『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
さて、改めてティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。
その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。
「効率的な話だな。それなら一人でも大規模な魔物の連合軍が作れるし、群れのボス以外は動きも悪くならない」
京矢はその男の手際をそう評した。京矢も同じ立場ならば同じ方法を選んでいただろう。
群れのボスを通じて指示を出して群れの魔物を間接的に操る。そうする事によって完全な上下社会の魔物の群れを意のままに操れると言う訳だ。
魔物を操ると言えば、そもそも京矢達がこの世界に呼ばれる建前となった魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは愛子達も一緒だったのか、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測したようだ。
しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。
何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。
「おいおい、あの野郎何をやってんだ……」
京矢は黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。そのキーワードから思い浮かんだ者の正体に頭を抱えたくなる。
ここまでヒントが出れば、流石に地球組の脳裏にとある人物が浮かび上がる。
愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。
既に黒を通り越して真っ黒だと思っている京矢もそうだが、愛子達は限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。
考えられる最悪の状況。既に犯人の正体がそうだとしたら、蘇生手段があるとはいえ地球に帰るまで死んでいてもらう必要がある。
と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。
「魔物の群れを見つけたのか?」
「ああ」
ハジメは友人の問いに簡潔に返す。
聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。
そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……
「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」
「万単位かよ。大体一つの群れが百としても、何百体操れるんだよ、あいつは」
勇者への劣等感を持っていた様子だが、既に京矢からの評価は光輝などより高くなっている。
勇者の真価は剣の強さでも魔法の強さでもなく仲間達の希望となり得る存在、魔王を討つことの出来る剣となり得る存在とは言うが、光輝の評価が絶望的なレベルで低い京矢にしてみれば、あれに希望など託したくは無いと言った所だが。
明らかに考えている人物だとしたら、今頃人間も魔物を操る事で数の劣勢を簡単にひっくり返せた事だろう。
ハジメの例を考えると、別の神代魔法を会得すれば、万を超えて億の軍勢を操れるであろう、とんでもない力を得ていた可能性だってある。
……この時点で王国は目先の力に目が眩み、ハジメに続き優秀な人材を逃した事になる。
「……ホント、物理的に潰しときゃ良かったな……あの王都」
イフの歴史では起こり得たであろうキシリュウジンによる城の物理的な転覆に近づいた瞬間であった。
「っと、それで町に着くまでの猶予はどれくらいだ?」
「このままじゃ、半日もしないうちに山を下るな。1日もあれば町に到達するだろう」
「今から急いで町の住人が逃げれば何とかなるか」
ハジメの報告に全員が目を見開く。既に進軍を開始しているようで、方角は間違いなくウルの町がある方向と言う。
どっちにしても、防衛施設のない観光地など魔物の村に蹂躙された時点で生活方法を失ってしまうのだから、もはや街を捨てるしかないだろう。
「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」
事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。
いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。
なので、愛子の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。
約一名、余裕で障害物どころか単独で排除できそうな
と、皆が動揺している中、そんなことを知らないであろう、ウィルが呟くように尋ねた。
「あの、ハジメ殿と京矢殿なら何とか出来るのでは……」
その言葉で、全員が一斉にハジメと京矢の方を見る。特にバルムンクの巨大な光の柱。勇者の最大の一撃さえ比べ物にならない奇跡とも呼べるそれを見たのたら、希望を託すには十分すぎる。
彼等の瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメと京矢は、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。
「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」
