『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「しかし、たった五日であそこ迄獣拳を会得できるとは思わなかったな。……案外、獣を心に感じる獣拳と亜人族は相性が良いのかもな」
「なるほど、相性か」
亜人族、その中でも地球では獣人と言うべき兎人族をハジメとする一部の亜人族は獣拳との相性も良いのだろう。
ハジメと京矢が自分達の成果を前に現実逃避の如く話しているとシアが叫ぶ。
「ど、どういうことですか!? ハジメさん! 京矢さん! 父様達に一体何がっ!?」
「お、落ち着け! ど、どういうことも何も……訓練の賜物だ……」
「寧ろ、ナイフに名前付けたり、見つめながらうっとりしたりしてない分……改善、された?」
「いやいや、せめて其処は断言してください! 大体何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですか!? ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっち見て!」
「……別に、大して変わってないだろ?」
「ああ、人にとって大切なのは本質だ。其処さえ変わってなきゃ、何も変わらない」
「貴方達の目は節穴ですかっ! 良いこと言って誤魔化さないで下さい。見て下さい。彼なんて、さっきから自分の動きを見ながらうっとりしてますよ! 普通に怖いですぅ~」
「……ああ、『忘我の中に修行あり、美技を極めるバット拳』のグランドマスター、バット・リーに感銘を受けてたからな」
「美技って何ですか、美技って!? バット・リーって誰ですか!?」
「誰もが息を呑むほどの美しい技だけど?」
「自分が一番息を呑んでるじゃないですか!?」
樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。
一体どうしたんだ?と分かってなさそうな表情でシアとハジメと京矢のやり取りを見ているカム達。
先ほどのやり取りから更に他のハウリア族も戻って来たのだが、その全員が……何というか……武道家みたいな風貌になっている。男衆だけでなく女子供、果ては老人まで。
シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらハジメと京矢に凄まじい勢いで事情説明を迫っていた。
二人はというと、どことなく気まずそうに視線を逸らしながらも、のらりくらりとシアの尋問を躱わしている。
埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。
「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか!」
縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。
だが……
「何を言っているんだ、シア? 私達はこの世の真理に目覚めただけさ。マスター達のおかげでな」
「し、真理? 何ですか、それは?」
嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。
「獣拳は正義の拳、正しき者は必ず勝つ、と」
「えええぇ~!」
父親から発せられる当人してみれば訳の分からない言葉に戸惑いながらよろけると小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅をついた。
小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」
「あ、姐御?」
霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。服装はやはり他のハウリア族と同じく武道着の様な格好で腰には二本のナイフが装着されている、随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。
シアは、未だかつて〝姉御〟などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを〝シアお姉ちゃん〟と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。
そんなシアを尻目に、少年はスタスタと京矢が『まあ座れ』と用意した椅子に座るハジメの前まで歩み寄ると、敬礼をしてみせ、片膝をついて頭を下げる。
「マスターハジメ! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」
「お、おう? 何だ?」
激獣ファルコン拳と名乗った少年の歴戦の武人もかくやという雰囲気に、若干どもるハジメ。少年はお構いなしに報告を続ける。
そして、一人だけ椅子に座らせられている状況を鑑みて、改めて思う。『オレ、何かボスにされてないか?』と。
よく分かっていないユエと、狙ってやったであろう京矢が左右に立っている時点でリーダー格である。
「はっ! 周囲の偵察中、武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」
「あ~、やっぱ来たか。即行で来るかと思ったが……なるほど、どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してるじゃねぇの」
「まっ、オレ達を襲撃するよりも待ち伏せの方が楽だろうからな。……それで上申ってのは何だ、幼隼?」
セリフが明らかに何処ぞのホーク拳の人を意識した京矢が続きを促す。
「はっ! 宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」
「激獣ホッパー拳のカム。お前はどうだ? 幼隼はこう言ってるぞ?」
京矢は試す様な問いをカムへと向ける。話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。
「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」
「当然だ。無様を見せる様な鍛え方はしていない」
族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。
「……出来るんだな?」
「肯定であります!」
最後の確認をするハジメに元気よく返事をしたのは少年だ。
京矢から激は任せたといつの間にか用意した椅子に自分とユエも座らせて、ハジメに激を任せた。
