運命の眷属   作:正直者ライアー

5 / 7
ノルン

 ハールは市壁の上で長い木刀を構えた。そして振るわれる剣戟を木刀で受ける。一瞬のうちに見えた次の攻撃への予備動作と勘と発せられるごく僅かな殺気を頼りに攻撃をギリギリで防ぐ。しかし間に合わずに何度かは攻撃をもらう。

 

「遅い!」

 

スクルドとの訓練が始まって10年以上。未だに勝てたことはない。それどころか不変の神のはずなのに僕が強くなるのと同じペースで彼女の方も強くなっていっている気がする。そうこう考えていると腹部に衝撃が走った。自分は腹を抱えて倒れ込む。瞬時に呼吸を整え、痛みを抑え込んで立ち上がる。

 

「うん。それでいい!休憩はまだだよ!さぁ来て!」

 

 もう一度、今度は自分が先手となって木刀を振る。そしてその全てをスクルドは難なく捌き切る。

 切りかかっては倒れ、切りかかっては倒れ。身体中が痣だらけになった頃、市壁の上を何者かが訪れた。

 

「誰?」

 

スクルドはそう言って確認しに行く。するとスクルドは騒ぎ出した。ハールは何事かと立ち上がってスクルドのもとに駆け寄るとそこにはアイズがいた。

 

「アイズ!!久しぶりー!!」

 

「こんにちは。スクルド様。ハールもこんにちは」

 

前にアイズが森の家に居た時にアイズはハールと共にスクルドに剣を習っていた。アイズは疲れ切って座っているハールを見る。

 

「ハール、何かしたの?」

 

 ハールが何かをやらかした時はこんな風にスクルドに絞られると覚えていたらしくアイズはそう言った。ハールは自嘲気味に頷いた。

 

「スクルド様、私も参加していいですか?」

 

「いいよ!寧ろ来て!」

 

「アイズ、僕は君にも何かしたのか?自覚がない」

 

「私、怒ってるから。また会おうって約束したのにそれもなにもかも忘れてたこと、、、」

 

「あれは本当に済まなかった」

 

膨れっ面のアイズにそういう。しかしアイズは自分のもつ剣の鞘を構えて、ハールに向かってはやく構えろと合図するだけだった。

 渋々立ち上がったハールは木刀を構える。するとアイズは消えた。瞬間ハールは自分に迫る殺気を感じて木刀でアイズの攻撃を弾いた。

 

「今の、防がれると思ってなかった」

 

「伊達にスクルドとやりあってないさ」

 

アイズの攻撃は段々と苛烈さを増していく。手加減なしの本気に近づくアイズに対抗するためにハールは感覚を研ぎ澄ませる。そして渾身の力で振るわれたアイズの一撃を受け止めた時、ハールの力に耐えきれなくなった木刀が破れた。戦うのをやめ、駆け寄ってきたスクルドと木刀を見る。

 

「木刀がハールに追いつけなくなった、、、」

 

アイズはそう分析して言う。

 

「そう言えばこの間ダンジョンでも剣破ってた。武器は実力に合ったものを使った方が良い。ハールはレベルは1だけど武器の扱いとか戦い方はもうレベル5って言ってもおかしくない。それならもう第一級武器を持ってても良いと思う。そのくらいの強さが有れば試練も乗り越えて直ぐに私にも追いつくだろうから」

 

スクルドも納得したようで頷く。

 

「それは私も同じこと思ってた。実力の割に使ってる武器が貧弱すぎるってさ。安い武器使って何度も買い換えるよりは良い武器使ってずっと使い続けた方が良いよね。やっぱりコスト的にも、武器的にも何度も買い換えるのって良くないし」 

 

 木刀が破れたということと、結構な数の攻撃を受けたということで稽古は終了した。

 ハール達はアイズと別れ、宿に戻るとスクルドはすぐさまウルド達に武器の提案をした。ウルド達も同感だったようでハールの武器を買うこと直ぐには決定し、ハールはシャワーを浴びて着替えると四人で家を出た。

 

 

 

 

 

 オラリオで武器といえば、大抵はヘファイトス・ファミリアを思い浮かべるだろう。あとは少しマイナーなとこでゴヴニュ・ファミリアだろうか。ハール達はバベルを自動昇降装置で登っていた。すなわち向かう先はヘファイトス・ファミリアである。

 自動昇降装置は自分達の目的地につき、開いた扉を潜るとそこには煌びやかな光景が広がっていた。光り輝く鎧や剣。豪華な装飾が施されたそれを横目にみつつ進んでいくとそこには深紅の髪の女神がいた。

 

「ヘファイトス、こんにちは」

 

「ウルドにヴェルにスクルドじゃない!久しぶりね!」

 

自分はヘファイトスと呼ばれた神に礼をする。

 

「ウルド、この方は?」

 

「ああ。私達、ノルンの唯一の眷属よ」

 

「こんにちは。ヘファイトス様、ノルンの眷属のハールと申します」 

 

「ヘファイトスよ。よろしく。貴方達がオラリオでまた暮らすのは何年ぶりかしら?」

 

ヘファイトスと三人は昔話をする。そしてウルドは言う。

 

「で今日はこの子の武器を見に来たのよね」

 

「ハール君?よね?レベルはどのくらいなの?」

 

「1です」

 

ハールがそう言うとヘファイトスは驚いた。

 

