『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
妙な叫びが聞こえて気が抜けて、放とうとした魔力を明後日の方向に空打ちしてしまった京矢は何があったのかとハジメ達の所に戻ったのだが……
〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟
尻に巨大な槍が突き刺さった黒竜の何とも情けない声が響いていた。
北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原に、響くその声に何でそんな事になったのかと疑問に思う。
なお、声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。竜の声帯と口内では人間の言葉など話せないから、空気の振動以外の方法で伝達しているのは間違いない。
「……何があったんだ、南雲?」
「ああ、実はな……」
何でも戦闘中にパイルバンカーの杭を「ケツから死ね、駄龍が」と黒竜の尻に突き刺したそうだ。
まあ、鱗に覆われていない、鱗を切り裂ける武器を持っていないハジメとしては一番有効な攻撃部位、口の中に攻撃するのも一つの手なのだから、それもアリと言えばアリな判断とは思うが、それを実行した所こうなったそうだ。
それによってケツに杭を撃ち込まれた痛みで膠着した瞬間を好機と思った京矢にも声が聞こえてなかったら、今頃尻に杭を撃ち込まれた姿でバルムンクの真名解放を打ち込まれていただろう。
ディノミーゴの存在から人語を話せる魔物も居るんじゃないかな、とは思っていたが、その上、ハジメのレールガンに耐えたり、逆に同等以上のブレスを吐けるような強力な魔物が、こんな場所にいるはずないのである。
もし生息していたのなら、その危険性故に広く周知されているはずだ。
未知の魔物と言う可能性もあるが、一番あり得そうな可能性は、
「……もしかして、竜人族って奴じゃないのか、これ?」
「……だよな?」
〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟
二人がまさかと思いつつ言った言葉に返した黒竜の言葉は予想通りの大正解だった。
二人は、内心己の〝縁〟というものに呆れた。この世界に来て一体何度、〝レアな存在〟と出会うというのか。
ユエは、三百年前の戦争で滅びたはずの吸血鬼族。
シアはこの時代の〝先祖返り(推定)〟。
眼前の黒竜は五百年以上前に滅びたはずの竜人族である。
序でにハジメにしてみれば元の世界からの友人はリアルに特撮ヒーローになれて巨大ロボまで持っている。
隣に立つ友人と知り合ったことから縁の始まりだったんだな、と目の前の尻に杭を撃ち込まれた黒竜こと竜人族(推定)を眺めながらシミジミと思うハジメだった。
「……なぜ、こんなところに?」
ハジメが自分に呆れている間に、ユエが黒竜に質問をする。
ユエにとっても竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている。
〝いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど…ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~! ひぃ~、その剣は止めるのじゃ! 近づけるでない! 止~め~て~!〟
ユエの質問を無視して自分の要望を伝える黒竜に、ハジメは「ユエが質問してんだろうが、あぁ?」とチンピラのような態度で黒竜のお尻から生えている杭を拳でガンガンと叩き、京矢が「さっさと答えろ」とペチペチとバルムンクで顔面を叩く。
ハジメによって直接体の内側に衝撃が伝わり悲鳴を上げて身悶え、京矢によって正気に戻ったことでバルムンクに対して竜であるが故の反応的な恐怖を抱く黒竜。
最早、出会った当初の死神もかくやという偉容はまるで夢幻だったとでも言うように微塵も見受けられなかった。
「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか……俺も気になるな」
「そうだな。こんなところに隠れ里を作ってるわけでもないだろうし、こいつらが運悪くそれを発見した訳でも無きゃ。普通なら命なんて狙わないだろ?」
「本来なら、このまま尻からぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐け」
「安心しろ。正直に話したら、オレから南雲に打ち抜か無いように説得してやる。黙秘や嘘なんて抜かしたら、尻からぶち抜かれる前に頭から真っ二つだぞ」
バルムンクを前にしたらそれは冗談には聞こえない。
実際に理由によってはハジメを説得もするし、上手くいけば竜人族とも協力関係になれるかもしれない。
既に教会や王族と言った人間族の上層部と魔王を始めとする魔人族の上層部側は敵となっている以上、種族単位での協力関係は有り難い。
〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから! 話すから、その剣もペチペチはやめてぇ~なのじゃ~〟
二人の所業に、周囲の者達が完全にドン引きしていたが彼等は気にしない。
このままでは話が出来なさそうなので、ぐりぐりは止めてやるハジメと、バルムンクを下ろしてやる京矢。
しかし、ハジメの片手は杭に添えられたままだし、京矢もいつでも真っ二つにできるような体制を取っている。
黒竜は、ぐりぐりやらバルムンクによる脅迫が止まりホッとしたように息を吐く。そして、若干急ぎ気味に事情を話し始めた。その声音に艶があるような気がするのは気のせいだろうか。
〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟
黒竜の視線がウィルに向けられる。ウィルは、一瞬ビクッと体を震わせるが気丈に黒竜を睨み返した。ハジメの戦いを見て、何か吹っ切れたのかもしれない。
その黒竜の言葉にやっぱりな、と思う京矢。その言葉にバルムンクを下す。
「どういうことだ?」
「話してくれ」
〝うむ、順番に話す。妾は……〟
黒竜の話を要約するとこうだ。
この黒竜は、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。
その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。
竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石に、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、議論の末、遂に調査の決定がなされたそうだ。
目の前の黒竜は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。
本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。
当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態になって。
と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。
その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。
