『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝 作:ドラゴンネスト
「…………」
「…………」
無言のまま、京矢とエンタープライズの二人は、入ろうと思った水族館の壁をブチ破って出て来る、……どこかで見た様な籠を吊るした十字架の物体が、人間の顔をした魚を籠の中に入れて上空へと飛び去っていく様を見送って行った。
「何やってんだよ、南雲……」
それを見て直感的に犯人がハジメだと言う事を理解してしまう、京矢。どっからどう見てもハジメの作ったアーティファクトだ。
「……指揮官、今なら打ち落とせるが、どうする?」
「止めとけ、アイツもなんの考えも無しにこんな事はしねえだろうから」
まさかこんな所でなんの考えも無しに強盗働く訳がないと思いたい。
そう言ったものの、犯人の仲間と思われたくないと思ってさっさと其処から離れて行く。
「ウインドショッピングと洒落込んだ訳だけどな……」
「お互い、武器のウインドショッピングと言うのも味気は無いな」
メアシュタット水族館の前から逃げて、昼食も食べた後、京矢とエンタープライズの二人は、ウインドショッピングを楽しんでいた。
武器のウインドショッピングと言うのが何とも色気のない二人だ。流石に京矢の手持ちの武器以上に上等なものは無く、また珍しい武具もない。
「エンタープライズ、迷路花壇か大道芸通りにでも行って見るか?」
「そうだな」
店の前を離れて露天の買い食いを楽しみつつ、次に何処に行くのか考えている時だった。ハジメとシアの姿が見えたのは。
何かを追いかける様に走る二人の姿を確認すると、京矢がどうしたのか声をかけようとした時だった。
ハジメが地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークが発生すると、直ちに、真下への穴が空く。
「って、何やってんだ、あいつは!?」
躊躇うことなくそのまま穴へと飛び降りたハジメとシアにツッコミを入れつつ。
水族館に続いて町のど真ん中で破壊工作を行った二人に、本当に何があったのか気になるが、ただ事では無いだろうと頷き合い、京矢とエンタープライズも二人を追いかけて穴に飛び込んでいく。
事前に拾った小石を落下しながら投げて足場の位置を確認すると、エンタープライズを抱き寄せて其方へと着地する。
「鳳凰寺!?」
「何やってんだよ、南雲?」
主に水族館での破壊活動と強盗に加えての、町のど真ん中での破壊発動だ。何故、単なるデートで破壊活動をひきこ起こしているのか?と言うのは心の底からの疑問だ。
「実はな」
ハジメ曰く、下水道から子供らしき気配を感知したそうだ。それを聞いたシアがその子を助けるために動き、一気に気配を追い抜き、こうして下水に流される子供を助けに来たわけだ。
服が汚れるなど気にした風もなく下水に飛び込もうとするシアの首根っこを掴んで止めたハジメは、地面に手を付いて錬成を行った。
紅いスパークと共に水路から格子がせり上がってくる。格子は斜めに設置されているので、流されてきた子供は格子に受け止められるとそのままハジメ達の方へと移動して来た。
ハジメは、左腕のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供を掴み、そのまま通路へと引き上げた。
「その子が……」
「まぁ、息はあるし……取り敢えずここから離れよう。臭いが酷い」
「だな、早めに治療した方がいいだろうしな」
引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。ハジメも京矢も、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。
しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。
何となく、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けた穴からストリートに出ることが躊躇われたハジメは、穴を錬成で塞ぎ、代わりに地上の建物の配置を思い出しながら下水通路に錬成で横穴を開けた。そして、〝宝物庫〟から毛布を取り出すと小さな子供をくるみ、抱きかかえて移動を開始した。
とある裏路地の突き当たりに突如紅いスパークが奔り地面にポッカリと穴が空く。
そこからピョンと飛び出したのは、毛布に包まれた小さな子供を抱きかかえたハジメとシア、その二人に続いて京矢とエンタープライズも飛び出してくる。
ハジメは、錬成で穴を塞ぐと、改めて自らが抱きかかえる子供に視線を向けた。
その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。
「亜人の子供、って言うなら奴隷狩りにあった子供って事で済むんだがな」
「指揮官、その子は違うのか?」
「種族が問題なんだよ、その子は、な」
「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」
「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな」
オルクスの迷宮攻略後に呼び出したエンタープライズの確かには無いが、京矢もこの世界の種族については調べていた。
その中でも海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。
そのため、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。差別しておきながら使えるから保護するという何とも現金な話だ。
それでも、公的な保護を受けていると言うのは幸運な話と言えるだろう。
そんな保護されているはずの海人族、それも子供が内陸にある大都市の下水を流れているなどありえない事だ。大都市の下水が海に直行している筈もなく、子供の力で流れを遡る事もできるわけがない。どう考えても犯罪臭がぷんぷんしている。
