ナルトの世界に転生したと思ったら、なぜか生まれたのは水の国でした。   作:八匙鴉

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かなり間が開いたので矛盾が多いですが
ご了承下さい




 冬が終わり、村の開拓を始めて3度目の春が来た。

 

 今日は村で決めた一斉の種蒔き日である。この日の為に私は村の北側にあった荒れ地を改善し、育てるものでそれぞれ別けた巨大な畑と水場を完備してきたと言っても過言じゃない。というのは建前で、本音はここまでやって来たのだからどうせなら最後までやりきりたいと言うのが心情だったりする。

 

 ――まあ改めて言うとすれば、村の開拓などそこらの子供がやるような事じゃないのが本当だが。

 

 でも私は前世を思い出した以上、少しでも美味しい物が食べたいのである。正直これは切実に。飢え死になんてもっての他。

 私の父が戦場で亡くなった以上、家計を一人で抱えることになった我が母の負担は計り知れない。

 裕福な家庭ならまだしも今は戦後間もない飢餓期だ。こんな田舎じゃ仕事どころか食うにも寝るにも困る始末。とてもじゃないが未亡人となった母に甘えてのんべんだらりと生きる事など元日本人の私には選べない。

 

 (だから私は決めた。仕事をすると!)

  

 その為に使えるものなら何でも使うつもりである。

 それが大人だろうが自分のチャクラだろうが関係なく、端からどう見られようがどれだけ可笑しな行動をしてると思われようが。私は私が生きていくために足掻くのだ。

 

 さて、とりあえず私の意思や決意というものは横に置いておくとして、問題の本日の種蒔きについてだが。

 これは大まかに、乾燥や雨に強い豆系の果菜類、それぞれの季節に育つ葉野菜、そしてもっともポピュラーだろう芋などの根菜類と大まかに決めてある。

 あとはこの日の為に土遁を駆使して作っておいた小さな家庭栽培用プランターにハーブなどを植えて試験的に育てようかとも考えてもいる。ちょっとした菜園の始動計画だ。

 

 「この国は雲が多いからな…日光が少なくても育つ野菜を選ばなきゃなんだけど」

 「シキ? 何をしているの?」

 

 あれでもないこれでもないと考えてる所に母が顔を出してきた。

 納屋の中で何やらごそごそしている自分の事が気になったのか、質素な麻の着物の上に薄い布地を羽織った姿だけの母が納屋の入り口に立って私を見てくる。私は行儀悪くも地面に腰を下ろした状態でそんな母を振り返った。

 

 「あ、お母さん。今畑で蒔く種蒔き用の種を選別してたんだよ。ほら今日が初の種蒔き日でしょう」

 「貴方が村の北に作り出した、あの畑? …あらそう、もうそんな時期なのねぇ」 

 

 どこかおっとりした言い方で頬に手を当てて小首を傾げる母に私は苦笑を覚えるしかない。のんびりとした性格の母らしい「あらあら時が経つのは早いわね」なんて言葉に思わず私の体から力が抜けた。

 私は腰を上げて立つと、両手を広げて自分の頭より高い位置の母の背中を捉えてその背を納屋の外へと力強く押し出す。

 

 「ほらお母さん、春先とはいえまだ少し寒いんだからそんな格好で外に出ちゃ駄目よ。部屋に戻る戻る! 風邪引くわ!」

 「大丈夫よぉ。今日は体調が良いから、お母さん」

 「そんなこと言って、この前具合悪くしたの忘れたの? お母さん体弱いんだから油断しちゃダメっていつも言ってるでしょ!」

 

 家に入り戸を閉める。消えかかっていた火鉢に薪を足し、火遁で再び火を強めておいた。

 この時代、現代のようにストーブやエアコンのような便利な暖房は無い。

 その中で特に発達の遅い田舎じゃ寒さをしのぐには専ら薪に火をつけて炎を炊くような方法しかなく、これも前世の快適さを知る自分には頭を悩ます問題のひとつでもあった。

 

 (いやもしかしたら辺境だからこそなのかな? 見る限り木の葉じゃ主人公が産まれている頃には水道やガスなんかの生活水準は整ってた気がするし。電気も通っていたはずだ)

 

 となると恐らく、霧隠れの里も似たり寄ったりな生活が送れていると考えて良いはず。だが、こればっかりは基本原作が戦争ものの描写に寄っていて、その辺りの情報に触れていないせいで何とも言えないのが状況だ。