当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。
だが、ここで竜人族の悪癖が出る。そう、例の諺の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。
それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。
では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……
〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟
一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げる黒竜。
しかし、一同は冷めた目でツッコミを入れる。
「それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」
「いや、油断しすぎだろうが」
「流石にそれは無防備が過ぎませんか?」
「休むにしても警戒の一つはしておくべきだろう」
上からハジメ、京矢、ベルファスト、エンタープライズの順である。全員の目が、何となくバカを見る目になる。黒竜は視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。
ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。
ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。
そして、ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。
うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。
そのローブの男の行動には怒りは覚えるが、目の前の、丸一日洗脳されてるのに眠り続けていた黒竜よりも馬鹿では無いなと思う京矢だった。
最早、目の前の黒竜への戦意のかけらも湧いてこない。
で、気がつけばハジメと京矢にフルボッコにされており、バルムンクを撃ち込まれるたびに竜殺しの力によって洗脳を本能が上回り始め、このままでは死ぬと思いパニックを起した。それがあの魔力爆発だ。
そして、洗脳された脳に強固に染み付いた命令とバルムンクへの本能的な恐怖に板挟みになり、更に京矢が真名開放をしようとした事で、その本能的な恐怖が最大級に膨れ上がった後、尻に名状し難い衝撃と刺激が走って一気に意識が覚醒したのである。
正気に戻れた原因は、洗脳を吹き飛ばす程の恐怖を打ち込んだバルムンクの力と、名状し難き尻への一撃による相乗効果なのだろう。
「……ふざけるな」
事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。
皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。
「……操られていたから……ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
どうやら、状況的に余裕が出来たせいか先輩冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へ怒声を上げる。
〝……〟
対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないのか、
「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟
なお、言い募ろうとするウィル。判断材料のない京矢にはそれに口を挟まない。それに口を挟んだのはユエだ。
「……きっと、嘘じゃない」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」
食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。
「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
ユエは、ほんの少し黒竜から目を逸らして遠くを見る目をした。
きっと、三百年前の出来事を思い出しているのだろう。孤高の王女として祭り上げられた彼女の周りは、結果の出た今から思えば、嘘が溢れていたのだろう。
もっとも身近な者達ですら彼女の言う〝嘘つき〟だったのだから。その事実から目を逸らし続けた結果が〝裏切り〟だった。それ故に、〝人生の勉強〟というには些か痛すぎる経験を経た今では、彼女の目は〝嘘つき〟に敏感だ。
初対面でハジメに身を預けられたのも、それしか方法がないというのも確かにあったが、ハジメ自身が一切の誤魔化しをしなかったというのが、大きな理由だったのだろう。
どうやら、この黒竜はユエと同等以上に生きているらしい。
しかも、口振りからして世界情勢にも全く疎いというわけではないようだ。今回の様に、時々正体を隠して世情の調査をしているのかもしれない。その黒竜にして吸血姫の生存は驚いたようだ。周囲の、ウィルや愛子達も驚愕の目でユエを見ている。
ユエが、薄らと頬を染めながら両手で何かを抱きしめるような仕草をする。ユエにとって竜人族とは、正しく見本のような存在だったのだろう。話す言葉の端々に敬意が含まれている気がする。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもしれない。
ユエの周囲に、何となく幸せオーラがほわほわと漂っている気がする。皆、突然の惚気に当てられて、女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。ウィルも、何やら気勢を削がれてしまったようだ。
だが、それでも親切にしてくれた先輩冒険者達の無念を思い、言葉を零してしまう。
「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」
そのゲイルと言う男も、見事な死亡フラグを立てたものだと思いながら、京矢は回収した遺品のロケットペンダントを取り出す。
「受け取れ、せめてゲイルって奴が最後まで思ってたって、その恋人に伝えてやれ。それが残されたやつに出来ることだ」
そう言って、京矢は取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。
ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。
「え? これ、僕のロケットですよ。良かった! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」
「え? それ、お前の?」
「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」
「マ、ママぁ?」
予想が見事に外れた挙句、見当違いなカッコいい台詞を言った挙げ句、斜め上を行く答えが返ってきてポカーンとする京矢。
物凄くレアな表情の京矢に注目する一同。
「い、いや、それ、お前の母親って言うには若くねえか?」
「せっかくのママの写真なのですから、若い頃の一番写りの良いものが良いじゃないですか」
