『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「……本格的に妙だな?」
「妙?」
「ああ。龍殺しの魔剣を前にしても、警戒も畏怖も感じた様子がない」
バルムンクは竜殺しの魔剣。その中でも特に強力な、邪竜ファヴニールを倒した英雄ジークフリートの剣だ。
地球には何気に竜殺しの魔剣や聖剣はそれなりの数がある。当然ながら、そんな竜殺しの魔剣など前にすれば、どれだけ強力な力を持っていても、警戒の一つはするだろう。
だが、目の前の黒竜からはバルムンクに対する野生の警戒も理性からの恐怖心も感じられない。
この世界には竜の尻を蹴飛ばすという例えがあるが、それは強靭な龍の鱗が無い部分だそうだ。
地球での逆鱗に近い意味なのかもしれないが、そんな強靭な鱗さえもバルムンクならば切り裂ける。
だが、そんな武器を前にしても目の前の黒竜は何の反応も示さず、黒竜は、空中に上がり、未だ、ユエが構築した防御壁の向こうにいるウィルを狙って防壁の破壊に集中している。
「これで確信が出来たな。あの黒竜、誰かに操られてるぜ」
「……それで?」
京矢の言葉にハジメはそう問いかける。あの黒竜が誰かに操られているから何だというのだと言う意思の困った問いだ。
「確実に、絶対に仕留める理由ができたってだけの話だ」
そもそも、誰かがあんな竜を操って人を襲わせている等という状況から考えて、どう考えても、その先にある目的は禄なことでは無い。
戦争ならば仕方がないとは言え、この近くにあるウルの町は軍事施設でもない単なる観光地。
偶然手に入れた強力な兵器の運用実験が目的という可能性もあるが、そんな場所で目の前の黒竜を操る時点で、
(単なる無差別虐殺だろうが、それは)
魔人族の仕業かは知らないが、殆どが戦う術を持たない者達を一方的に虐殺する様な真似は許すわけにはいかない。
さっさと目の前の黒竜を倒して、操ってる奴に対しても落とし前をつけさせる決心をする。
「そうか。なら、存分にやってやろうぜ!」
「おう!」
京矢が魔剣目録の中からバルムンクを取り出した様に、ハジメもドンナーをホルスターにしまうと、〝宝物庫〟からシュラーゲンを虚空に取り出した。
気による身体能力の強化を行い鎧の魔剣の上から青い陽の気を纏い、バルムンクの竜殺しの力を引き出す京矢と、〝纏雷〟を発動し、三メートル近い凶悪なフォルムの兵器に紅いスパークを迸らせるハジメ。
黒竜は、流石に、二人の次手がマズイものだと悟ったのか、その顎門の矛先を二人に向けた。流石にこの状況は無視出来なかったようだ。
死を撒き散らす黒竜のブレスが放たれたのと、ハジメのシュラーゲンが充填を終え撃ち放たれたのは同時だった。
共に極大の閃光。必滅の嵐。黒と紅の極光が両者の中間地点で激突する。衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、周囲の木々を根元から薙ぎ倒した。
威力だけなら、おそらく互角。しかし、二つの極光は、その性質故に拮抗することなく勝敗を明確に分ける。ブレスは継続性に優れた極光ではあるが、シュラーゲンのそれは、一点突破の貫通特化仕様だ。したがって、必然的にブレスの閃光を突破して、その力を黒竜に届かせた。
ブレスを放っていた黒竜の頭部が突然弾かれた様に仰け反る。ブレスを突き破ったシュタル鉱石製フルメタルジャケットの弾丸が黒竜の顎門を襲ったのだ。しかし、致命傷には程遠かった。
だが、ハジメのシュラーゲンの一撃を囮に再度上空に舞い上がった京矢の、竜殺しの魔剣による一閃がはためく片翼を切り落とす。
「取り敢えず、こう言っとくか? 地球の神話舐めんな、異世界!」
「グルァアアアアアアアアアッ!!」
痛みを感じているのか異様な程に必死な悲鳴を上げながら錐揉みして地に落ちる黒竜。
腹にでも鎧の魔剣から学んだ『大地斬』でも叩き込もうかと思ったが、既に射程範囲外に落ちていた。そこにハジメが、空中に退避していたのを幸いに、更に空中で逆さまになって〝空力〟〝縮地〟を発動。超速を以て急降下し、仰向けになっている黒竜の腹に〝豪脚〟を叩き込んだ。
ズドンッ! と腹の底に響く衝撃音が轟き、黒竜の体がくの字に折れる。地面は、衝撃により放射状にひび割れた。黒竜が、悲鳴じみた咆哮を上げるがダメージは大きいとは言えないだろう。元々相手はレールガンに耐える装甲なのだ。
それだけに、京矢の龍殺しの魔剣の力の程がよく分かる。
追撃とばかりにバルムンクを振り上げながら落下する京矢を近づけさせまいと、黒竜は、片翼に爆発的な魔力を込めて暴風を巻き起こし、その場で仰向け状態から強引に元の体勢に戻った。
「チッ!」
京矢は強引に空中で軌道を変え、その場を退避する。
重力魔法を会得してから、この程度の落ちる事を利用した空中での方向転換は出来る様になったが、変身できない状況ではそれなりに使えると改めて思う。
オスカーの迷宮の最下層での複製RX戦でラウズアブソーバーを手に入れてからは空中戦はブレイドの
(さて、無視出来なくなってきたなら、存分に試させてもらおうじゃねえか)
(嫌なのじゃぁ!!!)
