『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「どう言うおつもりですかな…………マスター、いや、京矢殿?」
弾かれたまま後方に飛ぶと空中で回転しながら態勢を立て直したカムは己を弾いた影……ガイソーグの姿の京矢を一瞥しカムはそう問う。
「まあ、こいつらが死んだところで別に構わないが」
「「「いいのかよっ!?」」」
京矢のあんまりと言えばあんまりな言葉にツッコミを入れる熊人族の一同。
そんな彼らを無視して京矢は話を続けていく。
「少なくとも、曲がりなりにも激獣拳を名乗る者が、そんな様を見せつけられたら、止めない訳には行かないんでな」
ゆっくりとガイソーケンをカム達に突き付け、
「敵に容赦しないのは良いし、強くなったことを実感してそれを喜ぶのは良い。だけどな、甚振ることを楽しむのは話は別だ」
「い、いや、私達は楽しんでなど……」
「今のお前達の顔、オレと南雲が始末した帝国兵と同じだぞ」
「ッ!?」
淡々と告げられる京矢の言葉。それはカムにとって衝撃だった。宿った狂気が吹き飛ぶほど。冷水を浴びせられた気分だ。
自分達家族の大半を嘲笑と愉悦交じりに奪った輩と同じ表情……実際に目の当たりにして来たからこそその醜さが分かる。家族を奪った彼等と同じ……それはカム達にとって耐え難い事実だ。
京矢も臨獣拳の事を持ち出すよりも、直接的にそういった方が良いと判断したのだが、それは正しかった。
「……マ、マスター京矢…………私は……私達は」
「テメェの過ちに気付けたのならそれで良い。甚振るのを楽しむ、嬲るのを喜ぶ者に激獣拳を名乗る資格は無い」
動揺するハウリア達を一瞥しゆっくりとガイソーケンを下ろす。
(始めての対人戦だから仕方ないか。まあ、バーサーカーに状態から完全に抜け出していなかったのはオレと南雲の落ち度だからな。念の為に教本は置いていこう)
内心でそんな事を考えて、獣拳の教本を残していこうと考える京矢。完全に教本の中に書かれた七拳聖に後のことを丸投げ、である。
と、そんな事を考えていると突然銃声が響いた。
「ん?」
京矢の背後で「ぐわっ!?」という呻き越えと崩れ落ちる音がする。
そう言えば、すっかり存在を忘れていたと京矢とカム達が背後を確認すると、額を抑えてのたうち回るレギンの姿があった。
「なにドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ? 話が終わるまで正座でもしとけ」
すると、霧の奥からハジメがユエとシア、エンタープライズとベルファストを伴って現れる。
どうやら、シア達が話し合っているうちに、こっそり逃げ出そうとしたレギン達に銃撃したようである。但し、何故か非致死性のゴム弾だったが。
ハジメの言葉を受けても尚、逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、ハジメは〝威圧〟を仕掛けて黙らせた。
ガクブルしている彼等を尻目に、カム達の方へ歩み寄るハジメとユエとシア。
ハジメはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。
「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」
「ああ、そいつはオレも忘れてた事だ。お前だけの責任じゃねえ。本当に悪かった」
ハジメと京矢の謝罪にポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。
まさか京矢はともかくハジメが素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があった。
「マ、マスターハジメ!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」
「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」
「ボス! しっかりして下さい!」
故に彼らもこういう反応になる。青筋を浮かべ、口元をヒクヒクさせるハジメ。
何よりハジメにとって腹立つのは後ろでガイソーグの鎧姿で腹を抱えてカム達のリアクションを見て爆笑している京矢だ。
だが、今回のことは、ハジメ自身、本心から自分のミスだと思っていた。
自分が殺人に特になんの感慨も抱かなかったことから、その精神的衝撃というものに意識が及ばなかったのだ。
いくらハジメが強くなったとはいえ、教導の経験などあるはずもなく、その結果、危うくハウリア族達の精神を壊してしまうところだった。
流石に、まずかったと思い、だからこそ謝罪の言葉を口にしたというのに……帰ってきた反応は正気を疑われるというものだった。ハジメとしては、キレるべきか、日頃の態度を振り返るべきか若干迷うところである。
爆笑している京矢に対してはキレても良いだろうが、何気に京矢は最初から精神面の修行も考えて居たので怒るに怒れない。
ハジメは、取り敢えずこの件は脇に置いておいて、レギンのもとへ歩み寄ると、その額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てた。
「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」
「オレとしては、生き恥晒してでも生き延びる方を選んだ方がお得だと思うぜ。警告がわりに最低一人は生き恥晒すんだからな」
敢えて皆殺しにせずに一人か二人は生き残らせて恐怖を伝える。結果的にその方が襲撃も減るであろうと計算しているので一人は生き残らせるだろう。
レギンは意外そうな表情でハジメと京矢を見返した。
ハウリア族をここまで豹変させたのは間違いなく眼前の男達だと確信していた。特に自分達では一撃で命を落として居たであろう蹴りを弾いた京矢の強さは間接的にだがよく分かった。
その男達が敵対者に情けをかけるとは思えなかったのだ。
「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」
「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」
「条件?」
あっさり帰っていいと言われ、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめく。
後ろで「頭を殴れば未だ間に合うのでは……」とシアが割かしマジな表情で自分の大槌とハジメの頭部を交互に見やり、カム達が賛同している声が聞こえる。慰める様に肩を叩く京矢が特にムカつくが、それはそれ。