「1?それは本当かしら?」

 

「えっと、どういうこと?」

 

スクルドが不思議そうに尋ねる。

 

「今まで沢山の武器を欲しがる冒険者を見てきたから感じるんだけど、彼雰囲気

というかそういうものがレベル1とはかけ離れているから」

 

一同は再び頭に疑問符を浮かべた。

 

「レベルを偽る意味はないし貴方達が嘘をつくとは思えないから彼がレベル1なのは本当だと思うわ。でも彼、相当強いわよね?ステイタスとか抜きにした話よ。取り敢えず応接間に案内するわ。久しぶりに会った友のその眷属にならお茶くらい出すわ」

 

一行はバベルに設置されたヘファイトス・ファミリアの応接間に移動した。そしてそこで紅茶を飲みながら話す。

 

「それはそうね!貴方達の訓練を何年間も毎日受けてたら強くなるに決まってるわね!でもそれなら生半可な武器なら壊れてしまうわね」

 

ヘファイトスは笑いながらそう言った。

 

「この間ギルドの剣も割ってた」

 

「そう、、、試してみる価値はあるわね。少し待っていて頂戴」

 

ヘファイトスは何かをボソリと呟いたあとにそう言って席を外した。そして15分ほど待っていると再び部屋の扉が開いてヘファイトスが戻ってきた。しかしヘファイトスは布に包まれた長い何かを重そうに持ってきた。ハールが持つのを変わり、ヘファイトスの示した場所にそれを置いた。

 

「貴方の得物、両手剣と言ってたわよね」

 

「はい」

 

「それならこれを振ってみてくれないかしら」

 

ハールはヘファイトスが持ってきた布に包まれた何かが武器だと気付いて、その布を開いた。

 そこには両手剣があった。何の飾りもない、ごく普通の両手剣。

 

「それは私の打った未完成の両手剣なのよ。そこにまた鉄を足したりして仕上げると完成品の武器になるんだけど、この両手剣、普通に持つと他の武器となにも変わんないだけどいざ振ろうとしてみると重すぎて誰も振れないし構えることすら出来ないのよ。ロキ・ファミリアのレベル6の冒険者も挑戦みたけど振れなくてね。かなり特殊な素材を使っているのと最高の出来しているだけに捨てるにも捨てられなくて」

 

ヘファイトスの説明を聞いたハールは恐る恐る両手剣の柄を握る。言われた通り、剣が地面とくっ付いてるのかとも思えるくらいに重い。そしてそのまま体全体を使って持ち上げようとした時、一瞬腕が捥げるくらいの尋常じゃない重さを感じたがその直後、剣は振るうのに一番丁度いい軽さになって持ち上がった。ハールはそれをいつものように片手に持ち替えて振ると、空気を切り裂く音を鳴らした。

 

「嘘、、、」

 

ヘファイトスは驚いている。自分の主神達も話を聞いたあとだからか、驚いていた。

 

「重くないかしら?」

 

「とても丁度良いです。重心も自分が好きな所にあります」

 

「分かったわ。その剣は貴方にあげる。というか貴方に使って欲しいわ。ただで上げると問題になりそうだから1000ヴァリスだけ貰おうかしら。安い武器と同じくらいの値段ね。あとはさっき行った通り、その剣は未完成だから仕上げていくわよ。ねぇ、貴方達」

 

ヘファイトスは両手剣を火で熱しながら三人を呼んだ。

 

「貴方達の髪の毛を一本ずつ、貰えないかしら。少し特別な作り方をしたいのよ」

 

「一本なら別に良いわよ」

 

そう言い三人が一本ずつ髪の毛をヘファイトスに渡すと、それを既に真っ赤になった両手剣に乗せて、槌で叩く。

 

「この剣の名前、何にするの?」

 

ヘファイトスはハールにそう聞いた。ハールは既に決めてあったのか即答した。

 

「ノルン、にしたいです」

 

両手剣の名前を言うとヘファイトスは微笑む。

 

「最高の名前ね」

 

そう話している内にヘファイトスが打つ両手剣は光り輝いた。そして光りは段々と強くなり、太陽よりも明るい光を一度放つと、姿を変えた両手剣があった。ヘファイトスはそこに何かを刻み水で冷やす。

 

「出来たわよ。貴方、いえ貴方達の剣。あと加工料で100000ヴァリス頂くわ。素材が全て無償で受け取ったものだから安く済んだわね。この素材をもし買ってたとすれば、3億ヴァリスは下らないわ」

 

「ヘファイトス、本当にそれだけで良いの?」

 

3億という数字に驚きつつウルドはそう聞くが、ヘファイトスは汗を拭いながらええと言う。ウルド達は101000ヴァリス、持ってきた鞄から取り出して払う。

 ハールはやけに手に馴染むそれを鞘に納めて言う。

 

「いつか、この剣のお代は返すよ」

 

ハールがそういうとヴェルダンディが首を振った。

 

「かなり遅くなったハールの誕生日プレゼントだから返す必要はない。ハール、誕生日おめでと」

 

ハールは18の誕生日に欲しいものは何かと聞かれて別になにもいらないよと答えたことを思い出した。

 

「ハール、誕生日おめでと!」

 

「私からも。改めて誕生日おめでとう。ハール」

 

三人で賑やかに歩く。剣は、ノルンは背中で夕陽を受けて輝いていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。