『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝   作:ドラゴンネスト

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虎の亜人の視線は人族(京矢達)を連れた兎人族では無く、兎人族を子供達を背中に乗せた強そうな魔物みたいな物(ディノミーゴ)に向いていた。

 

ハジメは横目で『何やってんだよ』と言う視線を京矢に向けている。

リアルな変身ヒーローに巨大ロボと、凄いもの見せられすぎたせいで感覚が麻痺していたが、この世界基準じゃそうなんだろうな、と思った。

 

「オレの事かディノ?」

 

ディノミーゴから返って来た言葉に虎の亜人が絶句していた。

「え? 何あれ? 魔物が言葉喋ってるんですけど? え? 意思の疎通できるの?」と言った心境だろう。

 

なんか、カム達も「そうだよなー」と言う顔をしている。

 

 

樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

その有り得ない光景だけで無く、人語を解する魔物と言う光景に度肝を抜かれながらも気を取り直して、目の前の虎の亜人と思しき人物はカムたちに裏切り者を見るような眼差しを向けた。

その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私たちは……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ディノミーゴの咆哮が響き渡った。

 

意思は芽生えなかった物の最初に生まれドルイドンと戦った最初の騎士竜なのだ。目の前の亜人達に勝てるような相手では無い。その咆哮によって冷水をかけられたかのように頭が冷える虎の亜人達。

 

ドパンッ!!

 

虎の亜人が動きを止めた瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

 

理解不能な攻撃に凍りつく虎の亜人の頬に擦過傷が出来る。

もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直している。

 

そこに、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメの声が響いた。

“威圧”という魔力を直接放出することで相手に物理的な圧力を加える固有魔法である。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」

 

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

詠唱もなく、見たこともない強烈な攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握していると告げられ思わず吃る虎の亜人。それを証明するように、ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、とある方向へ銃口を向けた。

その先には、奇しくも虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった。霧の向こう側で動揺している気配がする。

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺達が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 

威圧感の他にハジメが殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んだ。

 

「そうそう、誰かが盾になって近付ければ怖く無い、なんて考えない方がいいぜ。南雲のキルゾーンの内側はオレの間合いだ」

 

続け様に放たれるのは京矢からの殺気。近付ければと言う希望を刈り取るかの如き剣の結界。

 

(冗談だろ! こんな、こんなものが人間だというのか! まるっきり化物じゃないか!)

 

恐怖心に負けないように内心で盛大に喚く虎の亜人など知ったことかというように、ハジメがドンナー・シュラークを構えたまま、言葉を続ける。

京矢も腰の斬鉄剣に手を触れたまま、何時でも抜刀できる体制をとる。

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「そう言う事だ。帰ってくれるならオレ達は何もしないぜ」

 

虎の亜人は確信した。攻撃命令を下した瞬間、先程の閃光が一瞬で自分達を蹂躙することを。運良く近づけてもそこは単なる処刑台でしか無いことを。

その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを。

 

虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。

フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。

その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

 

「……その前に、1つ聞きたい」

 

「おう、良いぜ」

 

虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めてハジメ達に尋ねた。京矢は虎の亜人に気安い言葉でそう続きを促す。

 

「……何が目的だ?」

 

端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。

虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人たちを傷つけるつもりなら、自分たちが引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈にハジメを睨みつけた。

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

 

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

てっきり亜人を奴隷にするため等という自分たちを害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない“大樹”が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。“大樹”は、亜人たちにしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺たちは七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

 

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「いや、それはおかしい」

 

「なんだと?」

 

妙に自信のあるハジメの断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

 

「弱い?」

 

内心、一人の例外(京矢)を頭から除外してハジメは言葉を続ける。

 

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

 

「なんだ?」

 

「大迷宮というのは、“解放者”たちが残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「ああ。この樹海は本当の迷宮の上澄み。言ってみれば、潜るだけの資格があるか試すための修練場だ」

 

この程度を楽に走破できないならば、潜ることは出来ないと解放者達が暗に言っているような物。

上澄み部分は解放者達からの慈悲と言うことだろう。

 

「……」

 

ハジメと京矢の話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。ハジメの言っていることが分からないからだ。

樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。

普段なら、“戯言”と切って捨てていただろう。

 

だがしかし、今、この場において、ハジメが適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのはハジメの方であり、言い訳など必要ないのだから。

しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。

 

虎の亜人は、そこまで瞬時に判断した。

しかし、ハジメ程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かない。この件は、完全に自分の手に余るということも理解している。

その為、虎の亜人はハジメに提案した。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、周囲の亜人たちが動揺する気配が広がった。

樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私たちとこの場で待機しろ」

 

冷や汗を流しながら、それでも強い意志を瞳に宿して睨み付けてくる虎の亜人の言葉に、ハジメは少し考え込む。

 

虎の亜人からすれば限界ギリギリの譲歩なのだろう。

樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞く。今も、本当はハジメたちを処断したくて仕方ないはずだ。だが、そうすれば間違いなく部下の命を失う。それを避け、かつ、ハジメたちという危険を野放しにしないためのギリギリの提案。

 

ハジメも京矢も、この状況で中々理性的な判断ができるヤツだと、少し感心した。

 

「どうする?」

 

「向こうが譲渡してくれたんだ。だったらこっちもその位は受け入れようぜ」

 

ハジメは京矢にそう問いかけると、京矢からの返ってきたのは少しくらいは待っても良いとの事。

京矢の判断、そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。

大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。人道的判断ではなく、単に殲滅しながらの探索はひどく面倒そうだからだ。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。

ハジメは、それを確認するとスっと構えていたドンナー・シュラークを太もものホルスターに納めて、〝威圧〟を解いた。

空気が一気に弛緩する。それに、ホッとすると共に、あっさり警戒を解いたハジメに訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。中には、〝今なら!〟と臨戦態勢に入っている亜人もいるようだ。その視線の意味に気が付いたのか京矢が不敵に笑った。

 

「おっと、変な気は起こすなよ」

 

「いや、指揮官は下がっていてくれ、今仕掛けてくるなら私達が迎え撃とう」

 

まだ斬鉄剣に手をかけていた京矢がエンタープライズの言葉に従い後ろに下がる。

警戒をエンタープライズとベルファストに任せて京矢は適当な石に腰掛ける。

 

「……コチラからは何もしない。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

 

「わかっている」

 

包囲はそのままだが、ようやく一段落着いたと分かり、カムたちにもホッと安堵の吐息が漏れた。

だが、彼等に向けられる視線は、ハジメに向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 

しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたのか、ユエがハジメに構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をするハジメに、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めた(亜人達にはそう見えた)ハジメに呆れの視線が突き刺さる。

そんなハジメ達に対して興味無さげに京矢はのんびりと四次元ポケットの中から取り出したお茶を飲んでいる。

 

時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

場に再び緊張が走る。シアの関節には痛みが走る。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族いわゆるエルフなのだろう。

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