「開きます…。」
それは、その場の全員に向けた言葉であった。
タブレット端末の操作する音と共に、
『ピッ!』
長く伸びるコードの先に指示を送り込む。
反応し、
『プッ…。』
軽く浮き上がると、
『ガコッ!』
一旦止まり、
『シュー…。』
限界まで開いたハッチ。
そして、囲んでいたメンバーの口から、
「うっ!」
「げふ!」
「ぐっ!」
「げっ!」
飛び出す言葉は違えど、同じ事を言っていた。
開いたハッチが巻き起こす空気の流動によって運ばれた臭い。
それが囲む者たちへ届いた。
皆が顔を背(そむ)ける中で、
「チッ!」
一人踏み出し、
「やっぱりか…。」
ハッチの奥へと身を滑り込ませるパイロットスーツの人物。
その背中へ、
「少尉…。」
声をかけるタブレットを操作していた技術者。
その顔には、『申し訳ない』と、はっきり書いてあった。
首を、
「気にするな…。」
巡らせ、
「慣れている。」
軽くウインクで答える少尉。
コックピットの奥へ、
「おい!」
呼びかける。
無反応。
こちらは舌打ちで、
「チィ!」
無反応に短く答える。
そして…。
仕方ないと右腕を伸ばし、
「おい!」
服を掴むと、
「出ろ…。」
低重力を利用し、
「よ!」
外へと引っ張り出した。
手を離すタイミングで、
『ふわふわ…。』
逆向きに力を加え、
「誰か!」
引っ張った勢いを殺し、
「こいつにシャワーと着換えを。」
その場に、
「頼む。」
浮かせる少尉。
囲みの中から、
「了解しました。」
一人のスタッフが頷き、
「少尉。」
引き受けた旨を伝える。
次は自分の体を、
「ふぅ…。」
コックピットから出し、
「こっちも大変だな…。」
中へと視線を送った。
そこは、吐瀉物(としゃぶつ)とその臭いが充満したコックピットの内部。
手近なスタッフの肩へ、
「悪いが…。」
右手をかけ、
「こっちも頼む…。」
労い、床を蹴る少尉。
手慣れた…。
いえ…。
足慣れた強さで反動を、
『ふわり。』
推進力に換え低重力の宙へ体を踊らせた。
その背中へ、
「少尉。」
声を、
「どちらへ?」
かけるスタッフ。
反応し、
「回収の仕事の…。」
首を捻り、
「続きだ。」
ウインクと共に返した。
遡る事…。
約ニ時間前。
突然の[アラート]。
艦内に、
「これは演習では無い!」
響く、
「繰り返す!」
アナウンスに、
「これは演習では無い!」
回転する非常灯。
そして…。
出撃命令。
辺りを、
「おいおい…。」
見回すのは、
「マジかよ…。」
誰もがやる事だと知る少尉。
駆け付けたロッカールームには、
「少尉…。」
先客が、
「敵襲でしょうか?」
パイロット用のノーマルスーツに着替えていた。
自分のロッカーの扉を、
「解らんが…。」
開き、
「そうだろうな。」
ノーマルスーツに手をかける少尉。
先客は、
「解りました。」
ジッパーを閉め、
「先に行きます。」
ヘルメットを掴んだ。
先ずはノーマルスーツに、
「俺も…。」
右脚を通し、
「直ぐに行く。」
奥へと押し込む少尉。
扉へと、
「はい!」
床を蹴りながら答えた先客。
着替え向かう途中で見た光景は、ここモビルスーツ格納庫でも同じであった。
混乱…。
までは、行かないが…。
ごたついている。
自機のコックピット前まで、一気に壁を蹴り宙を泳ぎ出す。
そこで作業するスタッフに、
「お疲れ。」
声をかける少尉。
タブレットから、
「少尉殿。」
首を声の方へ向けるスタッフ。
モビルスーツの方を見ながら、
「どうだ?」
聞く、
「出られるか?」
少尉。
口が答える前に、
「もう少しかかります。」
表情に出るスタッフ。
それは残念ではなく、
「そうか…。」
無理もないと思う少尉。
そこへ【パンドラの匣】の解放。
更に、ごたつく現場。
そして、新たな指示。
回収作業。
それから、約三十分後。
トリコロールカラーのモビルスーツを、格納庫へと運び込んだ少尉。
モビルスーツを片膝立ちで仮駐機させた後に、コックピットから滑り出す少尉。
ヘルメットを、
「どんな奴か…。」
脱ぎながら、
「顔を拝んどくか。」
ハッチを蹴り宙へ泳ぐ少尉。
少尉が近付くと、トリコロールカラーのモビルスーツのハッチ付近には、スタッフが集まり作業を開始していた。
タブレットと格闘するスタッフは、ようやく勝利を確信した。
そして…。
「開きます…。」