と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。
そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。ハジメも何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。意味不明な緊迫感が漂う中、シアが何をしているんだと呆れた表情で近づくと、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。
再び鼻をピクピクと動かし、ハジメから視線を逸らすと、その目がシアの持っていた露店の包みをロックオンした。
その後は袋小路にハジメが作った簡易浴槽に宝物庫から綺麗な水を張り、水温を普通のお風呂の温度まで上げると、海人族の幼女(ミュウと名乗った)を入れるとシアに薬やタオル、石鹸等を渡しミュウの世話を任せて、自らは京矢とエンタープライズと共にミュウの衣服を買いに袋小路を出て行った。
服は兎も角、子供物とは言え下着を買う時は女連れの京矢に任せたのだが、それが功を奏したのか店員から不審な目を向けられる事なく終える事が出来た様子だ。
しばらくして、京矢達が、ミュウの服を揃えて袋小路に戻ってくると、ミュウは既に湯船から上がっており、新しい毛布にくるまれてシアに抱っこされているところだった。
抱っこされながら、シアが「あ~ん」する串焼きをはぐはぐと小さな口を一生懸命動かして食べている。薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻し、光を反射して天使の輪を作っていた。
「あっ、ハジメさん、京矢さん、エンタープライズさん。お帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ」
彼等が帰ってきた事に気がついたシアが、ミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながら三人に報告をする。
ミュウもそれで彼等の存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、先ずは再びジーとハジメを見つめ始めた。
良い人か悪い人かの判断中なのだろう。
ハジメは、シアの言葉に頷くと、買ってきた服を取り出した。
シアの今着ている服に良く似た乳白色のフェミニンなワンピースだ。それに、グラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着だ。
ハジメが服を着せ、温風を出すアーティファクト、つまりドライヤーを宝物庫から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を乾かしていく。
ミュウはされるがままで、未だにジーとハジメを見ているが、温風の気持ちよさに次第に目を細めていった。
「……何気に、ハジメさんって面倒見いいですよね」
「何だ、藪から棒に……」
ミュウの髪を乾かしながらシアの言葉に眉をしかめるハジメだったが、その姿こそ文字通り面倒見がいい証拠なので、シアは頬を緩めてニコニコと笑う。
何となくばつが悪くなっているのを見て、京矢は話題を逸らしてやろうと口を挟む。
「で、この後の事だけどな……」
「ミュウと言ったか? その子をどうするかだな……」
京矢とエンタープライズが自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いで二人を交互に見るミュウ。
二人の言葉を聞き、ハジメとシアは取り敢えず、ミュウの事情を聞いてみることにした。
結果、たどたどしいながらも話された内容は、ハジメと京矢が予想したものに近かった。
すなわち、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいということだ。
そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも
そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。
遂にミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。
三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。
だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメの腕の中だったというわけだ。
「完全に予想通りだったな」
「客が値段をつける……ね。オークションか。それも人間族の子や海人族の子を出すってんなら裏のオークションなんだろうな」
「気分が悪くなる話だな」
「……皆さん、どうしますか?」
シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳は何とかしたいという光が宿っていた。
亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。
だが、ハジメは首を振った。
「保安署に預けるのがベターだろ」
「まっ、この場合はそうするしか無いか」
「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」
「いや、指揮官達の話を聞く限り、そちらの方が良いだろう」
「そんな、エンタープライズさんまで!」
京矢、ハジメ、エンタープライズと三者の考えが一致したのだった。
ハジメに巨大戦力を渡すとしたら?
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