鼻を刺す臭いの成分。
あちらこちらで上がる炎が吐き出す黒い煙が、その正体であった。
小走りで左右に体ごと向きながら、
「お父さーん!」
当てた左手を拡声器にして、
「何処ぉ!」
大声に変換するレイカ。
その後を、
「ハムロ博士!」
見守る様に、
「居ますかー!」
追い掛けるギンガ。
危険だと判っているが、レイカの性格を知っているギンガは見守るを選択する。
今だ聞こえる爆発音。
小さな音は、遠くだと安堵。
大きな音は、近くだとヒヤリ。
その中を掛ける二人。
広場。
レイカには、そう見えた。
上階が崩れた建物の角を曲がった先で遭遇した場所。
その一角。
車の周りに動く人形。
いえ…。
車はトレーラーと呼ばれる大型サイズのもので、距離感が狂い人間が人形に見えていた。
ちなみに、これがあの【普通の人物】が見付けたトレーラーである。
大きな身振りで、
「代わりの車はないのか!」
作業服の人物へ詰め寄る白衣の人物。
白衣の人物に関しては、声で男性と判断しても差し支えはないが、まだこの距離だと百パーセントではないので、人物と呼称している。
その言葉の通りに牽引するトレーラーが、一目で動かないと判る程に壊れていた。
考える作業服の人物の前で、
「武器は後でいい!」
振る両手が、
「機体を最優先しろ!」
『早くしろ』と付け加えていた。
レイカが判断したのは、
「お父さん!」
声と雰囲気。
声を上げるよりも、脚が反応し駆け出させていた。
当然、その後を追うギンガであった。
走り寄るレイカとギンガ。
その間。
白衣の男性は、
「モビルワーカーを回せ!」
先程とは違う作業服の人物に、
「大至急だ!」
指示を出す。
入れ替わり。
作業員が立ち去ると同時に、
「お父さん!」
その背中へ声を掛けるレイカ。
開いたファイルから目を離さず、
「何をしに来た…。」
冷たく言い放つ。
その言葉に、
「心配で…。」
凍り付き立ち尽くすレイカ。
博士の上げた顔は、
「何をしている!」
作業員への、
「それは後回しでよいと言ったろうが!」
苛立ち。
手を…。
いや…。
目をファイルから離した事で、
「ここは、危険だ…。」
冷静さを取り戻し、
「シェルターへ避難しなさい。」
背中越しに心配した。
その背中へ、
「お父さんは…。」
声を掛けるレイカ。
振り向くと、
「私は心配ない。」
両手を肩に置き、
「だから、避難しなさい。」
掛けた声は父親になっていたハムロ。
その事に気付き、
「お父さんも…。」
凍り付いた体が、
「一緒に…。」
溶けるレイカ。
振り向き、
「すまない…。」
向けた視線は、
「今は、ここを離れるわけにはいかないのだ…。」
トレーラーへ。
俯き、
「お父さんは!」
震える肩は、
「家族と研究と…。」
怒りの、
「どっちが大切なの!」
現れ。
ゆっくりとレイカに向き直り、
「お前達には…。」
真剣な表情で、
「すまないと思っている…。」
対峙し、
「だが…。」
また、首を巡らせ、
「これは…。」
視線を、
「全人類の未来に係る事なのだ。」
トレーラーへ向けた。