『パタン。』
その音が、示すのは〔終わり〕。
そう、読み終えたのだ。
艦長の心に、音と共にレポートが余韻を残しながら。
レポートの内容に引かれ、前のめりの身体を頭からゆっくりと起こす艦長。
上げた視線が、
「どうかね?」
目の前の上官とぶつかる。
ゆっくりと行う瞬きで、
「そうですな…。」
間を取る艦長。
「人としては、とても受け入れられない…。」
伸ばした語尾は、
「が。」
否定となる。
それは上官の、
「が?」
短い質問となる。
その目に、
「軍人としては、受け入れます。」
誇りと意志を宿す艦長。
上官の口元が、
『ニヤリ。』
作る形が音を出し、
「よろしい。」
目が宿す光が、
「上層部が選んだだけはある。」
愉しいと笑う。
視線が先行し、
「アレを…。」
首が追従する。
その先の秘書官は、
『こくり。』
無言で頷き、
『カツカツ。』
向かったのは執務机。
屈み、
『カチャカチャ。』
昔ながらの鍵で引き出しを開け、取り出す黒のアタッシュケース。
ソファーの二人は、その一連の動作に視線を送り続けた。
アタッシュケースを抱え、こちらへ向かってくる秘書官は、二人の視線を全く気にする風もなく歩みを進める。
向かい合う艦長と上官の間のソファーテーブルの上に、
『スーッ』
持ってきた秘書官が音を出しアタッシュケースを置いた。
我々が知るアタッシュケースのロック部分二箇所に、
『ピッ!』
それぞれの親指を、
『ピッ!』
当て指紋を認証させる上官。
方法は違えど、
『ガチャ!』
同じ音で開いた。
その中身を見せる様に、
「これを…。」
艦長へ向ける。
視線を、
「これは?」
落としながら疑問を口にする。
瞳の奥に、
「そうだな…。」
悪戯する子供の、
「例えるなら…。」
輝きを、
「鍵。」
宿し答えた上官。
鍵と言われたものを、
「鍵…。」
見詰めながら、
「ですか…。」
その真意を確かめる様に繰り返す艦長。
その反応に、
「それも…。」
満足したように、
「【パンドラの箱】のね。」
続けた上官。
はっと、顔と共に上げた視線は、
「まさか…。」
上官とぶつかる。
更に、
「そのまさかだよ。」
愉しそうな表情を浮かべた。
見開いた目は驚きを、開いた口元は呆れを、それぞれが浮かべ複雑な表情となった艦長。
話はゆっくりと、
「艦長が着任する新造戦艦は…。」
表情もゆっくりと、
「正に【パンドラの箱】なのだよ。」
共に固く、現実味を帯びる。
また、視線を鍵と呼ばれたものに落とし見詰める艦長。
それは透明な合成プラスチック製で、我々の知る名刺程の大きさ。
見る角度によって、薄っすらと基盤プリントの幾何学模様が透けている。
我々が思う想像するものとは全く違う宇宙世紀の鍵であった。
「それを使えば…。」
先程まで艦長が呼んでいたファイルへ、
「その内容が…。」
一瞬、
「公開される。」
視線を送る上官。
見開いた目は、
「まさか…。」
更なる驚きと、
「敵ですか!?」
直感。
一瞬、
「敵と証(しょう)すには…。」
浮かんだ表情は、
「時期尚早かもしれんがな…。」
複雑。
鋭く刺す視線が、
「敵ではないと?」
上官の表情から情報を読み取ろうとする。
上官は、
「断言はできん…。」
おくびにも出さず答えた。
『ゴクリ。』
艦長の固唾を飲む音が合図であった。
室内を静寂が満たし、時間を止めた。
それを、
「故に…。」
打ち破るったのは、
「現場に判断を任せる。」
上官。
またも、
「なるほど…。」
鍵を一瞥し、
『ゴクリ。』
全ての事を心の中で飲み込んだ艦長。
深く掛けたソファーより、立ち上がる上官。
反応は早く、一瞬遅れで立ち上がる艦長。
キリリと、
「これより、新造戦艦にてコロニー07へ向かい。」
真顔は、
「専用モビルスーツを搬入。」
軍人そのもので、
「後に、試験運用開始を命ずる。」
あれ程に、
『バシッ!』
堅苦しさを嫌っていた上官の敬礼は重かった。
返す敬礼は、
『バシッ!』
軍人として、
「了解しました!」
全てを、
「これより、新造戦艦にてコロニー07へ向かいます!」
受け入れたとの証。
屈めた身体から伸びた腕が、アタッシュケースの蓋を閉める。
そして、その鍵に自分の両親指の指紋を登録し施錠とした。
開く扉を背にし、
『バシッ!』
上げた右腕が、
「失礼します!」
敬礼を作る。
部屋を出た艦長の、
『ウィーン。』
余韻を自動扉が引き継いだ。