ナルトの世界に転生したと思ったら、なぜか生まれたのは水の国でした。   作:八匙鴉

5 / 11


 

 さて、何は兎も角、とりあえず作業を進めていこうかと思う。

 

 村の衛生面を改善させる治水工事は、まず水を各家庭に引っ張るところから。だけどこれは色々準備がある。

 問題なのは村に新たに作った水源の利用よりも、まずその水を使った後の排水をどうするか、それを決めた方が良さそうだろう。

 

 そして村の景観を良くするための街道整備や補修もろもろは、これは私が勝手に作っていた道路や邪魔な岩の撤去など、先に進めたぶんがあるので急がなくてもいい。

 他の作業をやりながら手があれば追い追いという形でも充分だ。

 

 あとはこれも問題。村の皆の食料事情を担う農園の作成。

 今まで村では各家庭でそれぞれ食料を賄っていたけど、近年それを廃止。

 

 この村は皆農業で暮らしてる人等ばかりだけど、この村の人たちに、かの日本の農家のような作物に対する知識がしっかりと備わっているかと聞かれれば答えはNO。

 

 サイクルを言うならばこの村のやり方は。まず土を耕す。適当に種をまく。出来た野菜は小さくとも無いよりはましだと、それをほそぼそと食す。そしてまた適当に種をまく。と延々この繰り返しだ。

 これでは土は痩せていく一方で、とてもじゃないが良い作物なんて育つはずがないというのが私の見解。

  

 「ねえ村長。昨日植えてもらった野菜たちは、ちゃんと計画した通りに植えて貰えました?」

  

 私は付き添ってもらった村長にそう尋ねる。

 

 「ええ。予定通りにAの土にはレタスを。Bにはじゃがいも。Cは空豆を植えました。そしてDですが、これはシキ様の指示通り空けております」

 「ありがとう。じゃあこれで収穫までしばらく見ようか」

 「はい。…しかしですなぁシキ様」

 「なに?」

 「いや…あなたの指示に従うことはもう良いとしてですよ。だけども根本的な問題が残ってませんか? この村は山間のすぐ近くで天気が不安定だ。雨は心配ないとして、しかし野菜を育てる上で大事な日光のことはどうするんです?」

 「ああ、それね」

 

 確かにそれは私も色々考えた。作物の中には日に当たらなくても育つ植物は幾らか存在する。例えば今植えたレタスやじゃがいもなんかがそうだ。

 これは半陰性植物と呼ばれていて、日照時間が一日のうち3、4時間程度でも育つと言われてる。中々太陽のお出でにならないこの村も、これなら比較的育ちやすいだろうと踏んで選んだもの。

 しかし、豆科の植物は完全な陽性植物だ。沢山日光に当たらなければ枯れてしまう。ならどうするか、私は考えた。

 

 「無ければ無理やり出してしまえば良いじゃない」

 

 そう。雲が邪魔だと言うならそんなもの吹き飛ばしてしまえばいい。雨が足りないと言うなら空から水を降らせるのだ。

 そんなこと不可能か? いいや出来るのだろう。何故ならここはパワーバランスなんてものが最終的には崩壊するような世界なのだから。

 主人公のナルトなんて最終的には何でもアリの人間兵器みたいな力を持って十尾やらカグヤやらと戦うんだぞ。そんな世界、出来ないことのほうが少ないはずだ。

 

 村長が隣でニヤリと笑みを浮かべた私の顔を見て首を傾げるのを横目に、私は掌を合わせて景気よく鳴らす。印の組み方なんて覚えてないが、やれば何とかなるだろう。

 

 イメージ的には上空で爆発する風の塊。

 形状は野球ボールみたいな球状で良いと思う。というかそもそも硬質感ある物質じゃないから、四角とか三角とかにするのが難しいだけなんだけど。

 とにかく玉だ玉。中心には超圧縮させた空気を内包させ、風の膜でそれを包むようなそんなイメージで。

 

