『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「いや、単なる冗談だからお前も怒るなよ、南雲」
「こんな時に変な冗談を言うなよ」
ゴム弾だがそれを撃つハジメもハジメだが、テン・コマンドメンツで防ぐ京矢も京矢である。
そんなこと言われながら京矢は流れを変えるものがないかと視線を彷徨わせた後、手際よくトドメとばかりにベルファストに縛られて痙攣していたシアの体がガッと地面に倒れこみ、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉える。
これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。
「おい、南雲、あの子動いてるぞ。頑丈とかそう言うレベル超えてないか?」
「……………………ん」
京矢の言葉に何時もより長い間を開けてユエが返事をしてくれた。ユエが答えてくれた後、ズボッと言う音とともにシアが泥だらけになった頭を引き抜く。
「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」
涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメ達の下へ這い寄って来た。その姿は既にホラーだった。
「南雲、なんかお前をご指名みたいだからいい加減相手してやれよ」
京矢に言われて仕方ないとばかりにシアの方を見ると、あまりの酷さにドン引きしてしまった。
「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」
ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。
片膝をつくキシリュウジンの足に腰掛ける京矢達の前で座り込み真面目な表情を作った。
もう既に色々遅いが……
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」
語り始めたシアの話を要約するとこうだ。
シアたち、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。
兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。
性格は総じて温厚で争いを嫌い、1つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。
また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の1つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。
兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。
魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を1つの家族と称する種族なのだ。
ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。
魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。
国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。
また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。
樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、16年もの間ひっそりと育ててきた。
だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。
その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。
山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。
樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。
巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、1個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男たちが追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。
流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。
魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。
小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。
もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。
そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。
どうやら、シアはユエやハジメ、京矢と同じ、この世界の例外というヤツらしい。
特に、ユエと同じ先祖返りと言うやつなのかもしれない。
話を聞き終った京矢とハジメは特に表情を変えることもなく端的に答えた。
「「断る」」
京矢とハジメの端的な言葉が静寂をもたらした。
何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。序でに京矢には見向きしていなかった。
そして、京矢が話は終わったとキシリュウジンに搭乗しようとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」
シアの抗議の声をさらりと無視して出発しようとするハジメの脚に再びシアが飛びつく。
さっきまでの真面目で静謐な感じは微塵もなく、形振り構わない残念ウサギが戻ってきた。
足を振っても微塵も離れる気配がないシアに、ハジメは溜息を吐きながらジロリと睨む。
「あのなぁ~、お前等助けて、俺たちに何のメリットがあるんだよ」
「メ、メリット?」
「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺たちを頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
「うっ、そ、それは……で、でも!」
「オレ達だって、それなりに急ぐ旅ってやつなんだ。旅の目的だってあるんだぜ、お前達を守って余計な時間を取られるのはゴメンなんだよ」
「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」
「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」
「そう言えばそうだな。こんな所で一人で単独行動してる時点で……オレ達が此処に現れるって分かっていたとしか思えないからな」
一向に折れないハジメ達に涙目で意味不明なことを口走るシア。
確かに京矢の言葉通り、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。
その辺りのことも関係あるのかと二人は尋ねた。
「え? あ、はい。『未来視』といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」
シアの説明する“未来視”は、彼女の説明通り、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。
また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。
「そいつは凄いな」
京矢はシアの固有魔法に感嘆の声を上げる。次元世界のレアスキルにも予知関連のものが有るが、そちらは解読の手間が掛かる物なので、短時間とは言え正確な未来を予知できるのは凄いとしか言いようが無い。
どうやら、シアは元いた場所でハジメ達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守るハジメの姿が見えたようだ。そして、ハジメを探すために飛び出してきた。
こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。
「ん? なあ、そんな凄い固有魔法持ってて、なんでバレたんだ?」
「そうだな、危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
京矢とハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。
「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」
「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだ?」
「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」
「ただの出歯亀じゃねぇか!」
「アホだろ? 貴重な魔法何に使ってんだよ」
「うぅ~猛省しておりますぅ~」
「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」
呆れたようにそっぽを向くハジメにシアが泣きながら縋り付く。ハジメが、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシアの援護が来た。
「……ハジメ、連れて行こう」
「ユエ?」
「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」
ユエの言葉にハジメと京矢は訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。
次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。
「……樹海の案内に丁度いい」
「あ~」
「なるほどな」
確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。
樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。
最悪、キシリュウジンで木をなぎ倒しながら進むか、適当な方法で森を焼いて道を作るか、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。
ただ、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えているため逡巡するハジメと京矢。
エンタープライズとベルファストは京矢の決定に従うと言う様子だ。
そんなハジメに、ユエは真っ直ぐな瞳を向けて逡巡を断ち切るように告げた。
「……大丈夫、私達は最強」
それは、奈落を出た時の言葉。
この世界に対して遠慮しない。互いに守り合えば最強であると。
その時の言った言葉を返されてしまえば苦笑いするしかない。
兎人族の協力があれば断然、樹海の探索は楽になるのだ。
それを帝国兵や亜人達と揉めるかもしれないから避けるべき等と〝舌の根も乾かぬうちに〟である。
もちろん、好き好んで厄介事に首を突っ込むつもり等さらさらないが、ベストな道が目の前にあるのに敵の存在を理由に避けるなど有り得ない。
道を阻む敵は〝殺してでも〟と決めたのだ。
「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」
確かに言っていることは間違いではないが、セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物が一心不乱に逃げ出す強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。