フルフェイスの兜の奥で笑みを浮かべた京矢の耳に、誰かの悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
一直線に相手に向かって落ちながら高速移動する。走る必要もなく、疲れずに高速移動出来るのは便利だが性に合わないのであまり多用したくない。
剣を降るにもこれを使うと踏み込みが効かずに斬撃の鋭さが下がる。
だが、
(こう言う状況じゃ便利だな!)
懐に飛び込み黒竜の腹に向かい、バルムンクの斬撃を撃ち込む。
京矢の斬撃は強靭な筈の竜の鱗を簡単に切り裂く。
「剣身一体。技を借りるぜ、魔剣戦士!」
そのスキルを持って放つ技は鎧の魔剣の存在する異世界に置いて、勇者の編み出した剣技の一つ。
「大地、斬!」
京矢の放つ一撃は黒竜の腹を深々と切り裂き、それにより黒竜は苦悶の咆哮を響かせる。
「南雲ぉ!」
京矢の声に答えるようにハジメは、追撃をかけるため大きく左の義手を振りかぶった。
義手からはキィイイイイイ!!! という機械音が鳴っている。京矢が仕掛ける前に発動しておいた〝振動粉砕〟だ。
ハジメは、大質量・高速で突っ込んで来た岩石をも一撃で粉砕できる破壊の拳を、容赦なく黒竜の腹にぶち込んだ。
くぐもった音が響き、京矢によって切り裂かれた腹の鱗に更に亀裂が入る。
衝撃を伝えることを目的とした攻撃なので内臓にも相当ダメージが入ったようだ、くの字に折れながら黒竜は再び苦悶の声を上げると口から盛大に吐血した。
「旋ぃ!」
京矢の剣掌・旋によって発生した竜巻にハジメはおまけを加える。
竜巻の直撃した腹の下で大爆発が起きる。竜の巨体が、その衝撃で二メートルほど浮き上がったほどだ。ハジメの加えたおまけは〝手榴弾〟である。
「クゥワァアア!!」
直接の斬撃ではない為に竜殺しの魔剣の力は発揮されなかったものの、同じ場所への更なる衝撃に、今度は悲鳴も上げられずくぐもった唸り声を上げることしか出来ない。
耐えるように頭を垂れて蹲る黒竜の口元からはダラダラと血が流れ出している。心なしか、唸り声も弱ってきているようだ。
「チッ! 小技程度じゃ鱗を剥ぐ程度しかできねえか」
バルムンクならば強靭な黒竜の鱗を簡単に切り裂くことが出来るが、矢張り確実に相手を仕留めるには相応の一撃が必要だ。
そして、バルムンクには相応の力を持った一撃がある。
「南雲、今から大技を使う。ちょっと時間稼ぎと……出来れば、準備ができたら頭か腹をオレの方に向けてくれ」
「それで、やれるのか?」
「アイツが北欧の邪竜より強くない限りは、な」
「んじゃ、試してみるか? アイツがファヴニールより上か下か?」
そう言葉を交わして左右に分かれる京矢とハジメ。
黒竜は、ハジメと京矢を脅威と認識したのか、ウィルから目を離し二人に向けて顎門を開いて火炎弾を連射しようとするが、左右に別れたことで狙いをつけられずにいた。
それを見て先ずはゆっくりと己の闘気を抑えて相手の注意を囮役のハジメへと向くようにする。
京矢の存在が消えた事に戸惑いながらも、ハジメへと向け、対空砲火のように空中へ火炎弾を乱れ撃つ。
しかし、その炎はただの一撃もハジメに当たることはなかった。〝空力〟と〝縮地〟を併用し、縦横無尽に空を駆けるハジメは、いつしか残像すら背後に引き連れながら、ヒット&アウェイの要領で黒竜をフルボッコにしていく。
ドンナー・シュラークで爪、歯茎、眼、尻尾の付け根、尻という実に嫌らしい場所を中距離から銃撃したかと思えば、次の瞬間には接近して〝振動粉砕〟またはショットシェルの激発+〝豪腕〟のコンボで頭部や脇腹、京矢の斬撃による裂傷をメッタ打ちにした。