写真の女性は二十代前半と言ったところなので、疑問に思いその旨を聞くと、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……
「鳳凰寺、良い台詞だったぜ」
遂にはハジメも京矢の肩を叩いて笑いを堪えながらそんな事を宣ってくれた。
恥ずかしさのあまり絶叫する京矢の叫びが響き渡った。
なお、ゲイルとやらの相手は〝男〟らしい。そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。ゲイにホモと名は体を表すとはよく言ったものである。
母親の写真を取り戻したせいか、随分と落ち着いた様子のウィル。何が功を奏すのか本当にわからない。
だが、落ち着いたとは言っても、恨み辛みが消えたわけではない。ウィルは、今度は冷静に、黒竜を殺すべきだと主張した。また、洗脳されたら脅威だというのが理由だが、それが建前なのは見え透いている。主な理由は復讐だろう。
そんな中、黒竜が懺悔するように、声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。
〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟
黒竜の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。
自然と全員の視線がハジメに集まる。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているようだ。決断を委ねるのは自然な流れと言えるだろう。
そのハジメの答えは、
「鳳凰寺、どうする?」
「オレに振るなよ。オレは敵意のない奴を斬る剣は持ってねえし、流石に呆れ過ぎてヤル気が失せた。それに」
そう言ってウィルの方へと視線を向けて、
「他人の復讐の代行なんざゴメンだ。やるなら、人に押し付けるな、お前がやれ」
「っ!? そんな、復讐なんて……」
「違うとは言わせねえぜ」
京矢の指摘に図星を突かれたウィルは黙り込んでしまう。
「そう言う訳だ。南雲、トドメ刺すなら任せる」
「そうか。なら、お前の都合なんざ知ったことじゃないし。散々面倒かけてくれたんだ。詫びとして死ね」
「おお、流石のハジメクオリティって奴か?」
そう言って義手の拳を振りかぶった。
〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟
ハジメは冷めた目で黒竜の言葉を無視し拳を振るおうとして、そんなハジメを京矢も煽っている。
だが、それは叶わなかった。振るおうとした瞬間、ユエがハジメの首筋にしがみついたからだ。驚いて、思わず抱きとめるハジメの耳元でユエが呟き、ハジメの行動を止める。
ユエが止めるだろうと思ったので敢えて説得はしなかった京矢はハジメを放置していた。
どうやら、ユエ的には黒竜を死なせたくないらしい。ユエにとっては、竜人族というのは憧れの強いものらしく、一定の敬意も払っているようだ。
しかも、今回は殺し合いになったと言っても、終始、黒竜は殺意や悪意を京矢達に向けなかった。
今ならその理由もわかる。文字通り意志を奪われており、刷り込まれた命令を機械の如くこなしていたに過ぎない。それでも、殺しあった事に変わりはないが、そもそも黒竜はウィルしか眼中になく、京矢達と戦闘になったのは、京矢とハジメが殺意を以て黒竜に挑んだからである。
ハジメの説得の後にいい雰囲気になった二人を眺めながら、相変わらずだなと思っていると黒竜から再び声が届く。
〝いい雰囲気のところ申し訳ないのじゃがな、迷いがあるなら、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ〟
「ん? どういうことだ?」
〝竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?〟
その場の全員が、黒竜のいう光景を想像してしまい「うわ~」と表情を引き攣らせた。特に女性陣はお尻を押さえて青ざめている。
「良かったな、何もしなくても出来るぞ、復讐」
「えっと……そんなのは望んでないと言うか……」
肩を叩いて言ってくる京矢に答えに戸惑うウィル。
はっきり言ってそりゃどんな復讐なのかとツッコミを入れたくなる光景だった。先輩達の墓前への報告にも困るだろう。
〝でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ〟
「流石に妙な死に方されても困るから、抜いてやってくれ」
「ああ」
若干、気になる言葉があったが、その弱々しい声音に本当に限界が近いようで、どうやら二人が考えている時間はないらしい。
ハジメは、片腕にユエを抱いたまま、迷うくらいならパートナーと友人の言葉に従っておこうと決める。
ハジメはそう考えて空いている方の手で黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。
〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟
みっちり刺さっているので、何度か捻りを加えたり、上下左右にぐりぐりしながら力を相当込めて引き抜いていくと、何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。ハジメは、その声の一切を無視して容赦なく抉るように引き抜く。
ズボッ!!
〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟
そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。
黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。
腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。
中々に京矢としては好みのタイプだが、関わり合いに成りたくない空気を纏っている。
見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張し、今にもこぼれ落ちそうになっている。シアがメロンなら、黒竜はスイカでry……
黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになってしまった。このまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にゴキブリを見る目と大差がない。
「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」
危ないことこの上ない発言をしてくれる黒竜に最早外観上の好みという上方修正を無視しても京矢が、関わりたくないと思った理由を理解してしまった。
「南雲、やっちまったな」
変な扉を開いてしまったと言うことだ。流石に変なモノに目覚めた奴には関わりたくない。
なお、ティオさん、ローブの人がアナザーライダーになった事は知りません。
勇者(笑)が決闘を挑んできたら京矢は?
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1〜3のフルコース