機動戦士ガンダム・ギンガ   作:ノザ鬼

12 / 29
目覚め

 

 そこには、程よい硬さの座り心地の良い椅子が用意されていた。

 

 更に、小さな灯りで作った瞬きが歓迎した。

 

 その奈落の名前は【コクピット】と言う。

 

 使う者と使われた者を地獄へと落とす匣(はこ)。

 

 

 ギンガの脳裏に、

【パンドラの匣】

 浮かんだ言葉が身震いを誘発し恐怖を演出した。

 

 それを否定したのは無意識。

 

 伸ばした右の人差し指が、並ぶスイッチの一つを入れた。

 

 ハッチと呼ばれる蓋がコクピットを外界と遮断し、密室空間を作り上げた。

 

 一瞬の暗闇がギンガを包む。

 

 目の前に起き上がるコントロールパネルの灯る光が点滅し、何かの要求を始めた。

 

 そこに伸びる右手は、それが決まり事だと知っていた。

 

 そっと触れたパネルが手の形を縁取る。

 

『パッ!』

 そんな音を出しコクピットが、目を覚ます。

 

 不規則で、

『ピッ…。』

 順番に点る光が、

『ピッピ…。』

 次第に匣の中を、

『ピッピッピ…。』

 満たしていく。

 

 

『○☓△□●✖▲■…。』

 おそらくは言葉。

 

 驚き引いた右手が、パネルを再びギンガに見える様にする。

 

 聞き返すは、

「何だ?」

 人の性。

 

 返答は、

『ピッ…。』

 音の後に、

『言語変更。』

 先程と、

『修正完了。』

 同じ声のアナウンス。

 

 続き、

『遺伝子にパイロット情報の一部を検知。』

 

 気付く、パネルに映し出されている暗闇に浮かぶ光の渦。

 

 知っている名前で、

「星雲?」

 その渦を呼ぶ。

 

 その言葉を聞かなかったかの様に、

『正式なパイロットと認証。』

 アナウンスは淡々と続けた。

 

 暫時。

 

 それは、アナウンスの内容を理解するまでに要した時間。

 

 振る首は、

「パイロットって…。」

 コクピット内を見回す。

 

 その結果は…。

 

 驚き。

 

 見開いた目が、

「知っている…。」

 その衝撃の大きさとなる程に。

 

 半開きの口から、

「何で、俺は…。」

 自分への、

「見た事もないものを知っているんだ…。」

 問い。

 

 答えはのは、

『その質問の解答を…。』

 先程と同じ、

『私は持ちません。』

 アナウンスの声。

 

 驚きの顔を、

「今…。」

 違う驚きが、

「私って…。」

 上書きし、

「お前は、誰だ!」

 声の出処を探し首を振る。

 

 つぶさに、

『私は【ギンガ】…。』

 答えるのは、

『このモビルスーツ【ガンダム・ギンガ】の制御AI…。』

 アナウンスの声。

 

 三度目の上書きは、

「ギンガ…。」

 驚きを通り越し、

「俺と同じ名前?」

 無表情に近くなる。

 

 またも、

『その質問の解答を私は持ちません。』

 同じ答えだが、

『ただ、遺伝子にパイロット情報があるという事です。』

 続きがあった。

 

 その返しが、

「AIなのに…。」

 ギンガの表情に、

「人間みたいな答え方する?」

 異なる驚きを浮かび上がらせた。

 

 頭の中を、

〘俺の知らない間に技術は進んでいるって事か?〙

 考えが巡る。

 

 

 

『アラート!』

 

 警告音の響が、コクピット内を埋め尽くす。

 

『アラート!』

 

 警告色の赤が、コクピット内を染め上げる。

 

 続き、

『敵モビルスーツ接近。』

 アナウンス。

 

 そして、正面の壁が風景に変わる。

 

 映し出されたのは天井。

 

 円筒形コロニー特有の寝転がった状態で見える空の街並み。

 

 音と、

『ピッピ。』

 共に注釈線が指す風景の一部。

 

 それに釣られる視線。

 

『熱源…。』

 アナウンスを遮る音と振動。

 

 訂正。

 

 音は、爆音。

 

 振動は、強振。

 

 体を支える場所を探した両手は、

「クッ!」

 この為に用意されたのではないかと思えるレバーを握る。

 

 左右に振る首は、

「今のは?」

 無意識にモニターの向こうに原因を探る。

 

 当然の様に、

『敵モビルスーツの攻撃です。』

 答えるAI。

 

 恐怖が全身を駆け巡り、

「俺は…。」

 具体的な、

「死ぬのか…?」

 イメージへと昇華される。

 

 

 トリガー。

 

 引き金。

 

 スイッチ。

 

 その辺りであろう言葉で形容されるもので、遺伝子に組み込まれた記憶が蘇える。

 

 それが、本人の無意識を刺激した。

 

 その痕跡が、瞳の奥に映した星雲であったのだが、誰も見る者はいない。

 

 押し込むレバーが、

『グィ!』

 目覚めろと音を出す。

 

 踏み込むペダルが、

『グィ!』

 立ち上がれと音を出す。

 

 全身を震わせる規則的な小刻みの鼓動が、モビルスーツから人間へ伝わる。

 

 それは【目覚めの時】の合図。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。