

 

「そらそら!破壊の杖でも使ったらどうだ!」

 

 フーケがそう告げる。回避に専念する幽々子は、その言葉でやっと、フーケの計画を理解できた。

 理解すると、どうしようもないほどおかしく思えた。それでこんなに回りくどいことを……

 

「なるほどねぇ」

 

 なぜ幽々子が使い方を知っていると思ったのかは疑問だが、それはあとで聞けばいい。

 

「ふふふ。これの使い方がわからなかったのね?泥棒さんには」

 

「減らず口もそこまでにしなぁ!つぶしちまうぞ!」

 

 フーケはさらに攻撃を続けるが、やはり幽々子には当たらない。しびれを切らして何かを聞き出せるかと期待していた幽々子だが、フーケには話す気がないらしかった。

 潮時かと考えた幽々子は、ふと、不安そうな顔のルイズと目があった。今にも攻撃をくらってしまうのではと、泣きそうな顔をしている。

 

 幽々子はいつも従者をからかっては、その成長を楽しんでいた。そんな自分も今では従者、それも未熟な主人の。

 ……こっちの視点というのも、悪くない。

 

「いい?ルイズ」

 

 幽々子は袖の下から扇子を取り出し、軽い音を立てて開いた。

 青から赤へ向かうグラデーションが特徴的な、派手だが装飾の少ない扇子。何かの花だろうか、植物の模様と屋根付きの馬車が描かれた扇子。それと同じ模様が、幽々子の背後に大きく浮かび上がっていた。

 続く言葉を待つルイズ。

 

「主は従者を信用するものよ」

 

 ルイズは思った。そんなことかと。

 私がサイギョージを信用していないだと?そんなわけがないだろう。

 私を馬鹿にしているのか。子供扱いしているのか?背が小さいからって。

 どうやらあとでみっちり説教してやる必要があるようだ。

 

 ルイズは自分の杖をフーケに向け、幽々子に命令する。

 

「幽々子!あの泥棒をとっ捕まえなさい!」

 

 ルイズが元気を取り戻したのを見て、幽々子もまた、笑みを浮かべる。

 

──桜符『センスオブチェリーブロッサム』

 

 そう宣言した幽々子はくるくるとその場で回転をはじめた。

 魔法詠唱した幽々子を見て、フーケは身構える。

 

(何してくんのかわかんねえが、様子見たほうが良さそうだな)

 

 幽々子が不思議な攻撃をするときはいつも杖も使わず無言であり、唱えるところを見たのは初めてだった。そして同時に、幽々子の背後に浮かぶ謎の紋様から並々ならぬ嫌な気配を感じるのだ。

 

 ルイズは、なんて美しい桃色だろうと思った。

 フーケは、なんと禍々しい色だろうと感じた。

 

 この気配は、決闘騒ぎの時にも感じたような──死の気配。

 

「っ!」

 

 とっさにゴーレムに指示をだし距離をとろうとした時、ゴーレムの肩で爆発が起こった。

 フーケが背後に視線を向けると、ドラゴンの背中に乗ったルイズ達がしたり顔で魔法を飛ばしてきていた。

 

「ちっ……!クソガキがぁ!」

 

 その間は一瞬であった。ゴーレムの動きは鈍く、ラグもある。操作する者の意識が背後に向いたからと言って、影響は微々たるものだ。

 その一瞬がなければ幽々子の攻撃を避けられたのかといえば、そんなことはないだろう。ただ、フーケにとってはその一瞬は、明暗を分ける、致命的な間に感じられた。

 もしかすると、自分は取り返しのつかない状況にあるのでは。そんな思考がフーケの頭に浮かんだ。

 

 幽々子が回転をやめると、ゴーレムの立つ地面が桃色に光り始める。フーケはその場から逃れようとゴーレムに指示を出すが、何もかも遅かった。

 幽々子は扇子をゆったりと構えると、それを天に向かって振り上げた。

 

 地面から現れたのは巨大な花びらの数々。妖力によって編み込まれたそれは、まるで竜巻のようにゴーレムを飲み込んだ。

 花びらはゴーレムの体を抉り取り空に舞っていく。辺り一面が桃色に染まり、その光景にルイズ達は息を呑んだ。

 

 花びらが消え去った後、爆心地には一人の女性が倒れていた。ゴーレムはすべて花びらが持っていったようで、かけら一つ残っていなかった。

 

 

♨♨♨♨♨♨♨♨

 

 

 ルイズたちの帰還により、学院は大きく揺れた。なんと、あのロングビルは怪盗フーケだったというのだ。

 縄で拘束されたフーケは、まだ目を覚ましていない。多くの者が、憧れの存在が怪盗だと知りショックを受けていた。当然、学院長もその一人だ。

 

「まさかロングビルがフーケだったとはのう……まったく気づかんかった。

 ともかく、君たち3人の功績は偉大なものじゃ。王室からはなんらかの報奨が与えられることになるじゃろう」

 

「3人……ですか?」

 

