ナルトの世界に転生したと思ったら、なぜか生まれたのは水の国でした。 作:八匙鴉
気にさわる方はご注意ください。
とりあえず痛いのも死ぬのも嫌なので、修行して村を開拓します。
私──
一つは幼き日の故郷の記憶。
貧しい村で娯楽も何も無い寂しい村ではあったが、皆が毎日を懸命に生き抜き、それなりに楽しい日々を過ごした大切な記憶。
もう一つは、この世界に無い文明を栄えた、もう一つの世界での記憶。
今はもうどんなに恋い焦がれても戻ることの出来無い、懐かしい世界の情景。
……そんな記憶を思い出したのは、私が5才の歳の折り。
この世界で大戦が勃発して一年後。村でたった一人、唯一の忍だった父が戦争に駆り出されて亡くなったと、そう母に泣きながら聞かされた冬の日だった。
私は“忍者の娘”ではあったが忍ではなかった。
水の国の端の端。隅っこの貧しい辺境もいいところにある村で生まれた重々平凡なただの子供だったのだ。
だけど父が倒れた年のあの日に思い出した前世の記憶は、私にそれが厳しい現実なのだという事実を知らしめる結果になった。
私、風神シキの生まれたこの時代。
いわゆる原作よりもまだ大分前の時間軸であると気づいたとき、脳裏に浮かんだ結末は多分最悪のものだ。
この死の連鎖渦巻く物語の世界で、普通の母子一人が生きていくにはかなり厳しい現実。
このまま何もせずいれば、恐らく待っている未来はろくな物じゃないだろう。そう気づいたとき、私の取る行動は決まっていた。
強くなろう。
勿論、比喩ではなく現実的(忍術)な意味である。
さいわい記憶のお陰で知識はあったし、やれば大抵なんとかなるものだ。だから思い立ったが吉と言わんばかりに私は見よう見まねの特訓をした。
驚いたことは、私の身体が素質関係なしにどのチャクラの属性でも扱えたことだろうか。流石は異世界転生あるあるだと感心してしまった。
……だけど、多分それがいけなかったんだろう。
チートな体に前世の知識。私は調子に乗りすぎたのだ。
平和な日本生まれの日本育ちな私には殺傷事など無理だからと、忍術を争い目的ではなく生活水準値向上の目的に変換させて使っていたのも仇になった。
私の知識を存分に盛り込んだ、この時代にはまず考えられない突飛的な発想を元にした忍術は、瞬く間に悪い意味で目立ち過ぎてしまったのだ。
(そりゃ…土遁で畑の土壌改善とか、水遁でそこらの手頃な岩を切り出して道路の整備とか、火遁で薪を燃やして高品質の炭を作り出して冬を越してみたりとか、普通誰も思い付くわけ無いよねぇ…)
いやはや、これがいざやってみると面白いほどに次々と何でも出来てしまうから凄い。
チャクラコントロールさえ守ればたった一人で何でもやれて、手間も掛からず人手も要らなかったのだから。まさに万能の力である。
無論それだけ色々やれば膨大なチャクラの量を消費すると思っていたのだが。幸運なことに、物を運用するだけの術ならば、それほどのチャクラを使用しないことも確認できたのだ。
これは考えようによっては忍術の概念が大きく変わるかもしれない結果かもしれないが、まあ別に私はこれで誰かと競いたいわけじゃないのだ。
いかに効率よく、最小限のチャクラで大きな力が使えるか。今はそのやり方さえ分かっていればいいと思う。
と言うわけで私は今まさに性質変化させた風のチャクラで、村と村の外れにある森までの道筋を整備するため、絶賛行動中である。
やっているのは道端で邪魔な砂利や石を風で撤去。でこぼこに荒れた土は軽く土遁でならすというものだった。
もうここ数週間のうちで村の内部は全面的に改善してしまったから、今度は外に繋げようと言うわけだ。
この森は村が冬を越すための薪を調達するために頻繁に入る場所だから、せめて行き帰りの道筋くらいは楽に歩かせてあげたいと考えてのことなのだけど。
そう思いながら黙々と作業を進めていたら、ふと後ろから声がかけられた。
振り返れば肩に籠を抱えた、今からまさに森に入ろうとした格好の村の長がいた。
「やあシキ様。今日はこちらでお仕事ですか。精が出ますなぁ、お疲れさまです」
「おはよう村長さん。…あの、毎回言ってますけどいい加減『様』はやめませんか? 偉ぶってるみたいで落ち着かないんですよ。私ただの6才の子供なのに」
「はは! 何を言いますやら。ただの子供にはこんなこと思い付かないし出来もしませんよ。
うちらの畑じゃ育ちの悪い野菜しか出来ないのが当たり前だったのに。野菜が育たないのは土が悪いからだ! ってあんたは畑に入ってくるわ。いきなり忍術で畑の土をひっくり返したかと思えばまるで神様みたいにあっちゅーまに死んだ土を生き返らせちまったんだから。そりゃ崇めたくなっても仕方ないってもんです」
「まあ…作物に関しては急を要すると思ったし、流石に無理をやった自覚はあるけども…」
カラカラと大笑いする村長に、私は今更ながら冷や汗を流して遠くを見る。
急ぐ必要があったのは本当だし事実だ。どうせうだうだ悩んだって何にもならないなら早くやった方が良い、とそう思って。
この村の土地は環境のせいか何か知らないが本当に土の状態が悪かった。作物を育てるのに全くといって向いてなかったのだ。
出来ても痩せ細った野菜がちらほら顔を出すだけ。数も無いから村で共有したとしても全員に満足な量が行き渡らない。
そのせいでこの村には毎年餓死や栄養失調で亡くなるひとがごまんといた。
村で若い子供は貴重な労働力だ。しかし生まれてくる子供の数よりも死ぬ人数のほうが圧倒的に多いとあっては大問題だろう。
故に私は自分がまだ幼かろうが、見た目的に可笑しかろうが、大人びた意見で村の大人衆に口を出すしか無かったのだ。
「今日はこの場所の道を綺麗にするんで? 村の中も綺麗にしてもらって皆歩きやすいと喜んでおりますし、本当あなた様には頭が上がりませんで。忍だったお父上も、さぞかしあの世でシキ様の成長を喜んでるでしょうな」
「……だと良いですけどね」
父が亡くなるまでの私は前世の記憶は無く、ただのそこらの子供と同じ無邪気なものだったから、今の私の変貌ぶりを見たら喜ぶどころか泡吹いて倒れるんじゃないだろうか…。
だって本来は戦うための忍術を、戦闘でなく農業に活かすだなんて…一体誰が想像つきますか?