 だから多分考えられるのは、水の国自体が鎖国中にあるせいで国力そのものが弱い可能性か。

 内乱が多い国なのでそれを諌める事こそに意識が向いていて、そもそも民の生活や生き死に自体に興味がないということもあり得る。排他的とはそういう意味でもあるだろう。

 秘密主義ならそういった内政不安も外に隠さなければ、敵の格好の的に成りかねない。

 

 (…考えれば考えるほど、この国って終わってるよね)

 

 そんな国に生まれ変わった私は、一体前世で何をやらかしたのか。そこまで神様に嫌われる事をしたとは思いたくない。

 

 「…シキは小さいのにしっかり者よね。お母さんが弱いから、貴女に無理させちゃったのかしら」

 「え?」

 

 突然の母の呟きに思わず私は目を白黒させた。

 

 「何言ってるの、お母さん。私は普通だよ。全然無理なんてしてないし」

 「でも、貴方が急にそうやって色々し始めたのは、お父さんが死んだときからでしょう? 私が出来ないことを貴女が代わりにやろうとしてるんだって、お母さんそう思うわ」

 

 どうしよう。言葉が出なかった。

 確かに私はまだ幼くて、端から見れば可笑しく見えることは重々承知してた。今も別にそう見えても構わないとさえ思ってる。だけどそれを身内に…それも今生の自分の母親に言われるのでは衝撃が段違いだった。

 

 現世の母――つまり目の前の彼女だが――は体が弱い。

 それは生まれつきという訳じゃないが、私が難産だったために産むときに無理をして体を壊したのだと、いつか聞かされたことがある。

 それはもしかしたら私がイレギュラーな存在だったから。

 本来なら有り得ないような力を持ってるが為に、その母体である母は体に多大な負荷をかけたんじゃないか、と私は思ってしまっている。

 こんなことを言うと身も蓋もないが、多分私が居なければ母はこんな苦労をしなかったかもしれないのだ。

 父だって戦争になんか行かず、死ぬこともなく、二人は仲睦まじく今もこの村で平穏に暮らしていたかもしれない。

 でもそれは私が誕生したことで壊れてしまったんじゃないだろうか。

 

 分かってる。こんなのただの都合の良い想像だって。

 でもしょうがない。他人と違う記憶、知識を持って生まれてしまった以上、私はこの世界に完全には馴染めない。

 私は《現代で過去を生きた私》ではなく《今を暮らす風神シキ》としてこの場所を生きていかなければ…

 

 「シキ? どうしたの?」

 「あ――」

 

 いけない。また不味い方向に思考が飛びかけていた。

 私がこの自問自答を繰り返すのも一体何度目になるんだろう。分かっていてもやってしまう、もう悪い癖のようだ。

  

 「…ごめんねお母さん、私は本当に無理なんてしてないよ。でもお母さんにはそう見えなかったから心配かけたんだよね。ごめんね」

 「シキ…いいえ…いいえ! 悪いのはお母さんのほうよ。シキは私を思ってしてくれたのよね。それはお母さんちゃんとわかってるのよ。だけど…っ」

 

 母が泣いてる。ボロボロと大粒の涙を流して、私の体を掻き抱くように力を込めてきた。

 人より特に華奢な姿の母が一体何処にこんな力を持ってたのだろうと思うほどにそれは強く。

 

 「小さな貴女に親らしい事を何もしてあげられない! 私じゃ貴女を満足に育てることも出来ない。外でクワも持てなければ、日がな一日床に居ることしか出来ない日もある。そんな私が一人前であろうとする娘に「もっと子供らしく居てほしい」なんて、そんな我が儘…っ」

 

 ああ、今ごろようやく母の気持ちが分かった気がする。

 生まれて8年。前世を思い出して約3年。私が必死だった裏で、母は一人こんな想いを抱えてたのか。

 うん。これは私が悪い。

 私は前世を知ったとき、心のどこかで私は自分がこの世界で一人ぼっちなんだと、そう決めつけていたから。だから子供でいちゃいけないって。自分を守るのは自分だって諦めて。母の気持ちに気がつかなかった。

 

 「お母さんは私に子供らしくしてほしいの?」

 「……シキ、私は貴女に貴女らしく居てほしいわ。シキがやりたいと思ったことならお母さんも応援したい。だからお母さんに教えてほしいの。…シキはどうしたい?」

 「――私、美味しい物が食べたい。だから畑を作りたかったの」

 「ええ」

 「忍術も上手くなりたい。私がお父さんから受け継いだ、お父さんの子供だって証明できるものだから」

 「ええ」

 「村の暮らしも良くしたい。皆良い人だから。笑ってほしい。私の力が役立つなら使いたいの」

 「偉いわね、シキ。こんなに優しい子を持って、お母さん幸せよ」

 「お母さん」

 

