サイド07の1番地(1番コロニー)の宇宙港のある円筒の中心部。
ここを軸として回転している無重力の場所。
浮いた体は、
『スーッ』
ノーマルスーツで空気を切り音を出す。
通路を移動用のレバーで進む男性。
バイザーの奥の顔は、如何にも不機嫌である。
それは表情ばかりか、
「ったくよ!」
声にも出ていた。
通路に響く大きな独り言。
悪態に歪む顔に、
「やってらんねえってのぉ!」
態度。
聞かせるのは、
「工期が遅れてるじゃなくて…。」
自分。
「最初から無理な工期だってえの!」
怒りを空いている左の拳に握り込む。
終わり。
そこは暗く切り取られた出口。
移動用のレバーを離し、
『ふわり。』
身体を出口へと、無重力に泳がせる。
それは、
『ビュン!』
音を出し目の前をかすめた。
見開かれた目が、
「うおっ!。」
驚きを、
「何だ!?」
湛える。
その背中に向け、
「この!」
挙げた右腕は、
「野郎!」
怒りと細やかな抗議。
だが直ぐに、
「作業用のモビルスーツ入れるなら…。」
諦め、
「教えろってえの!」
一人ぼやく男性。
ぽつん。
今、男性がいるのは通路。
先程まで、移動していた通路とはサイズが異なる。
そう、大型の通路である。
主にモビルスーツが使用するので、モビルスーツ専用とも呼ばれる。
不用意に人間用の通路から、大型の通路へ飛び出し、激突の既(すん)で助かったのだ。
震え。
怒りが炎が冷め、恐怖が全身の温度を下げ凍り付かせる。
冷静さを取り戻し、
「危なかった…。」
今の出来事を振り返り、
『ブルブル。』
身を震わせた。
そして…。
小さくなる大きな背中へ、
「でも…。」
首を傾げ、
「見た事無いタイプの作業モビルスーツだな…。」
疑問を投げかける。
不意に、
「こんな事…。」
思い出し、
「してらんねぇ!」
慌て腰のハンドルに手を、
「あーぁ。」
掛け、
「忙しい!」
スイッチを押し背中のラウンドムーバーを点火し、
「ちくしょうめ!」
仕事の現場へ向かった。
遡る事、約十分前。
コロニー回転軸。
ハッチ宇宙側。
四つの人影。
内、大きい方はモビルスーツ。資源衛星に居た三機である。
小さい一つはノーマルスーツ。身体にフィットするタイプのパイロットスーツである。
そのパイロットスーツの人物が、外壁の一部を開き、何かを接続していた。
外壁から伸びるコードの先に金属の箱。
我々が知るアタッシュケース程のサイズのものの中に何かの機械が収められている。
右手が、
『ブィーン。』
スイッチに触れ、
『ウィーン。』
真空へ疑似の音を響かせる。
そして、投影される光のパネルはディスプレイを兼用していた。
光のパネルを上を走る右手は、その機械を操作していると判る。
何故なら、光のディスプレイの表示が目まぐるしく変わっていたからである。
続く作業…。
不意に手を止める。
作業終了の証として、光のパネルの中央に赤で縁取られたプログレスバーが出現した。
そして、プログレスバーの空白を時間が右へと領域を増やしていった。
暫時。
バイザーの濃さに邪魔され、外からは見えない瞳が見つめるプログレスバーの進行の終わりを待つ。
緑転。
プログレスバーを縁取っていた赤が緑へと変わる。
ヘルメットが、
『ニヤリ。』
笑った。
いや、実際はそう見えただけだ。
それは、この作業が上手くいったと体が発した雰囲気であった。
接続していたコードを外し、アタッシュケースへと収納。
後に、
『パタン。』
閉じ作業を終了とした。
足の裏が、
『コン。』
外壁を蹴り、
『ふわり。』
体を泳がせる。
そして、開いていたモビルスーツのコクピットへと帰還した。
そして、ハッチが、
『バタン。』
また、真空へ疑似の音を出し閉じる。
光る一つの目が、
『ブォン!』
モビルスーツの動力炉の再点火と呼応する。
それを合図に、
『ブォン!』
残りの二機も続く。
パイロットスーツの人物が乗り込んだモビルスーツが、
『ギュイン。』
小さく疑似の音を出し動き出す。
屈めた体から伸ばした手が、回転方向と文字の書かれたハンドルを掴む。
掴んだ手首から先が、[OPEN]と書かれた方向へきっかり二回転(720°)回る。
直ぐ横の隔壁が、
『グォーン。』
振動を伴い、
『ウォーン。』
疑似の音と共に左右に開く。
そして、コロニー内部へと続く奈落(ならく)が現れた。
それはモビルスーツが通れる大型の通路である。
主に背中と脹脛(ふくらはぎ)の部分にバーニアの火が灯り、モビルスーツを宇宙の曲芸師に変えた。
三機のモビルスーツが順に身体を捻り、コロニー内部への奈落へ身を投げた。
このモビルスーツが、作業員とニアミスを起こしたのである。