「残念じゃが、ミス・サイギョージは貴族ではないのでな……」

 

「それで、ミス・ロング……フーケはどうなってしまうのですか?」

 

 ルイズは当たり前の疑問を投げる。

 

「うむ……残念じゃが、彼女の罪は重い。よくて無期懲役、順当にいけば極刑じゃろうな」

 

「そう、ですか……」

 

 ルイズはちらりと幽々子を見た。報奨が無いことには反応を示さなかった幽々子の表情が、極刑と聞き、少し残念そうな顔になったような気がした。

 

 話が終わり、3人が学院長室を去る。オスマン、コルベール、そして幽々子が残った。幽々子は聞かねばならないことがあった。

 

「この、破壊の杖とは一体何なのですか?」

 

 幽々子がオスマンに質問した。"知ってはいる"のだが、この世界の住人の言葉で聞きたかった。

 

「それは、わしの命の恩人の形見なのじゃ。わしがいまよりずっと若い頃、ワイバーンに襲われてのう。もうだめかと覚悟をしたとき、不思議な服装の人がこれを使い一撃で撃退したのじゃ。彼は、そこで力尽きてしまった……」

 

 不思議な服と、この兵器。

 "表"から、物体だけでなく人が迷い込むこともあるようだ。それも、幻想入りと一致する。

 

「杖は2本あった。1本は彼のお墓に、そしてもう1本がこれじゃ。結局、使い方はわからずじまいじゃな」

 

「……そういうことは、よくあるのかしら?」

 

「うむ、どこで作られたのかわからないマジックアイテムはいくつか見つかっておる。家宝にする貴族も多いようじゃの。それくらいには、稀なことじゃ」

 

「そうですのね。よくわかりましたわ」

 

 間違いない。"表"は存在している。

 

 

♨♨♨♨♨♨♨♨

 

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの、おな~り~!」

 

 ルイズたちの帰還の後、開催された祝賀会。

 ドレスに身を包んだルイズの入場に、会場は騒然とした。

 いつもはルイズをバカにしていた生徒たちまでもが、ルイズに目を奪われていた。

 

 貴族のくせに魔法の使えない、ゼロのルイズ。貴族で魔法を使えないというのは、とても重いことなのだ。しかし、ルイズは使い魔を召喚し、さらには怪盗フーケを討伐したという。

 思えば、ちんちくりんとはいえ、きれいな肌と整った顔、ほぼ最高位である貴族の令嬢。

 彼女の価値に、生徒たちがようやく気づき始めたのだった。

 

 しかしルイズにダンスを申し込む男子たちは、軽くあしらわれてしまった。ルイズの視界にはただ一人、自らの使い魔のみ。

 

 幽々子は会場の隅の窓際にいた。

 ルイズは男どもを振り払い、まっすぐに幽々子のもとへ向かう。

 

 ドレスに身を包んだルイズに対し、幽々子は和服を着ており異質な組み合わせだ。

 

「おうおう、馬子にも衣装ってやつだな!」

 

「うるさい」

 

 窓に立てかけられていたデルフリンガーが、ルイズを茶化す。

 そしてデルフを一蹴するルイズ。

 

「破壊の杖については聞けた?

 ……幽々子の故郷についても」

 

「自分のおかれた状況は、おおよそつかめてきたわ。元いたところに戻ることも、できるかもしれない」

 

 幽々子の言葉に、少ししょんぼりするルイズ。

 

「幽々子は……戻りたいの?」

 

 従者がいたことは聞いていた。使い魔としてこれからも一緒にいられるのだろうか。一命をとりとめたのだ。帰りたいと言われることも、ありえると思っている。

 彼女には謎が多い。昔のことも、あまり話してくれないのだ。しかしルイズは、破壊の杖を見つけたときの幽々子の表情の変化に気づいていた。

 これは、意を決して発した言葉であった。

 

 主人の真剣な眼差しを受け幽々子は改めて考える。

 親友や、庭師は元気にしているだろうか。冥界の管理は、ちゃんとできているのだろうか。やはり、思い残りはある。しかし──

 

「主人がそんなことを言っちゃいけないわルイズ。従者のことは信じなさい。

 それに、結構こう見えても、この生活楽しんでるのよ」

 

 この小さな主人に尽くすことを、心から面白く思っていた。今はまだ、この世界を謳歌していたい。

 幽々子の美しい笑顔に、ルイズは思わず赤面してしまう。

 

「と、とりあえず踊りましょう!」

 

 ごまかすようなルイズに手をひかれ、会場の中心に引っ張り出される幽々子。

 踊るような服でもなく、踊るテクニックもない幽々子はすこし難色を示した。しかし、この状況を楽しんでいるようでもあった。

 

「これからよろしくね、幽々子」

 

「ええ、ルイズ」

 

 二人の踊りは褒められるようなものではなく、拙いものであった。しかし、桃色の髪がおそろいの主従が踊る姿は、多くの生徒の印象に残る光景であった。

 

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