仕方ないとばかりに一度、瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。
「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な拳士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の
「「「「「「「「「「ハッ! マスターハジメ!!」」」」」」」」」」
「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」
「「「「「「「「「「討て!! 討て!! 討て!!」」」」」」」」」」
「お前達の使命は何だ!」
「「「「「「「「「「倒せ!! 倒せ!! 倒せ!!」」」」」」」」」」
「敵はどうする!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」
「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」
「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」
「ハッ! 行くぞ、お前達! 命を惜しむな、名を惜しめぇ!」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」
最後に上げたカムの咆哮に答える様に叫ぶハウリア族の皆さん。大地を駆ける者達はまだ良い。一応はまだ普通だ。
だが、一部の人達は土の中に物凄い勢いで潜っていき、極め付きは翼も無いのに空を飛ぶ連中までいる。
「うわぁ~ん、私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」
ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、古き日の日本の武士を思わせる気迫で霧の中へ消えていくハウリア族達。空を飛んだり、地中に潜ったりして。
温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ?と言わんばかりの変わり様だ。
面影など無いほど変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。
流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。
「空の獣拳をあそこまで扱うなんて、やるじゃねぇか」
「やるじゃねぇか、じゃないですぅ!?」
京矢にツッコミを入れるシアの隣を少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。
「パルくん! 待って下さい! ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ? 君まで行かなくても……お姉ちゃんとここで待っていませんか? ね? そうしましょ?」
どうやら、必死にまだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしている様子だ。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。
何故、花で釣っているのか? それはその少年、京矢からは幼隼と呼ばれていたファルコン拳使いの少年がかつてはお花が大好きな少年だったからである。
シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年もとい幼隼のパル少年は、「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。まるで、欧米人のようなオーバーリアクションだ。
「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」
ちなみに、そんなファルコン拳のパル少年は今年十一歳だ。
「ふ、古傷? 過去を捨てた? えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」
「いえ、捨てちゃいませんよ、その気持ちは」
「え……」
「悟ったんでさあ、弱けりゃ何も守れない。そんな弱い奴らを守ってやるには力が無けりゃ意味が無いって」
繰り返すが、そんなファルコン拳のパル君は今年十一歳だ。
「それより姐御」
「な、何ですか?」
〝シアお姉ちゃん! シアお姉ちゃん〟と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わりように、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。
パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。
「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。〝激獣ファルコン拳のバルトフェルド〟これからはそう呼んでくだせぇ」
「誰!? バルトフェルドってどっから出てきたのです!?」
「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」
「あ、こらっ! 何が〝ではっ!〟ですか! まだ、話は終わって、って嘘だっ! 何で兎人族が空を飛べるんです!? 待って! 待ってくださいぃ~」
恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま空を飛んで霧の向こう側に消えていく少年に向かって手を伸ばすシア。
答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。
ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。
そんなシアの姿を何とも言えない微妙な表情で見ているユエ。
ハジメと京矢は、どことなく気まずそうに視線を彷徨わせている。ユエは、ハジメに視線を転じるとボソリと呟いた。
「……流石ハジメと京矢、人には出来ないことを平然とやってのける」
「いや、だから何でそのネタ知ってるんだよ……」
「これでも立ち止まらせた方なんだけどな……」
「……闇系魔法も使わず、洗脳……すごい」
「……正直、ちょっとやり過ぎたとは思ってる。反省も後悔もないけど」
「まあ、あれなら死ぬことはないだろうな、オレ達が居なくなっても」
しばらくの間、ハウリア族が去ったその場には、シアのすすり泣く声と、微妙な空気が漂っていたのだった。