「ああ。流石に何発も連発出来るモンじゃ無いしな。それに、あれが最大の力を発揮するのは、飽くまで対竜だし、流石に万単位を殲滅するのは無理だろう。精々千単位が限界だ」
幾ら対軍宝具とは言え万単位の敵を相手など想定されていないだろう。
内心、一方的に殲滅する手段がある癖によく言うな、と思ってるハジメだが、そう簡単に巨大ロボを出す訳にはいかないのは理解できる。
仮に愛子達が居なければ、事情を知らないウィルをハジメ達が引き離して、京矢が偵察に託けて別行動して山の一つと引き換えにキシリュウジンを使って一方的に殲滅出来たかもしれないが、流石に愛子が居ては、京矢一人でそんな事はさせて貰えないだろう。
(流石に教える訳には行かないからな)
余程の非常事態でも無い限りは目立つ場所でのキシリュウジンの使用は控えたいのだ。
ならば、この場で出来るのは避難勧告をした上での護衛対象の保護だけだ。
ハジメと京矢のやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。
そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。
「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」
「それが見えたら、其処に総攻撃を撃ち込めば、連合軍もそのまま大規模なバトルロワイヤルになって楽だったんだけどな」
「だな。1日もあれば逆に桁が一つ下がるな」
愛子は、ハジメと京矢の黒いローブの男を当然の様に始末しようと言う言葉に、また俯いてしまう。
そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。
生徒思いの愛子の事だ。このような事態を引き起こしたのが自分の生徒なら放って置くことなどできないのだろう。始末する事を決めている二人もいるのだし。
しかし、数万からなる魔物が群れている場所に愛子を置いていくことなど出来るわけがなく、園部達生徒は必死に愛子を説得する。しかし、愛子は逡巡したままだ。その内、じゃあ南雲や鳳凰寺が同行すれば…何て意見も出始めた。
いい加減、この場に留まって戻る戻らないという話をするのも面倒になったハジメは、愛子に冷めた眼差しを向ける。
「残りたいなら勝手にしろ。俺達はウィルを連れて町に戻るから」
「悪いが、早く町に警告もしなきゃならねえんだ。お前らに付き合って犠牲者を増やしたく無いんでな」
そう言って、ハジメはウィルの肩口を掴み引きずるように、京矢はヒラヒラと手を振りながら下山し始めた。
それに慌てて異議を唱えるウィルや愛子達。曰く、このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、ハジメや京矢なら大群も倒せるのではないか……
ハジメが、溜息を吐き若干苛立たしげに、京矢は頭を抱えながら、愛子達を振り返った。
「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ」
「ああ。こんな所で殲滅戦なんて被害を考えたら、面倒な事この上ねえな。大体さっきも言っただろ? 町への報告、今はこれが最優先だろうが。愛子先生、生徒思いなのは良いけど、アンタはその為に街の人達を全滅させても良いのか?」
「ああ。万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ?」
「大体万単位の相手がオレ達を無視して進軍する方を選択した場合は如何するんだよ?」
「ちなみに、魔力駆動二輪は俺や鳳凰寺じゃないと動かせない構造だから、俺達に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」
理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる愛子達。
「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼等の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。若干、ハジメに対して変な呼び方をしそうになっていた気がするが……気のせいだろう。
愛子も、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。
ティオが、魔力枯渇で動けないのでハジメが首根っこを掴みズルズルと引きずって行く。
実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ベルファストが背負おうとしたが、ティオ本人の希望もあり、何故かハジメが運ぶことになった。
だが、そこで背負ったり、抱っこしないのがハジメクオリティー。
面倒くさそうに顔をしかめると、いきなりティオの足を掴みズルズルと引き摺りだしたのだ。
愛子達の猛抗議により、仕方なく首根っこに持ち替えたが、やはり引き摺るのはかわらない。
何を言ってもハジメは改めない上、何故かティオが恍惚の表情を浮かべ周囲をドン引きさせた結果、現在のスタイルでの下山となった。
「……指揮官、彼女は、その……」
「言うなよ、南雲の奴、変な扉を開いたな……」
「……アーク・ロイヤルの同類か?」
「……広義的に言えばそうなるんだろうな……方向性は違うけど」
ハジメに恍惚として引き摺られていくティオを眺めながら、エンタープライズの言葉に頷いてしまう京矢。
一行は、背後に魔物の大群という暗雲を背負い、妙な扉を開いた駄竜を引き摺りながら急ぎウルの町に戻る。
ハジメに巨大戦力を渡すとしたら?
-
倒したのを頑張って修復キングジョー
-
京矢からのレンタル、ヨクリューオー
-
グランドライナー
-
ダイボウケン