「クルゥ、グワッン!」
若干、いや、確実に黒竜の声に泣きが入り始めている。鱗のあちこちがひび割れ、口元からは大量の血が滴り落ちている。
「上手くやってるな、南雲」
兜を脱ぎ、京矢はその様子に笑みを受けながら自身の気を魔力の代用としてバルムンクへと流し込む。
「剣身一体」
再度発動させる剣聖の天職のスキル。流れ込むはバルムンクの主である北欧の大英雄の放つ最大の一撃の情報。
幻影のように京矢の左右に立つのは褐色の肌の男性と小柄な少年。
「黄金の夢から覚め、揺籃から解き放たれよ」
京矢の宣言ともに左右の使い手達も同じ動きを見せる。
「すげぇ……」
二人の戦闘をユエの後ろという安全圏から眺めていた者達の中で玉井淳史が思わずと言った感じで呟く。
言葉はなくても、他の生徒達や愛子も同意見のようで無言でコクコクと頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容にガクブルしていたとは思えないほど目を輝かせて食い入るように二人を見つめている。
ハジメが、トドメを京矢に任せてシュラーゲンやオルカン等で一気に片をつけないのは、愛子達に自分の戦闘力を見せつけるいい機会だと思ったからだ。
黒竜は確かに頑丈さや一撃の威力は恐るべきものがあるのだが、冷静に戦えば図体がデカイから攻撃が当てやすい上、攻撃は単調なので、まさに〝当たらなければどうということはない〟を実践でき、二人にとってはまだまだ余裕のある相手だった。
なので、愛子達と別れたあと、教会や国、勇者達に愛子から情報がいった場合でも安易に強硬手段に出ることが無いように、自身の実力を示しておこうと思ったのだ。
既に実力が知れ渡っている京矢の場合は勇者を凌駕する圧倒的な力を見せるべきと判断した結果でもあるのだが、それでも、最後を全部京矢任せにするのも面白くないのも事実だ。
「邪竜、滅ぶべし!」
バルムンクの柄の真ん中にある宝玉がせり出し、剣から膨大な魔力が火柱のように立ち昇る。
それを幻影と共に上段に構える。
北欧の邪竜を葬りし英雄、その最大の一撃、それを解き放つ瞬間を見量る。
そして、黒竜の動きが止まるのが見える。ハジメがやってくれたのだろうと思い笑みを浮かべる。
後は、巨大な光の柱となったバルムンクを黒竜に叩き込むだけ。
「
その瞬間、
〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟
そんな悲痛な絶叫が響き渡った。
「へ?」
思わず惚けた声をあげる京矢に更に変な絶叫が響き渡る。
〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟
黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に京矢を含む全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。
気が抜けたせいで制御を失ったバルムンクの魔力が明後日の方向に飛んで行き、巨大な光の柱を目撃した愛子とウィルとクラスメイト達がその光景に別の意味で唖然とするのだが、それはそれ。
空にジークフリートが「すまない」と言いながら浮かんで消えていった光景さえ幻視させてくれる。
「……何やらかしたんだよ、南雲?」
そんなことを呟いて頭を抱えつつ、バルムンクを下ろして兜を回収し、ハジメ達の元に戻るのだった。
実はかなり命の危機だったティオさんでした。
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