 言ってることは無茶苦茶だし理論なんて無視した暴論と超理屈。だけどこの世界はきっとイメージが形を作る。出来るも出来ないも本人の想像と実力次第。

 なら現代での小説や漫画の物語なんてきっと想像と妄想の塊みたいなものだ。その世界に住んでた私が想像出来ないはずがない。

 有ると思い込め。それが不可能なんて思うな。だって多分それがこの世界を形作っている何か(・・)なのだから。

 

 「そら、飛んでけー!」

 

 そして弾けろ。

 

 弾丸のように空へ飛んでいった風球は、辺りに物凄い強風を撒き散らしながら一直線に空へ昇り、雲を突き抜けた。

 その余波とも言うべきものがガタガタ、バタバタと周囲の家や物が揺らす。外に出ていた人々は突然の突風に悲鳴を上げ尻餅をつく始末だ。

 暗雲が広がっていた空には風穴が空き、立ち込めていた分厚い雲は霧が晴れるように霧散していく。そしてやがて風が止むとそこにはまるで初めから何も無かったかのような青空が久しぶりに顔を出した。

 その結果に満足して頷く。

 

 「うん。初めてにしては中々上手くいったね。村長、これでもう太陽の心配は無いんじゃない?」

 「……もう驚きませんよ俺は…」

 「うん?」

 

 振り向いた先では村長が何とも言いづらい表情をして立っていた。

 あれ、太陽が顔を出したってのに、あまり嬉しそうじゃないね。と村長を見て首を傾げる。

 その視線に気づいたのか、彼はやれやれと溜め息を付くと言った。

  

 「相変わらずシキ様はスゴいなってことです」

 「うん? ありがとう」

 

 よく分からないがこれは誉められたのかな?

 村長と空を眺めながらそう思った。

 正直後はこのまま何事もなく作物がすくすく育ってくれるのを待つばかりである。

 

 

 ――――

 

 

 数日前、霧隠れの里より数十キロ離れた水の国の辺境部で、計測不明の謎の力が観測された。そしてそれと同時に里の中からは、北の山の向こうから巨大な龍のようなものが天高く登っていくの姿を見たという報告が何件か届いた。

 

 懐に忍ばせていた暗部を北部へ斥候にやり、戻ってきた者らに様子を聞いてみる。謎の力の正体はなんだった。本当に龍が居たのか、とかなんとか。

 しかし皆一様に返ってくる答えは同じものだった。

 

 曰く。国の北には何も無かったと。

 

 彼は首を傾げた。

 何もないはずはない。現に異常は感じたのだ。住民達からの報告も受けている。これで何も無かったかなどと、それはおかしなことでしかない。

 

 「何をバカな事を。ちゃんと確認してきたのか? 彼処には幾つか村があったはずだろう」

 「しかし、この目に映らないのであれば「無い」としか表現のしようがありません。ヤグラ様」

 

 これで四人目となる斥候の言葉にヤグラは苛ただしげに腕を組んだ。 

 みんな揃いもそろって無能ばかりかと悪態吐きたくなるのを抑えこむ。

 

 「いい加減にしろよお前ら? 村はある。なのに見えないとはおかしなことなんだよ。幻術の類いかもしれないだろ。解呪はしたのか?」

 「もちろん試しました。しかし何も変わらなかったのです。もしあれが幻術で作られた幻ならば、それほど強力な術は血継限界の可能性しかなくなります」

 「木の葉のうちは一族「写輪眼」か、近くに奴等が潜んでいるかもしれないと…」

 「しかし今彼らは自里の中で何かを企んでいる様子。わざわざ他国の辺境に来る意味が分かりません」

 「確かにな。木の葉じゃうちは一族は肩身が狭いんだろ? ならうちに来て何かやってる暇はねえかもな」

 

 なら余計に分からなくなる。他国による侵略じゃないならこの現象は一体なんだ?

 

 「どうも少し調べて見た方がいいかもな…」

 

 どうもきな臭い香りがするぜ、とヤグラは水影の椅子を蹴った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。