『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
深い霧の中、京矢達一行は大樹に向かって進んでいた。
先頭をカムに任せて、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。
骨身に刻まれた油断大敵の信念で、全員がその表情に真剣なものを貼り付けていた。
もっとも、全員がコブか青あざを作っているので何とも締りがないが……
「なあ、あれは何だったんだ?」
「激獣拳ビーストアーツ、だ」
魔力を使えないはずの亜人が何故か魔法じみた超能力みたいな力を使ったり、超人じみた身体能力を発揮した光景を思い出してハジメは京矢に問い掛けると、あっさりと答えが固有名詞で返ってきた。
「いや、固有名詞じゃ分かんねえよ」
「んー、簡単に言えば特撮ヒーローの超人拳法」
「なるほど、そりゃ強かった訳だな」
それで納得する地球出身組。ガチの特撮ヒーローに変身したり、特撮ヒーローの劇場版ラスボスヴィランに変身したり、二号ヒーローの変身アイテムを二つもくれたりと、異世界よりも驚きな現実に導いてくれた友人ならば、それも有りかなと納得してしまうハジメであった。
次はバルカンってヒーローに変身して戦ってみるかな~なんて考えている辺り、現実逃避なのだろう。
そんな風に和気あいあいと雑談しながら進むこと約十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。
大樹を見た第一声は、
「……なんだこりゃ」
「枯れてんな……」
という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、エンタープライズもベルファストも予想が外れたのか微妙な表情だ。
彼らは大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。
しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。
大きさに関しては想像通り途轍もない。
直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。
だが、明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
ハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。
それを聞きながらハジメと京矢は大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。
「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」
「って、事はココで間違いは無いはずだよな」
石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。
オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。
「ここが大迷宮の入口で間違い無いみたいだけど、こっからどうすりゃ良いんだよ?」
京矢は大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみるが、当然変化がある訳はない。
ハジメはカム達に何か知らないかと聞くが返答はNOだった。
アルフレリックからも口伝は聞いているが、入口に関係する理由はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。
「オレ達、他の迷宮の踏破者にしか分からない様にしてるんじゃ無いか?」
京矢の言葉にハジメは成る程と思う。考えてみれば此処には多くの亜人が住んでいるのだから、小さな子供が誤って命の危険がある大迷宮に迷い込む危険を無くす為にも簡単には入らない様にするのは道理だ。
その可能性を考えて此処を作った解放者が他の迷宮の踏破者しか入らない様にしている可能性は高い。
……自信過剰な長老が大迷宮に挑んで長老陣全滅からの口伝消滅もシャレにならないのでそうしていた可能性も高い。
亜人の種族の長老達に伝わる口伝によって導かれた踏破者のみが大迷宮に入れる様にされている。京矢はそう推測していた。
京矢の推測にはハジメも納得するしか無い。
改めて周囲を調べようとした時、石板を観察していたユエが声を上げる。
「ハジメ……これ見て」
「ん? 何かあったか?」
京矢とハジメが大樹を調ようとしていた時ユエが注目していたのは石板の裏側だった。
そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。
「これは……」
「一つはオルクスの紋章。他のはきっと他の解放者の紋章だろうな。南雲、指輪を嵌めてみてくれ」
「ああ」
京矢の言葉に答えたハジメが手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。
すると……石板が淡く輝きだした。
何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「……どういう意味だ?」
「自分の迷宮に挑戦出来る条件を提示してるんだろうけど?」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「最低でも四つは迷宮を踏破して来いって事か? 森から出ない亜人族には不可能な条件だな」
「確かにそれなら指揮官の危惧していた不安は起こらなくて済むな」
一つ目の鍵は最低でも四つの迷宮を踏破するだけの実力とその証明。
「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」
頭を捻るハジメにシアが答える。
「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「……なるほど。それっぽいな」
「亜人が簡単に来られるなら、それっぽいよな」
「はい、京矢様達の様にこの世界の神に反逆しようとする方達で無ければ信頼は得られそうにないですから、間違いはないかと」
つまり、大迷宮に挑む為の鍵の一つは亜人からの信頼。霧に惑わされる事なく大樹へと導いてくれる案内人だ。
そうなると残る鍵は一つ『再生』。
「……あとは再生……私?」
ユエが自分の固有魔法〝自動再生〟を連想し自分を指差す。
試しにと、薄く指を切って〝自動再生〟を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化はない。
「むぅ……違うみたい」
「……ん~、枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」
「なるほど、そうなると優先的に入手する神代魔法の一つは『再生』魔法で決まりだな」
要するに目の前の枯れた木を神代魔法で再生して初めて迷宮に入ることが出来るという事だろう。
この大樹にあるのが帰還に関係する魔法で有るのなら、再生の神代魔法は優先的に入手する必要がある。
……これから向かう大迷宮で他の迷宮の神代魔法の手掛かりを得られれば良いのだが。
「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」
「ん……」
「まっ、そう言うなよ。運が良ければ、他の迷宮の何処かで帰還に繋がる神代魔法が手に入るかも知れないんだぜ」
「確かに……その可能性もあるか」
ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。そんな二人に対して既に切り替えて次の目的に意識を向けている京矢。
大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。ハジメとユエも気持ちを切り替えて先に三つの証と再生の神代魔法を手に入れることにする。
「此処にあるのが目的の神代魔法でした、なんてオチはゴメンだからな。三つの迷宮の中に再生が無かったら面倒が増える」
「そうだな。それが第二の目標か」
「……ん」
次の目標を決めるとハジメはハウリア族に集合をかけた。
「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」
「お前達のための隠れ里も用意した。守っていくのはお前達次第だ」
そして、ハジメはチラリとシアを見る。
その瞳には、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。
いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。
シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。
「とうさ「マスターハジメ! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」
シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。
横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。
「あ~、何だ?」
取り敢えず父様? 父様? と呼びかけているシアは無視する方向で、ハジメはカムに聞き返した。
カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。
「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」
「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」
カムの言葉に驚愕を表にするシア。十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。
「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」
「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」
「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」
「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」
カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。
何だ、この状況? と思いつつ、ハジメはきっちり返答した。
「却下」
「ダメだ」
「なぜです!?」
ハジメの実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリとハジメに迫る。
「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」
「修行不足だ、お前らじゃついて来れない」
「しかしっ!」
「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」
「具体的!?」
なお、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます!とまで言い始めた。
どうやら、ハートマン軍曹モドキとビーストアーツの訓練のせいで妙な信頼とか畏敬とかそんな感じのものが寄せられているようである。
このまま、本当に町とかにまで付いてこられたら、それだけで騒動になりそうなので、京矢はハジメに下がっていてくれと言って条件を出す。
「なら、お前達は此処で鍛錬を続けろ。次に樹海に来た時に相応の力を身につけていれば、オレから南雲に進言してやる」
さり気無くハジメを格上扱いしている京矢であった。
「……そのお言葉に偽りはありませんか?」
「ない」
「嘘だったら、人間族の町の中心でマスター達の名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」
「お前等、タチ悪いな……」
「そりゃ、マスター達の弟子を自負してますから」
とても逞しくなった弟子達? に頬を引きつらせるハジメ。ユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。
まあ良いかと京矢はビーストアーツの教本を代表としてカムに渡す。
「其処に書かれているのはグランドマスターと獣拳の創始者の教えだ。それを持って鍛錬に励めよ」
『ハッ! マスター京矢!』
京矢から恭しく教本を受け取るカム達を眺めながらハジメは溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。
「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」
傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。