 産んでくれてありがとう。

 

 凄く自然にその言葉が出た。

 

 母はその後また泣き崩れてしまって、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。

 そんな彼女を介抱する私の心はどこか晴れ晴れとした気持ちで一杯で。

 

 「何だか今ならどんな不可能な事でも出来そうな気分だよ、お母さん」

 

 そんなことを呟きながら、久しぶりに母の隣で寝てみようかなと私は彼女の隣で横になった。

 

 

 

 翌日、私は今後暫く村の大々的な治世は大人達に任す事を村長に伝えに行った。

 もちろんそれは今までやって来た仕事を放り出して逃げるとか、そういう意味じゃない。ただ知識と力に任せて私一人が何でも勝手にやると言うような、そんな無茶を少し弁えようというだけだ。

 

 つまり今後、私が考えてやろうとしたことを事前に村長に相談。もとい提案し、村の中で会議にかけ、そして決定してほしいということ。

 私がやろうと思っていたことは全部が前世の知識を使った計画になるから、この世界に適用させるとなると膨大な時間と手間、そして数世代をすっ飛ばすような革命となるだろう。

 いや、忍の里では既に出来ている事だからこれはそのトレースということになるかもしれない。どちらにせよ、私はやれることは全てしたいと思ってる。

 

 村長にその事を伝えると、気の良い彼でも少し悩んだようだった。

 

 「ええと、つまりどういうことで? シキ様が今までしていた街道整備や治水工事を俺たちが引き受けるってことですかい?」

 「そう。その為の知識や知恵なんかは私が提供する。貴方たちはそれが本当にこの村に必要なことかどうか判断して決めてほしい」

 「…それは構いませんが…シキ様」

 「分かってるよ。私が充分異常な事を言ってるってのは。村から出たこともない子供の私が何処にそんな知識を持ってるのか。そういうことだよね?」

 「……正直シキ様の発想力と行動には驚いてきました。道の事だってそうだ。確かに地面は荒いし歩きにくい。少しでも楽になればって考えた事くらいはあります。でもそれだけだ。まさかその地面を(なら)して道を()くなんて思わない」

 

 これは私の記憶に「道は整備されているもの」という認識が強いのが影響しているだろう。

 

 「畑の野菜に至っては、この付近で野菜が豊作になったなんて村は何処にもない。野菜は細く小さいのが当たり前。家族が食ってければそれが御の字だ。誰も野菜が育たないのは「土に栄養がないから」なんて分からない。知らないんです。肥料なんてもっての他だ」

 

 そう。それがネックだった。このままでは村は飢饉(きが)で全滅すると訴えても、皆それが普通すぎて疑問にも思わない。

 

 皆「当たり前」に慣れすぎていた。

 そんな中に現れた私は、正しく爆弾だっただろう。

 私という爆弾が勝手に破裂して皆はただその恩恵を受けるだけ。それだけで自分の暮らしが良くなっていくのだ。喜びはあれど不快には思わないだろう。

 

 「貴女は今後、今まで私たちが受けていた恩恵を自分たちの考えでやっていけと言うのですね。貴女にその不思議な知識を教えてもらいながら」

 「……気味が悪いと思うかな? ――本当言うと、私が一人でやった方が良いと思ってることは否めないよ」

 「やめる、という選択肢はないんですね」

 「ごめん。それだけはない。これは私がやりたい事だから。だから何を言われてもやめることだけはしない。協力してと言った手前で勝手だけど、断られるならそれはそれで私は今までのやり方を通すつもりでいるんだ」

 「……無理はしないんじゃなかったんですか?」

 「それもごめん。最初は軽い気持ちで始めた事だけど、今はもうそれだけじゃ足りなくなったから。だから責任は取るよ」

 「それがこの改革ですか……はぁ」

 

 溜め息をつかれた。申し訳ない。巻き込んで無茶を言ってる自覚はあるんだよ。

 しばらく村長は考え込んで、そして言った。

 

 「わかりました。とりあえず最初の一年やってみましょう。それで問題が無ければ事業として今後も続ける。構いませんね?」

 「ありがとう。それで良いよ。絶対成功させるから」

 「その自信はどこから…流石はシキ様ですよ」

 

 そうして苦笑をもらした村長に私は笑って見せた。

 

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