その声と共に差し出された、
「ほら…。」
芳しいカップ。
その手の先には、鋭い視線に変わった秘書官だった女性。
見詰めていた自動扉から、
「ありがとうございます。」
視線を落とし受け取る。
一口。
広がる苦味が、一段落の終わりを告げた。
一息。
そんな時間が部屋を満たす。
そして…。
ゆっくりと首を、
「よろしかったのですか?」
巡らせた先に、
「大尉殿…。」
投げかけた。
一口飲んだカップを、
「何の事だ?」
離しながら視線を落とす大尉と呼ばれた女性。
次に体の方向を、
「【鍵】の事ですよ。」
変え、
「押し付けて、良かったのかと…。」
向き合う。
残ったカップの中身を、口の中に解き放ち香りで満たす。
そのまま、目を閉じ堪能する。
まるで会話等無かったかの様に、ゆったりと取られた間。
そして、ゆっくりと開かれた目に、
「存在しない人間には…。」
微笑を讃えた口元は、
「責任は取れんだろう?」
愉しそうに見えた。
出たのは、
「はぁ…。」
ため息か同意か、
「確かにそうですが…。」
曖昧であった。
新たな切り出しは、
「だが…。」
含みを持ち、
「責任を取れるように動くのが…。」
一瞥する瞳の奥の、
「これからの我々の仕事だ。」
光は鋭かった。
気付き、
「そ、そうですな。」
はっとする。
そして、緩めた口元が、
「それに…。」
再度微笑へと変わり、
「あの艦長なら大丈夫だ。」
悪戯っ子の表情になる。
目と口元が、
「ほう?」
知りたいと、
「何故です?」
言葉以上に語る。
言葉と共に、
「あの艦長…。」
送る視線は、
「この部屋に違和感を感じていたぞ。」
冷ややかであった。
上げた声と、
「えっ!?」
共に見開いた目は、
「気付きませんでした。」
驚いたと言った。
そして、部屋の中を見回し確認するが、不自然な所は見付けられず。
変化。
少し下ろした、
「中佐。」
瞼の奥から、
「貴様は…。」
放つ視線は、
「まだまだだな。」
愉しげに笑う。
乾いた笑いは、
「ははは。」
恥ずかしさを、
「そうみたいですな。」
隠す。
戻る視線の、
「しかしだ、この部屋のこしらえを…。」
鋭さは、
「用意した部署の者に喝を入れてやらねばな…。」
束ねる者の責任感。
驚き、
「えっ!?」
上げる声に、
「それは…。」
慌てる台詞。
その姿を、
「何かね?」
楽しむ瞳。
暫時。
その表情は、
「これを…。」
思い付いたと語り、
「用意したって事で!」
見せるカップ。
視線を、
「これかね?」
香りを含む湯気を上げる漆黒の液体に落とす。
それは、
「そうです!」
屁理屈でも、
「合成とはいえ…。」
勝ちを、
「急ごしらえで、これを用意した功績に免じて…。」
もぎ取ろうとする意志。
今だ、
「ふむ…。」
鼻腔を擽(くすぐ)る香りが、
「…。」
十分な説得材料となる。
一口。
また、カップの中身を口の中にを香りと共に広げた。
『ゴクリ。』
それは、喉を楽しませながらゆっくりと落ちて行った。
口から遠ざかるカップに、
「これに、免じて…。」
視線を送り、
「今回は許してやろう。」
口元に浮かべる表情は愉しげであった。
勝ち取った勝利を、
「ありがとうごます。」
言葉にし、
『ゴクリ。』
美酒の代わりに、苦いコーヒーで口を満たした。
その様子を見る目は、微笑んでいた。
そして、最後の一口。
広がった香りは、口が別れが名残惜しいと寂しがり、待っていた喉は出会いを喜んだ。
それは、
「さて…。」
終わりの始まり。
目の輝きが、安らぎから任務へと移行する。
見据えられ、
「これから、忙しくなるぞ。」
表情が軍人へと変化した。
無意識に、
「はい。大尉。」
表情が閉まっていた。