京矢には兎も角、そろそろ、ハウリアの連中にはマジでキツイ仕置が必要かもしれないと更に青筋を増やすハジメ。
しかし、頑張ってスルーする。
「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」
「……伝言か?」
条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。
しかし、言伝の内容に凍りついた。
「〝貸一つ〟」
「……ッ!? それはっ!」
「で? どうする? 引き受けるか?」
言伝の意味を察して、思わず怒鳴りそうになるレギン。
ハジメはどこ吹く風でレギンの選択を待っている。
〝貸一つ〟それは、襲撃者達の命を救うことの見返りに何時か借りを返せということだ。
長老会議が生きてはいるものの長老の一人を失い、会議の決定を実質的に覆すという苦渋の選択をしてまで不干渉を結んだというのに、伝言すれば長老衆は無条件でハジメの要請に応えなければならなくなる。
客観的に見れば、ジンの場合も、レギンの場合も一方的に仕掛けておいて返り討ちにあっただけであり、その上、命は見逃してもらったということになるので、長老会議の威信にかけて無下にはできないだろう。
無視してしまえば唯の無法者だ。それに、今度こそハジメが牙を向くかもしれない。
つまり、レギン達が生き残るということは、自国に不利な要素を持ち帰るということでもあるのだ。
長老会議の決定を無視した挙句、負債を背負わせる、しかも最強種と豪語しておきながら半数以上を討ち取られての帰還……ハジメの言う通りまさに生き恥だ。
表情を歪めるレギンに京矢が追い討ちをかける。
「こいつはサービスだぜ」
そう言って一振りの日本刀を引き抜き、それを振るって見せると命を落として居た者達が息を吹き返しているではないか。
それにはハウリア達も騒めいている。確実に仕留めて居たはずの者達が生き返ったのだから、その反応も無理はないだろう。
京矢の使った剣は天生牙。以前にもアリシア・テスタロッサを蘇生した際にも使った死を殺す事の出来る妖刀だ。
「これは形なき者さえも切り、死すらも殺す刀。残念ながら二つの意味で次は無いぜ」
死者を蘇生するという奇跡を見せられ、この状況で部下全員の命を救われたのだ。レギンにとって彼らの言葉を拒絶する理由は無かった。
「わ、わかりました。我らは帰還を望む!」
「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」
ハジメの全身から、強烈な殺意が溢れ出す。
もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。
「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」
「おう、キッチリと利子つけて返してもらうからな」
どこからどう見ても、タチの悪い借金取り、いやテロリストの類にしか見えなかった。
後ろから、「あぁ~よかった。何時ものハジメさんですぅ」とか「ボスが正気に戻られたぞ!」とか妙に安堵の混じった声が聞こえるが、取り敢えずスルーだ。せっかく作った雰囲気がぶち壊しになってしまう。
もっとも、キツイお仕置きは確定だが。
ハウリア族により心を折られ、レギンの決死の命乞いも聞いていた部下の熊人族も、京矢によって蘇生された熊人族も反抗する気力もないようで悄然と項垂れて帰路についた。
若者が中心だったことも素直に敗北を受け入れた原因だろう。レギンも、もうフェアベルゲンで幅を利かせることはできないだろう。
一生日陰者扱いの可能性が高い。だが、理不尽に命を狙ったのだから、誰一人犠牲を出さずに済ませられたのだから、むしろ軽い罰である。
ハウリアをあそこまで鍛え上げた挙句、その片割れは死者蘇生さえも行う化け物。最早、神の領域にあると言って差し支えないだろう。そんな相手を敵に回す愚を犯す者はそうは出ないだろう。
寧ろ熊人族の中から出ようとしたのなら、必死に説得するレベルだ。
霧の向こうへ熊人族達が消えていった。
それを見届け、ハジメはくるりとシアやカム達の方を向く。もっとも、俯いていて表情は見えない。
なんだか異様な雰囲気だ。カム達は、狂気に堕ちてしまった未熟を恥じてハジメに色々話しかけるのに夢中で、その雰囲気に気がついていない。シアだけが、「あれ? ヤバクないですか?」と冷や汗を流している。
自然な態度で既にハジメから距離を取っている京矢の姿に本気でヤバイと感じてしまった。それを見てこっそりとシアも京矢達の所に避難して行く。
ハジメがユラリと揺れながら顔を上げた。その表情は満面の笑みだ。だが、細められた眼の奥は全く笑っていなかった。
ようやく、何だかハジメの様子がおかしいと感じたカムが恐る恐る声をかける
「マ、マスター?」
「うん、ホントにな? 今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、鳳凰寺みたいに歯止めは考えておくべきだった」
「い、いえ、そのような……我々が未熟で……」
「いやいや、いいんだよ? 俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに……随分な反応だな? いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと……しかし、しかしだ……このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ……わかるだろ?」
「い、いえ。我らにはちょっと……」
カムも「あっ、これヤバイ。キレていらっしゃる」と冷や汗を滝のように流しながら、ジリジリと後退る。
ハウリアの何人かが訓練を思い出したのか、既にガクブルしながら泣きべそを掻いていた。
激獣拳を学んで強くなったとは言え訓練のトラウマは払拭されては居ないのだ。
ハジメは、笑顔を般若に変えた。そして、怒声と共に飛び出した。
「取り敢えず、全員一発殴らせろ!」
わぁああああーー!!
ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。一人も逃がさんと後を追うハジメ。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。
後に残ったのは、避難に成功した京矢とシアと、
「……何時になったら大樹に行くの?」
「これはかなり掛かるな」
「では、終わるまでお茶でも如何でしょうか」
すっかり蚊帳の外だったユエとエンタープライズ、ベルファストの呟きだけだった。